死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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13. うわさ話

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 護衛騎士になっても騎士団の鍛錬は必須だ。
 訓練で身につけた剣の腕はやはり訓練なしには維持が難しい。
 城の敷地内ではあるが大きな庭園のもっと奥。そこに演習場がある。

 風もなく動くと少し汗ばむくらいの気候だった。
「エリアス殿下に一番近い令嬢だって?」
 手合わせを終えたハーベスが剣を下ろした。
「どうした?珍しいなそんな事聞いてくるなんて」
 長めの赤い髪をかき上げて意外そうに言った。

 同室で同期の騎士ハーベスは”話好き”だ。噂話が好きでやや口が軽い。
 ハーベスに聞いておけば城内の主な噂話は収集できる。
「…王子の護衛になったんだ。どんな方と噂があるのか気になって当然だろう?」
 納得したのかどうなのか、ハーベスが思い出すように空を見た。
「そうだなぁ婚約すらされていない方だからなぁ…」


 我が国では貴族同士であれば早くに婚約を公表する者もいる。
 それは家同士の結び付きを強化する為の、戦略結婚の場合が多い。
 王族は婚約者を決められる場合が多いが、現国王はご自身がそうだったように自由恋愛主義だ。

「そういえば…」
 思い出したように手を叩いた友人に、すこし期待する。
「王子にご執心だった勇気ある伯爵家令嬢がある日聞いたんだと。交際や縁談を断る理由を」
「それで?」
 まだその時期ではない…とか、エリアス殿下の考えがあってとは思っていたが。
 確かにしっかりとした理由を聞いたことはなかった。
「それがさ!聞いて驚けよぉ~王子はハッキリ言わなかったらしいが…」
 ハーベスが勿体つけて言葉を止めたので、じろりと見て先を促す。

「その令嬢と同じで自分も”片想い”だって言ったらしいぞ」
「――片想い!?ってそれ本当か?というか一体いつの話なんだ!?」
 これ程いい反応をする聞き手もいないのだろう。
 ハーベスがニヤリと笑った。

「わからん!話自体も何年も前の話だし、あの殿下が気持ちも告げられない”片想い”だとしたら…相手は既婚者か死人かって話も――…」
「なんだって?誰がそんなふざけたことをっ!?」
「ランベルト熱くなるなよっ!ただのウワサ話だぞ!!」
 思わず掴みかかりそうになった俺をハーベスが宥めた。
「噂は噂だっ!誰も真面目に取り合っちゃいないさ」

 話は終わりだと大きく手を振った友人に対して、無責任だな…と苦笑いを浮かべた。
 すると不意に背後から肩を叩かれた。
「面白そうな話をしているな」
「だっ団長!!」「失礼しましたっ!!」
「ああ良いんだ自由時間だ楽にしてくれ」
 はははと軽快に笑うマルクス騎士団長。冷や汗が出た…ハーベスも同じだ。
 楽にしてくれと言われても楽に出来る訳もなく、思わず背筋が伸びる。

 騎士団長は俺やハーベスより十五は年上だ。
 それでももっと若い新人騎士から中堅まで団長は分け隔てなく話し掛ける。
 こういった事が出来る人が団長というものをするのだろうな、と尊敬している。
 本当に仕事は出来る人なのだが…。

 俺はいつまでも置かれた団長の手から逃れるべく、身をよじった。

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