死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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06. 誰が為

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「体調が優れない日は休め…いくらでも俺から上官へ口添えしてやる」

 にっこりと笑うテオドール殿下。対して自分の顔が引き吊るのを自覚する。
「なんと言うつもりなんです…?」
 テオドール殿下の冗談ははっきり言って質が悪い。

「"昨晩ベッドで無理をさせ過ぎた俺の責任だ"と、宣伝して回ろう!!」

 殿下は俺を揶揄って遊ぶのが、なにより好きなんだ。
 この種の冗談は何種類も聞いた。もちろん全部でまかせ。たまに一部の人間がこの冗談を本気にする。それで酷い目に遭うのは、いつも俺の方だ…!

「そんな冗談を言ってるから!エリアス様に睨まれるんです!!」
「エリアスにか?」
 一瞬弟王子を思い出すように、その視線が宙に注がれる。
 反省を促したが、すぐに殿下は首を振った。
「構わん、好きに言わせておけ!わっはっは!!」
「っはぁ……」既に一日分の気力を使い果たしてしまいそうだ。

 ――エリアス殿下の無事を、この目で確認したい。

 三年前の今日、俺はテオ殿下によって護衛騎士に任命された。
 先程まさにそうなる筈だった。今は辛うじて、まだ指名はされていない。
 午後からは王族の方々と、新任護衛騎士の顔合わせだ。俺は過去テオ殿下によって参加すらさせてもらえなかった。

 だからまずはテオドール殿下をいかに宥めて。顔合わせに参加するか。
 これが一つ目の関門だ。


 "自分を護衛騎士に指名しないでほしい"と言う必要がある。
 しかし正攻法はマズイ。素直にこちらのお願いを聞く相手ではない。
 この年上の幼馴染は、はっきり言って天邪鬼だ。
「良い考えは浮かんだか?ラン、全部顔に出ているぞ?」
「…っテオドール殿下!お願いがあります!」

「お願いか、良い響きだな言ってみろ」
 …だめだ、なにも浮かばない。直球で行くしかない。
 随分機嫌の良い殿下に期待してみる。

「私を護衛に指名するのを…」

「止めるなんて、絶対に嫌だ」
「――えっ…?」

 終わりまで言わせてももらえなかった。
 急に真顔でこちらを見る殿下。澄んだ湖畔のような瞳の奥が揺らいで見える。

「お前が護衛騎士を志したのは、私の隣に並んでくれる為ではなかったのか?」
「それは……」
 珍しく真剣な殿下の表情に、俺は口を閉じた。

「エリアスには王位を譲ってやると決めていた」
「だがお前を譲る気は微塵もない」


 ――驚いた。
 どんな時でも聞けなかった、殿下の本音だ。"王位を継ぐ気がない"と。
 優秀な弟王子を助けると決めて、補佐に徹する。この考えを殿下の数々の行動からは理解していた。
 だが本人の口から、言葉として聞くのは初めてだった。

 王位継承を望まない第一王子。
 その考えは、周囲からの賛同を得ずらい。
 現に過去ではこの方の護衛騎士として、三年を務めたが。殿下の心休まる時間は、少なかったように思う。
 こんなに魅力的な方でも、臣下に味方は少ない。

 …気心の知れた人間を傍に置きたいに決まっている。
 ――それが殿下にとって俺だ。
「――指名を、数時間だけ待っていただけないでしょうか」
「…"顔合わせ"か、エリアスとは最近口をきいたのか?」

「……いいえ、全く」
 成長に伴ってエリアス殿下との接点は減った。
 言葉を交わすことが少なくなり、顔を見る機会すらほぼない。
 用事を作っては俺を頻繁に呼び出す、テオドール殿下の方が変なんだ。

「…お前がそこまで言うなら、明日まで待ってやろう」
「ありがとうございます!テオドール殿下っ」
 仕方ないなと笑った殿下に頭を下げる。
 さあエリアス殿下の姿が見れたら、これからどうしていくか考えよう!

 正直、拍子抜けするほど上手くいった。真剣に話せば茶化さずに聞き入れてくださるのか。
 ここ数年でもっともテオドール殿下の事を見直した瞬間だった。

「それでお前が諦められるならな」
「なにか言われました?」
「いいや、なにも」悪戯っぽく笑う殿下。
 俺は飄々と掴みどころのないテオドール殿下の、真剣な顔が苦手だ。
 なにか自分が、とんでもない間違いを犯している気分になるから。
 なんだかんだ言っても、俺はテオドール殿下を尊敬し敬愛している。

 テオドール殿下の許しは得た。
 まだ護衛騎士としての指名も、されていない。
 俺は王族の方々との顔合わせの場へ足を向けた。

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