5 / 60
05. 兄王子
しおりを挟む祭事用の講堂は若干の緊張感に包まれていた。
「ランベルト・ルイジアス、貴公を王族護衛隊へ配属する」
「――謹んでお受けいたします」
記憶そのままの騎士団長からの辞令に。俺は余程変な顔をしていたらしい。
「…どうしたルイジアス、第一希望だろう?嬉しくないのか」
そう耳打ちされ、慌てて控え目に笑った。
「身に余る光栄です」
「なんだ飛び上がって喜ぶ姿が見たかったがなぁ」
そう言って爽やかに笑う団長は、銀の髪をかき上げ今日も男前だ。
近過ぎる距離に、冷や汗を拭う。俺は次の騎士へ場所を譲り壇上から降りた。
「団長なんだって?」
背の高い、同期のニコライが話し掛けてきた。
「もっと喜べってさ…改めてよろしく、同じ所属部隊になるな」
「あぁよろしく、ランベルトも気を付けろよ」
「団長にか?冗談。団長の好みは若くて華奢な美男子だ」
「…お前だって、騎士団の中じゃ華奢な部類だ」
過去の俺なら、そんな馬鹿なと鼻で笑った。
「……気を付けるよ」この忠告は正しく、過去の俺はこれから団長に困らされた。
同じ展開が起こるなら、避けられる事象もありそうだ。
配属先が決まり、いよいよ護衛対象との対面だ。
もちろん国王陛下や王妃殿下の護衛は別。
騎士団の中でも優れたベテラン騎士の務めだ。
護衛部隊に就任すると、まずは色々な現場を体験する。王族担当といってもその相手は様々だ。隠居された現国王のお兄様や、王位継承権二桁台の幼子まで含まれる。護衛の対象によっては、勤務地も王都ではない。第二第三の都市での任務もありえる。
配属先は騎士本人の希望で決まる訳ではない。
――ここで今日、エリアス殿下に会う為の第一関門だ。
過去の俺はこれから幼馴染というだけで、初日から否応なく…。
「っおい!殿下だ…!」「こちらに来られるぞ…!!」
噂をすれば…三年前に俺を初日から名指しで護衛に任命した。
周囲の同僚から距離を置かせた、張本人の登場だ。
独特の緑がかった金色の髪が、風になびく。
まっすぐにこちらに向かって第一王子が歩いて来る。
王族らしいゆったりとした服と、装飾品が揺れる軽やかな音が転がる。
周囲の騎士数名が、感嘆の溜め息をついた。
…あの王子様の外見に騙されてはいけない。
どよめく周囲の様子など気にもしない。
両腕をひろげ飛びつく勢いで向かって来るテオドール殿下。
俺はすんでの所で身を躱した。
「はははっ腕を上げたなランベルト!よもや避けられるとは!」
空を抱き締めた殿下が、振り返り愉快そうに笑った。
「流石テオドール殿下、人を驚かせるのがお上手ですね」
すこし他人行儀にすると、不思議そうな顔をした。
「ああ勤務中だものなラン、よいぞいつものように幼馴染として話してくれ」
「……」猫なで声で、滅多に聞かない愛称で呼ばれ鳥肌が立つ。
「テオ殿下…、場所を移しませんか?」
「はははっそんなに二人きりが良いなら、最初からそう申せランベルト!」
歩き出すテオドール殿下の後ろに続く。
背中に突き刺さる、周囲からの視線が痛かった。
近くにあった客室に、本当にテオドール殿下と文字通り二人きりにされた。
まわりの護衛や衛兵に無理を言うこの方のこういう所は、三年前でも変わらない。
「ランベルト、ひどい顔色だぞ?」
「その原因の一端は殿下ですね…」
「はっはは!俺が見付けた時から顔面蒼白だったろう」
ソファーに腰掛け、殿下が手招きする。人目もないので俺は遠慮なく隣に座った。
両王子の乳母は、俺の実の母親だ。
俺の母と王妃殿下は、貴族学校での親しい学友だった。
そんな縁から、母は王子の乳母を任された。幼い俺も長い時間を王子達と過ごした。
テオドール殿下が年下の俺の世話を焼く。
俺は自分より年下のエリアス殿下の相手をする。
王子二人の仲が悪い訳ではない。
ただ歳が離れているから、俺を挟んだ方が二人の会話は増えた。
王妃からも"両王子を頼みます"と直々に仰っていただいた事まである。
――どちらの王子も俺にとっては、大切な方だ。
22
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
大賢者だと言われたが、たぶん違うから、求婚とかやめてください
夜鳥すぱり
BL
目を開けたらそこは、大草原でした。そして、穴があります。ドでかい穴が。何でしょう、この穴は。不思議に思ってボーーッと空を見ていると、遥か遠くから、馬に乗った騎士様たちが近づいてきて、僕のことを大賢者様だと勘違いしちゃって、さぁ、大変。記憶も魔法も何もかもを忘れた僕は、流れに身をまかせてみることにしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
漆黒の瞳は何を見る
灯璃
BL
記憶を無くした青年が目覚めた世界は、妖、と呼ばれる異形の存在がいる和風の異世界だった
青年は目覚めた時、角を生やした浅黒い肌の端正な顔立ちの男性にイスミ アマネと呼びかけられたが、記憶が無く何も思い出せなかった……自分の名前すらも
男性は慌てたようにすぐに飛び去ってしまい、青年は何も聞けずに困惑する
そんな戸惑っていた青年は役人に捕えられ、都に搬送される事になった。そこで人々を統べるおひい様と呼ばれる女性に会い、あなたはこの世界を救う為に御柱様が遣わされた方だ、と言われても青年は何も思い出せなかった。経緯も、動機も。
ただチート級の能力はちゃんと貰っていたので、青年は仕方なく状況に流されるまま旅立ったのだが、自分を受け入れてくれたのは同じ姿形をしている人ではなく、妖の方だった……。
この世界では不吉だと人に忌み嫌われる漆黒の髪、漆黒の瞳をもった、自己肯定感の低い(容姿は可愛い)主人公が、人や妖と出会い、やがてこの世界を救うお話(になっていけば良いな)
※攻めとの絡みはだいぶ遅いです
※4/9 番外編 朱雀(妖たちの王の前)と終幕(最後)を更新しました。これにて本当に完結です。お読み頂き、ありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの
るい
BL
潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。
いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。
けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。
しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。
[名家の騎士×魔術師の卵 / BL]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる