おかえり

ともえどん

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おかえり

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 気が進まない。これに尽きる。どうしてなのかは、わからない。地元への帰省なんて、両親が転勤族であったり、余程の根無草でもなければ、至って一般的なことであり、腹を痛めて産み、育てた子である僕の顔をひさびさにお目にかけること自体が、大きな親孝行であることはもちろんわかっている。しかし、やはり、気が進まない。
 大学を卒業した後、就職のために上京。慣れない一人暮らしも、三年も経てば堂に入ってくるもので、全ての家事をすっかりこなせるようになった。仕事も順調で、叱られることも多いが、恵まれた環境の中で、のびのびと業務にあたっている。週に何度か、彼女が訪ねてくる。二人でテレビを見たり、少しおしゃれをして街へ出かける。月に一度、最寄駅より二駅ほど離れた、老舗の洋食屋へと足を運び、おいしいタンシチューをいただく。少量のワインで気をよくして、夜風に当たり、火照った頬を冷やし、ぽつり、ぽつりと立ち並ぶ街頭の下で、ひやりとした彼女の掌を握りしめ、帰路につく。充実している。毎日が、充実しているのだ。小学生の頃、クラスではパッとせず、目立った取り柄もなかった僕が送る人生としては、上出来であろう。通信簿を埋め尽くす3の羅列に、たまの間違いであるかのように2が鎮座する。運動会ではお弁当だけが楽しみで、自分が活躍することなんて夢にも思わず、汗を煌めかせグラウンドを颯爽と走り、観衆の羨望を一身に受ける、サッカー部やバスケットボール部の同級生を見て見ぬふりをしていた当時の僕は、きっと地味で、矮小で、取るに足らない存在であったに違いない。
 しかしながら、そんな僕にも友達はいた。多いほうではなかったが、少ないわけでもない。中学校、高校と、進学してゆくと、既存の交流の大多数が絶たれ、新たな交流が生まれたが、社会人となった今では、それも片手で数えることができるかどうかも怪しい。ある日を境に、ぷつんと切れてしまっていることにすら、気がつくこともない、そんな繋がりでしかない。そのような、希薄な繋がりのために、新幹線代を限られた予算から工面して、戻ったところで特別何かがあるわけではない地元へ帰省すること自体が、非常に億劫であった。決して、自分の学生時代の醜態を、思い出すことを拒むために、このような思案に更けているわけではない。それは、断じて、違うのだ。違わないことは、ないのだ。
「んで、一樹は今年、実家戻るの?」
 夕食を終え、居間で寛ぐ彼女からの問いに
「今年は、親孝行がてら帰るよ」
 このように答えてしまう、自分を戒める手段を、今の僕は考えることができなかった。
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