君の小水が飲みたい

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26、オーディンの焦り

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 ヴァルハラの寝室に結界を張り、眠るリックを残して私はグラニに跨がり、死者の国、ヘルヘイムへと天を駆けた。

 ミーミルの父親であるマヤ。
 その妹、ヤミーが、女王ヘルとして治めている死者の国、ヘルヘイム。
 リックが聞いたロキの企みが、この先、バルドルの悪夢が現実となって襲ってくるのかを巫女に占わせるためにやって来た。

 此処が氷と炎が狭間の地、ギンヌンガガプだな。

「この地に眠りし、預言のシャーマン、巫女オルガよ! 主神オーディンが命ずる。よみがえり、我が異母弟の為にその能力をここに示せ!」

「……。この地に眠り安息を得たわたくしを呼び戻されたのは貴方様か?」

「巫女オルガ、我が異母弟、バルデルスの運命を占って貰う」

「……。光神バルデルス、不死身となれど、悪しき灰色狼の策略にて没する。光失いし世は大いなる冬フィンブルを迎え戦乱の世となる。神々の死戦に終わりをもたらす者も、光神バルデルス。オーディン様、時が満ちフィンブルヴェドが終わったならば、貴方様ではなく、他の若君を御寄越し下さいませ。総ての者に慈愛の心を持つ若君を」

「バルドルの死は免れぬと言うか。我では救えぬと?」

「オーディン様は主であらせられる。また、これから始まるフィンブルヴェドに備えるのです。貴方様のお身内の者が犠牲となって神々の戦も終息致しましょう」

「……。犠牲となる者は我が血縁か?」

「左様にございます」

「フィンブルヴェドを回避することは出来ぬのか?」

「悪しき灰色狼が既に暗躍しております。光神バルデルス様の運命を変えることは出来ますまい」

「巫女オルガ。若き慈愛の者を寄越すまで、暫し眠るが良い」

「仰せのままに」

 灰色狼とはロキのことであろう。
 だがどうやって不死身となったバルドルを殺す?
 光を失った世は冬をむかえよう。
 バルドルの死によって戦乱の世が来ると言うのか!
 既に暗躍済みということは、ロキではない者が手を貸すということか?
 誓約により、何ものにも傷つけることが出来ぬバルドルを殺すだと?
 いや! 誓約が出来ぬ者がいたではないか!
 森の神サティリュスミーミルに預けられた幼きモノ、若木であったミスティルティンが!
 急ぎ伯父上に会わねば!

「グラニ! ミーミルの泉に行くぞ! 急ぐのだ!」

 裏切り者は伯父上か?!
 いや、伯父上はバルドルの為に不死身となる知恵をバルドルの母、フリッグに与えた。
 ならば、誰が?!

「ミーミル! 伯父上!」

「ん? オーディン? おお! リックは治療出来たのだな!」

「ミーミル伯父上! 私のことは良いのです! バルドルの命が危ない! 誓いを立てられぬ程に幼かったミスティルティンは、今、何処に?!」

「ん? ミスティルティンか? 確か黄金のヤドリギで槍を作るとか言って先程ロキが枝ごと持って行ったぞ?」

「伯父上?! ミスティルティンは誓約をしていない! 槍ならばバルドルを傷つけられるではないか!」

「いや、ロキなどバルドルにかすり傷一つ付けられぬぞ? 何を慌てておるのだ?」

「裏切り者がロキ一人ではないのです! 奸計に惑わされる者がバルドルの命を絶つのだ!」

「裏切り者が?! だが、何者もバルデルスを傷つけぬと誓約があったではないか?!」

「ロキはトリックスターです。何か方法を見つけたのだろう。急ぎバルドルの所に行くぞグラニ!」

 何とか間に合うか?

「急ぐのだグラニ!」

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