君の小水が飲みたい

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10、リックのお使い

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「こんにちはヘイムダルさん! 今日は橋を渡って行くので、通して下さい」

「ああリック。散歩かい?」

 オレは今、いつものように狼のゲリに跨がっている。
 横にはピッタリとフレキもついていて、もうお馴染みの散歩風景だ。

「はい。ついでにミズガルズへお使いを頼まれてます」

「そうかい。気をつけて行きな」

「ありがとうございます。行って来ます!」

 オレの背中には、アラクネー特製布で作ったチートなリュックが背負われている。
 無限に何でも収納出来るマジックバッグだ。
 今日のお使いは、人間の国ミズガルズでワインを買って来る事。
 何時もオーディン様が飲んでいるワインが無くなっちゃったから。 
 昨夜、騎士団の人達が来てて、あと、ワルキューレって言う女性達も来てたらしく、ドンチャン騒ぎだったんだって。
 どんだけ飲んだんだろう?『コレで買えるだけ買って来て!』って硬貨袋を『ドスン!』って渡されたけど。
 
「あ、泉がある?! ねえゲリ、フレキ。ちょっと休んで行こうよ!」

「ウオン!」「おん!」

「わあ! すっごい綺麗だ! この泉の水は飲めそうだね?!」

「ウオン!」「おん!」

 あ、ゲリもフレキも飲んでる。
 僕も飲もう! 

「えへへ。ワインの試飲用に実はグラスを持って来てるんだ。どれどれ?」

 パシャ、パシャ! チャプン。

「ふふっ。すっごい綺麗!『鑑定』おお!《ミーミルの泉の水》だって」

 ふむ。ということは、この泉はミーミルの泉って言うんだな。
 効能?! 《知恵》と《知識》の向上……。
 スゲー。是非飲んどこう。
 
「ゴクゴク、うめ、ゴクゴク、ゴクゴク。プハ!」

 え?! すっごい! 魔法のある世界だからと思って、試しにやってみたら、たまたま出来た『鑑定』の他に、色んな魔法が頭に飛び込んで来た!

「え?! この水凄いけど、危なくない? え?! なんだって?! うっそー!」

 オレが『危なくない?』って思ったのは、ここの水を飲んだら、みんなが《知恵》と《知識》を身につけれるから。
 んで、賢くなったオレの疑問に答えが頭の中で浮かんで来たんだ!
 ええ?『ミーミルの泉。角笛ギャラルホンで知恵と知識を得る』って。
 ……。
 オレはギャラルホンなんて持ってねえ。
 水は持って来たワイングラスで飲んだんだけど?!

「やっべえ! なあ! ゲリ、フレキ! もう行こうぜ!」

「おん?」「ウオン!」

 グラスはリュックに素早く収納して、辺りを見回す。
 セーフ! 誰にも見られていなかった。
 よし! 何もなかった事にしよう!

「あ、次はフレキが乗せてくれるの? ありがとな。じゃあ、出~発~!」


 着いた! ミズガルズの商店街?!

「ふわあ~! スゲー! 人がいっぱいだ!」

「ウオン!」

「あ、そうだな、ワイン、ワインだよ。酒屋はどこだ?」

 お、あった! でけえ! ディスカウントの大型酒店かよ?!
 ワイン、瓶と樽。試飲コーナーまであるじゃん?!
 あ、ソムリエさんだ! 間違いない。
 異世界のソムリエさん……。
 如何にもって恰好してる。

「あのう、ワインの試飲お願いします」

「はい。かしこまりました。お好みはございますか?」

 しまった! オレは酒ならば《メチルアルコール》以外はドンと来いなヤツ。
 取り合えず飲ませて貰って、自分が美味いと思ったのにしよう!

「適当に、オススメを何点かお願いします。あと、量も欲しいんで、瓶でお願いします」

「量ですか? 樽がお得ですよ?」

「う~ん。オーディン様は毎日飲まれるけど、さすがに樽ってどうなんだろう?」

「オーディン様?! グァルハラにお持ちになるワインですか?!」

「あ、ええ。お使いを頼まれてるんですが……。あの?」

 なんだろう? 慌ててる。
 あ、どっか行った。
 げっ?! 偉そうなオッサンを連れて来やがった!

「これは、これは。お客様。神々のワインをお求めとか? こちらではなく、奥のお応接室でお願いします」

 応接室に連れて行かれた。
 神々のワインって何だよ?
 つまみとワインボトルとワイングラス。
 格好つけたソムリエが出て来てテイスティング……。
 ワイングラスにちびっと注がれた。
 なんだろう? 居心地がスゲー悪いんだけど?!

「ではお客様。こちらは当店の最高級でして。お代はこのような品なんですが、特別にご奉仕させて頂いて、こんな感じのお値段で、いかがでしょう?」

 おう。浪花の商人。
 この世界にもそろばんがあったのか。
 オッサンが定価の一割引きでそろばんを弾いて、ニコニコしている。
 一応、ワインを『鑑定』してみる。
 最高級はまあ、間違いないな。
 だが値段だ。
 このオッサンの笑い方、胡散臭いんだけど?!
 注がれたワインを飲んでみる。
 普通に美味い。に。
 オレの好みとちょっと違うんだよなぁ。

「ねえ、このワインと一緒に個人で飲むお酒も欲しいんだけど、ちょっとづつ試飲させてくれる?」

「も、もちろんでございます! 世界のあらゆる酒をあつかっておりますので、今、お持ち致します!」

 おおう。テーブルにグラスが増えた。
 ワゴンに酒瓶が乗せられて来た。
 栓が全部開けてあるじゃん?!
 コレ全部試飲用だ!

「では、こちらからどうぞ」

 コポッ。って注がれたワイン。
 トクトクッと注がれた蒸留酒。
 サーバーからビール。
 ……。
 ビールサーバーあんのか。
 欲しいんだけど?!


 で、結構飲んだ。
 ちゃんぽんで飲んだ。
 さっきのオッサンがスゲーご機嫌でニコニコからニヤニヤ笑いになっている。

「ねえ、コレとコレとコレ。あと、ビール、サーバー付きで冷えてるの、五番目に飲んだコレ。お使いのワインはオススメのワインとコレとコレとコレで、『ドスン!』コレで買えるだけちょうだい」

 オレは渡されていた硬貨袋を出した。

「おお! 今、計算致します! こちら、当店の在庫全てで、お値段がこう。で、お客様の個人でお求めの酒類がこのようになって、お値引きがこう! いかがですかな?」

 ああん? オッサン、オレがへべれけだと思ってる? 残念ながらオレは枠だ。メチル以外は何でもござれのこのオレを甘く見たな?
 オッサンのそろばんをパチパチパチッっと六掛けにしてやった。
 ふふん。どうだオッサン。
 渋い顔してんじゃねえよ。
 吹っかけてたの、わかってるんだぞ?!

「お、お客様。こ、こちらでお求めになるので?」

「はい。あと、マジックバッグがあるんで、持って帰りますから」

「あ、ええ。ご用意致します。では、倉庫の方にお越しください」

 集められて来る酒を『鑑定』していく。
 樽は全部大丈夫だった。
 オレ用の酒にのが数点出て来た。
 その瓶だけ別に分けて置いておく。
 オッサンが怪訝な顔して見ているが、オレは仕分けを続ける。
 どうやら出揃ったようだ。

「では、こちらで間違いございませんね?」

「あ、こっちの酒は返品でお願いします」

「は?! お客様?! どういう事ですかな?」

「ううん。こっちの酒はオレが飲んだのと違うだろう?」

「そ、そんな筈はございません! 栓もしております。ラベルも同じ物ですよ!」

「ふう~ん。じゃあ、ここで開けて飲んでみて」

「グッ、お客様。どうやら、ラベルの見間違いがあったようです。返金致します」

「あ、お金は払うから、あそこの酒、全部ちょうだい?」

 さっきから気になってたんだよな。倉庫の奥で埃被ってるの。ラベルもハゲハゲになってるヤツ。
 『鑑定』で、《上田 陸、垂涎の酒》って出て来たんだよ?!
 全部欲しい!《垂涎の酒》ちょうだい!

「は?! アレでよろしいのですか? あ、ええ、ええ! もちろん全部お持ち下さい!」

 あれ? いいみたい。ラッキー!

「じゃあ。『収納!』」

 へへえ。一気に『収納』してやったぜ!
 ポッカァ~ンってなってるオッサンから商品伝票と領収書を貰って。

「ありがとうございました」

 って笑顔で言って店の倉庫を出た。

「お待たせ~! ゲリとフレキにお土産だよ!」

 出されたおつまみをリュックに入れていたんだよ。
 『ゲリとフレキの好物』って『鑑定』で出たから。

「おん?!」「ウオ~ン!」

「よし! 食べていいよ!」

 ハハッ。大喜びじゃん! しっぽちぎれるくらい振ってる。
 食べながら、よだれがスゲー。

 これは《垂涎》が益々気になる。
 期待が膨らむ。
 早く帰って飲もう!

「じゃあ、帰ろう!」

「「ウオン!」」
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