おぴちょん様

ひでとし

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11 経の優美

おぴちょん様

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 ここは、太平洋に面した断崖絶壁の上、眼下には紺碧の大海原が見渡せる絶景の地点である。

50歳を過ぎたユキは今年もこの海に花束を捧げに来た。

 3年前の今日、長らくパートナーとして生きて来た一美がここから身を投げたのだ。
一美は海が好きで、死に場所を求めてあちこち探し回りこの断崖を見つけた。
ここなら誰にも見られず、邪魔されず、自死を貫くことができる。
望みの通りに真っ青な海の中で命を終えるのだ。
 
一美は癌宣告を受けて無駄な治療よりも死を選んだのだった、
すでに80歳を過ぎ、これ以上生きたいとも思わなかった。

その日にはユキが車で断崖に送った。

一美はユキに今までの礼を述べ、お別れのキスをすると生い茂る木々の間を断崖に歩いて行った。
その後ろ姿を見送ったらユキは引き返すように言われていたが、どうしても立ち去れずに後を付けていった。
一美の自死を引き止めたいが、彼女の思いをよく知っているから止められない、
千々に乱れる思いで一美が飛び降りるのを灌木の陰から見送ったのだった。

 ここに来るとその3年前の思いが蘇ってくる。

ユキは断崖から一美の魂に向かって純白の百合の束を投げると、長い祈りを捧げた。

 静かな気持ちでユキが振り返ると草地に女が横たわっている。
ついさっきまで誰もいなかったのにいつの間に現れたのだろう、めったに人の来ない場所なのに奇妙なことだ。
近寄ってみると大変な美人だ、レズビアンのユキは息を思わず呑んだ。

呼吸がある、まだ生きているようだ、
揺さぶって、

「ちょっと、どうしたの?具合が悪いの?」

と呼びかけると目を開いた。

「あなたは誰?どうしてこんな場所にいるの?」

女は何か言ったようだが、また気を失った。

女の体を調べてみたが外傷は無いようだ、身元が分かる物は何一つ持っていない。

ユキが揺らし続けると女はようやく目覚めたが意識朦朧としているようだ。

「ねえ、歩ける?」

フラフラする女の身体を支えて車に戻り、後部座先に乗せると町に向かって走り出した。

 はじめは警察に連れて行こうと思ったが、ドラッグをやっているらしく様子がおかしい、
少ししたらまた眠ってしまった。
これでは警察に逮捕されてしまうだろうし、自分もどうしてあの場所にいたのかと聞かれれば面倒だ。
一美の自殺は秘密にしているし、遺体も上がっておらず失踪扱いになっている。
もしも事実が発覚すれば自分は自殺幇助罪になる。

適当な場所で女を下ろそうかとも思ったが、女のあまりの美しさがユキにためらわせた。

 この美人の顔にはどうも見覚えがあるような気がする。
気になってルームミラーで何度も見直しているうちに思いだした。

この顔は30年ほど前に白川本家屋敷の乱交パーティーで会った岩屋虚空蔵教の教祖だ。
間違いない、あのときに男なのになんてキレイなのだろうと思った、
さらに裸を見たら胸には大きな乳房があってまたも驚かされたのだ、
その強烈な印象は今も忘れられない。

 しかし、あれから30年近くが経っている、人間が全く老化しないなどあり得ないし、
さきほど体を改めたとき、股間には男性器はなかった。
教祖には立派なモノが付いていたから本人のはずがない。
これだけソックリならばひょっとしてあの教祖の娘なのか?

自宅に帰って調べたら当たっていた。
あの教祖の一人娘、白川優美だ、顔写真が完全に一致している。

(この優美の中身は経教祖だが、ユキはそれを知る由もない)

白川優美は数年前に男性を殺して収監され、岩屋虚空蔵教からは放逐されている。
しかも母親はあの憎き白川理恵だ。

 ユキはかつて白川理恵には酷い目に遭わされ恨んでいる。

 30年前のユキは可愛らしく清楚な女の子で、白川理恵とはレズビアンの交流クラブで知り合った。
理恵は大変な美人だし最初は親切でいい人に見えた。
その理恵がユキに好感を抱いた、ユキも理恵には憧れを持っていたのですぐに二人は仲良くなった。
理恵はユキがお金に困っていのを知ると、レズビアンの乱交パーティーに出たら10万円をあげると言う。

 当時すでにユキは一美とパートナーだった、
一美はレズビアンのカップルが愛ある妊娠をするための双頭ディルドの開発をしていた。
それは、レズビアンセックスで2人が絶頂を迎えた瞬間に女性器に入れた双頭ディルドの先から特殊溶液に混合された精子が放出されて受精させる装置で、レズビアンに福音をもたらす神聖な研究だと二人は信じていた。
だが、研究には多くのお金掛かる。
その資金稼ぎにユキは一美に内緒で白川理恵の乱交パーティーに加わることにした。

 乱交は始めには女だけのレズビアンセックスだったが、少ししてニューハーフがメンバーに加わった。
男嫌いのユキは、ここまではなんとか耐えられたが、白川本家屋敷の乱交パーティーに呼ばれたときはメンバーの半分が男性だった。

「これは約束が違う」

と帰ろうとしたら、無理やりに押さえ付けられて裸にされ、クスリまで打たれてしまった、
それで気が付けばユキも乱交に加わり理恵とのレズセックスに耽っていた。

 それからは白川理恵に脅されてさんざんにオモチャにされた。
理恵にSMで痛めつけられ、ユキが大勢の男たちに輪姦されるのを理恵は楽しそうに眺めてワインを飲み、
最後には特大のペニスバンドを装着してユキのアナルを犯した。

そんな日々が繰り返されるようになり、ユキは精神に変調を来した。
それに気付いた一美に問い詰められてユキはようやく事実を明かした。
一美は怒ってユキをなじったが研究資金を捻出しようとしてこうなったと知り、泣いてユキに謝った。

 一美が白川理恵を調べるととんでもない相手だと分かった。
各種の特殊風俗店を経営し、配下には何人もの元暴力団員を抱えている。
夫は新宗教の教祖で、その教団も元は暴力団である。

理恵に逆らえば何をされるか分からない、理恵を怒らせて行方不明になった者もいる、
一美はもう逃げるしかないと思った。
そこで伝手を頼って二人でこの和歌山の片田舎に住むようになったのだった。
幸いなことに、白川理恵はユキには飽きてきていたので、
ユキが消えても追おうとはせず二人は難を逃れることができた。

 それから30年が経っても、ユキはあの時の恨みを忘れてはいない。
体の苦痛、心の痛み、惨めな思い、全ての不幸はあの悪魔のような白川理恵のせいだ、
思い出せば今も憎しみが燃え立ってくる

今、その仇敵・白川理恵の娘の白川優美が自分のベッドで寝息を立てて眠っている。
この優美は理恵から悪女の血を引いていて、同棲していた男を刺殺した性悪女なのだ。
さっき、あの場所でひっくり返っていたのも碌でもないことに巻き込まれたのだろう、
しかもドラッグをやっている。

母親代わりにこいつへ復讐をしてやろう、こんな性悪女など酷い目に遭わせても良心は咎めない。
それに何よりも、あの場所でこいつを拾ったのも一美の御霊の導きに違いない、
是が非でも復讐せよ、ということなのだ。

 では、どうしようか?
殺してもいいが、それでは面白くない、とことん苦しめて惨めな思いをさせてやりたい。
そうだ、双頭ディルドで妊娠させてやろう。精子はあのニューハーフ・さゆりのものがいい。
妊娠したら堕胎しようが、出産しようが構わない、
そのときの状況を見てさらに精神的ダメージを与えてやればいい。

 昔、白川理恵のレズビアン乱交パーティーが終わったときだった。
理恵は、

「さっき参加していたニューハーフは体を女性化する前に精子を冷凍保存しているのよ、
そんなことをするなら初めから女にならなきゃいいのにね、やっぱりニューハーフなんてバカよね」

と笑い嘲っていたが、ユキはかえって興味を感じてそのニューハーフのさゆりと友達になったのだった。

 さゆりは理恵とは違って性格がよく、一美とユキの双頭ディルドの研究にも理解を示して
自分の冷凍精子まで提供してくれた。
ユキは親しくなるにつれて、さゆりも理恵を酷く嫌っているのを知ってさらに心を許すようになった、
一美と逃亡すると打ち明けた際には餞別までくれた。
それ以来、さゆりとは縁が切れてしまったが、提供を受けた冷凍精子はまだ残りがある。

だから、その精子で理恵の娘を妊娠させてやれば、さゆりを侮っていた理恵にはさぞ屈辱になるだろう、
さゆりもそれを知れば痛快だろうと思った。

 一美は長年にわたって双頭ディルドとそれを進化させたペニスバンドの研究を行って、これらの妊娠率を格段に向上させた。一美とユキはこの双頭ディルドやペニスバンドを密かにレズビアンに提供して、多くのレズカップルが子供を育てている。

ユキは双頭ディルドにさゆりの精子を装着し、眠っている優美が抵抗しないように睡眠薬溶液を喉から流し込んでおいて服を脱がせた。白く見事なスタイルが露わになる。
母の理恵はもっとグラマーだったが、娘の優美の身体も美しさでは引けを取らない。

胸を揉み、乳首を舌で転がし、クリトリスを弄ると濡れて来た、さらに女性器をゆっくりと広げていく。
優美は意識のはっきりしない中でも感じているらしく体をくねらせている。
性器もすっかりほぐれたところで双頭ディルドを挿入して一気に注入してやった。
身体を観察すれば排卵日の直前らしいから受精には最適期だ。

 それから3週間、ユキは優美(経)を)を監禁した。
ユキの家にはレズカップルが双頭ディルドやペニスバンドで受精するための宿泊部屋が設置してある。
この部屋は外部にレズセックスの音が漏れないように設計されていて窓がなく、
シャワーとトイレが設置されドアが一つだけのまるで牢獄のような造りになっている、
監禁には絶好の部屋だ。

優美(経)はこの部屋に入れられても抵抗することなく大人しくしていた。
優美(経)はずっと意識が朦朧として自分が病院に入っていると錯覚していた。
ユキは不審に思って観察していたが、どうやら記憶を失くしているらしい、
自分が誰かも分からないようだった。

おそらくはユキが見つける直前にドラッグを打たれて暴行され、あの場に逃げて来て倒れたのだろう。その時のショックで記憶喪失になったらしい。
そう思ったら優美が憐れに思えたが、優美は稀代の毒婦・白川理恵の一人娘なのだ。
母親の悪行の報いを受けなければならない、それが亡くなった一美のためだ、ユキはそう思い直した。

 ユキは優美(経)の妊娠を確認すると睡眠薬で眠らせて車に乗せ、大阪府門真市の公園のベンチに置き去りにした。
後は成り行き任せだ。

 優美は岩屋虚空蔵教から放逐されたとはいえ、かつてはマスコミで持て囃された美人だから、今後の動向は調べればすぐに分かるはずだ、ユキはこれからも執拗に優美に復讐してやるつもりだ。


 
 頬を打たれて目が覚めれば何人もの若い男が自分をのぞき込んでいる。

「姐ちゃん、こないなとこで、なんで寝とるんや?」

経は、少しボーっとしていたが、

「分からないんです、病院にいたと思ったんですが、どうしてここにいるんでしょう?」

「どこの病院に居たんや?」

「覚えていないんです」

「姐ちゃんは言葉がこの辺のもんとちゃうなあ、どこの生まれや?」

「分からないんです、名前も、住所も、職業も、何も覚えていないんです」

「ちゅうことは記憶喪失なんか?ほんまになんも覚えとらんのか?」

「ええ、覚えていません」


男たちは少し離れた場所に移った。

「おい、記憶喪失やてえ、あんなベッピンが記憶喪失なんやぞ、連れ帰って姦っちまおうやないか」

すぐに話がまとまり、

「なあ、姐ちゃん、そういう記憶障害の相談に乗ってくれる施設に連れてったるわ、一緒に来いや」

経は黒いシャコタンの車に乗せられた。
周囲をバイクが取り巻き下品な騒音を立てながら走っていく。

 この連中は北大阪を根城にする暴走族だ。
経はすぐに気づいたが20人近い男たちを前にしては抵抗も出来ない。
そのまま暴走族のたまり場の寝屋川の雑居ビルの一室に連れ込まれて輪姦されてしまった。

性欲が盛りの10代後半から20代前半の男たちの性処理の道具として毎日何度も何度も犯され、
経はますます気力が失せて行った。
一月が過ぎた今では何をされても虚ろな目で見上げているだけである。

この雑居ビルは暴力団・武田会の持ち物で、若い暴走族たちは武田会の使い走りを引き受けている。
たまり場に武田会の若頭の黒田がやって来た。
暴走族たちが凄い美人を監禁して楽しんでいると聞いてその女を見たいと思ったのだ。
会ってみればたしかに大した美人である。

しかし、あまりの暴行のせいなのだろう、精神を病んでしまったらしく目が虚ろだ、
廃人の一歩手前というところか。
折角の美人なのにここまで追い込むとはやり過ぎだ、これでは風俗嬢として商品にならないではないか。
若い連中の愚かさには困ったものだ。

だが、よくよく見ればこの美人には見覚えがある。
そうだ、何年か前に関東の岩屋虚空蔵教の美人教祖婦人としてマスコミで持て囃された女だ、
その後に情夫を殺して収監されたと聞いている。
それを機に岩屋虚空蔵教を放逐されたらしいが、出所後に行方不明となり、
関東のヤクザから見つけたら要確保の触れが回って来ていたはずだ。

 岩屋虚空蔵教の母体が元暴力団組織なのはこの世界で知らぬ者はいない。
教団では世間体から教祖婦人を放逐したと言いながらも、実際は教祖婦人を保護しようとしているのだ。
岩屋虚空蔵教の名前は出せないから関東のヤクザに代弁させているのは明らかだ。
この教祖婦人は先代教祖の娘だから教団が大切にするのも当然だろう。

 その岩屋虚空蔵教の教祖婦人を自分の組の下っ端どもが輪姦して廃人の一歩手前にしてしまった。
これは甚だまずい。
教団がこれを知ったら必ず報復されるだろう。

岩屋虚空蔵教の教祖を怒らせた刑事が謎の突然死を遂げた噂話など、この教団を巡っては異様な話が多い。
我々ヤクザといえども関わるべき相手ではない、どんな呪いを受けるか分からない、と黒田は思った。

「おい、お前ら、大変な女をやっちまったな、すぐにこの女を始末して遠くに捨ててくるんや。
いや、待て、こいつも教祖の娘やから殺すと呪われるかもしれん。深夜に神戸辺りの病院の前に置き去りにしてこい」

 命じられた暴走族たちは黒田若頭の様子にただならぬものを感じた。

  その夜の午前3時に神戸の北野記念病院の前に女を置き去りにした。



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