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1章 Run after me -若狼-
12.アグネッサ
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―――風が、騒いでいる。
羊の毛を詰め込んだ柔らかな寝台で、レディ・アグネッサは、ぱちりと目を開いた。
「……賑やかだこと」
温みに埋めていた身を起こす。
アグネッサは寝台から降りてガウンを羽織り、枕元に置いてある水を飲む。風たちが、音たちが、この水をおいしくしてくれる。
幼い頃から風を感じていた。
風に助けられたことは多くある。命を救われたこともあった。
風は音を連れてきた。そうして生きがいと生きる糧を得た。
歌姫と呼ばれるようになって、どれくらい経っただろう。
* * *
ここで暮らし始めた頃は下賤な生まれだろうと陰口をたたく者もいたが、王家の後援を得ていると知って口をつぐんだ。
アグネッサの出自を知るのは、王家の中でもごく一部のみ。
彼らが恥と感じるため秘されているのだ。
幼いころ、アグネッサは父と母と、森近くに棲まっていた。
簡素な、けれど清潔な小屋の周囲は美しい木々で囲まれていて、きれいな小川から水を汲み、森の恵みを集めて生活していた。
風や雨が強いときも、森と父が守ってくれると分かっていた。大きくて危険な獣は近寄ってこないと父が言ったから、一人で森に入るのも怖くなかった。
いつも良い香りの草が敷き詰められていた寝台で、父と母と三人、シーツにくるまって眠るのが大好きだった。
父と森の奥まで入り、小さな獣をしとめて食卓に供した。
母と森の恵みを集め、刻んだりジャムを作ったりするのを手伝った。
母は、簡素な小屋に住まうにはずいぶん礼儀正しい上品なレディで、幼い頃からマナーを教えられた。
父は不思議な人だった。
ときおり何かに耳を澄ませるようにして、もうすぐ雨が降るとか、今日は獣の気が荒いから帰ろうと言ったりした。もうすぐ大風が吹くからと大急ぎで帰ってきて、小屋の周りを厳重に守る壁を作ったこともあった。父の言うことは絶対に正しいと信じられた。
ナイフ一つでいともたやすく獣や魚を捕るし、高い木にするする昇り、とびきりおいしい果実を持ってくる。どこからかはちみつを調達してきたこともあった。
木の実や野の草や茸に詳しくて、一緒に森を歩いていると食べられるものを教えてくれたので、父がいない時期も豊かな生活を送ることができた。
誰よりも足が速く、とても力が強い父がいれば、恐ろしいことなどなにも無かった。仕事で出かけていることが多かったけれど、いなくても守られているように感じられた。他では感じたことのない感覚。
あの頃はそれが普通だったけれど、離れて初めて分かった。父はやはり不思議で、他にはない存在だと。
母は小屋周りから離れず、森に入ることもしなかった。父は出かけていることが多く、長い時間を母と二人で過ごす中で行儀作法や話し方をアグネッサに教え、上手にできると、とても褒めてくれた。
「私の小さなレディ」
アグネッサは母からそんなふうに呼ばれた。
友達は風であり、草であり、虫たちであり、鳥や獣たちだ。彼らはいつの間にかアグネッサと共にあり、たくさん遊んでくれたし、楽しいことや大切なことをたくさん教えてくれた。
父と母はとても仲が良かった。
忙しい父は、戻ってくると必ず母に贈り物をした。待たせたことを詫びて、ずっと一緒にいたいと甘えるとき、父の目にアグネッサは映らないようだった。
「仕方ない人ね」
笑いながら、母は父を存分に甘えさせる。
気のすむまで甘えて満足すると、父も可愛がってくれた。
「小さなレディは元気だったかな?」
アグネッサはカーテシーをして礼儀正しく礼を述べ、それからようやく父の胸に飛び込んで抱きしめてもらえるのだ。
簡素な小屋で送る、礼儀正しくも穏やかな生活。
今にして思えば、不思議なほど平和な日々。
アグネッサにとって、もっとも幸せな輝くようなとき。
けれどその輝きは突然失われた。
ある日、母を見つけた者たちが、母とアグネッサを小屋から連れ去ったのだ。
連れていかれた先で、母が王家に連なる高貴な生まれであったことを知り、父と共にあることを許されずに出奔したことを知った。母は父に会えず、恋しさを募らせるばかりで、アグネッサを抱きしめてくれなくなった。
周囲はアグネッサを、母を留め置く存在として見ていたが、父の元に戻ろうと逃げだした母が幼いアグネッサを置いて行ったことから、役に立たないと知られるまで時間はかからなかった。
母は何度も逃げ出そうとして、何度も捕まる。やがて塔の最も高い部屋に閉じ込められた。
アグネッサは同じ塔の母より低い階に押し込められ、週に何度か会って話をした。母は父を想うこと以外できないようだったけれど、アグネッサが行けば少し笑んで食事を摂った。
周囲の話から、どうやら王家の誰かが強く母を求めていたらしいと知った。
母が父を諦めて、王家へ嫁ぐことだけを望む者たちにとって、アグネッサは下賤な血を引く者だが捨てるわけにもいかない、始末に困る存在でしかなかった。
信用できるものなど一人もおらず、小屋からずっとついてきていた風だけが友達だった。強制的にあれこれ学ばせられる日々の中、心のままに歌うことだけが歓びだった。
ある日、アグネッサは風と相談して、人々の目を盗み塔から飛んだ。
風に乗って地に降り、そこで初めて『音』と出会った。音はアグネッサが塔の中で歌っていたのを知っていた。ともに歌おうと伝えてくれた。
心のままに歌いながら、その地から逃れて父の下へ、あの小屋へ戻ろうと考えた。あそこなら風の他にも友達がいる。道は風が教えてくれた。
その途上で出会った男がいた。それは父と同じ『なにか』だった。他とは違う、不思議な存在。
アグネッサはそのころ、すでに自分が母よりも父に近い、どちらかというと不思議な存在なのだと分かっていた。
そして共にあるなら、そういう存在でなければならないと思っていた。母に甘える父の姿に憧れていたのだ。父のようにアグネッサを求める誰かが欲しい。けれど父は母のものであり、アグネッサのものにはならない。
だから初めて父以外の『なにか』と会って、これが自分のものになるかと浮かれた。
けれど、その男はアグネッサのものではなかった。父の下へアグネッサを連れて行ってくれたが、一晩を過ごしただけで去っていった。
小屋へ戻ったとき、母を失った父は、ずいぶん憔悴していたけれど、アグネッサが母のいる塔の場所を知っていると言うと、母を必ず取り戻すと決め、共に小屋を出た。
塔に着くと、父は入るものと出るものを止める兵を簡単に蹴散らし、すぐに最も高い部屋へ至った。
けれど、そこに母はいなかった。匂いが残っている、もう少し早く来ればと激しく悔やむ父は、どんな慰めも受け入れなかった。
また探そう、力になると励まし、母も待っていると伝えると、ようやく父は頷いて立ち上がる。
父とアグネッサは協力して探し、調べた。手がかりをつかんだ場所へ向かい、母がいないことを知る。そんなことが何度も続いて、そのたびに父は不思議な力を削がれていくようだった。
旅を続ける中で襲われることも多かった。父かアグネッサか、いずれかを亡き者にしようと考える者がいたのだろう。けれど衰えてきているとはいえ、誰が来ようと父の敵ではなかった。
アグネッサもたいていはうまく逃れたけれど、死にそうなほどの怪我をして何か月も治癒を待ったこともあった。
野宿が続くことも多く、雪に覆われる季節など、父の作ったねぐらに入り、ぐっすり眠ると春になっていたこともあった。
父には母に会えぬ日々でしかなかったが、アグネッサにとって旅は楽しかった。様々な経験をしたけれど、音と共に歌う歓びを知ったことが最も大きい。
音と共鳴して歌えば人を魅了できる。それを知り、利用することを考えて、音や風と相談するのは楽しかったし、母の行方を捜すのに役立てることもできた。
けれど父はいらだちを強め、毎晩のようにたくさん酒を飲むようになった。やがて徐々に老い衰えて、普通の人のようになっていく。
それも仕方が無いことだった。父はあくまで母のものであり、母のいない生活に耐えられないのだ。
アグネッサが年ごろの娘になったころ。
ようやくたどり着いた場所で、すでに母が失われていたことを知った。アグネッサが去ってから、母はほとんど食事を摂らなくなったのだという。
父は怒り狂った。そのとき、失っていた不思議な力を取り戻したように見えた。
母を閉じ込めた者たちのいる建物をすべて破壊しようとして、叶わぬと知った父は火を放った。そして自らも炎の中へ進み、母のもとへ旅立った。
燃え盛る建物からアグネッサを助けてくれたのは、やはり風だった。
かつて母を求めた者たちの中の、生きながらえた者が成長したアグネッサを見つけ、母の代わりに利用して家の利を得ることを考えたけれど、アグネッサは歌うことを選んだ。歌により人を従わせることができる、音の力を使ったのだ。
それを目の当たりにして、彼らは恐れを抱き本家から離れた今の館を与えた。歌姫として王家との繋がりを持つことを期待したのだ。
歌の力を知った王家の人々はアグネッサを取り込もうとしたけれど、風と音が守ってくれた。
* * *
今は、制限付きで自由を謳歌している。
この力の使いどころが分からないと言われたけれど、それはアグネッサの知ることではない。館と自由を与えられた分の返礼はするつもりである。
風や音にはずいぶん助けられた。
なにかお返しができないかと考えているけれど、彼らはアグネッサが楽しいとき楽しそうなので、今は楽しむことを大切にしている、といったところだったのだが、あの子が屋敷にやって来てから、風も音も楽しそうで、ずいぶん賑やかになっている。
なんと喜ばしいことか。
それにしても、今夜の風はずいぶんと騒がしい。
懸命にアグネッサを起こそうとするほどの、なにがあったのだろう。
「どうしたのかしら? いったい……あら」
窓の向こう。気配が動いた。
水を置いたアグネッサは、灯りも点けずに真っ直ぐ窓に向かい、開いた。
バルコニーに、蹲る影。荒い息。
ふっと笑みが漏れる。
「おまえたちは本当に、この子が好きなのね」
風が嬉しそうに周りを吹きわたる。小さな声で歌い、音も響かせる。
すると月明かりの中、ゆっくりと顔が上がった。
青みがかった銀色の髪。いつもより深い蒼の瞳。歯を食いしばるような表情。
「こんな時間に、窓から?」
息を荒げたまま小さく頷き、いつも従う時のようにスッと立った彼は、全裸だった。
裸を見るのは初めて。
白く滑らかな肌。しなやかに筋肉の発達した体。手足が長く、腰の位置は高い。
銀髪が月光を受けて、冷たい輝きを帯びている。
──────美しい。
神々しさすら感じる姿だけれど……下腹にあるものが勃ち上がっている。先端は塗れているよう。
「夜這いってことかしら?」
まさかこの子が?
けれど、彼は気怠そうに首を振った。
「発情、……してる。けど……」
荒い息の合間に声を漏らし、はあ、と深い息を吐き出す。
「あんたに、じゃない、から」
「……それはそれで、失礼な話ね」
アグネッサは笑んで、部屋へ戻る。
「お入り。私が風邪を引くわ。……窓を閉めて」
ついてきた全裸の彼は、しっかりと窓を閉じてこちらを見た。立ち姿に乱れはない。けれど必死に荒い息を詰めているよう。よく見るとずいぶん汗をかいている。
アグネッサは片手を上げ、クローゼットを示す。
「ローブかなにかあるでしょう。見苦しいものを隠して」
小さくうなずいて、命じた通り素直に動く彼が取り出したローブは暗紫色だった。
アグネッサは首を振って近づき、辛そうに息を荒げている様子に気づかぬふりをして、深い蒼のローブを選んだ。アグネッサが着れば裾を引きずる丈長のもの。これならば背の高い彼にも合うだろう。
「色もこちらの方が似合うわ」
素直にそれを纏う様子に、アグネッサは頬に満足の笑みを刻んだ。
「思い出したのね?」
「……ああ、うん。……そう」
この子を初めて見た時、すぐに分かった。
父のような、あの男のようなものを感じたのだ。
もしかしたら待っていた相手なのかと思って、少しときめいた。
アグネッサは、ずっと待っている存在がある。
誰も風と音を感じない。伝えても信じない。夢物語か比喩だと思われてしまう。けれど風や音が無くては、自分は自分でいられない。誰とも分かり合えない、そんな孤独から救ってくれる誰か。父のように狂おしいほど自分だけを求める誰かがいるのでは。
この子がそんな存在なのではと思い、少しときめいたのだ。
けれど、すぐに分かった。
この子はなにかを、もしかしたら誰かを、待っている。アグネッサのものではない。
しかし風が囁いたのだ。そばに置くのは良いよ、と。
音も囁いたのだ。いい子だよ、と。
ならば、いずれ出ていくまでの間、僕として可愛がってやろうと、雇い入れることにした。
この子が来てから、風も、音も、賑やかになって、楽しそうで、力も強まっていた。
いつまでもいてほしいと思っていたけれど……
深い蒼のローブを裸身に纏った彼は、いつも通り、背筋の伸びた美しい姿勢で立ち、怠そうではありながら、正しい所作で礼をした。
「行くのね」
「……世話になった、から。挨拶……」
言葉を継ぎながら深呼吸をする様子に、アグネッサは鷹揚な笑みを返す。
「そう。本当に良い子」
どこの誰なのか思い出したなら、あるべき所へ戻るのだろうと分かっていた。そのとき言いやすいように、伝えていた。
「ずっといて欲しかったけれど、思い出したら言うように命じたわね」
思いのほか早かったけれど、引き留めようとは思わない。
ゆえにベッド脇のチェストへと足を向け、その時にと用意しておいた錦織の小袋を引き出しから取り出して指先に下げ、腕を伸ばす。
「……持ってお行きなさい」
問う目を向けられ、アグネッサは艶然と笑む。
「お金よ。これくらいあれば、しばらくは何とでもなるでしょう」
「……でも、……」
荒い息を吐きながら戸惑う彼の、銀色のまつげが震え、いつもより輝きの深い蒼の瞳に影を落とす。
美しい子。素直な子。
「なにもしていないと言いたいのね?」
窺うような眼で、それでも問いには頷く。本当に愛らしい。アグネッサは笑みを深めた。
「そうね、あなたは私が命じたことをしていただけ。しっかりと仕事をしただけ」
アグネッサは、あのとき風や音の囁きに従った自分を誇りに思う。
彼はとても素直で可愛い、本当に良い子だった。
人間は慣れる生き物。
最初は純粋に頑張ろうと働いていた者も、やがて環境に慣れ、いかに楽をして過ごせるか考え始める。
この屋敷で働く者たちも、多かれ少なかれそんな慣れが出ていた。ここで働いているというだけで、自分が偉くなったと勘違いする者も。
けれど彼が来て、変わった。
彼は黙々と働いた。
言葉少なに、けれど愚直なほど誠実に、命じた通り。
これだけの容姿に驕ること無く、病や境遇に気を落とすことも無く、多くの人が抗えないだろう誘惑を受けようとも揺らぐことなく。
風が教えてくれるのだ。
金を提示して屋敷へ手引きするよう言われていたこと。暴力を匂わせて従うよう言われていたこと。
音が教えてくれるのだ。
目障りだ出て行けと脅しを受けていたこと。女性から幾度も甘い誘惑を受けていたこと。
けれど彼はまったく動じなかった。
たいていはするりと躱し、ときに暴力でねじ伏せて、淡々と働くことを選んだ。なにも無かったような顔をして、きちんと仕事をこなした。
それは期待した以上に。
アグネッサは、そんな彼に対して、特別な待遇を許した。
食事も住まいも彼の望むように、彼が好きなようにできるよう命じて手を回し、自由を許した。
今までそんな風に目をかけた者などいなかったゆえに、周囲がそれをどう見るか分かっていて、あえてそうした。
はじめは彼を、下賤だと侮る者が多かった。
あまりに優れた容姿から、見かけだけで待遇が良いのだと嘯く者も、怠惰に違いないと決めつける者も、不埒な真似をするのではと危ぶむ物もいた。
そんな者たちが、やがて彼に倣うようになった。真面目に仕事をする者が増えたのだ。変な勘違いをしていた子もおとなしくなった。気付くと屋敷の雰囲気はすっかり変わって、心地良い風が漂うようになっていた。
音も、風も、その変化を喜んでいた。
そしてなぜか、ゲイル卿もうるさくなくなった。
王家とアグネッサの繋がりに便乗しようと、とてもしつこかったのだけれど。
「私はとても助かったの。受け取りなさい」
彼は目を伏せて顎を引くと、スッと近づき、小袋を受け取った。
「思い出した名前を聞いても?」
彼はゆっくりと首を振る。
「そう。……ではルーカス。私がおまえに与えたものは、すべておまえのものよ。そのローブもね。どれでも好きなだけ持って行くことを許します」
小さく頷いたルーカスの美しい銀髪に手を伸ばし、撫でる。
「大好きだったわ。元気で」
ルーカスはローブを纏ったまま、きれいに礼をして寝室から出て行った。
ドアが閉じるまでそれを見送ったアグネッサは、目を細めて窓ごしの夜空へ視線を向ける。
「もの知らぬ幼子のよう。無垢で美しい子」
風に語りかけるように呟く。
「愛しい者と出会えると良いけれど」
名残惜しむように風が騒いだ。音にせっつかれるように、アグネッサは歌を口ずさむ。
寂しくはないと、宥めるように。
羊の毛を詰め込んだ柔らかな寝台で、レディ・アグネッサは、ぱちりと目を開いた。
「……賑やかだこと」
温みに埋めていた身を起こす。
アグネッサは寝台から降りてガウンを羽織り、枕元に置いてある水を飲む。風たちが、音たちが、この水をおいしくしてくれる。
幼い頃から風を感じていた。
風に助けられたことは多くある。命を救われたこともあった。
風は音を連れてきた。そうして生きがいと生きる糧を得た。
歌姫と呼ばれるようになって、どれくらい経っただろう。
* * *
ここで暮らし始めた頃は下賤な生まれだろうと陰口をたたく者もいたが、王家の後援を得ていると知って口をつぐんだ。
アグネッサの出自を知るのは、王家の中でもごく一部のみ。
彼らが恥と感じるため秘されているのだ。
幼いころ、アグネッサは父と母と、森近くに棲まっていた。
簡素な、けれど清潔な小屋の周囲は美しい木々で囲まれていて、きれいな小川から水を汲み、森の恵みを集めて生活していた。
風や雨が強いときも、森と父が守ってくれると分かっていた。大きくて危険な獣は近寄ってこないと父が言ったから、一人で森に入るのも怖くなかった。
いつも良い香りの草が敷き詰められていた寝台で、父と母と三人、シーツにくるまって眠るのが大好きだった。
父と森の奥まで入り、小さな獣をしとめて食卓に供した。
母と森の恵みを集め、刻んだりジャムを作ったりするのを手伝った。
母は、簡素な小屋に住まうにはずいぶん礼儀正しい上品なレディで、幼い頃からマナーを教えられた。
父は不思議な人だった。
ときおり何かに耳を澄ませるようにして、もうすぐ雨が降るとか、今日は獣の気が荒いから帰ろうと言ったりした。もうすぐ大風が吹くからと大急ぎで帰ってきて、小屋の周りを厳重に守る壁を作ったこともあった。父の言うことは絶対に正しいと信じられた。
ナイフ一つでいともたやすく獣や魚を捕るし、高い木にするする昇り、とびきりおいしい果実を持ってくる。どこからかはちみつを調達してきたこともあった。
木の実や野の草や茸に詳しくて、一緒に森を歩いていると食べられるものを教えてくれたので、父がいない時期も豊かな生活を送ることができた。
誰よりも足が速く、とても力が強い父がいれば、恐ろしいことなどなにも無かった。仕事で出かけていることが多かったけれど、いなくても守られているように感じられた。他では感じたことのない感覚。
あの頃はそれが普通だったけれど、離れて初めて分かった。父はやはり不思議で、他にはない存在だと。
母は小屋周りから離れず、森に入ることもしなかった。父は出かけていることが多く、長い時間を母と二人で過ごす中で行儀作法や話し方をアグネッサに教え、上手にできると、とても褒めてくれた。
「私の小さなレディ」
アグネッサは母からそんなふうに呼ばれた。
友達は風であり、草であり、虫たちであり、鳥や獣たちだ。彼らはいつの間にかアグネッサと共にあり、たくさん遊んでくれたし、楽しいことや大切なことをたくさん教えてくれた。
父と母はとても仲が良かった。
忙しい父は、戻ってくると必ず母に贈り物をした。待たせたことを詫びて、ずっと一緒にいたいと甘えるとき、父の目にアグネッサは映らないようだった。
「仕方ない人ね」
笑いながら、母は父を存分に甘えさせる。
気のすむまで甘えて満足すると、父も可愛がってくれた。
「小さなレディは元気だったかな?」
アグネッサはカーテシーをして礼儀正しく礼を述べ、それからようやく父の胸に飛び込んで抱きしめてもらえるのだ。
簡素な小屋で送る、礼儀正しくも穏やかな生活。
今にして思えば、不思議なほど平和な日々。
アグネッサにとって、もっとも幸せな輝くようなとき。
けれどその輝きは突然失われた。
ある日、母を見つけた者たちが、母とアグネッサを小屋から連れ去ったのだ。
連れていかれた先で、母が王家に連なる高貴な生まれであったことを知り、父と共にあることを許されずに出奔したことを知った。母は父に会えず、恋しさを募らせるばかりで、アグネッサを抱きしめてくれなくなった。
周囲はアグネッサを、母を留め置く存在として見ていたが、父の元に戻ろうと逃げだした母が幼いアグネッサを置いて行ったことから、役に立たないと知られるまで時間はかからなかった。
母は何度も逃げ出そうとして、何度も捕まる。やがて塔の最も高い部屋に閉じ込められた。
アグネッサは同じ塔の母より低い階に押し込められ、週に何度か会って話をした。母は父を想うこと以外できないようだったけれど、アグネッサが行けば少し笑んで食事を摂った。
周囲の話から、どうやら王家の誰かが強く母を求めていたらしいと知った。
母が父を諦めて、王家へ嫁ぐことだけを望む者たちにとって、アグネッサは下賤な血を引く者だが捨てるわけにもいかない、始末に困る存在でしかなかった。
信用できるものなど一人もおらず、小屋からずっとついてきていた風だけが友達だった。強制的にあれこれ学ばせられる日々の中、心のままに歌うことだけが歓びだった。
ある日、アグネッサは風と相談して、人々の目を盗み塔から飛んだ。
風に乗って地に降り、そこで初めて『音』と出会った。音はアグネッサが塔の中で歌っていたのを知っていた。ともに歌おうと伝えてくれた。
心のままに歌いながら、その地から逃れて父の下へ、あの小屋へ戻ろうと考えた。あそこなら風の他にも友達がいる。道は風が教えてくれた。
その途上で出会った男がいた。それは父と同じ『なにか』だった。他とは違う、不思議な存在。
アグネッサはそのころ、すでに自分が母よりも父に近い、どちらかというと不思議な存在なのだと分かっていた。
そして共にあるなら、そういう存在でなければならないと思っていた。母に甘える父の姿に憧れていたのだ。父のようにアグネッサを求める誰かが欲しい。けれど父は母のものであり、アグネッサのものにはならない。
だから初めて父以外の『なにか』と会って、これが自分のものになるかと浮かれた。
けれど、その男はアグネッサのものではなかった。父の下へアグネッサを連れて行ってくれたが、一晩を過ごしただけで去っていった。
小屋へ戻ったとき、母を失った父は、ずいぶん憔悴していたけれど、アグネッサが母のいる塔の場所を知っていると言うと、母を必ず取り戻すと決め、共に小屋を出た。
塔に着くと、父は入るものと出るものを止める兵を簡単に蹴散らし、すぐに最も高い部屋へ至った。
けれど、そこに母はいなかった。匂いが残っている、もう少し早く来ればと激しく悔やむ父は、どんな慰めも受け入れなかった。
また探そう、力になると励まし、母も待っていると伝えると、ようやく父は頷いて立ち上がる。
父とアグネッサは協力して探し、調べた。手がかりをつかんだ場所へ向かい、母がいないことを知る。そんなことが何度も続いて、そのたびに父は不思議な力を削がれていくようだった。
旅を続ける中で襲われることも多かった。父かアグネッサか、いずれかを亡き者にしようと考える者がいたのだろう。けれど衰えてきているとはいえ、誰が来ようと父の敵ではなかった。
アグネッサもたいていはうまく逃れたけれど、死にそうなほどの怪我をして何か月も治癒を待ったこともあった。
野宿が続くことも多く、雪に覆われる季節など、父の作ったねぐらに入り、ぐっすり眠ると春になっていたこともあった。
父には母に会えぬ日々でしかなかったが、アグネッサにとって旅は楽しかった。様々な経験をしたけれど、音と共に歌う歓びを知ったことが最も大きい。
音と共鳴して歌えば人を魅了できる。それを知り、利用することを考えて、音や風と相談するのは楽しかったし、母の行方を捜すのに役立てることもできた。
けれど父はいらだちを強め、毎晩のようにたくさん酒を飲むようになった。やがて徐々に老い衰えて、普通の人のようになっていく。
それも仕方が無いことだった。父はあくまで母のものであり、母のいない生活に耐えられないのだ。
アグネッサが年ごろの娘になったころ。
ようやくたどり着いた場所で、すでに母が失われていたことを知った。アグネッサが去ってから、母はほとんど食事を摂らなくなったのだという。
父は怒り狂った。そのとき、失っていた不思議な力を取り戻したように見えた。
母を閉じ込めた者たちのいる建物をすべて破壊しようとして、叶わぬと知った父は火を放った。そして自らも炎の中へ進み、母のもとへ旅立った。
燃え盛る建物からアグネッサを助けてくれたのは、やはり風だった。
かつて母を求めた者たちの中の、生きながらえた者が成長したアグネッサを見つけ、母の代わりに利用して家の利を得ることを考えたけれど、アグネッサは歌うことを選んだ。歌により人を従わせることができる、音の力を使ったのだ。
それを目の当たりにして、彼らは恐れを抱き本家から離れた今の館を与えた。歌姫として王家との繋がりを持つことを期待したのだ。
歌の力を知った王家の人々はアグネッサを取り込もうとしたけれど、風と音が守ってくれた。
* * *
今は、制限付きで自由を謳歌している。
この力の使いどころが分からないと言われたけれど、それはアグネッサの知ることではない。館と自由を与えられた分の返礼はするつもりである。
風や音にはずいぶん助けられた。
なにかお返しができないかと考えているけれど、彼らはアグネッサが楽しいとき楽しそうなので、今は楽しむことを大切にしている、といったところだったのだが、あの子が屋敷にやって来てから、風も音も楽しそうで、ずいぶん賑やかになっている。
なんと喜ばしいことか。
それにしても、今夜の風はずいぶんと騒がしい。
懸命にアグネッサを起こそうとするほどの、なにがあったのだろう。
「どうしたのかしら? いったい……あら」
窓の向こう。気配が動いた。
水を置いたアグネッサは、灯りも点けずに真っ直ぐ窓に向かい、開いた。
バルコニーに、蹲る影。荒い息。
ふっと笑みが漏れる。
「おまえたちは本当に、この子が好きなのね」
風が嬉しそうに周りを吹きわたる。小さな声で歌い、音も響かせる。
すると月明かりの中、ゆっくりと顔が上がった。
青みがかった銀色の髪。いつもより深い蒼の瞳。歯を食いしばるような表情。
「こんな時間に、窓から?」
息を荒げたまま小さく頷き、いつも従う時のようにスッと立った彼は、全裸だった。
裸を見るのは初めて。
白く滑らかな肌。しなやかに筋肉の発達した体。手足が長く、腰の位置は高い。
銀髪が月光を受けて、冷たい輝きを帯びている。
──────美しい。
神々しさすら感じる姿だけれど……下腹にあるものが勃ち上がっている。先端は塗れているよう。
「夜這いってことかしら?」
まさかこの子が?
けれど、彼は気怠そうに首を振った。
「発情、……してる。けど……」
荒い息の合間に声を漏らし、はあ、と深い息を吐き出す。
「あんたに、じゃない、から」
「……それはそれで、失礼な話ね」
アグネッサは笑んで、部屋へ戻る。
「お入り。私が風邪を引くわ。……窓を閉めて」
ついてきた全裸の彼は、しっかりと窓を閉じてこちらを見た。立ち姿に乱れはない。けれど必死に荒い息を詰めているよう。よく見るとずいぶん汗をかいている。
アグネッサは片手を上げ、クローゼットを示す。
「ローブかなにかあるでしょう。見苦しいものを隠して」
小さくうなずいて、命じた通り素直に動く彼が取り出したローブは暗紫色だった。
アグネッサは首を振って近づき、辛そうに息を荒げている様子に気づかぬふりをして、深い蒼のローブを選んだ。アグネッサが着れば裾を引きずる丈長のもの。これならば背の高い彼にも合うだろう。
「色もこちらの方が似合うわ」
素直にそれを纏う様子に、アグネッサは頬に満足の笑みを刻んだ。
「思い出したのね?」
「……ああ、うん。……そう」
この子を初めて見た時、すぐに分かった。
父のような、あの男のようなものを感じたのだ。
もしかしたら待っていた相手なのかと思って、少しときめいた。
アグネッサは、ずっと待っている存在がある。
誰も風と音を感じない。伝えても信じない。夢物語か比喩だと思われてしまう。けれど風や音が無くては、自分は自分でいられない。誰とも分かり合えない、そんな孤独から救ってくれる誰か。父のように狂おしいほど自分だけを求める誰かがいるのでは。
この子がそんな存在なのではと思い、少しときめいたのだ。
けれど、すぐに分かった。
この子はなにかを、もしかしたら誰かを、待っている。アグネッサのものではない。
しかし風が囁いたのだ。そばに置くのは良いよ、と。
音も囁いたのだ。いい子だよ、と。
ならば、いずれ出ていくまでの間、僕として可愛がってやろうと、雇い入れることにした。
この子が来てから、風も、音も、賑やかになって、楽しそうで、力も強まっていた。
いつまでもいてほしいと思っていたけれど……
深い蒼のローブを裸身に纏った彼は、いつも通り、背筋の伸びた美しい姿勢で立ち、怠そうではありながら、正しい所作で礼をした。
「行くのね」
「……世話になった、から。挨拶……」
言葉を継ぎながら深呼吸をする様子に、アグネッサは鷹揚な笑みを返す。
「そう。本当に良い子」
どこの誰なのか思い出したなら、あるべき所へ戻るのだろうと分かっていた。そのとき言いやすいように、伝えていた。
「ずっといて欲しかったけれど、思い出したら言うように命じたわね」
思いのほか早かったけれど、引き留めようとは思わない。
ゆえにベッド脇のチェストへと足を向け、その時にと用意しておいた錦織の小袋を引き出しから取り出して指先に下げ、腕を伸ばす。
「……持ってお行きなさい」
問う目を向けられ、アグネッサは艶然と笑む。
「お金よ。これくらいあれば、しばらくは何とでもなるでしょう」
「……でも、……」
荒い息を吐きながら戸惑う彼の、銀色のまつげが震え、いつもより輝きの深い蒼の瞳に影を落とす。
美しい子。素直な子。
「なにもしていないと言いたいのね?」
窺うような眼で、それでも問いには頷く。本当に愛らしい。アグネッサは笑みを深めた。
「そうね、あなたは私が命じたことをしていただけ。しっかりと仕事をしただけ」
アグネッサは、あのとき風や音の囁きに従った自分を誇りに思う。
彼はとても素直で可愛い、本当に良い子だった。
人間は慣れる生き物。
最初は純粋に頑張ろうと働いていた者も、やがて環境に慣れ、いかに楽をして過ごせるか考え始める。
この屋敷で働く者たちも、多かれ少なかれそんな慣れが出ていた。ここで働いているというだけで、自分が偉くなったと勘違いする者も。
けれど彼が来て、変わった。
彼は黙々と働いた。
言葉少なに、けれど愚直なほど誠実に、命じた通り。
これだけの容姿に驕ること無く、病や境遇に気を落とすことも無く、多くの人が抗えないだろう誘惑を受けようとも揺らぐことなく。
風が教えてくれるのだ。
金を提示して屋敷へ手引きするよう言われていたこと。暴力を匂わせて従うよう言われていたこと。
音が教えてくれるのだ。
目障りだ出て行けと脅しを受けていたこと。女性から幾度も甘い誘惑を受けていたこと。
けれど彼はまったく動じなかった。
たいていはするりと躱し、ときに暴力でねじ伏せて、淡々と働くことを選んだ。なにも無かったような顔をして、きちんと仕事をこなした。
それは期待した以上に。
アグネッサは、そんな彼に対して、特別な待遇を許した。
食事も住まいも彼の望むように、彼が好きなようにできるよう命じて手を回し、自由を許した。
今までそんな風に目をかけた者などいなかったゆえに、周囲がそれをどう見るか分かっていて、あえてそうした。
はじめは彼を、下賤だと侮る者が多かった。
あまりに優れた容姿から、見かけだけで待遇が良いのだと嘯く者も、怠惰に違いないと決めつける者も、不埒な真似をするのではと危ぶむ物もいた。
そんな者たちが、やがて彼に倣うようになった。真面目に仕事をする者が増えたのだ。変な勘違いをしていた子もおとなしくなった。気付くと屋敷の雰囲気はすっかり変わって、心地良い風が漂うようになっていた。
音も、風も、その変化を喜んでいた。
そしてなぜか、ゲイル卿もうるさくなくなった。
王家とアグネッサの繋がりに便乗しようと、とてもしつこかったのだけれど。
「私はとても助かったの。受け取りなさい」
彼は目を伏せて顎を引くと、スッと近づき、小袋を受け取った。
「思い出した名前を聞いても?」
彼はゆっくりと首を振る。
「そう。……ではルーカス。私がおまえに与えたものは、すべておまえのものよ。そのローブもね。どれでも好きなだけ持って行くことを許します」
小さく頷いたルーカスの美しい銀髪に手を伸ばし、撫でる。
「大好きだったわ。元気で」
ルーカスはローブを纏ったまま、きれいに礼をして寝室から出て行った。
ドアが閉じるまでそれを見送ったアグネッサは、目を細めて窓ごしの夜空へ視線を向ける。
「もの知らぬ幼子のよう。無垢で美しい子」
風に語りかけるように呟く。
「愛しい者と出会えると良いけれど」
名残惜しむように風が騒いだ。音にせっつかれるように、アグネッサは歌を口ずさむ。
寂しくはないと、宥めるように。
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