221 / 230
17.意地っ張りの片想い
213.健朗の事情
しおりを挟む
丹生田健朗は、不思議なほど静かな気持ちになっていた。
仕事もまともに出来ないで藤枝と肩を並べられるものかと絶望し、失業をどう伝えようかと思い悩み、隠し事をしている藤枝に苛立ち……どす黒いまでの醜い自分が噴出しそうになっていた。そんなつい先ほどまでの自分が嘘のようだ。
必死に混乱を収めようと、手のひらをこちらに向けている藤枝拓海を見つめていたら、逆に自分が落ち着いた。
(……単純なものだな、我ながら)
一緒に行ける。藤枝の行くところへ。失業したからこそ行ける。
失業はマイナスでは無かった。かえってこれからの道筋を分かりやすくしたのだ。
保美がよく言う『オーマイゴッド』という言葉は、このときにこそ使うべきなのではないかと、そんなことを考えていた。
妹の保美が日本の大学に招聘され、それを受けて本格的に帰国を決めた際、アメリカへ来て引っ越しを手伝えと言われた。1年以上前のことだ。
『休暇申請しなさい! 家族の一大事なんだから、それを拒む会社なんて辞めるべきよ!』
しかし健朗が『藤枝が忙しそうなので、今は家を離れたくない』と断ると、保美は電話の向こうで嬉しそうに笑い、『分かったよ』と言った。
『拓海は健朗のベターハーフなわけだし、アタシとしても尊重するしかない。今回はワガママ言わないよ』
物わかりの良い保美に不気味さを感じつつ、ベターハーフとはなんだと健朗が聞くと
『魂の片割れ、と言うような意味ね。そもそもの原典はプラトンの饗宴と言われてる。元々はひとつの身体だった人間を……』
言葉の成り立ちについて講義が始まりそうになったので、そこはイイ、と押しとどめる。
『日本語で言うと、どういう意味だ』
『そうねえ、日本語だと……“配偶者”、“パートナー”、あとは、そう、“良き伴侶”?』
なるほど、と納得し
『そうだ、藤枝は俺の良き伴侶だ』
と答えると、保美は爆笑したが、父にもそれを伝え、
『健朗のセクシャルオリエンテーションを否定することは許さない!』
と宣言し、父は納得を返した。
それ以降、健朗は心身共にかなり落ち着いた。
つまり、伴侶、その位置づけで、家族も納得しているのだ。伴侶とは、男女で言えば夫婦のことであり、つまり藤枝は、生涯を共にする相手であるという認識で良いのだ。
しかし会社では、非常に忙しい思いをしていた。退職するひとが相次ぎ、単純に一人あたりの作業量が増えたためだ。このところ道場にも顔を出せていない。
先日、青原さんも退職した。置き土産のような言葉を残して。
『おまえも早めに身の振り方考えとけよ。……巻き込まれる前に』
つまり────
(会社が危ない、ということなのだろう)
むろん、一般社員に周知などされていない。だが少し考えれば分かる。先月、大口の取引先が倒産したのだ。『うちも連鎖倒産とか』などという声が、黙っていても耳に入ってきていた。
ただでさえ少なくなかった作業が倍増しており、ぼんやりしているヒマなど微塵も無い日々となって、転職先を探す余裕など無かった。
目の前に山ほど仕事があるのだ。二つのことを同時進行出来るような器用さは無い。ゆえに湧き上がる不安を押し潰して、健朗は作業に没頭していた。
……正直、身体より心が疲れ切っていた。
こういうとき、健朗はいつも藤枝の笑顔に、声に、救われていた。しかし藤枝も非常に忙しいようで、そのような甘えを向けることは出来なかった。藤枝の価値ある仕事の妨げになるようなことは出来ない。
それでも毎日、藤枝が帰宅して、自分の作ったメシを「うまい」と食う笑顔を見て、同じベッドで眠るだけで、そのとき不安は解消された。つかのま、その場しのぎ、些細な気の持ちようの改善に過ぎないとしても、やはり藤枝はたいしたものだと感じるばかりだった。
昨日は会社で飲み会があると聞いていた。
残業を終えて帰宅した健朗は、しかしそれを忘れて自動的にメシの支度をした。
煮干しと昆布を水につけておいた鍋に火を入れ、ダシをとる。残業時間も予測してタイマーをかけておいた炊飯器の蓋を開き、米をほぐしてから、野菜を切り、鍋が一煮立ちしたので煮干しと昆布を取り除き、ネギとわかめを放り込んで味噌を溶く。豚肉の細切れと野菜を鍋に放り込んでざっと炒め、豆腐も入れて味付けをし、蓋をする。肉豆腐にしたのは、十分も火を通せばできるお手軽メニューだからだ。胃にも優しいし、豆腐二丁を使っているのでボリュームもある。
などと考えながら、健朗は肉豆腐丼にすることにして、大ぶりのどんぶりに米を盛り、出来た肉豆腐を乗せて、浅漬けと一緒に冷蔵庫から取り出した卵も乗っけて食卓に着き、そこで初めて、藤枝が夕食を取らない可能性に思い至ったのだった。
しかし作ってしまった。しかも豆腐を二丁使ったのでかなりの量がある。悩みながら、ふう、と無意識に息を吐いて手を合わせ、箸を取りつつ、自然に目が、室内を巡った。
──────良い部屋だ。
最初に来たときは、変な部屋だとしか思わなかった。
しかし藤枝があれこれ整え、非常に居心地の良い空間にしてくれた。最初は白木の多い、優しい色調の明るい部屋だった。しかしその頃の家具は、一部寝室に持って行き、残りは運び出されて、今は落ち着いた色調の、どっしりした家具に変わっている。
ソファ前のテーブルには、南部鉄の灰皿が置いてある。この七月、健朗が買ってきたものだ。
『拓海の誕生日っていつ? 二人っきりでお祝いするの?』
からかうような保美の声に、いままで誕生祝いなどしたことが無いと答えると、保美は非常に心配そうに眉を寄せた。
『誕生日に「産まれてきてくれてありがとう」とか言わなきゃ。そういうの大切だよ』
なるほど、そういうものか。しかしそんな恥ずかしいことが言えるだろうかと悩みつつも、初めて誕生日に贈り物をしてみようと思い、考えに考え、悩みに悩みまくったあげく、これを藤枝に贈ることにした。
黒い鉄。
どっしりとした存在感。
自分が藤枝にとって、このように重い存在となれば良い。……そんな願いを込めたなど、知られたら羞恥で死にそうになるのは予測出来るので、無論くちに出してはいないし、保美が言えと言ったような恥ずかしい台詞も言えなかったのだが。
「おお~、めっちゃカッコイイ!」
藤枝が非常に喜んでくれたので、思いは通じたのだと安心した。
大切にする、灰皿をきれいに使うと、嬉しそうに誓ったにもかかわらず、それは翌日、速攻破られた。
「始末をすると言っていなかったか」
灰皿を磨きながら睨んで言うと
「わりい」
あはっと笑っていた。────非常に幸せな気分になった。
そんなことを思い出し、健朗は心穏やかに飯を食った。
かなり遅くなって帰ってきた藤枝は、珍しくかなり酔っていた。
「おお? イイ匂いする~」
「済みません、なんか今日はいつもより飲んじゃってて」
いつもはさほど飲まないのに、と思いつつ、佐藤譲の肩を借り、すっかり寄りかかっていた藤枝の腕を引いて引き取る。
コイツには害が無いと分かっているので、「そうか。済まなかった」と礼を言い、上がっていくかと聞いたが、佐藤譲は固辞してすぐに去ったので、縦抱きに抱えた藤枝を食卓へ連れて行く。
「うまそうな匂い~、今日なに?」
「肉豆腐だ」
「マジか! 食う食う」
などという会話に、食ってくれるのだと嬉しくなりつつ、料理を温める。
ココまで酔っていては、着替えなどさせてると眠ってしまうので、少しでも早くメシだけ食わせるべきだ。飲んできたのならさほど食わないだろうと考え、米は盛らずに浅漬けとみそ汁だけを添えた。
「うまそ~! いただきます!」
さっそく箸を伸ばした藤枝に、無自覚に目を細めつつ、健朗も茶を入れて向かい側に座る。
「珍しいな。だいぶ飲んだようだが」
「ん、や、部長がさ、あと営業みんなで、打ち上げつか。ホラ支所立ち上げの」
「そうか」
それにしても、藤枝が深酒するときは、決まって何かがあるときだと知っている健朗は心配になる。
「うん、明日から連休。久しぶりに」
ニカッと笑う顔を見て、また無自覚に笑みつつ、
「そうか。良かったな」
と、それは本気で言った。ここしばらく休みが無かったようなので、休みを取れると聞いてホッとしたのだ。
食い終えた藤枝が、食器を下げようと立ったが、この調子では食器を割ってしまいそうだった。
「いい。座ってろ」
そう制して食器を洗い、キッチンから出ると、藤枝は、南部鉄の灰皿に吸いさしを置いたまま眠っていた。
眉間に薄い皺の残る、安らかとは言い難い寝顔を見て、ため息をつきつつ、藤枝を抱き上げてベッドに運び、服を脱がす。緩めてあったネクタイを抜き、スーツを脱がせてハンガーに掛け、ワイシャツを脱がせた。アンダーシャツとパンツだけになった藤枝が「ん~……」などと声を漏らすので、うっかり欲情してしまわないよう、目を逸らして慎重に布団を掛ける。
健朗は、ここを終の棲家にするのも良いか、などと思っている。ゆえにそういう想いも含めて行動しているし、健朗的にはかなり頑張った言葉を向けているつもりだ。
が、やはり足りないという自覚もある。
信じがたい変わりようを見せた、あの男の影響なのだろうと思う。
信頼出来ると思ったことなど無かったのに、奴の言葉に従ったことは少なくない。後に踊らされていたと気づき忸怩たる思いを抱いたこともあった。好きか嫌いかで言えば、好きでは無いと答えるだろう。
それでも思ってしまったのだ。
羨ましいと。あのようにできるならと、思ってしまった。
そしてその後、あのようにはなりたくないとも思ったのだった。
仕事もまともに出来ないで藤枝と肩を並べられるものかと絶望し、失業をどう伝えようかと思い悩み、隠し事をしている藤枝に苛立ち……どす黒いまでの醜い自分が噴出しそうになっていた。そんなつい先ほどまでの自分が嘘のようだ。
必死に混乱を収めようと、手のひらをこちらに向けている藤枝拓海を見つめていたら、逆に自分が落ち着いた。
(……単純なものだな、我ながら)
一緒に行ける。藤枝の行くところへ。失業したからこそ行ける。
失業はマイナスでは無かった。かえってこれからの道筋を分かりやすくしたのだ。
保美がよく言う『オーマイゴッド』という言葉は、このときにこそ使うべきなのではないかと、そんなことを考えていた。
妹の保美が日本の大学に招聘され、それを受けて本格的に帰国を決めた際、アメリカへ来て引っ越しを手伝えと言われた。1年以上前のことだ。
『休暇申請しなさい! 家族の一大事なんだから、それを拒む会社なんて辞めるべきよ!』
しかし健朗が『藤枝が忙しそうなので、今は家を離れたくない』と断ると、保美は電話の向こうで嬉しそうに笑い、『分かったよ』と言った。
『拓海は健朗のベターハーフなわけだし、アタシとしても尊重するしかない。今回はワガママ言わないよ』
物わかりの良い保美に不気味さを感じつつ、ベターハーフとはなんだと健朗が聞くと
『魂の片割れ、と言うような意味ね。そもそもの原典はプラトンの饗宴と言われてる。元々はひとつの身体だった人間を……』
言葉の成り立ちについて講義が始まりそうになったので、そこはイイ、と押しとどめる。
『日本語で言うと、どういう意味だ』
『そうねえ、日本語だと……“配偶者”、“パートナー”、あとは、そう、“良き伴侶”?』
なるほど、と納得し
『そうだ、藤枝は俺の良き伴侶だ』
と答えると、保美は爆笑したが、父にもそれを伝え、
『健朗のセクシャルオリエンテーションを否定することは許さない!』
と宣言し、父は納得を返した。
それ以降、健朗は心身共にかなり落ち着いた。
つまり、伴侶、その位置づけで、家族も納得しているのだ。伴侶とは、男女で言えば夫婦のことであり、つまり藤枝は、生涯を共にする相手であるという認識で良いのだ。
しかし会社では、非常に忙しい思いをしていた。退職するひとが相次ぎ、単純に一人あたりの作業量が増えたためだ。このところ道場にも顔を出せていない。
先日、青原さんも退職した。置き土産のような言葉を残して。
『おまえも早めに身の振り方考えとけよ。……巻き込まれる前に』
つまり────
(会社が危ない、ということなのだろう)
むろん、一般社員に周知などされていない。だが少し考えれば分かる。先月、大口の取引先が倒産したのだ。『うちも連鎖倒産とか』などという声が、黙っていても耳に入ってきていた。
ただでさえ少なくなかった作業が倍増しており、ぼんやりしているヒマなど微塵も無い日々となって、転職先を探す余裕など無かった。
目の前に山ほど仕事があるのだ。二つのことを同時進行出来るような器用さは無い。ゆえに湧き上がる不安を押し潰して、健朗は作業に没頭していた。
……正直、身体より心が疲れ切っていた。
こういうとき、健朗はいつも藤枝の笑顔に、声に、救われていた。しかし藤枝も非常に忙しいようで、そのような甘えを向けることは出来なかった。藤枝の価値ある仕事の妨げになるようなことは出来ない。
それでも毎日、藤枝が帰宅して、自分の作ったメシを「うまい」と食う笑顔を見て、同じベッドで眠るだけで、そのとき不安は解消された。つかのま、その場しのぎ、些細な気の持ちようの改善に過ぎないとしても、やはり藤枝はたいしたものだと感じるばかりだった。
昨日は会社で飲み会があると聞いていた。
残業を終えて帰宅した健朗は、しかしそれを忘れて自動的にメシの支度をした。
煮干しと昆布を水につけておいた鍋に火を入れ、ダシをとる。残業時間も予測してタイマーをかけておいた炊飯器の蓋を開き、米をほぐしてから、野菜を切り、鍋が一煮立ちしたので煮干しと昆布を取り除き、ネギとわかめを放り込んで味噌を溶く。豚肉の細切れと野菜を鍋に放り込んでざっと炒め、豆腐も入れて味付けをし、蓋をする。肉豆腐にしたのは、十分も火を通せばできるお手軽メニューだからだ。胃にも優しいし、豆腐二丁を使っているのでボリュームもある。
などと考えながら、健朗は肉豆腐丼にすることにして、大ぶりのどんぶりに米を盛り、出来た肉豆腐を乗せて、浅漬けと一緒に冷蔵庫から取り出した卵も乗っけて食卓に着き、そこで初めて、藤枝が夕食を取らない可能性に思い至ったのだった。
しかし作ってしまった。しかも豆腐を二丁使ったのでかなりの量がある。悩みながら、ふう、と無意識に息を吐いて手を合わせ、箸を取りつつ、自然に目が、室内を巡った。
──────良い部屋だ。
最初に来たときは、変な部屋だとしか思わなかった。
しかし藤枝があれこれ整え、非常に居心地の良い空間にしてくれた。最初は白木の多い、優しい色調の明るい部屋だった。しかしその頃の家具は、一部寝室に持って行き、残りは運び出されて、今は落ち着いた色調の、どっしりした家具に変わっている。
ソファ前のテーブルには、南部鉄の灰皿が置いてある。この七月、健朗が買ってきたものだ。
『拓海の誕生日っていつ? 二人っきりでお祝いするの?』
からかうような保美の声に、いままで誕生祝いなどしたことが無いと答えると、保美は非常に心配そうに眉を寄せた。
『誕生日に「産まれてきてくれてありがとう」とか言わなきゃ。そういうの大切だよ』
なるほど、そういうものか。しかしそんな恥ずかしいことが言えるだろうかと悩みつつも、初めて誕生日に贈り物をしてみようと思い、考えに考え、悩みに悩みまくったあげく、これを藤枝に贈ることにした。
黒い鉄。
どっしりとした存在感。
自分が藤枝にとって、このように重い存在となれば良い。……そんな願いを込めたなど、知られたら羞恥で死にそうになるのは予測出来るので、無論くちに出してはいないし、保美が言えと言ったような恥ずかしい台詞も言えなかったのだが。
「おお~、めっちゃカッコイイ!」
藤枝が非常に喜んでくれたので、思いは通じたのだと安心した。
大切にする、灰皿をきれいに使うと、嬉しそうに誓ったにもかかわらず、それは翌日、速攻破られた。
「始末をすると言っていなかったか」
灰皿を磨きながら睨んで言うと
「わりい」
あはっと笑っていた。────非常に幸せな気分になった。
そんなことを思い出し、健朗は心穏やかに飯を食った。
かなり遅くなって帰ってきた藤枝は、珍しくかなり酔っていた。
「おお? イイ匂いする~」
「済みません、なんか今日はいつもより飲んじゃってて」
いつもはさほど飲まないのに、と思いつつ、佐藤譲の肩を借り、すっかり寄りかかっていた藤枝の腕を引いて引き取る。
コイツには害が無いと分かっているので、「そうか。済まなかった」と礼を言い、上がっていくかと聞いたが、佐藤譲は固辞してすぐに去ったので、縦抱きに抱えた藤枝を食卓へ連れて行く。
「うまそうな匂い~、今日なに?」
「肉豆腐だ」
「マジか! 食う食う」
などという会話に、食ってくれるのだと嬉しくなりつつ、料理を温める。
ココまで酔っていては、着替えなどさせてると眠ってしまうので、少しでも早くメシだけ食わせるべきだ。飲んできたのならさほど食わないだろうと考え、米は盛らずに浅漬けとみそ汁だけを添えた。
「うまそ~! いただきます!」
さっそく箸を伸ばした藤枝に、無自覚に目を細めつつ、健朗も茶を入れて向かい側に座る。
「珍しいな。だいぶ飲んだようだが」
「ん、や、部長がさ、あと営業みんなで、打ち上げつか。ホラ支所立ち上げの」
「そうか」
それにしても、藤枝が深酒するときは、決まって何かがあるときだと知っている健朗は心配になる。
「うん、明日から連休。久しぶりに」
ニカッと笑う顔を見て、また無自覚に笑みつつ、
「そうか。良かったな」
と、それは本気で言った。ここしばらく休みが無かったようなので、休みを取れると聞いてホッとしたのだ。
食い終えた藤枝が、食器を下げようと立ったが、この調子では食器を割ってしまいそうだった。
「いい。座ってろ」
そう制して食器を洗い、キッチンから出ると、藤枝は、南部鉄の灰皿に吸いさしを置いたまま眠っていた。
眉間に薄い皺の残る、安らかとは言い難い寝顔を見て、ため息をつきつつ、藤枝を抱き上げてベッドに運び、服を脱がす。緩めてあったネクタイを抜き、スーツを脱がせてハンガーに掛け、ワイシャツを脱がせた。アンダーシャツとパンツだけになった藤枝が「ん~……」などと声を漏らすので、うっかり欲情してしまわないよう、目を逸らして慎重に布団を掛ける。
健朗は、ここを終の棲家にするのも良いか、などと思っている。ゆえにそういう想いも含めて行動しているし、健朗的にはかなり頑張った言葉を向けているつもりだ。
が、やはり足りないという自覚もある。
信じがたい変わりようを見せた、あの男の影響なのだろうと思う。
信頼出来ると思ったことなど無かったのに、奴の言葉に従ったことは少なくない。後に踊らされていたと気づき忸怩たる思いを抱いたこともあった。好きか嫌いかで言えば、好きでは無いと答えるだろう。
それでも思ってしまったのだ。
羨ましいと。あのようにできるならと、思ってしまった。
そしてその後、あのようにはなりたくないとも思ったのだった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
悠遠の誓い
angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。
超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。
ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。
前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
ショタの小学校卒業を性的にお祝いさせられるお兄さんの話
松任 来(まっとう らい)
BL
鬼畜風味。せーどれーにされ続けたショタの小学校卒業の日、「お兄ちゃん、お祝いしてくれるよね?」と部屋に押しかけられ、夕暮れに染まる部屋ではちゃめちゃにえっちするお兄さんの話
急遽書いた短篇です。
俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。
勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。
しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!?
たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる