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16.鉄とオーク
209.DRUID
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ショールームは予測以上にうまく機能した。
扱いの大小はあるけど、ほぼ毎日取材が入り、そっからどんなモンかと見に来るひともそれなりにいて、ショールームには誰かいないとな状態が続いた。
なしくずしに営業の休憩所兼情報交換の場所と化しつつ、みんな大車輪で対応を続け、ポツポツ注文も来るようになり、実のところみんな胸を撫で下ろしてた。
楽観してる人ばっかじゃなかったからさ。
他にはないってのが『DRUID』の売りなんだけど、逆に言えば万人には受けないってことじゃねえの? なんて声は社内にもあったんだ。
ソコがどう出るかみんな読めずにいたんだけど、蓋を開けてみれば、個性を強調したい飲食店やショップでの需要があるって分かったんで、みんな勢いづいた。
だってそういう店舗の什器として使ってもらえれば大口受注に繋がるってコトだ。
インテリア雑誌に『男の部屋』のモデルケースとしてショールームが掲載されたりもして、DRUIDラインの可能性にみんな期待を寄せ始めた。
もちろん予断は許されないけど、コレが軌道に乗れば、会社はだいぶ楽になる。
そうなったらそれぞれ売り込みにも熱が入るわけで、関係ないはずの職人さんたちも心当たりにパンフレット置くとか声かけるとか宣伝してくれて、DRUIDは僅かずつだが受注を伸ばしていった。
とあるブランドが、新規開店する店舗の什器にDRUIDを使ってくれることになった。
ただ納期が短かったのと、同じサイズの棚を二十台用意しなくちゃだったので、T&Oの二人は工夫した。
大鳥さんは三種類のサイズの板をひたすら作り、照井さんは鋳型を八つ作って成形した支柱をランダムに組み合わせ、装飾をひたすら作って仕上げに溶接する、つう手法を編み出したのだ。
T&Oでは、受注が増えて生産が追いつかなくなってきてるから、ひとを増やそうか、って話は出てたんだ。
けど鉄部分はひとつひとつ照井さんが作ってたし、あくまで感覚でやってる部分もあるから、他のひとが出来るかっつうとダメだろって話になってた。けどやっぱり効率悪いし、なんとかならないかって考えてはいた。
けど、必要に迫られて編み出したこの工程なら、照井さんはデザインを起こし、鋳型を作って、仕上げで部品を溶接するだけで済む。技術を持つひとなら、鋳型を作ってしまえば同じモノを成形出来るから、雇い入れた人に任せられる。
これにより、DRUIDの個性的なイメージはそのまま、ある程度量産出来るようになった。
そこで俺は、思い切ってある程度数を作るよう二人に進言してみた。既製品感覚で購入出来るとなったらどれくらい動くモノか知りたかったのだ。
それにあの棚なら、棚板と支柱を組み立てずに保管できる。注文受けてから組み立てて仕上げまで、「一時間もあれば出来ます」って照井さんが言ったし、T&Oは保管場所たっぷりあるしね。
三種類のサイズ展開で、それぞれ百台作ってから、今まで六田家具の小物を置いてたショップに卸してみた。ネットショップでも同じものを即納品可能って出してみたところ、人気ウェブサイトで取り上げられ、コレが当たった。
DRUIDの受注は一気に増え、T&Oは、ひとを増やしてフル稼働で製作したんだけど、注文が多くて追いつかなくなり、やがて『お届けまで三ヶ月お待ちいただきます』ってことになっちゃった。
あれよあれよと四ヶ月後にはショールームをオープンすることになり、そこに町の特産品だのも置く、アンテナショップとしても使うことも決まった。
まあともかく、この部屋のショールーム期間は八ヶ月ほどで終わることになったのだ。
DRUIDの好調はみんなが望んでたこと。……なんだけど、すでに許容量いっぱいだった営業は、めちゃ忙しくなっちまった。
ショールームのオープンを翌月に控え、さすがにコレ誰か倒れるんじゃね? なんてシャレにならない冗談が飛び交うようになったころ、「お待たせしたね」なんて、いつもの笑顔で佐藤さんがやって来た。
「ちゃんと考えてたんだよ」
つまり営業候補の人材を連れてきてくれたのだ。
女性二人と男性四人、喉から手が出そうな勢いでひとが欲しい状態だったけど、経費面から全員は採用出来ないってんで急遽面接することになった。なぜか部長が「きみが良いと思うひと、ひとり選んでね」とか謎なことをこそっと言って、社長と部長と佐藤さんと並んで面接した。
佐藤さんが持って来た書類見ながら、一番下っ端の俺が色々質問した。
うち女性ひとりと男性一人は、いずれもインテリアショップで働いてたひとで、ふたりとも笑顔がイイ感じの三十代。家具やインテリアについての知識がしっかりしてるだけじゃなく、女性の中松さんはインテリアコーディネーターと簿記とMOSの資格持ってて、男性の小竹さんはカラーコーディネーターの一級と照明コンサルタントの資格を持ってて、手書きでパース描けるって。
残りはいずれも生え抜きな感じの営業経験者。みんな仕事出来る感あって、すげーな、なんて思いつつ質問を終え、みなさんに休憩つって控え室へ行って貰い、採用会議だ。
「パース描けるってのはイイっすよね」
「ああ、DRUIDのショールームを新設するから、そこだな」
パース描けるってのは、アタマの中にイメージを作れるってコトだ。店舗での需要が見込めるラインなだけに、かなり強みになんじゃねーの? つう感じで、まず小竹さんは採用が決まる。
次に中松さんも決まった。今まで諏訪さんがワークショップ専従やりつつ情報管理、つまり工房から上がってくる進捗とか、営業のスケジュール管理なんかをやってたんだけど、そこで中松さんのMOSスキルがモノ言うんじゃ? なんてめちゃ期待したのだ。しばらく諏訪さんに教えてもらって……ショールームとワークショップも含め、すぐ任せられるようになってくれという祈りにも似た気持ちで採用。
そんで諏訪さんが身動き出来るようになれば、実質戦力アップだなあ、なんてワクワクしてたら部長に「どう?」と聞かれた。
「きみが一緒に働きたいなと思える人はいる?」
「や、分かんねえッス。みんなデキる感じで」
「そうか。うん、分かったよ」
そこから部長と佐藤さんで話し、あと男女二人が採用となった。
休憩時間は終わりです~と戻って来た皆さんへ、その場で採用をお伝えした。とりあえず営業の誰かと一緒に歩いてもらって、仕事を早く覚えてもらおうってことで、早速営業部へ連行だ。
残る二人は残念でした、なんだけど、佐藤さんがなんか話してたから、大丈夫そうだ。
ともかく、しばらくすれば諏訪さんが戦線復帰する未来が見えた。
採用した二人が一人で動けるようになれば負担が軽くなる。DRUIDのショールームもオープンするコトが決まって、俺らの部屋も元通り、それぞれ負担が軽くなる予測が出来て、みんなホッとした。
ちなみにワークショップに配属なった中松さんの事務処理能力は凄まじかった。
すぐに責任者に据えられただけじゃない、部長もずいぶん頼るようになっちゃって、佐藤譲の作った共通フォルダには、いつのまにか『部長ホットライン』ができ、事務処理案件を中松さんに丸投げし始めたのだった。
扱いの大小はあるけど、ほぼ毎日取材が入り、そっからどんなモンかと見に来るひともそれなりにいて、ショールームには誰かいないとな状態が続いた。
なしくずしに営業の休憩所兼情報交換の場所と化しつつ、みんな大車輪で対応を続け、ポツポツ注文も来るようになり、実のところみんな胸を撫で下ろしてた。
楽観してる人ばっかじゃなかったからさ。
他にはないってのが『DRUID』の売りなんだけど、逆に言えば万人には受けないってことじゃねえの? なんて声は社内にもあったんだ。
ソコがどう出るかみんな読めずにいたんだけど、蓋を開けてみれば、個性を強調したい飲食店やショップでの需要があるって分かったんで、みんな勢いづいた。
だってそういう店舗の什器として使ってもらえれば大口受注に繋がるってコトだ。
インテリア雑誌に『男の部屋』のモデルケースとしてショールームが掲載されたりもして、DRUIDラインの可能性にみんな期待を寄せ始めた。
もちろん予断は許されないけど、コレが軌道に乗れば、会社はだいぶ楽になる。
そうなったらそれぞれ売り込みにも熱が入るわけで、関係ないはずの職人さんたちも心当たりにパンフレット置くとか声かけるとか宣伝してくれて、DRUIDは僅かずつだが受注を伸ばしていった。
とあるブランドが、新規開店する店舗の什器にDRUIDを使ってくれることになった。
ただ納期が短かったのと、同じサイズの棚を二十台用意しなくちゃだったので、T&Oの二人は工夫した。
大鳥さんは三種類のサイズの板をひたすら作り、照井さんは鋳型を八つ作って成形した支柱をランダムに組み合わせ、装飾をひたすら作って仕上げに溶接する、つう手法を編み出したのだ。
T&Oでは、受注が増えて生産が追いつかなくなってきてるから、ひとを増やそうか、って話は出てたんだ。
けど鉄部分はひとつひとつ照井さんが作ってたし、あくまで感覚でやってる部分もあるから、他のひとが出来るかっつうとダメだろって話になってた。けどやっぱり効率悪いし、なんとかならないかって考えてはいた。
けど、必要に迫られて編み出したこの工程なら、照井さんはデザインを起こし、鋳型を作って、仕上げで部品を溶接するだけで済む。技術を持つひとなら、鋳型を作ってしまえば同じモノを成形出来るから、雇い入れた人に任せられる。
これにより、DRUIDの個性的なイメージはそのまま、ある程度量産出来るようになった。
そこで俺は、思い切ってある程度数を作るよう二人に進言してみた。既製品感覚で購入出来るとなったらどれくらい動くモノか知りたかったのだ。
それにあの棚なら、棚板と支柱を組み立てずに保管できる。注文受けてから組み立てて仕上げまで、「一時間もあれば出来ます」って照井さんが言ったし、T&Oは保管場所たっぷりあるしね。
三種類のサイズ展開で、それぞれ百台作ってから、今まで六田家具の小物を置いてたショップに卸してみた。ネットショップでも同じものを即納品可能って出してみたところ、人気ウェブサイトで取り上げられ、コレが当たった。
DRUIDの受注は一気に増え、T&Oは、ひとを増やしてフル稼働で製作したんだけど、注文が多くて追いつかなくなり、やがて『お届けまで三ヶ月お待ちいただきます』ってことになっちゃった。
あれよあれよと四ヶ月後にはショールームをオープンすることになり、そこに町の特産品だのも置く、アンテナショップとしても使うことも決まった。
まあともかく、この部屋のショールーム期間は八ヶ月ほどで終わることになったのだ。
DRUIDの好調はみんなが望んでたこと。……なんだけど、すでに許容量いっぱいだった営業は、めちゃ忙しくなっちまった。
ショールームのオープンを翌月に控え、さすがにコレ誰か倒れるんじゃね? なんてシャレにならない冗談が飛び交うようになったころ、「お待たせしたね」なんて、いつもの笑顔で佐藤さんがやって来た。
「ちゃんと考えてたんだよ」
つまり営業候補の人材を連れてきてくれたのだ。
女性二人と男性四人、喉から手が出そうな勢いでひとが欲しい状態だったけど、経費面から全員は採用出来ないってんで急遽面接することになった。なぜか部長が「きみが良いと思うひと、ひとり選んでね」とか謎なことをこそっと言って、社長と部長と佐藤さんと並んで面接した。
佐藤さんが持って来た書類見ながら、一番下っ端の俺が色々質問した。
うち女性ひとりと男性一人は、いずれもインテリアショップで働いてたひとで、ふたりとも笑顔がイイ感じの三十代。家具やインテリアについての知識がしっかりしてるだけじゃなく、女性の中松さんはインテリアコーディネーターと簿記とMOSの資格持ってて、男性の小竹さんはカラーコーディネーターの一級と照明コンサルタントの資格を持ってて、手書きでパース描けるって。
残りはいずれも生え抜きな感じの営業経験者。みんな仕事出来る感あって、すげーな、なんて思いつつ質問を終え、みなさんに休憩つって控え室へ行って貰い、採用会議だ。
「パース描けるってのはイイっすよね」
「ああ、DRUIDのショールームを新設するから、そこだな」
パース描けるってのは、アタマの中にイメージを作れるってコトだ。店舗での需要が見込めるラインなだけに、かなり強みになんじゃねーの? つう感じで、まず小竹さんは採用が決まる。
次に中松さんも決まった。今まで諏訪さんがワークショップ専従やりつつ情報管理、つまり工房から上がってくる進捗とか、営業のスケジュール管理なんかをやってたんだけど、そこで中松さんのMOSスキルがモノ言うんじゃ? なんてめちゃ期待したのだ。しばらく諏訪さんに教えてもらって……ショールームとワークショップも含め、すぐ任せられるようになってくれという祈りにも似た気持ちで採用。
そんで諏訪さんが身動き出来るようになれば、実質戦力アップだなあ、なんてワクワクしてたら部長に「どう?」と聞かれた。
「きみが一緒に働きたいなと思える人はいる?」
「や、分かんねえッス。みんなデキる感じで」
「そうか。うん、分かったよ」
そこから部長と佐藤さんで話し、あと男女二人が採用となった。
休憩時間は終わりです~と戻って来た皆さんへ、その場で採用をお伝えした。とりあえず営業の誰かと一緒に歩いてもらって、仕事を早く覚えてもらおうってことで、早速営業部へ連行だ。
残る二人は残念でした、なんだけど、佐藤さんがなんか話してたから、大丈夫そうだ。
ともかく、しばらくすれば諏訪さんが戦線復帰する未来が見えた。
採用した二人が一人で動けるようになれば負担が軽くなる。DRUIDのショールームもオープンするコトが決まって、俺らの部屋も元通り、それぞれ負担が軽くなる予測が出来て、みんなホッとした。
ちなみにワークショップに配属なった中松さんの事務処理能力は凄まじかった。
すぐに責任者に据えられただけじゃない、部長もずいぶん頼るようになっちゃって、佐藤譲の作った共通フォルダには、いつのまにか『部長ホットライン』ができ、事務処理案件を中松さんに丸投げし始めたのだった。
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