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16.鉄とオーク
208.鉄とオークの存在意義
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「……これ……ですか?」
二人は一瞬視線を交わし、同時に目を落とす。
そこにあるのは、最初にここに来たとき目をとめた、休憩スペースのテーブルだった。
「でもこれは……」
複雑な表情で呟く大鳥さんの横で、くちを開いたのは、意外にも照井さんの方だった。
「本当に適当にやったモンで、技術もクソもない、素人のお遊びですよ」
「確かに。でも最初はそんな風に言わなかったですよね、照井さん」
面白い造形だけど、デザインも作りも荒削り。社長が『ちょっと上手い素人』と評したもの。
大鳥さんは『あいつが勝手に脚をつけた、適当臭い仕事』と言った。
照井さんは、なにを言われようと、どうでも良いって感じでホヘッとした顔で笑ってただけだった。
「いや……あのときは俺、本当に素人だったし……」
目を伏せた照井さんがぼそぼそ言うと、大鳥さんがまっすぐ強い視線で見てくる。
「でも今は違いますよ。こいつもすっげえ勉強してるし、今じゃ俺より色々詳しいんです」
「分かってます。今まで本当に努力されたし、勉強されましたよね」
「……俺」
やっぱり目を伏せたまんま、照井さんがくちを開く。
「実家でなんでもやってて、そのうち継ぐんだって、なんとなく思ってて、ちゃんと仕事はしてたけど、……でも毎日つまんなくて。てっちゃんが来て、ここでなんか作ってると楽しいって、……それだけだった」
照井さんはそれまでも、きちんと仕事してたんだろう。車整備の資格だけじゃなく、水道や電気の資格も取ったのは、実家の仕事を広げたかったからだって言ってたし。
「でも藤枝さんが来て、コレ面白いって言ってくれて、それから俺、本当に楽しくって……親も町のために頑張れって言ったし。家の仕事継ぐんじゃなくて、やれることあるって……だから……」
「ススムはマジでチョー頑張ったんです。俺もススムに負けるわけ行かねえってやってたトコあって……」
二人して言ってくる言葉に頷いた俺は、自然に笑みを深めてた。
「俺がこんなコトいうの偉そうですけど、お二人ともこの一年で本当に成長されたと思います。それを形にしてもらいたい。つまり最終テストです」
「……え」
「テスト、ですか」
「そうです。俺を注文主と思って、要望を形にするって作業をやっていただきます。そして、その課題がこのテーブルです」
二人の視線が再びテーブルに落ち、大鳥さんの喉がゴクリと音を立てた。
「出来たものは六田家具に持って行って、社長や佐藤さんや、うちの職人たちに見せます。それでみんなが納得したら、正式に業務提携の契約を結びたいんです。条件については、以前部長からお話あったと思いますが」
「は、はい。町長にも見てもらって、コレで行こうってなってます」
それは部長経由で聞いていた。なにげに社長と町長はマブなので、二人がずっと本気で頑張ってたってのも、六田家具には筒抜けだったのだ。
なので「ありがとうございます」頭下げ、顔を上げてニカッと笑う。
「それに、興味があるんですよ。今のお二人なら、これをどんな風に作り上げるのかなって」
どこか呆然と見返していた大鳥さんは、ハッとしてくちもとを引き締め、
「分かりました。やらせてもらいます」
しっかりと頷いた。
それまで大鳥さんが個人事業主としてやっていたのを『T&O』という会社にしたのは、
『ちゃんと法人にした方が良いでしょう』
と佐藤さんが言ったからだ。
そして業務提携を締結し、大鳥さんたちの仕事だけじゃなく、町の特産を六田家具で取り扱う話も順調に進んでる。
そこでショールームが欲しいという話になった。
「うちの家具とはまったく違うラインになるからね、見せる場所も別にした方が良くないかな」
それは営業部全員が同じく思っていたことだ。
ショールームを兼ねたワークショップは、六田社長の家具が引き立つような内装にしている。極力余計なものを置かずに、木目の美しさや高い技術ゆえのフォルムの美しさに注目してもらいたいからだ。
そこに『T&O』の家具を置いたらどうなるか。よりインパクトの強い方に目は行き、六田社長の家具の良さは分かりにくくなってしまう。それにあのラインをより際立たせるには、違う演出方法があるはずだ。
そこで、俺は相談してみた。
誰にって丹生田に。
「もう一回、この部屋をショールームとして使ってもイイかな」
ココに引っ越してすぐの頃、一年ほどショールームとしてこの部屋を使っていた。それをもう一度頼みたいと頭を下げた。
「部屋でくつろいだりって時間は無くなると思う。前と違って、こんどは取材もたくさん入れるし、お客を連れてくることも多くなると思う。でも店舗で使ってくれるところが増えれば、そこで取材は完結するようになると思うンだ。店側でも宣伝になることだし、拒否するってパターンはそんな無いと思うし、だからそれまでの間……」
「……ここに越すとき、なかなか部屋が決まらなかったな」
穏やかな低い声に顔を上げると、丹生田は目を伏せて、くちもとを緩めていた。
「おそらく、もう引っ越すこともあるまい。ならばこの部屋に合う家具を作ってもらうのも良くはないか」
「…………丹生田。それってつまり……」
「どういうものを置くかは、藤枝に任せる。俺は掃除を完璧にするだけだ。ショールームとして使わなくなったら、家具は買い取ろう」
そう言って目を上げ、丹生田はフッと笑った。優しい顔で。
「ありがとう、マジでありがとう! 迷惑かけると思うけど、ンでもマジでありがとう丹生田!」
最終テストは満場一致で合格。
大喜びのT&Oの二人に、ココをショールームにするから部屋に合うよう家具作ってくれつったら、めちゃ張り切ってやってくれた。てか丹生田と楽な挨拶するようになるくらい何度も来て、サイズもデザインも、この部屋にぴったり合うように作ってくれたのだ。
壁面収納と一体になったテレビボード、本棚、ダイニングテーブルと椅子、彼らとしては今まで無い試みだったんだけど、今回革張りのソファとスツールも作ったんだ。畜産が盛んな隣町には革の工房もあったんで、そこに頼んで家具の木部分と同じ、柿渋色に染めた牛の革を使った。
そんでソファ前のローテーブルは、最終テストで作ってもらったモノだ。
ひとめ見て、どうしても気になったあのテーブルが、より洗練されたデザインになり、確かな技術で造形されて、いまここにある。なんつうか、感慨深いよな。
そうして部屋は再びショールームになった。
木や革の色見本も並べ、今まで全部黒く塗装してた鉄部分も、他の色でも出来るって感じで作った小物もあり、バルコニーには屋外で使う用に鉄メインで作った椅子やテーブル、パラソルまで置いてある。
そんで部屋の一角には、町の特産品とかパンフレットが置いてある。業務提携したおかげで、T&Oだけじゃなく町の皆さんもわざわざやってきて色々やってくれたのだ。
「こういうの、楽しいねえ」
「後で六本木ヒルズ行こうね」
「恵比寿も行きたい。ガーデンヒルズだっけ」
「あたしは浅草に行きたいねえ」
ほぼほぼ観光気分だったけど。
そんなお姉様方のおかげで、前のショールーム時代から丹生田が育て続けていたハーブは、ハーブガーデンぽくきれいに整い、絶対一般家庭のベランダじゃねえよなって感じになって、ショールームらしくなった。
オープンする直前、丹生田は当然仕事で不在なので、いつもはワークショップ専従の諏訪さんも含めた営業メンバー全員とT&Oの二人が集まり、ショールームとしての体裁を整える作業をしている。
んで、殆ど経費はかかってない。
町議会からも一番若い議員である福井さんが来て、特産品とか置いてるアタリに待機だ。
事前のプロモーションがうまくいって、マスコミの反応は上々。今日は取材が三本入ってるし、明日以降も来客の予定が立ってる。俺は「よし!」とか気合い入れ、パン! と手を叩く。
「みなさん! 気合い入れていきましょう!」
イイ感じで空気がピリッとした。
そして部屋を見渡す俺の視線は、やっぱりソファ前のローテーブルに止まる。
あのとき自分と丹生田のようだと閃いた造形が、より完成された形で、そこに鎮座している。
最終テストで依頼したとき、最初に言ったのはサイズと色だけ。
しかし二人はより深くイメージを探りたいと質問をぶつけてきた。どこに置くか、どんな風に使うか、このテーブルになにを求めてるのか、真剣な目で探ってきた。そうしてこのフォルムを作り上げてくれたのだ。
「どうにでも形を変える鉄は、この形になることを決めて、硬いオークを支えることを選んだ、んです」
「オークは木目だけでも重厚で、そこにあるだけで存在感を出せるし、鉄だって単独で存在できるモンじゃないですか。けどこの鉄は、あくまでオークを支えるコトを選んだんです。だからこそ成り立ってるんだって、そういう世界観で作ってみました」
コレを見せたとき、社長は唸るように言った。
「こりゃあ、俺には作れねえもんだな」
社長も唸るほどの見事なできばえ。文句なしの合格だった。
そして提携はとんとん拍子に進み、二人が作る家具のラインは『DRUID』と名付けられた。ドルイドはケルト語で『オークの賢者』。昔のケルト人の祭司のことだ。
ファンタジーではよく『癒やしの術を使う種族』なんて感じで出てくる。そしてドルイドはオークに寄生したヤドリギを珍重したという。
以前俺が『照井さんの鉄の造形が、大木に絡むヤドリギみたいだ』つった言葉から、大鳥さんが決めたんだって。
「カッコいいな」
「このラインにピッタリですね」
そんな周りの反応に安堵を覚えつつ、拓海は自分でも気づいていなかったことを知らしめられた気がしていた。いや───
『てっちゃんがオークで、鉄が俺です』
照井さんが言った言葉に、気づかされた。
(俺、丹生田に支えてもらってたんだ)
家のこと色々あって、ガラスハートで、でもホントにイイ奴で。そんな丹生田を俺が守らなきゃって思ってた。けどいつの間にか、こっちが支えてもらってた。
どんなに疲れてても、ここに帰って丹生田のメシ食って、優しく笑んでる顔見て癒やされて、そんだけで復活して……だからココまでやってこれた。
そうなんだって気づいて…………どうしたら良いか分からなくなった。
二人は一瞬視線を交わし、同時に目を落とす。
そこにあるのは、最初にここに来たとき目をとめた、休憩スペースのテーブルだった。
「でもこれは……」
複雑な表情で呟く大鳥さんの横で、くちを開いたのは、意外にも照井さんの方だった。
「本当に適当にやったモンで、技術もクソもない、素人のお遊びですよ」
「確かに。でも最初はそんな風に言わなかったですよね、照井さん」
面白い造形だけど、デザインも作りも荒削り。社長が『ちょっと上手い素人』と評したもの。
大鳥さんは『あいつが勝手に脚をつけた、適当臭い仕事』と言った。
照井さんは、なにを言われようと、どうでも良いって感じでホヘッとした顔で笑ってただけだった。
「いや……あのときは俺、本当に素人だったし……」
目を伏せた照井さんがぼそぼそ言うと、大鳥さんがまっすぐ強い視線で見てくる。
「でも今は違いますよ。こいつもすっげえ勉強してるし、今じゃ俺より色々詳しいんです」
「分かってます。今まで本当に努力されたし、勉強されましたよね」
「……俺」
やっぱり目を伏せたまんま、照井さんがくちを開く。
「実家でなんでもやってて、そのうち継ぐんだって、なんとなく思ってて、ちゃんと仕事はしてたけど、……でも毎日つまんなくて。てっちゃんが来て、ここでなんか作ってると楽しいって、……それだけだった」
照井さんはそれまでも、きちんと仕事してたんだろう。車整備の資格だけじゃなく、水道や電気の資格も取ったのは、実家の仕事を広げたかったからだって言ってたし。
「でも藤枝さんが来て、コレ面白いって言ってくれて、それから俺、本当に楽しくって……親も町のために頑張れって言ったし。家の仕事継ぐんじゃなくて、やれることあるって……だから……」
「ススムはマジでチョー頑張ったんです。俺もススムに負けるわけ行かねえってやってたトコあって……」
二人して言ってくる言葉に頷いた俺は、自然に笑みを深めてた。
「俺がこんなコトいうの偉そうですけど、お二人ともこの一年で本当に成長されたと思います。それを形にしてもらいたい。つまり最終テストです」
「……え」
「テスト、ですか」
「そうです。俺を注文主と思って、要望を形にするって作業をやっていただきます。そして、その課題がこのテーブルです」
二人の視線が再びテーブルに落ち、大鳥さんの喉がゴクリと音を立てた。
「出来たものは六田家具に持って行って、社長や佐藤さんや、うちの職人たちに見せます。それでみんなが納得したら、正式に業務提携の契約を結びたいんです。条件については、以前部長からお話あったと思いますが」
「は、はい。町長にも見てもらって、コレで行こうってなってます」
それは部長経由で聞いていた。なにげに社長と町長はマブなので、二人がずっと本気で頑張ってたってのも、六田家具には筒抜けだったのだ。
なので「ありがとうございます」頭下げ、顔を上げてニカッと笑う。
「それに、興味があるんですよ。今のお二人なら、これをどんな風に作り上げるのかなって」
どこか呆然と見返していた大鳥さんは、ハッとしてくちもとを引き締め、
「分かりました。やらせてもらいます」
しっかりと頷いた。
それまで大鳥さんが個人事業主としてやっていたのを『T&O』という会社にしたのは、
『ちゃんと法人にした方が良いでしょう』
と佐藤さんが言ったからだ。
そして業務提携を締結し、大鳥さんたちの仕事だけじゃなく、町の特産を六田家具で取り扱う話も順調に進んでる。
そこでショールームが欲しいという話になった。
「うちの家具とはまったく違うラインになるからね、見せる場所も別にした方が良くないかな」
それは営業部全員が同じく思っていたことだ。
ショールームを兼ねたワークショップは、六田社長の家具が引き立つような内装にしている。極力余計なものを置かずに、木目の美しさや高い技術ゆえのフォルムの美しさに注目してもらいたいからだ。
そこに『T&O』の家具を置いたらどうなるか。よりインパクトの強い方に目は行き、六田社長の家具の良さは分かりにくくなってしまう。それにあのラインをより際立たせるには、違う演出方法があるはずだ。
そこで、俺は相談してみた。
誰にって丹生田に。
「もう一回、この部屋をショールームとして使ってもイイかな」
ココに引っ越してすぐの頃、一年ほどショールームとしてこの部屋を使っていた。それをもう一度頼みたいと頭を下げた。
「部屋でくつろいだりって時間は無くなると思う。前と違って、こんどは取材もたくさん入れるし、お客を連れてくることも多くなると思う。でも店舗で使ってくれるところが増えれば、そこで取材は完結するようになると思うンだ。店側でも宣伝になることだし、拒否するってパターンはそんな無いと思うし、だからそれまでの間……」
「……ここに越すとき、なかなか部屋が決まらなかったな」
穏やかな低い声に顔を上げると、丹生田は目を伏せて、くちもとを緩めていた。
「おそらく、もう引っ越すこともあるまい。ならばこの部屋に合う家具を作ってもらうのも良くはないか」
「…………丹生田。それってつまり……」
「どういうものを置くかは、藤枝に任せる。俺は掃除を完璧にするだけだ。ショールームとして使わなくなったら、家具は買い取ろう」
そう言って目を上げ、丹生田はフッと笑った。優しい顔で。
「ありがとう、マジでありがとう! 迷惑かけると思うけど、ンでもマジでありがとう丹生田!」
最終テストは満場一致で合格。
大喜びのT&Oの二人に、ココをショールームにするから部屋に合うよう家具作ってくれつったら、めちゃ張り切ってやってくれた。てか丹生田と楽な挨拶するようになるくらい何度も来て、サイズもデザインも、この部屋にぴったり合うように作ってくれたのだ。
壁面収納と一体になったテレビボード、本棚、ダイニングテーブルと椅子、彼らとしては今まで無い試みだったんだけど、今回革張りのソファとスツールも作ったんだ。畜産が盛んな隣町には革の工房もあったんで、そこに頼んで家具の木部分と同じ、柿渋色に染めた牛の革を使った。
そんでソファ前のローテーブルは、最終テストで作ってもらったモノだ。
ひとめ見て、どうしても気になったあのテーブルが、より洗練されたデザインになり、確かな技術で造形されて、いまここにある。なんつうか、感慨深いよな。
そうして部屋は再びショールームになった。
木や革の色見本も並べ、今まで全部黒く塗装してた鉄部分も、他の色でも出来るって感じで作った小物もあり、バルコニーには屋外で使う用に鉄メインで作った椅子やテーブル、パラソルまで置いてある。
そんで部屋の一角には、町の特産品とかパンフレットが置いてある。業務提携したおかげで、T&Oだけじゃなく町の皆さんもわざわざやってきて色々やってくれたのだ。
「こういうの、楽しいねえ」
「後で六本木ヒルズ行こうね」
「恵比寿も行きたい。ガーデンヒルズだっけ」
「あたしは浅草に行きたいねえ」
ほぼほぼ観光気分だったけど。
そんなお姉様方のおかげで、前のショールーム時代から丹生田が育て続けていたハーブは、ハーブガーデンぽくきれいに整い、絶対一般家庭のベランダじゃねえよなって感じになって、ショールームらしくなった。
オープンする直前、丹生田は当然仕事で不在なので、いつもはワークショップ専従の諏訪さんも含めた営業メンバー全員とT&Oの二人が集まり、ショールームとしての体裁を整える作業をしている。
んで、殆ど経費はかかってない。
町議会からも一番若い議員である福井さんが来て、特産品とか置いてるアタリに待機だ。
事前のプロモーションがうまくいって、マスコミの反応は上々。今日は取材が三本入ってるし、明日以降も来客の予定が立ってる。俺は「よし!」とか気合い入れ、パン! と手を叩く。
「みなさん! 気合い入れていきましょう!」
イイ感じで空気がピリッとした。
そして部屋を見渡す俺の視線は、やっぱりソファ前のローテーブルに止まる。
あのとき自分と丹生田のようだと閃いた造形が、より完成された形で、そこに鎮座している。
最終テストで依頼したとき、最初に言ったのはサイズと色だけ。
しかし二人はより深くイメージを探りたいと質問をぶつけてきた。どこに置くか、どんな風に使うか、このテーブルになにを求めてるのか、真剣な目で探ってきた。そうしてこのフォルムを作り上げてくれたのだ。
「どうにでも形を変える鉄は、この形になることを決めて、硬いオークを支えることを選んだ、んです」
「オークは木目だけでも重厚で、そこにあるだけで存在感を出せるし、鉄だって単独で存在できるモンじゃないですか。けどこの鉄は、あくまでオークを支えるコトを選んだんです。だからこそ成り立ってるんだって、そういう世界観で作ってみました」
コレを見せたとき、社長は唸るように言った。
「こりゃあ、俺には作れねえもんだな」
社長も唸るほどの見事なできばえ。文句なしの合格だった。
そして提携はとんとん拍子に進み、二人が作る家具のラインは『DRUID』と名付けられた。ドルイドはケルト語で『オークの賢者』。昔のケルト人の祭司のことだ。
ファンタジーではよく『癒やしの術を使う種族』なんて感じで出てくる。そしてドルイドはオークに寄生したヤドリギを珍重したという。
以前俺が『照井さんの鉄の造形が、大木に絡むヤドリギみたいだ』つった言葉から、大鳥さんが決めたんだって。
「カッコいいな」
「このラインにピッタリですね」
そんな周りの反応に安堵を覚えつつ、拓海は自分でも気づいていなかったことを知らしめられた気がしていた。いや───
『てっちゃんがオークで、鉄が俺です』
照井さんが言った言葉に、気づかされた。
(俺、丹生田に支えてもらってたんだ)
家のこと色々あって、ガラスハートで、でもホントにイイ奴で。そんな丹生田を俺が守らなきゃって思ってた。けどいつの間にか、こっちが支えてもらってた。
どんなに疲れてても、ここに帰って丹生田のメシ食って、優しく笑んでる顔見て癒やされて、そんだけで復活して……だからココまでやってこれた。
そうなんだって気づいて…………どうしたら良いか分からなくなった。
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