109 / 230
8.二人きりの旅行
103.俺はしねーぞ!
しおりを挟む
シャワーカーテンを引いたバスタブの中で、壁に両手をついていた。
熱い飛沫を浴びながら、目をギュッと閉じて。今にも力が抜けてくずおれそうになる膝を、なんとか保とうと足に力を込める。
(丹生田、こっち見なかったな)
なんでだ?
なんでって、そんなの決まってる。分かってる。
(後悔してんだ。ヤっちまったこと)
友達とセックスするなんて、確かに正気の沙汰じゃねえよな。そうだ、友達。丹生田にとって、俺は
(ともだち、だ)
手を突いてた壁をこぶしで殴る。
(きっと大切には思ってくれてた。けどそれも、これで終わり、つーことだ)
身体から力が抜け、バスタブにくずおれる。とっさにシャワーカーテンをつかんだのに、手にチカラ入んない。膝とか肘とかガッツリ打った。
「いってえ……」
けど、それどこじゃねえ。
(もう丹生田、帰っちまうかもしんない。明日の朝とか……だってもう、顔見るのも困ってた。気まずいってコトなんだよな。そんじゃ俺、朝までロビーかどっかで時間潰さねえと。そんで困らせないようにしねえと。そんで、そんで、そんで俺─────)
いきなり腕をつかまれ、強い力で引き上げられた。
「どうした」
怖い顔した丹生田が、顔を覗き込んでくる。
ドキン、と心臓が鳴る。
「……なんで……」
「音がして」
そう言った丹生田の肩を縋るようにつかむと、丹生田は少しピクッとした。
つかんだのは無意識だった。けど丹生田は目を逸らせない。まだ裸のままで、触っちまったら心臓がどんどん早くなって。
だってさっきまで色々触られてたけど触ってなかったし、んで顔も見てなかったし、んで、んで、さっき全然こっち見なかったのに今は見てる。
コレ、この顔なんだろ、困ってるンかな? でもただ困ってる顔じゃねえ、けど……ダメだ、こんな顔させちゃダメだ。
「わり、だいじょぶ、だから……」
「済まなかった」
「え」
思わず見返したら、丹生田は目を逸らした。
「済まなかった。つい止まらな……いや」
絞り出してるみたいな低い声。眉寄せてこっち見ようとしない丹生田の顔が、すげえ悲しそうだ。こっちまで悲しくなってくる。
「ばか謝んなよ」
自動的に声が出てた。
けど丹生田はこっち見ない。それがめちゃ悲しくて、だからニカッと笑ってみた。こっち見てないけど、でも笑う。
だって丹生田が謝るなんておかしいから。
「……その、俺が頼んだ、わけだし」
「……済まなかった」
丹生田は目を閉じて項垂れた。
「だから……」
「済まない」
イラッとした。
「謝んな、つってんだろ」
「しかし」
瞬間的に頭が沸騰する。
「こっの、くそバカっ!」
怒鳴りつけると同時、グーで頬を殴ってた。
丹生田は倒れず、少し身体が傾いだだけだったけど、また肩つかんでバスタブに引きこむ。なんでか、さっきまでチカラ入んなかった手が、普通に掴めてる。
二人ともシャワーの飛沫を頭から浴びた。けど丹生田は目を伏せたままだ。
「コラ、イイか? 聞けこのガラスハート! 後悔とかすんなよ、ぜってーすんな! 分かったか!?」
「しかし」
「俺はしねーぞ!」
そう叫んだら、丹生田はようやくこっちを見た。
「だって好きなんだかんな! おまえのことずっと好きだったんだ! エッチ出来てめっちゃ幸せだっつの! 分かったか!」
「………………」
丹生田の顎に力がこもる。
まっすぐこっちを睨んでる。
それでいい。見ないフリされるより、ずっとこっちの方がイイ。
「汗とか気持ち悪いんだろ」
そう言って裸の肩をポンポンと叩くと、丹生田は二度、三度、まばたきした。
ああ、やっぱカッコカワイイ。
マジ俺ってしょうもねーなー、クソマジで安い、安すぎ。
そう思ったら、笑っちまってた。丹生田は目を見開いて、真一文字にくち閉じる。
「おまえ、このまんまシャワー使え」
ニカッと笑って立った。簡単に立てた。なぜか身体にチカラ戻ってた。
そこに丹生田を置いて、タオルだけつかんでそこを出た。ざっと身体を拭き、手早く服を身につける。水音のし続けるドアをチラッと見て、奥歯噛みしめながら部屋を出た。
きっと丹生田は後悔して、悪いことしたとか真剣に悩んだりするに決まってる。だから、そんな必要ねえって、悪いことなんてしてねえんだって、そう教えとかねえと。
そう思ったのはマジで、心の底からマジにそう思ったわけで、ンでも言っちまってから、ああそうだ、と、自然にそう思えた。
後悔なんてしねえ。
ぜってーしねえ。
だから後悔しないために、できる限りのことする。
そんな決心しつつ、階段を降りた。
熱い飛沫を浴びながら、目をギュッと閉じて。今にも力が抜けてくずおれそうになる膝を、なんとか保とうと足に力を込める。
(丹生田、こっち見なかったな)
なんでだ?
なんでって、そんなの決まってる。分かってる。
(後悔してんだ。ヤっちまったこと)
友達とセックスするなんて、確かに正気の沙汰じゃねえよな。そうだ、友達。丹生田にとって、俺は
(ともだち、だ)
手を突いてた壁をこぶしで殴る。
(きっと大切には思ってくれてた。けどそれも、これで終わり、つーことだ)
身体から力が抜け、バスタブにくずおれる。とっさにシャワーカーテンをつかんだのに、手にチカラ入んない。膝とか肘とかガッツリ打った。
「いってえ……」
けど、それどこじゃねえ。
(もう丹生田、帰っちまうかもしんない。明日の朝とか……だってもう、顔見るのも困ってた。気まずいってコトなんだよな。そんじゃ俺、朝までロビーかどっかで時間潰さねえと。そんで困らせないようにしねえと。そんで、そんで、そんで俺─────)
いきなり腕をつかまれ、強い力で引き上げられた。
「どうした」
怖い顔した丹生田が、顔を覗き込んでくる。
ドキン、と心臓が鳴る。
「……なんで……」
「音がして」
そう言った丹生田の肩を縋るようにつかむと、丹生田は少しピクッとした。
つかんだのは無意識だった。けど丹生田は目を逸らせない。まだ裸のままで、触っちまったら心臓がどんどん早くなって。
だってさっきまで色々触られてたけど触ってなかったし、んで顔も見てなかったし、んで、んで、さっき全然こっち見なかったのに今は見てる。
コレ、この顔なんだろ、困ってるンかな? でもただ困ってる顔じゃねえ、けど……ダメだ、こんな顔させちゃダメだ。
「わり、だいじょぶ、だから……」
「済まなかった」
「え」
思わず見返したら、丹生田は目を逸らした。
「済まなかった。つい止まらな……いや」
絞り出してるみたいな低い声。眉寄せてこっち見ようとしない丹生田の顔が、すげえ悲しそうだ。こっちまで悲しくなってくる。
「ばか謝んなよ」
自動的に声が出てた。
けど丹生田はこっち見ない。それがめちゃ悲しくて、だからニカッと笑ってみた。こっち見てないけど、でも笑う。
だって丹生田が謝るなんておかしいから。
「……その、俺が頼んだ、わけだし」
「……済まなかった」
丹生田は目を閉じて項垂れた。
「だから……」
「済まない」
イラッとした。
「謝んな、つってんだろ」
「しかし」
瞬間的に頭が沸騰する。
「こっの、くそバカっ!」
怒鳴りつけると同時、グーで頬を殴ってた。
丹生田は倒れず、少し身体が傾いだだけだったけど、また肩つかんでバスタブに引きこむ。なんでか、さっきまでチカラ入んなかった手が、普通に掴めてる。
二人ともシャワーの飛沫を頭から浴びた。けど丹生田は目を伏せたままだ。
「コラ、イイか? 聞けこのガラスハート! 後悔とかすんなよ、ぜってーすんな! 分かったか!?」
「しかし」
「俺はしねーぞ!」
そう叫んだら、丹生田はようやくこっちを見た。
「だって好きなんだかんな! おまえのことずっと好きだったんだ! エッチ出来てめっちゃ幸せだっつの! 分かったか!」
「………………」
丹生田の顎に力がこもる。
まっすぐこっちを睨んでる。
それでいい。見ないフリされるより、ずっとこっちの方がイイ。
「汗とか気持ち悪いんだろ」
そう言って裸の肩をポンポンと叩くと、丹生田は二度、三度、まばたきした。
ああ、やっぱカッコカワイイ。
マジ俺ってしょうもねーなー、クソマジで安い、安すぎ。
そう思ったら、笑っちまってた。丹生田は目を見開いて、真一文字にくち閉じる。
「おまえ、このまんまシャワー使え」
ニカッと笑って立った。簡単に立てた。なぜか身体にチカラ戻ってた。
そこに丹生田を置いて、タオルだけつかんでそこを出た。ざっと身体を拭き、手早く服を身につける。水音のし続けるドアをチラッと見て、奥歯噛みしめながら部屋を出た。
きっと丹生田は後悔して、悪いことしたとか真剣に悩んだりするに決まってる。だから、そんな必要ねえって、悪いことなんてしてねえんだって、そう教えとかねえと。
そう思ったのはマジで、心の底からマジにそう思ったわけで、ンでも言っちまってから、ああそうだ、と、自然にそう思えた。
後悔なんてしねえ。
ぜってーしねえ。
だから後悔しないために、できる限りのことする。
そんな決心しつつ、階段を降りた。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる