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8.二人きりの旅行
102.本当、だな※
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指先に感じた部分、そこを刺激すると、藤枝はビクビクと身体を揺らし、声を上げた。
『見つけたら、じっくり刺激してあげるんだよ。押すの強すぎると可哀想だから、そっとね。うまくやればどんな奴でも簡単にイっちゃうからさ、イクと力抜けて緩むし、そうしたら突っ込んでも大丈夫』
「ここなんだな」
高揚感、そして征服欲に支配されそうになる。いかん、と自制を極限まで働かせ、慎重に指を使う。
『初めてだと後ろだけでイクのキツいから、ペニスも擦ってやンんなよ。きっとイイ声で啼いてくれるよ』
忌々しいが姉崎の声に従い、藤枝のモノに手を伸ばす。そこは柔らかくなっていた。握ると藤枝は焦ったように声を上げる。
「あっ、バカっ! ばっ……!」
だが擦るとすぐに硬くなった。
「やめ……にゅうっ、ンのや……っ!」
声が甘い響きを帯びて、健朗の股間を直撃した。
自分は克己心のある方だと思っていた。だが、もう限界に近い。
歯を食いしばり、中と前の手に意識を集中する。
ビクビクッと身体が跳ね、すぐぐったりした。
「……出たか」
なら、これで挿れることができる。そんな感情に声が弾む。
「悪かったな……!」
「悪くはない」
藤枝がこっちを睨むような目で見た。すぐにぐったりと顔をシーツに下ろしたが、少し潤んだような眼差しに、衝動が高まった。
「嬉しいか。俺が早くてチョロいって」
「気持ち良かったのだろう」
指を抜かなくては。
そう思いながら、名残惜しくて前立腺をまた刺激したら、藤枝に怒られた。素直に謝り、指を抜いてコンドームの箱に手を伸ばす。
『ああ、健朗はゴム使う派?』
姉崎の声が脳内にまた響いた。
『僕は使わない派なんだよね。終わってから洗浄してあげないと、お腹壊すんだけどさあ。だからシャワー浴びながら洗浄してあげるんだよね。そういう気遣いひとつで、どれだけ好き勝手に扱っててもコロッと落ちるんだよ。だからあえて生でヤるんだ。その方が気持ちイイし、落としちゃったらこっちの勝ちじゃない?』
そんなことは考えていない。落とすとか、そんな、モノのように藤枝を考えはしない。だから健朗は黙々とコンドームをつけた。
「……好きに、しやがれ……くそ」
「ああ、そうする」
このチャンスを逃しはしない。
腰を持ち上げ、立ち上がった尻に触れた。そこに口づけしたい衝動を抑え、藤枝のペニスを握る。そこをゆっくりと育てていく。
「おま、タンマつってんだろ」
文句を言いつつ、自分に身体を預けている藤枝が、愛しくてたまらない。
藤枝はいつもと変わらない口調で、ずっと文句を言った。
すべて口づけして食べてしまいたいような衝動、藤枝を自分のものにしたいという強烈な欲望。もうそれを抑える気など無かった。
「行くぞ」
奥歯を噛みしめ、先をあてる。押し込む。
想像以上にキツい。少しずつ腰を揺らしながら埋め込んでいく。先が入った。
「……てぇ」
さっきから藤枝はなにも言わない。手の中のモノが勢いを失っていくので、ゆっくりと擦りつつ、腰を進めていく。
「……く」
目眩がするほど気持ちイイ。
そう思った瞬間、射精していた。
なんということか。堪え性がないにも程がある。まだ半分も挿れていないのに。
自分が情けなくて、ひたすら謝る。
「済まん、済まない、藤枝」
惨めさに打ちのめされていると、藤枝が振り向いた。
「なんだよ。……どしたよ、……ばーか」
少し力ない笑顔を見たら、吐き出したばかりのペニスは、すぐに力を取り戻した。
これで終わりかと聞かれ「これからだ」と答えて、そこからはもう夢中だった。
全てを収めたとき、「ああ……」思わず声が漏れた。
締め付ける内壁に、あり得ないほどの快感を覚えていたが、それだけではない。この上ない幸福感に満たされたからだ。
『んでさ、好きな人とするセックスは、これ以上ないくらい気持ちいいんだって。それになんか、すんげー幸せな気分になる、……んだってよ』
以前、藤枝がそう言っていた。
その後体験したセックスに、むろん快感はあった。セックスに夢中にもなった。しかしそれほどの幸福感を呼ばなかった。
正直、こんなものかと思った。
だが
「……本当、だな」
藤枝は正しかった。
これが、好きな奴とするセックスなのだとしたら。
(俺は、藤枝のことが、好きなんだな)
欲望だけではない。姉崎に触発された下劣な感情だけではない。
健朗は、ようやく喉のつかえが落ちたように納得した。
自分の中にあったのだ。純粋に好きだという、そういったものが。
つまり『好き』という感情なのだ、これが。
目の前に見えるこの背中、この男を、愛しいと、そう思っているのだ、自分は。
今まで感じていた胸のざわつき、突発的に湧き上がる不可解な憤り。そういったものは、全てそんな感情の発露だった。そして度々抑えがたく吹き出し、その度ごとにねじ伏せて、何度も何度も押し潰したこの情欲も─────。
めくるめくような快感と幸福感に包まれ、夢中で動いていた。
二度目の放出に、先ほどより強い幸福感を覚え、藤枝の背に覆い被さる。
なんという満足感。なんという幸福感。コレが正しいセックスなのだとしたら、今までは違ったのだと判断するしか無い。
熱い締め付けにズクンと股間に熱が集まったことに慌てて、目前のぐったりと力の抜けた背中を労るように腰を引く。ズルッと抜け出ると同時、その腰が崩れ、うつぶせのままベッドに倒れ伏して荒い息を吐いている。
股間にまた熱が集まっていく気配に、思わず目を閉じ顎を上げて、気づかれないよう細く息を吐いた。
二度も吐き出したのに、いけない、と頭を振り、ひとまずゴムの処理をしつつ、チラッと背中を見る。
ひどく汗をかいているし、疲れ切っているようだった。ここのトイレはバスタブと同一になっている。そこへ連れて行って洗い流してやろう、と腕を伸ばし、肩をつかんで引く。なんの抵抗もなく、ごろりと仰向けになった、その顔を見下ろす。
「…………藤枝」
声がきしむようなザラリとした響きを帯び、喉奥から漏れた。
虚ろにも見える瞳。半ば伏せた状態のまぶたがゆっくりと開き、明るい色の瞳が健朗を見つめる。通った鼻筋の下、半開きになっている厚めの唇から白い歯が覗き、荒い呼吸が耳を打ち――――
ドキン、と、心臓が一打ちする。
そのまま今までに無いほど拍動を高めていく。
激しい運動を日常的にしているが、こんなのはまったく違う。心臓がこんな風に働くものかと不思議になるほど激しく打ち続けているのに、肺は苦しさを覚えず、血流もさほど激しくなってはいない。もしかしたら鼓動ではなく、ひどく不穏なものなのではないかと疑いたくなるような状態。
そして視界が錯乱しているのではと疑いたくなるほど、藤枝は現実離れして美しく見えた。
「……にゅう、だ」
声にハッとして目を逸らし「シャワーを」とだけ言いつつ、顔を見ないようにして上腕をつかんで引き起こす。同時にシーツを引っ張り、さりげなく自分の股間を隠した。
まだ滾っているなど知られて怯えられたら、などと考えただけでダメージを受けている自分が、本当に狡猾な小心者だと思う。
「汗が」
ゆえにそれしか言えなかった。余計なことを口走ってしまいそうで、くちを噤む。
「……ああ~、うん」
ぼんやりした声が聞こえ、身体を起こそうとする気配がした。
「……う…」
呻くような声と共に動きが止まり、思わず見ると、藤枝は項垂れて息を整えようとしていた。伸ばした手で背を支え、起きるのを助ける。手のひらに藤枝の体温と筋肉の動きを感じ、それだけでまた情欲がわき上がってくる。
「先に……」
またなにも言えなくなって、健朗は無言のまま手を上げ、藤枝に浴室を示した。
「うん」
それだけを答えた藤枝が動く気配。
余計な動きをしてしまいそうな手足を、必死にとどめながら目を伏せてやり過ごす。ドアの開け閉めが耳を打ち、ようやく目を開いて閉じたドアを見る。自動的にため息が出る。
すぐにシャワーの水音が聞こえてきた。
(どうかしている。あんなことをしたばかりなのに)
ため息と共に目をギュッと閉じ、何度目か分からないため息を漏らす。
まだ、
欲しくてたまらない。
『見つけたら、じっくり刺激してあげるんだよ。押すの強すぎると可哀想だから、そっとね。うまくやればどんな奴でも簡単にイっちゃうからさ、イクと力抜けて緩むし、そうしたら突っ込んでも大丈夫』
「ここなんだな」
高揚感、そして征服欲に支配されそうになる。いかん、と自制を極限まで働かせ、慎重に指を使う。
『初めてだと後ろだけでイクのキツいから、ペニスも擦ってやンんなよ。きっとイイ声で啼いてくれるよ』
忌々しいが姉崎の声に従い、藤枝のモノに手を伸ばす。そこは柔らかくなっていた。握ると藤枝は焦ったように声を上げる。
「あっ、バカっ! ばっ……!」
だが擦るとすぐに硬くなった。
「やめ……にゅうっ、ンのや……っ!」
声が甘い響きを帯びて、健朗の股間を直撃した。
自分は克己心のある方だと思っていた。だが、もう限界に近い。
歯を食いしばり、中と前の手に意識を集中する。
ビクビクッと身体が跳ね、すぐぐったりした。
「……出たか」
なら、これで挿れることができる。そんな感情に声が弾む。
「悪かったな……!」
「悪くはない」
藤枝がこっちを睨むような目で見た。すぐにぐったりと顔をシーツに下ろしたが、少し潤んだような眼差しに、衝動が高まった。
「嬉しいか。俺が早くてチョロいって」
「気持ち良かったのだろう」
指を抜かなくては。
そう思いながら、名残惜しくて前立腺をまた刺激したら、藤枝に怒られた。素直に謝り、指を抜いてコンドームの箱に手を伸ばす。
『ああ、健朗はゴム使う派?』
姉崎の声が脳内にまた響いた。
『僕は使わない派なんだよね。終わってから洗浄してあげないと、お腹壊すんだけどさあ。だからシャワー浴びながら洗浄してあげるんだよね。そういう気遣いひとつで、どれだけ好き勝手に扱っててもコロッと落ちるんだよ。だからあえて生でヤるんだ。その方が気持ちイイし、落としちゃったらこっちの勝ちじゃない?』
そんなことは考えていない。落とすとか、そんな、モノのように藤枝を考えはしない。だから健朗は黙々とコンドームをつけた。
「……好きに、しやがれ……くそ」
「ああ、そうする」
このチャンスを逃しはしない。
腰を持ち上げ、立ち上がった尻に触れた。そこに口づけしたい衝動を抑え、藤枝のペニスを握る。そこをゆっくりと育てていく。
「おま、タンマつってんだろ」
文句を言いつつ、自分に身体を預けている藤枝が、愛しくてたまらない。
藤枝はいつもと変わらない口調で、ずっと文句を言った。
すべて口づけして食べてしまいたいような衝動、藤枝を自分のものにしたいという強烈な欲望。もうそれを抑える気など無かった。
「行くぞ」
奥歯を噛みしめ、先をあてる。押し込む。
想像以上にキツい。少しずつ腰を揺らしながら埋め込んでいく。先が入った。
「……てぇ」
さっきから藤枝はなにも言わない。手の中のモノが勢いを失っていくので、ゆっくりと擦りつつ、腰を進めていく。
「……く」
目眩がするほど気持ちイイ。
そう思った瞬間、射精していた。
なんということか。堪え性がないにも程がある。まだ半分も挿れていないのに。
自分が情けなくて、ひたすら謝る。
「済まん、済まない、藤枝」
惨めさに打ちのめされていると、藤枝が振り向いた。
「なんだよ。……どしたよ、……ばーか」
少し力ない笑顔を見たら、吐き出したばかりのペニスは、すぐに力を取り戻した。
これで終わりかと聞かれ「これからだ」と答えて、そこからはもう夢中だった。
全てを収めたとき、「ああ……」思わず声が漏れた。
締め付ける内壁に、あり得ないほどの快感を覚えていたが、それだけではない。この上ない幸福感に満たされたからだ。
『んでさ、好きな人とするセックスは、これ以上ないくらい気持ちいいんだって。それになんか、すんげー幸せな気分になる、……んだってよ』
以前、藤枝がそう言っていた。
その後体験したセックスに、むろん快感はあった。セックスに夢中にもなった。しかしそれほどの幸福感を呼ばなかった。
正直、こんなものかと思った。
だが
「……本当、だな」
藤枝は正しかった。
これが、好きな奴とするセックスなのだとしたら。
(俺は、藤枝のことが、好きなんだな)
欲望だけではない。姉崎に触発された下劣な感情だけではない。
健朗は、ようやく喉のつかえが落ちたように納得した。
自分の中にあったのだ。純粋に好きだという、そういったものが。
つまり『好き』という感情なのだ、これが。
目の前に見えるこの背中、この男を、愛しいと、そう思っているのだ、自分は。
今まで感じていた胸のざわつき、突発的に湧き上がる不可解な憤り。そういったものは、全てそんな感情の発露だった。そして度々抑えがたく吹き出し、その度ごとにねじ伏せて、何度も何度も押し潰したこの情欲も─────。
めくるめくような快感と幸福感に包まれ、夢中で動いていた。
二度目の放出に、先ほどより強い幸福感を覚え、藤枝の背に覆い被さる。
なんという満足感。なんという幸福感。コレが正しいセックスなのだとしたら、今までは違ったのだと判断するしか無い。
熱い締め付けにズクンと股間に熱が集まったことに慌てて、目前のぐったりと力の抜けた背中を労るように腰を引く。ズルッと抜け出ると同時、その腰が崩れ、うつぶせのままベッドに倒れ伏して荒い息を吐いている。
股間にまた熱が集まっていく気配に、思わず目を閉じ顎を上げて、気づかれないよう細く息を吐いた。
二度も吐き出したのに、いけない、と頭を振り、ひとまずゴムの処理をしつつ、チラッと背中を見る。
ひどく汗をかいているし、疲れ切っているようだった。ここのトイレはバスタブと同一になっている。そこへ連れて行って洗い流してやろう、と腕を伸ばし、肩をつかんで引く。なんの抵抗もなく、ごろりと仰向けになった、その顔を見下ろす。
「…………藤枝」
声がきしむようなザラリとした響きを帯び、喉奥から漏れた。
虚ろにも見える瞳。半ば伏せた状態のまぶたがゆっくりと開き、明るい色の瞳が健朗を見つめる。通った鼻筋の下、半開きになっている厚めの唇から白い歯が覗き、荒い呼吸が耳を打ち――――
ドキン、と、心臓が一打ちする。
そのまま今までに無いほど拍動を高めていく。
激しい運動を日常的にしているが、こんなのはまったく違う。心臓がこんな風に働くものかと不思議になるほど激しく打ち続けているのに、肺は苦しさを覚えず、血流もさほど激しくなってはいない。もしかしたら鼓動ではなく、ひどく不穏なものなのではないかと疑いたくなるような状態。
そして視界が錯乱しているのではと疑いたくなるほど、藤枝は現実離れして美しく見えた。
「……にゅう、だ」
声にハッとして目を逸らし「シャワーを」とだけ言いつつ、顔を見ないようにして上腕をつかんで引き起こす。同時にシーツを引っ張り、さりげなく自分の股間を隠した。
まだ滾っているなど知られて怯えられたら、などと考えただけでダメージを受けている自分が、本当に狡猾な小心者だと思う。
「汗が」
ゆえにそれしか言えなかった。余計なことを口走ってしまいそうで、くちを噤む。
「……ああ~、うん」
ぼんやりした声が聞こえ、身体を起こそうとする気配がした。
「……う…」
呻くような声と共に動きが止まり、思わず見ると、藤枝は項垂れて息を整えようとしていた。伸ばした手で背を支え、起きるのを助ける。手のひらに藤枝の体温と筋肉の動きを感じ、それだけでまた情欲がわき上がってくる。
「先に……」
またなにも言えなくなって、健朗は無言のまま手を上げ、藤枝に浴室を示した。
「うん」
それだけを答えた藤枝が動く気配。
余計な動きをしてしまいそうな手足を、必死にとどめながら目を伏せてやり過ごす。ドアの開け閉めが耳を打ち、ようやく目を開いて閉じたドアを見る。自動的にため息が出る。
すぐにシャワーの水音が聞こえてきた。
(どうかしている。あんなことをしたばかりなのに)
ため息と共に目をギュッと閉じ、何度目か分からないため息を漏らす。
まだ、
欲しくてたまらない。
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