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8.二人きりの旅行
101.健朗の欲望※
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なにがどうなったのか不明だが、藤枝にキスされていた。その瞬間
常に論理優先の筈のアタマがカアッと熱くなり、気づいたら抱きしめて、唇を貪っていた。
幾度も押し潰してきた、唾棄すべき獣欲。
ちょっとした表情に、何気ない仕草に、さまざまな藤枝に触発され浮かぶ度毎に、全力でねじ伏せようとした。
しかし衝動を抑えきることが出来ず、抱きしめたり髪や肩に触れたりしてしまったこともあった。あまりに度重なったあげく開き直り、妄想するようになっていた。
何度も見せられたAVのように、押さえつけ自分のモノを埋め込んで蹂躙し─────
大切な友人、尊敬すべき男。
藤枝は、そんな風に見て良い存在ではない。
なのに勝手に欲望を募らせた健朗の中心に触れ、潤んだキレイな瞳で、藤枝は言ったのだ。
「俺とエッチ、……なこと……」
歯止めがぶち飛んだ。
シャワーを浴びるべきか、聞いたら「いらねえ」と返した藤枝は、今まで見た中でもっとも男らしい顔をしていた。
不敵にすら見える笑みを浮かべているのに、少し明るい色の大きな瞳が揺れていた。よく見ると瞳の中心から縁にかけて緑がかった色が散っていて、ひどく美しい。
厚めの唇は少し開いて、白い歯と赤い舌が見える。美しい。
白く滑らかな肌には、少し汗が滲んでいる。美しい。
藤枝は美しい。
健朗は、これ以上美しい生き物を知らない。
その藤枝が、自ら身を寄せ、
「してくんな……い……かな……?」
そんなことを言う。
─────歯止めが、ぶち飛んだ。
耐えられるわけが無い。今すぐぶち込みたい。そんな衝動と闘いながらシャワーを浴びるべきか聞くと、藤枝は今まで見た中でもっとも男らしい、凜とした美しい顔で言った。
「いらねえ」
なんとか目を逸らしたのは、まさに今すぐ衣服を剥いてぶち込みそうになったからだ。
冷静になれと自分を叱咤しながら服を脱ぎつつ、健朗の脳は勝手に手順を考えはじめていた。
どうやればいい────まずベッドに、そうだあれを────二人で旅行へ行くと知った姉崎が強引にリュックに突っ込んだ、コンドームと潤滑のジェル、あれを使うのだ。それから─────
下着に手をかけ、ふと見ると、藤枝は驚いた顔のまま突っ立っていた。自分が先走っているだけに思われ、羞恥で燃えそうになっていると、「あっ、ご、ごめん」と服を脱ぎ始めた。
ボタンを外す指先に、そこから見える肌に目が行ってしまい、慌てて目を逸らして下着を脱ぎ、リュックに手を伸ばす。既に股間はいきり立っている。必死に呼吸を整えつつ中を探る。
目障りだと思いつつ、上に着がえなんぞを詰め込んだが持って来た。万が一、チャンスがあったら、そう思っていた自分が確かにいた。
「あの」
ベッドの上にシーツにくるまって横たわった藤枝が、少し怯えた様な目で見ていた。一瞬、見つめ合ったが、慌てて目を逸らした。
いかん。
今まで隠していた欲望、邪なそれを、気づかせてはいけない。
リュックの奥、目当てのモノが指先に触れ、それを握りこんで立ち上がる。シーツにくるまれた藤枝は、ぼうっと見上げてきた。胸元から下、全部見たい、そんな衝動でシーツを引きはがす。藤枝はこちらに背を向けて丸くなった。
今まで風呂場で、気づかれぬよう細心の注意を払って見ていた。そこから妄想を育てていた。そうでもしないと所構わず襲いかかってしまいそうだったからだ。
しかし明るい場所でまじまじと裸を見るのは初めてだった。
少し汗ばんだ白い肌。背骨がきれいに浮き、肩甲骨とあばらの陰影がキレイに見える。肩、腕、首、どこもここも、なぜこんなに美しい。
気づいたら触れていた。肌を撫でるように手が動いていた。肩甲骨がピクッと動く。喉がゴクリと鳴った。身を寄せたのは無意識だ。
そっと息を吸うと、汗の匂いがした。うっとりしてしまい、イカンと自分を戒める。冷静になれ。学んだことを思い出せ。
自慢げな姉崎の声が脳裏に響く。
『いきなりツッコむのはやめた方がイイかな~、女の子と違うからねえ。ソレはソレで好きな人もいるんだけどさ』
舌打ちしそうになるのを抑えつつ、片手でジェルのボトルを探る。
「えっとその……」
戸惑うような声が聞こえ、
「大丈夫だ」
手は腰を超え、尻を撫でる。そこをつかむと「ええっ、ちょ」怯えた声に「大丈夫だ、藤枝」言いながらジェルのボトルを持ったら、それが藤枝の尻に触れた。混乱気味の藤枝に「大丈夫だ」と声をかけつつジェルを、背骨から続く谷間に垂らす。
『藤枝は初めてだろうから、準備してあげないと。しつこいくらいほぐしてあげれば怪我にはならないよ』
藤枝に怪我などさせるわけには行かない。忌々しいが、今は奴から得た知識を使うのだ。それに、あの顔を思い出すことで少し冷静になれた。
『最初は指一本。中でこう、こんな感じに指を使って、緩んできたら指を増やしてくんだ。三本まで楽に動かせるようになるくらいまで、じっくりね』
学んだ通りにするのだ。そう自分に言い聞かせてはいるのだが、手は自動的に尾てい骨を撫で、尻頬をグッと掴んでいた。息が荒くなって居ると自覚する。
非常にマズイ。
今の自分は獣欲の塊だ。
大切にせねばならない、そう考えているにもかかわらず、藤枝の裸を見て箍が外れている。おそらくろくな顔をしていないだろう。浅ましい欲望のカタマリ。こんな顔など見せて怯えさせたなら、自分を恐れるかも知れない。そうだ、見せない方が良い。
ゆえに藤枝の顔を見たい衝動を打ち消して、谷間にある薄桃色をした場所にジェルを馴染ませ、慎重に指を押し込む。
藤枝が息を詰め、声を漏らす。白い肌が紅潮する。内壁は指を締め付け蠢く。
肌に触れる毎、アタマが加熱する。
何度も喉を鳴らしそうになり、息を整えながら「大丈夫だ」と言った。自分でもなにが大丈夫か分からない。だが学んだのだ。傷つけることはしない。
それでもここに自分のモノを入れられるのだと思うと、アタマが発火しそうだった。AVの映像も浮かぶ。
無心になれと自分を叱咤しつつ、ゆっくり奥へと指を進める。指先に全感覚を集中した。息遣いと共に中が蠢く。「大丈夫だ」という声はもはや譫言のようになっている。抑えようとしても、どんどん息が荒くなる。
「俺が掘られるのッ!?」
ハッと我に返り、指の動きを止めた。
「駄目か」
いけなかったのか。間違っていたか。そんな考えが駆け巡り、血流が激しくなる。
「え、いや」
「駄目か、藤枝」
ならばもう、やめなければならない。
そして今やめたなら、二度と触れない。触れてはいけない。藤枝の尊厳を侵してはいけない。
─────二度と触れられないのだ。この肌にも、指を締め付けるここも、……そしてここに自分のモノを収めることも、二度と…………
絶望で目の前が真っ暗になる。
「駄目なら、やめる。もう二度と触れない」
声はきしむようになった。やめたくなどない。
力が抜け、藤枝の身体に身を落とすと首筋に唇が触れた。そこを舐め上げたい衝動を、イカンと押し潰す。これ以上藤枝の意に反することなどしてはいけない。ここまでで満足するべきだ。必死に自分に言い聞かせる。
指を抜こうとしたが、指を締め付ける潤みを纏った熱が名残惜しい。惨めったらしくそこから抜け出ようとしない指に、意志の力でそこから抜け出してこいと命じていたら、ペニスになにかが触れ、腰が引ける。
触れたのは……藤枝の、指、だった。
─────知られてしまった。そこが猛りきっていることを。下劣な欲望に支配されていたことを。
「……済まない」
謝ることしかできない。
「……藤枝……」
涙が出そうだった。こうして触れて、はっきりと自分が抱えている感情の正体を知らしめられた。
……藤枝を犯したいと、下劣きわまりない獣欲を覚える自分を忌避していた。そんなものは藤枝に対して失礼でしかない、イカンと押し潰してきた。
しかしいま触れて、それだけでは無かったのだと思い知った。
もう誤魔化しはきかない。
抑えがたいほどの激烈な欲望。それはセックスだけ、獣欲だけ、では無かった。─────欲しい。藤枝の全てが─────
さらに重傷だったのだ。
「いい」
決然とした藤枝の声にハッとする。
「イイつってんだろ。やれよ」
抜け出すよう命じていた意志が挫け、反動で指は奥へと進んだ。
「あぅっ!」
「すまない、つい」
だがもう歯止めは効かない。
良いと言ったのだ。藤枝がそう言ったのだ。
『ああそう、前立腺を探るの忘れずにね。初心者に分かるかな。ちょっと膨らんでて少し硬いんだけど。ホラここだよ』
再び指導の声が脳内に鳴り響く。
笑みで得々と語りつつ、姉崎は詳細な図も示していた。それを思い出しつつ、中を探り続ける。藤枝は焦ったように声を上げ続けている。
「黙れ」
集中出来ない。
「済まない、少し黙ってくれ」
「無理っ!」
「無理でも、頼む、藤枝」
指先に集中したかった。グチュグチュと中を探りつつ、指を出し入れする。広がってきたように感じて指を増やした。
藤枝は声を上げ続け、背中の筋肉が、肩甲骨が動く。肌がさらに紅潮し、汗が滲んで艶めかしい。
自分が興奮して冷静ではなくなっている自覚はあったが、どうすれば収まるかなど分からない。藤枝がやれと言ったのだ。こうなったらやるしかない。最後までやって、後悔するならそれからだ。そう考える。
中は断続的に指を締め付ける。ジェルの助けを借り、指を何度も出入りさせる。まだ指二本、まだ早い。必死に自分に言い聞かせ、中で指を曲げ伸ばししながら前立腺を探す。
藤枝が混乱して声を上げているが、とにかくなにか言わねばと声を出す。なにを言ったか自分でも判然としない。ただ、ろくなことが言えていない自覚はあった。
それより藤枝の上げる声や息遣いに、肌や中の感触に、抑えきれないほどいきり立っている自分自身を抑えるのに精一杯だった。いますぐ自分のモノをここに押し込みたい。
だがそうしたなら、藤枝を傷つける、怪我をさせてしまう。それだけは避けたかった。
声に、肌に、熱に、翻弄されそうになるのを、必死に自分を叱咤して踏ん張っていた。なんとか意志を保ち、ひたすらほぐす。
「あぁぅ?」
藤枝がビクッと身体を震わせ、中が指を締め付ける。
「……ここか?」
心臓が早打ちする。
常に論理優先の筈のアタマがカアッと熱くなり、気づいたら抱きしめて、唇を貪っていた。
幾度も押し潰してきた、唾棄すべき獣欲。
ちょっとした表情に、何気ない仕草に、さまざまな藤枝に触発され浮かぶ度毎に、全力でねじ伏せようとした。
しかし衝動を抑えきることが出来ず、抱きしめたり髪や肩に触れたりしてしまったこともあった。あまりに度重なったあげく開き直り、妄想するようになっていた。
何度も見せられたAVのように、押さえつけ自分のモノを埋め込んで蹂躙し─────
大切な友人、尊敬すべき男。
藤枝は、そんな風に見て良い存在ではない。
なのに勝手に欲望を募らせた健朗の中心に触れ、潤んだキレイな瞳で、藤枝は言ったのだ。
「俺とエッチ、……なこと……」
歯止めがぶち飛んだ。
シャワーを浴びるべきか、聞いたら「いらねえ」と返した藤枝は、今まで見た中でもっとも男らしい顔をしていた。
不敵にすら見える笑みを浮かべているのに、少し明るい色の大きな瞳が揺れていた。よく見ると瞳の中心から縁にかけて緑がかった色が散っていて、ひどく美しい。
厚めの唇は少し開いて、白い歯と赤い舌が見える。美しい。
白く滑らかな肌には、少し汗が滲んでいる。美しい。
藤枝は美しい。
健朗は、これ以上美しい生き物を知らない。
その藤枝が、自ら身を寄せ、
「してくんな……い……かな……?」
そんなことを言う。
─────歯止めが、ぶち飛んだ。
耐えられるわけが無い。今すぐぶち込みたい。そんな衝動と闘いながらシャワーを浴びるべきか聞くと、藤枝は今まで見た中でもっとも男らしい、凜とした美しい顔で言った。
「いらねえ」
なんとか目を逸らしたのは、まさに今すぐ衣服を剥いてぶち込みそうになったからだ。
冷静になれと自分を叱咤しながら服を脱ぎつつ、健朗の脳は勝手に手順を考えはじめていた。
どうやればいい────まずベッドに、そうだあれを────二人で旅行へ行くと知った姉崎が強引にリュックに突っ込んだ、コンドームと潤滑のジェル、あれを使うのだ。それから─────
下着に手をかけ、ふと見ると、藤枝は驚いた顔のまま突っ立っていた。自分が先走っているだけに思われ、羞恥で燃えそうになっていると、「あっ、ご、ごめん」と服を脱ぎ始めた。
ボタンを外す指先に、そこから見える肌に目が行ってしまい、慌てて目を逸らして下着を脱ぎ、リュックに手を伸ばす。既に股間はいきり立っている。必死に呼吸を整えつつ中を探る。
目障りだと思いつつ、上に着がえなんぞを詰め込んだが持って来た。万が一、チャンスがあったら、そう思っていた自分が確かにいた。
「あの」
ベッドの上にシーツにくるまって横たわった藤枝が、少し怯えた様な目で見ていた。一瞬、見つめ合ったが、慌てて目を逸らした。
いかん。
今まで隠していた欲望、邪なそれを、気づかせてはいけない。
リュックの奥、目当てのモノが指先に触れ、それを握りこんで立ち上がる。シーツにくるまれた藤枝は、ぼうっと見上げてきた。胸元から下、全部見たい、そんな衝動でシーツを引きはがす。藤枝はこちらに背を向けて丸くなった。
今まで風呂場で、気づかれぬよう細心の注意を払って見ていた。そこから妄想を育てていた。そうでもしないと所構わず襲いかかってしまいそうだったからだ。
しかし明るい場所でまじまじと裸を見るのは初めてだった。
少し汗ばんだ白い肌。背骨がきれいに浮き、肩甲骨とあばらの陰影がキレイに見える。肩、腕、首、どこもここも、なぜこんなに美しい。
気づいたら触れていた。肌を撫でるように手が動いていた。肩甲骨がピクッと動く。喉がゴクリと鳴った。身を寄せたのは無意識だ。
そっと息を吸うと、汗の匂いがした。うっとりしてしまい、イカンと自分を戒める。冷静になれ。学んだことを思い出せ。
自慢げな姉崎の声が脳裏に響く。
『いきなりツッコむのはやめた方がイイかな~、女の子と違うからねえ。ソレはソレで好きな人もいるんだけどさ』
舌打ちしそうになるのを抑えつつ、片手でジェルのボトルを探る。
「えっとその……」
戸惑うような声が聞こえ、
「大丈夫だ」
手は腰を超え、尻を撫でる。そこをつかむと「ええっ、ちょ」怯えた声に「大丈夫だ、藤枝」言いながらジェルのボトルを持ったら、それが藤枝の尻に触れた。混乱気味の藤枝に「大丈夫だ」と声をかけつつジェルを、背骨から続く谷間に垂らす。
『藤枝は初めてだろうから、準備してあげないと。しつこいくらいほぐしてあげれば怪我にはならないよ』
藤枝に怪我などさせるわけには行かない。忌々しいが、今は奴から得た知識を使うのだ。それに、あの顔を思い出すことで少し冷静になれた。
『最初は指一本。中でこう、こんな感じに指を使って、緩んできたら指を増やしてくんだ。三本まで楽に動かせるようになるくらいまで、じっくりね』
学んだ通りにするのだ。そう自分に言い聞かせてはいるのだが、手は自動的に尾てい骨を撫で、尻頬をグッと掴んでいた。息が荒くなって居ると自覚する。
非常にマズイ。
今の自分は獣欲の塊だ。
大切にせねばならない、そう考えているにもかかわらず、藤枝の裸を見て箍が外れている。おそらくろくな顔をしていないだろう。浅ましい欲望のカタマリ。こんな顔など見せて怯えさせたなら、自分を恐れるかも知れない。そうだ、見せない方が良い。
ゆえに藤枝の顔を見たい衝動を打ち消して、谷間にある薄桃色をした場所にジェルを馴染ませ、慎重に指を押し込む。
藤枝が息を詰め、声を漏らす。白い肌が紅潮する。内壁は指を締め付け蠢く。
肌に触れる毎、アタマが加熱する。
何度も喉を鳴らしそうになり、息を整えながら「大丈夫だ」と言った。自分でもなにが大丈夫か分からない。だが学んだのだ。傷つけることはしない。
それでもここに自分のモノを入れられるのだと思うと、アタマが発火しそうだった。AVの映像も浮かぶ。
無心になれと自分を叱咤しつつ、ゆっくり奥へと指を進める。指先に全感覚を集中した。息遣いと共に中が蠢く。「大丈夫だ」という声はもはや譫言のようになっている。抑えようとしても、どんどん息が荒くなる。
「俺が掘られるのッ!?」
ハッと我に返り、指の動きを止めた。
「駄目か」
いけなかったのか。間違っていたか。そんな考えが駆け巡り、血流が激しくなる。
「え、いや」
「駄目か、藤枝」
ならばもう、やめなければならない。
そして今やめたなら、二度と触れない。触れてはいけない。藤枝の尊厳を侵してはいけない。
─────二度と触れられないのだ。この肌にも、指を締め付けるここも、……そしてここに自分のモノを収めることも、二度と…………
絶望で目の前が真っ暗になる。
「駄目なら、やめる。もう二度と触れない」
声はきしむようになった。やめたくなどない。
力が抜け、藤枝の身体に身を落とすと首筋に唇が触れた。そこを舐め上げたい衝動を、イカンと押し潰す。これ以上藤枝の意に反することなどしてはいけない。ここまでで満足するべきだ。必死に自分に言い聞かせる。
指を抜こうとしたが、指を締め付ける潤みを纏った熱が名残惜しい。惨めったらしくそこから抜け出ようとしない指に、意志の力でそこから抜け出してこいと命じていたら、ペニスになにかが触れ、腰が引ける。
触れたのは……藤枝の、指、だった。
─────知られてしまった。そこが猛りきっていることを。下劣な欲望に支配されていたことを。
「……済まない」
謝ることしかできない。
「……藤枝……」
涙が出そうだった。こうして触れて、はっきりと自分が抱えている感情の正体を知らしめられた。
……藤枝を犯したいと、下劣きわまりない獣欲を覚える自分を忌避していた。そんなものは藤枝に対して失礼でしかない、イカンと押し潰してきた。
しかしいま触れて、それだけでは無かったのだと思い知った。
もう誤魔化しはきかない。
抑えがたいほどの激烈な欲望。それはセックスだけ、獣欲だけ、では無かった。─────欲しい。藤枝の全てが─────
さらに重傷だったのだ。
「いい」
決然とした藤枝の声にハッとする。
「イイつってんだろ。やれよ」
抜け出すよう命じていた意志が挫け、反動で指は奥へと進んだ。
「あぅっ!」
「すまない、つい」
だがもう歯止めは効かない。
良いと言ったのだ。藤枝がそう言ったのだ。
『ああそう、前立腺を探るの忘れずにね。初心者に分かるかな。ちょっと膨らんでて少し硬いんだけど。ホラここだよ』
再び指導の声が脳内に鳴り響く。
笑みで得々と語りつつ、姉崎は詳細な図も示していた。それを思い出しつつ、中を探り続ける。藤枝は焦ったように声を上げ続けている。
「黙れ」
集中出来ない。
「済まない、少し黙ってくれ」
「無理っ!」
「無理でも、頼む、藤枝」
指先に集中したかった。グチュグチュと中を探りつつ、指を出し入れする。広がってきたように感じて指を増やした。
藤枝は声を上げ続け、背中の筋肉が、肩甲骨が動く。肌がさらに紅潮し、汗が滲んで艶めかしい。
自分が興奮して冷静ではなくなっている自覚はあったが、どうすれば収まるかなど分からない。藤枝がやれと言ったのだ。こうなったらやるしかない。最後までやって、後悔するならそれからだ。そう考える。
中は断続的に指を締め付ける。ジェルの助けを借り、指を何度も出入りさせる。まだ指二本、まだ早い。必死に自分に言い聞かせ、中で指を曲げ伸ばししながら前立腺を探す。
藤枝が混乱して声を上げているが、とにかくなにか言わねばと声を出す。なにを言ったか自分でも判然としない。ただ、ろくなことが言えていない自覚はあった。
それより藤枝の上げる声や息遣いに、肌や中の感触に、抑えきれないほどいきり立っている自分自身を抑えるのに精一杯だった。いますぐ自分のモノをここに押し込みたい。
だがそうしたなら、藤枝を傷つける、怪我をさせてしまう。それだけは避けたかった。
声に、肌に、熱に、翻弄されそうになるのを、必死に自分を叱咤して踏ん張っていた。なんとか意志を保ち、ひたすらほぐす。
「あぁぅ?」
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