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6.変わっていく関係
79.酔っ払いは妄想する
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322は無人だった。
トレーニング理論がいろんな運動部で活用されている木原さんは、いまや人気者だ。現場見に行ったり、ときにはコンパに呼ばれたり、てんで、あんま部屋にいなくなってるのだ。
そんで、なにげに超悪かった目つき、ちょい柔らかくなったように見えてきてる。それ指摘したらギロッとか睨まれたんだけど、まあコンパったら当然、女子もいたりとかすんだろな。つっても木原さんが女子の前で顔緩んでるトコとか想像出来ねんだけど。
ともかく、イブである今日もそういうお呼びがかかったらしい。以前からいつ勉強してんのかな、と思ってたけど、マジでまったく勉強してねえよな、なんて余計なことが回る頭はぐあんぐあんしてる。
つうかちょい動いただけでもヤバいんで動けねえし、んでも丹生田が動くと身体は揺れるんで、そのたんびに呻いたりしつつ、んなこと考えていた。
つまり食堂出たあたりから意識は戻ってたのだ。
働かないアタマを叱咤してなんとか現状を把握しようと努力した結果、ぼんやりと理解したのは、頭が乗っているのがどうやら肩で、背と腰を支えるように運ばれているらしい、なんてことだった。
そんで逞しい腕やガッシリした肩を感じて、クンクン匂って、それが丹生田だと分かった。
思考のおぼつかないまま(丹生田が運んでくれてる)と思い、(なんで?)と考えた。けっこう必死に。けど分かんねー。
そんでだんだんドキバクしてきた。
元々頭ぐあんぐあんしてんのに、血流が激しくなって目を閉じてても開いててもグラグラする。運ばれてるからかな、とか思ったけど、丹生田が止まっても変わんねえから、これアレだ、酔っ払ってんだ、と、ようやく自覚する。
そうだ、伊勢の持って来た焼酎よこせってグラス奪ってがぁっと飲んで、そんで……あれ、そこら辺から曖昧だな。
なんて考えてたら、ゆっくりと身体を下ろされる。
薄く目を開いたけど、天井の『俺参上!』と丹生田のアタマの先っちょしか見えねえし、また閉じる。なんかすげえ丁寧にゆっくり寝かせられ、シャツとジーンズのボタン外してくれて、そんだけで布団かけられて。……そのまんま、丹生田がそこにいる。
声も出さずに、でも上腕あたりに手を乗せたまま、そこにいる。
なんかガン見されてる気がする。
(やべえ、やべえ、やべえ)
でも頭はぐあんぐあんだし、なんか考えようとしても無理な感じで、でも丹生田がそこにいるって分かるから、ちょっとだけでも見てみたくて薄目開けてみたら、がっつり目が合って
「起きたか」
低い声で聞かれた。
つうかさっきから起きてっけど、と思いつつ「うん」とだけ答え、バレたから薄目じゃ無く目を開ける。
決まり悪いなあとか思ったけど、丹生田はものっそ真剣に、心配そうな顔でこっち見てる。
「具合はどうだ。吐き気は無いか。頭痛は」
低いけど少し焦ったみたいな口調で聞かれ「うん」とだけ、なんとか答えた。
だって頭はぐあんぐあんだし丹生田がまっすぐ見てるし近いし二人きりだし、てか意外と二人っきりってなんねえよな、いつも誰か彼かいるしな、なんて思ったりしてアタマまとまんねえしドキバクで酔い回りそうで……ンでもなにげに嬉しい。
「水を飲むか。茶が良いか」
「あ~……茶……」
「分かった」
木原さんの冷蔵庫から出した茶をグラスに入れて持って来てくれる。肘付いて起きようとしたけど頭ぐあんぐあんだからうまく行かなくて、したら「大丈夫か」の声と共に首の後ろに丹生田の手が回り、ゆっくり起こされた。
グラスがくちもとに寄せられ、自分で飲めるって、とかちょい思ったけど、そのまんまグラスが傾けられたからゴクリと飲む。
「まだ飲むか」
「……や」
てか近い近い、めちゃ近いって丹生田の顔、ものっそ真剣でまっすぐな目、ドキバク加速しまくるやべえ。
「……いや、いい……」
「そうか」
グラスが離れ、また横たえようとするから「だいじょぶ」とか言いつつ肘で身体を支える。だって横になったらもっとぐあんぐあんするような気がして。したら背中に腕が回り、起こしてくれた。
そんで必死に考える。ぐあんぐあんだけど考えて……どっと汗が出た。
なんでこんなコトになってんのかな。迷惑かけちゃって、邪魔しちゃった。丹生田は保守のみんなと楽しそうにしてたのに、その邪魔とか、なにしてんだ俺。
最悪だ、最悪。なんか丹生田の顔見らんない。
もう最悪じゃん俺。
「なんかゴメン」
「済まなかった」
声が同時に交差して、え、と思い、ゆっくり顔を上げると、眉を寄せた丹生田と目が合った。
「済まなかった。保守の連中が落ち着いたら、藤枝を探すつもりだった。おまえは忙しそうにしてたし、初めのうちは邪魔をしてはいけないと思っていた。だが済まなかった」
え、そりゃ俺言い出しっぺだし司会的な感じで、開会の挨拶とか、おばちゃん達紹介とか、乾杯の声上げる前に飲み出した奴がいて怒鳴ったりとか、まあそれが伊勢だったんだけど、バタバタはしてて。
だから落ち着いて丹生田みっけたら保守のメンバーと楽しそうにしてて、あ、そうかあ、とか思って。
そうかあ、仲間いるんだよな。俺だけ仲良いわけじゃねえし、むしろ俺がこんな風に、丹生田とみんな仲良くなれって望んでたわけで、いいことじゃん。
なんて思ったんだけど、だから……伊勢に文句つけに行ったんだ。乾杯前に飲み始めてたし、でも話聞かねーし、……なんか誤魔化すのに酒って便利だから、グラス奪って飲んで……「おっ、やるじゃねえの」とか言われて酒注がれて、伊勢は自分にも注いでて「イエイ!」つって飲み干すから負けるかっ! って…………ああああ
「あああああ~」
「どうした、吐きそうか」
「んっ、……や、だいじょぶ」
途中から心の声がくちから出てた、と焦る。けど頭はやっぱぐあんぐあん。コレじゃダメだ。せっかくのクリパだし、丹生田に楽しんでもらわねえと……
「ゴメン、つか行ってイイよ丹生田。俺寝てるし」
「…………」
けどなんも返ってこないから、え、と目を上げる。
眉寄せて、怒った顔の丹生田が「行った方がいいか」と低く聞いた。
「え、てか楽しんで来いよ。俺だいじょぶだし……」
「おまえは、俺がいない方が、いいか」
目をぱちくりする。丹生田が怒ってる、よな、コレ怒ってる顔だ。
え? なんか混乱、つかなに言ってんの? てかそりゃ丹生田いたら嬉しいよ? けどそんなの俺のワガママじゃん? 丹生田だって寮のみんなと楽しめよ?
だからヘラッと笑って言った。
「だって、んなトコいてもつまんねーだろ?」
「そんなことはない」
かぶる勢いで返った声。まっすぐな目が嘘じゃ無いって教えてくれる。うわまたドキバク復活する。
「……そうなの?」
「そうだ」
間髪入れず声が返る。
頭ぐあんぐあんのまま、ヘラッと笑っちまう。なんか分かんねえけど超マヌケじゃね? だから半分笑った声で「ンじゃ好きにしろよ」つって「お茶くれ」と付け加えた。
無言でにゅっと差し出されたグラスを受け取って、クククッと笑って、したらお茶が零れて、また無言でタオルとか出てきて拭かれて、それもおかしくてククッと笑って。んでお茶飲んでるだけでなんかおかしくて、笑っちゃうんだけど頭フラフラっつう分かんねえ状態になってて、それもおかしくて。
そっからどうでもいい話とか垂れ流して、やたら笑ってた気がする。丹生田はいつも通り、あんま声出さないで、ンでも聞いてて、お茶飲んだら水も飲ましてくれて、そんでだいぶ経った頃、なぜかペプシも飲ましてくれたと思う。つかどっから出てきたんだペプシ。
なんか背中さすってもらったり、髪撫でてもらったり、なぜか汗拭いてもらったりした気もする。
丹生田は心配そうにしてたけど、だんだんちょい笑ったりして、コッチもゲラゲラ笑っちゃった気がする。
いつ寝たのか分かんねえ。
翌日目覚めて頭割れる! つうくらいの頭痛に襲われつつ、あれ全部妄想なんじゃね? と思った。
だってクリスマスに丹生田と二人っきりで笑って、なんてさ。幸せすぎて夢みたいじゃんね。
けど「ううう~」とか呻いてたら「大丈夫か」とか、すぐに丹生田の声かかって、薬くれたり水くれたり、やたら世話してくれて、木原さんに
「まじで異常に仲良いな、おまえら」
と呆れられたので。
どうやら現実だったらしい、と、ようやく自信を持って考えられたのだった。
年明けて1月半ば頃から、次年度の役員について、水面下の動きが始まった。
去年は三月に入ってからだったけど、今年はだいぶ前から人選を進めてたらしい。というのも会長や副会長、各部のトップの半数が卒業しちゃうからだ。
そこが去年と大幅に違う、つうんで早めに動いてるらしい。
んで俺は総括部長をやるよういわれた。それも現部長の大熊先輩じゃなく、津田会長、乃村副会長、そして次期会長が決まってる尾方副会長の三人から。
「大熊は仕事出来るんだけどねえ、いい加減なとこがどうしても目に付くって、続投反対の声が高くて。君は去年、大熊無しで新歓の仕事キッチリやってたから、間違いなく出来ると意見が一致してるんだ」
一年間執行部と兼任してた仙波が総括に戻って来てくれる、と聞かされ、そうなのか、と思いつつ聞いてると、
「仙波がいればなにかとやりやすいんじゃないかとおもうんだけどー、どう、受けてくれない?」
「え、でも大熊先輩はなんて?」
大熊先輩はまだ卒業しないのだ。通常、一度部長になったら卒業までやるのに。
「あいつは自分が副部長になるから、むしろ好きに使ってくれと言ってたぞ」
「はぁ?」
責任感薄いとは思ってたけど、そうくるかよ。
苦々しげな尾方先輩を見てると、ああそっか、この人会長として大熊先輩とやりたくないんだな、と分かった。
執行部と総括って、けっこう接点多いんだよね。
話を聞いたときはちょいイラッとしたけど、そういうコトなら大熊先輩を顎で使ってやる! と決意しつつ、要請を受けることにした。
保守は峰が部長をやることになり、丹生田は副部長としてそれを助けることになったと教えてもらった。執行部の役員に、という声もあったようなんだけど「俺には無理です」と一言で断ったらしい。さすが丹生田、カッコいいぜ。
施設部は大田原さんが続投、瀬戸が監察の部長にほぼ決定らしい。会計は安宅さんていう一個先輩、情報施設部は浦山に声かけてるとか、橋田に副会長の声かけしてるとか。そんでなんと、姉崎が副会長でほぼ決まりだって!
うっわ~、あんなのに権力与えて大丈夫? とか聞いたら
「ずいぶんやる気出してるよ。少なくとも口だけの奴じゃないのは立証済みだしね」
乃村先輩がニッコリ言ったんで、そっかあ、と納得するしか無かったのであった。
《6部 変わっていく関係 完》
トレーニング理論がいろんな運動部で活用されている木原さんは、いまや人気者だ。現場見に行ったり、ときにはコンパに呼ばれたり、てんで、あんま部屋にいなくなってるのだ。
そんで、なにげに超悪かった目つき、ちょい柔らかくなったように見えてきてる。それ指摘したらギロッとか睨まれたんだけど、まあコンパったら当然、女子もいたりとかすんだろな。つっても木原さんが女子の前で顔緩んでるトコとか想像出来ねんだけど。
ともかく、イブである今日もそういうお呼びがかかったらしい。以前からいつ勉強してんのかな、と思ってたけど、マジでまったく勉強してねえよな、なんて余計なことが回る頭はぐあんぐあんしてる。
つうかちょい動いただけでもヤバいんで動けねえし、んでも丹生田が動くと身体は揺れるんで、そのたんびに呻いたりしつつ、んなこと考えていた。
つまり食堂出たあたりから意識は戻ってたのだ。
働かないアタマを叱咤してなんとか現状を把握しようと努力した結果、ぼんやりと理解したのは、頭が乗っているのがどうやら肩で、背と腰を支えるように運ばれているらしい、なんてことだった。
そんで逞しい腕やガッシリした肩を感じて、クンクン匂って、それが丹生田だと分かった。
思考のおぼつかないまま(丹生田が運んでくれてる)と思い、(なんで?)と考えた。けっこう必死に。けど分かんねー。
そんでだんだんドキバクしてきた。
元々頭ぐあんぐあんしてんのに、血流が激しくなって目を閉じてても開いててもグラグラする。運ばれてるからかな、とか思ったけど、丹生田が止まっても変わんねえから、これアレだ、酔っ払ってんだ、と、ようやく自覚する。
そうだ、伊勢の持って来た焼酎よこせってグラス奪ってがぁっと飲んで、そんで……あれ、そこら辺から曖昧だな。
なんて考えてたら、ゆっくりと身体を下ろされる。
薄く目を開いたけど、天井の『俺参上!』と丹生田のアタマの先っちょしか見えねえし、また閉じる。なんかすげえ丁寧にゆっくり寝かせられ、シャツとジーンズのボタン外してくれて、そんだけで布団かけられて。……そのまんま、丹生田がそこにいる。
声も出さずに、でも上腕あたりに手を乗せたまま、そこにいる。
なんかガン見されてる気がする。
(やべえ、やべえ、やべえ)
でも頭はぐあんぐあんだし、なんか考えようとしても無理な感じで、でも丹生田がそこにいるって分かるから、ちょっとだけでも見てみたくて薄目開けてみたら、がっつり目が合って
「起きたか」
低い声で聞かれた。
つうかさっきから起きてっけど、と思いつつ「うん」とだけ答え、バレたから薄目じゃ無く目を開ける。
決まり悪いなあとか思ったけど、丹生田はものっそ真剣に、心配そうな顔でこっち見てる。
「具合はどうだ。吐き気は無いか。頭痛は」
低いけど少し焦ったみたいな口調で聞かれ「うん」とだけ、なんとか答えた。
だって頭はぐあんぐあんだし丹生田がまっすぐ見てるし近いし二人きりだし、てか意外と二人っきりってなんねえよな、いつも誰か彼かいるしな、なんて思ったりしてアタマまとまんねえしドキバクで酔い回りそうで……ンでもなにげに嬉しい。
「水を飲むか。茶が良いか」
「あ~……茶……」
「分かった」
木原さんの冷蔵庫から出した茶をグラスに入れて持って来てくれる。肘付いて起きようとしたけど頭ぐあんぐあんだからうまく行かなくて、したら「大丈夫か」の声と共に首の後ろに丹生田の手が回り、ゆっくり起こされた。
グラスがくちもとに寄せられ、自分で飲めるって、とかちょい思ったけど、そのまんまグラスが傾けられたからゴクリと飲む。
「まだ飲むか」
「……や」
てか近い近い、めちゃ近いって丹生田の顔、ものっそ真剣でまっすぐな目、ドキバク加速しまくるやべえ。
「……いや、いい……」
「そうか」
グラスが離れ、また横たえようとするから「だいじょぶ」とか言いつつ肘で身体を支える。だって横になったらもっとぐあんぐあんするような気がして。したら背中に腕が回り、起こしてくれた。
そんで必死に考える。ぐあんぐあんだけど考えて……どっと汗が出た。
なんでこんなコトになってんのかな。迷惑かけちゃって、邪魔しちゃった。丹生田は保守のみんなと楽しそうにしてたのに、その邪魔とか、なにしてんだ俺。
最悪だ、最悪。なんか丹生田の顔見らんない。
もう最悪じゃん俺。
「なんかゴメン」
「済まなかった」
声が同時に交差して、え、と思い、ゆっくり顔を上げると、眉を寄せた丹生田と目が合った。
「済まなかった。保守の連中が落ち着いたら、藤枝を探すつもりだった。おまえは忙しそうにしてたし、初めのうちは邪魔をしてはいけないと思っていた。だが済まなかった」
え、そりゃ俺言い出しっぺだし司会的な感じで、開会の挨拶とか、おばちゃん達紹介とか、乾杯の声上げる前に飲み出した奴がいて怒鳴ったりとか、まあそれが伊勢だったんだけど、バタバタはしてて。
だから落ち着いて丹生田みっけたら保守のメンバーと楽しそうにしてて、あ、そうかあ、とか思って。
そうかあ、仲間いるんだよな。俺だけ仲良いわけじゃねえし、むしろ俺がこんな風に、丹生田とみんな仲良くなれって望んでたわけで、いいことじゃん。
なんて思ったんだけど、だから……伊勢に文句つけに行ったんだ。乾杯前に飲み始めてたし、でも話聞かねーし、……なんか誤魔化すのに酒って便利だから、グラス奪って飲んで……「おっ、やるじゃねえの」とか言われて酒注がれて、伊勢は自分にも注いでて「イエイ!」つって飲み干すから負けるかっ! って…………ああああ
「あああああ~」
「どうした、吐きそうか」
「んっ、……や、だいじょぶ」
途中から心の声がくちから出てた、と焦る。けど頭はやっぱぐあんぐあん。コレじゃダメだ。せっかくのクリパだし、丹生田に楽しんでもらわねえと……
「ゴメン、つか行ってイイよ丹生田。俺寝てるし」
「…………」
けどなんも返ってこないから、え、と目を上げる。
眉寄せて、怒った顔の丹生田が「行った方がいいか」と低く聞いた。
「え、てか楽しんで来いよ。俺だいじょぶだし……」
「おまえは、俺がいない方が、いいか」
目をぱちくりする。丹生田が怒ってる、よな、コレ怒ってる顔だ。
え? なんか混乱、つかなに言ってんの? てかそりゃ丹生田いたら嬉しいよ? けどそんなの俺のワガママじゃん? 丹生田だって寮のみんなと楽しめよ?
だからヘラッと笑って言った。
「だって、んなトコいてもつまんねーだろ?」
「そんなことはない」
かぶる勢いで返った声。まっすぐな目が嘘じゃ無いって教えてくれる。うわまたドキバク復活する。
「……そうなの?」
「そうだ」
間髪入れず声が返る。
頭ぐあんぐあんのまま、ヘラッと笑っちまう。なんか分かんねえけど超マヌケじゃね? だから半分笑った声で「ンじゃ好きにしろよ」つって「お茶くれ」と付け加えた。
無言でにゅっと差し出されたグラスを受け取って、クククッと笑って、したらお茶が零れて、また無言でタオルとか出てきて拭かれて、それもおかしくてククッと笑って。んでお茶飲んでるだけでなんかおかしくて、笑っちゃうんだけど頭フラフラっつう分かんねえ状態になってて、それもおかしくて。
そっからどうでもいい話とか垂れ流して、やたら笑ってた気がする。丹生田はいつも通り、あんま声出さないで、ンでも聞いてて、お茶飲んだら水も飲ましてくれて、そんでだいぶ経った頃、なぜかペプシも飲ましてくれたと思う。つかどっから出てきたんだペプシ。
なんか背中さすってもらったり、髪撫でてもらったり、なぜか汗拭いてもらったりした気もする。
丹生田は心配そうにしてたけど、だんだんちょい笑ったりして、コッチもゲラゲラ笑っちゃった気がする。
いつ寝たのか分かんねえ。
翌日目覚めて頭割れる! つうくらいの頭痛に襲われつつ、あれ全部妄想なんじゃね? と思った。
だってクリスマスに丹生田と二人っきりで笑って、なんてさ。幸せすぎて夢みたいじゃんね。
けど「ううう~」とか呻いてたら「大丈夫か」とか、すぐに丹生田の声かかって、薬くれたり水くれたり、やたら世話してくれて、木原さんに
「まじで異常に仲良いな、おまえら」
と呆れられたので。
どうやら現実だったらしい、と、ようやく自信を持って考えられたのだった。
年明けて1月半ば頃から、次年度の役員について、水面下の動きが始まった。
去年は三月に入ってからだったけど、今年はだいぶ前から人選を進めてたらしい。というのも会長や副会長、各部のトップの半数が卒業しちゃうからだ。
そこが去年と大幅に違う、つうんで早めに動いてるらしい。
んで俺は総括部長をやるよういわれた。それも現部長の大熊先輩じゃなく、津田会長、乃村副会長、そして次期会長が決まってる尾方副会長の三人から。
「大熊は仕事出来るんだけどねえ、いい加減なとこがどうしても目に付くって、続投反対の声が高くて。君は去年、大熊無しで新歓の仕事キッチリやってたから、間違いなく出来ると意見が一致してるんだ」
一年間執行部と兼任してた仙波が総括に戻って来てくれる、と聞かされ、そうなのか、と思いつつ聞いてると、
「仙波がいればなにかとやりやすいんじゃないかとおもうんだけどー、どう、受けてくれない?」
「え、でも大熊先輩はなんて?」
大熊先輩はまだ卒業しないのだ。通常、一度部長になったら卒業までやるのに。
「あいつは自分が副部長になるから、むしろ好きに使ってくれと言ってたぞ」
「はぁ?」
責任感薄いとは思ってたけど、そうくるかよ。
苦々しげな尾方先輩を見てると、ああそっか、この人会長として大熊先輩とやりたくないんだな、と分かった。
執行部と総括って、けっこう接点多いんだよね。
話を聞いたときはちょいイラッとしたけど、そういうコトなら大熊先輩を顎で使ってやる! と決意しつつ、要請を受けることにした。
保守は峰が部長をやることになり、丹生田は副部長としてそれを助けることになったと教えてもらった。執行部の役員に、という声もあったようなんだけど「俺には無理です」と一言で断ったらしい。さすが丹生田、カッコいいぜ。
施設部は大田原さんが続投、瀬戸が監察の部長にほぼ決定らしい。会計は安宅さんていう一個先輩、情報施設部は浦山に声かけてるとか、橋田に副会長の声かけしてるとか。そんでなんと、姉崎が副会長でほぼ決まりだって!
うっわ~、あんなのに権力与えて大丈夫? とか聞いたら
「ずいぶんやる気出してるよ。少なくとも口だけの奴じゃないのは立証済みだしね」
乃村先輩がニッコリ言ったんで、そっかあ、と納得するしか無かったのであった。
《6部 変わっていく関係 完》
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