意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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6.変わっていく関係

77.夏休み

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 そんで夏休み!
 つうか木原さんは帰省だし、橋田とか姉崎とかは別の部屋だし、丹生田と二人部屋状態なわけで!
 そんで丹生田は、ちょいちょい笑うようになった。
 ちゃんと笑ってるって分かる顔で。
 やっぱ安藤に勝って、なんか丹生田の中で変わったのかな、とか思ったり。まあ分かんねんだけど。
 が!
 寮は激アツだった!
 夜も暑くて寝苦しいし、この寮が人気ないのがコレ原因っての、めちゃ納得した。
「あっちぃ~~~」
「……確かに」
 つーわけで、せっかくの二人部屋で過ごす時間は少ない。
 正直勉強とか無理! な暑さなんで、図書館とか学食とか、エアコンあるとこに移動して過ごすのがほとんどだった。そんでも丹生田とマジに勉強したりメシ食ったり、剣道以外ほぼ毎日一緒にいて、すっげ楽しくて、んだからずっと笑ってた。
 剣道の稽古はいつも通り行くんだけど、丹生田は前より楽しそうに見える。ついこないだまでピリピリしてたのが嘘みたいに、稽古終えて戻って来る顔は、なんかスッキリしてる。
 ちょい前までのボーッとしてる感じも無くて、通常営業つうか、なんつうか前より緩いつうか、表情豊かになったつか。
「藤枝とつるんでっと表情筋鍛えさるんじゃね?」
 なんて皆に言われて苦笑してる丹生田がマジやばいくらいカワイイ!
 んでもって俺がつるんでんのがイイことって、そう思えンのも激やばに嬉しい。
 丹生田が合宿行ったんで実家に帰ったら、お袋が異常にテンション高くて珍しくご馳走並べるし、単身赴任中の親父も戻ってきたりして、家がなんかヘンだった。
「おにいちゃんゼンゼン帰ってこないからでしょ」
 なんて言ったのは四月に大学合格のお祝いしてから会ってなかった妹。
 久しぶりに見たら兄の目からも激可愛くなってて、思わず「おまえヘンな男につきまとわれたりしてねーだろうな」と言ったら「うざい」と一言で蹴られた。コイツは変わってねえ。
 親父がなんか寄ってきて「大学はどうだ。楽しいか」なんて聞いてきたりして
「うん、めっちゃ楽しい」
 なんつって答えてたら、お袋が「拓海ちょっと」って呼んだんで行ったら、こそっと言われた。
「お父さん、おまえが七星に行ったのにショック受けてたんだから」
 じいさんが大好きで、いつもじいさんに文句言ってた親父のこと、あんま好きじゃ無かったし、あんま喋ったこと無かったんだけど。
「お父さんは反発して七星に行かなかったけど、おじいさんのこと嫌いなわけじゃ無かったのよ。選んだ大学に後悔はしてないけど、おじいさんに対しては仲直りしないで終わっちゃったから、それは気にしてるの」
 へえ、とかちょい意外な感じで聞いてたら、クスクス笑われた。
「おまえはなんでもすぐ顔に出るから、おじいさん大好きって丸わかりだし、お父さんのことあんまり好きじゃないのもすぐ分かるでしょ。お父さん寂しそうにしてたし、わたし愚痴いっぱい聞かされてたんだから。ちゃんと考えなさいよ。お父さんだっていつまで元気か分からないよ。死んじゃってから仲直りしたいと思っても遅いんだからね」
 そっかー、とか思いつつ戻って、なにげに「酒おごれよ」つって親父と焼き鳥屋行った。
 飲みながら話したのはなんか新鮮で、親父はキッチリしたカタブツだと思ってたけど、妹が可愛すぎるから心配だとか、母さんがまた家具買ったとか言ってて「だよな! あれは心配だよな!」とか「お袋、他にカネ遣わないんだからイイじゃん」とか言うと頷いたり「分かってる」とか眉寄せてたり。単身赴任はイヤだ、家に戻りたいとか愚痴もちょっと言ってて、なんだよ、と思った。
 顔に出ないし言葉足りない不器用っぷりだけど、丹生田に比べりゃ分かりやすい、と思ったら、スウッと自然に思ってた。
(なんだよ、親父ってダダ漏れなくらい愛情垂れ流しなやつだったんじゃん。なんで今まで分からなかったかな)


 盆前に丹生田の合宿が終わるんで、それに合わせて寮に戻ったのは良いんだけど、今まで活用してた涼しい場所は軒並み盆休み。
 丹生田は金無いんで、ファミレスとか誘うのも悪いから、クソ暑い寮で過ごすしか無くて。
 食堂で金タライに氷浮かせて涼んでたら、姉崎の部屋掃除することになって、そっから流れで鈴木の実家まで行った。なぜか執行部のメンツと一緒に。
 温泉だし(鈴木の実家って旅館だったんだ!)北海道だし(登別温泉だった!)色々あったけど、先輩たちと話し込んだり、丹生田とちょいデートっぽい感じになったりして(いや俺が勝手に思い込んでるだけだけど)
 まあなんつうか、かなり楽しかった。
 姉崎もたまにはイイことすんじゃん、て感じで。
 帰ってから道場に遊びに行ったりしたけど、丹生田は今までと違う張り切り方で、なんか楽しそうに見えた。後輩に指導するのもちゃんと言葉にして教えてたし、剣道やんの楽しい、てのダダ漏れでさ。
 前よりずっとしゃべるようになったし、ずっとたくさん笑うようになったし、そんなのを見てるだけでハッピーになった。
 そんなわけで、夏休みは去年の倍以上楽しかった。めっちゃ浮かれてたな~
 しばらくして木原さんも戻って来て、二人部屋生活は終わったわけだけど、なんか思い出したらおかしくなった。
 だってついこないだまで丹生田と二人っきりになるの避けてたトコあったのにさ、木原さん邪魔! とか思っちまうなんて、俺ってつくづく安いな~とか、いつもながら思ったりして。
 そうそう、木原さんってば、丹生田の剣道に助言したのから噂広まったらしく、いろんな運動部からお呼びがかかって、めちゃ忙しそうにしてる。
 今さらみたいに慌てたボクシング部が「木原はうちの所属だ」とか言い出して、ちょい揉めたりしてて、木原さんは「面倒くせえ~!」とかキレてた。
「モテモテっすね!」
 とか言ったらギリっと睨まれたけど。
 まあそんな感じで、講義が始まってからも平和な毎日が流れていったわけ。

(※ここでサラッと語ってる鈴木の実家に行った話は『藤枝拓海十九才、ぐだぐだな夏』で書いてます。よろしければ併せてお楽しみ下さいませ)
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