73 / 230
5.新体制と迷走
71.後悔
しおりを挟む
六月に入って、丹生田は鬼気迫る感じで稽古にのめり込むようになった。
木原さんに稽古の様子撮影してもらったの見ながら真剣に相談してて、トレーニングの助言してもらってその場で始めたり、一緒に外出て走ったり、今までとちょい違う感じの練習になってんだな、とか思いつつ、俺は相変わらずだけど、できる限りの応援した。まあしょーもねーことしか出来ねーんだけども。
今年こそ国体に出て、安藤昌也に勝つ。
丹生田はくちに出して言わねーけど、その一心で必死になってるのはビンビン伝わった。姉崎の部屋に行くことも無くなったし、余裕も無いように見えたし、邪魔しちゃイカンだろって感じで。
結果、予選を勝ち抜いて、国体出場が決定した。
もちろん応援に行きたかったけど、行けば間違いなく原島がいるし、色々無理っぽいんでやめといた。
けど結果はめちゃ気になってて、保守の後輩から速報で国体決めたって聞いて狂喜して、帰って来た丹生田に「お祝いしようぜ!」つったけど
「まだ終わってない」
ギンとした目でまっすぐ前見ながら断った丹生田の、少しそげた頬とか研ぎ澄まされた眼差しとか、ゼンゼン緊張解いてない感じがものすんごくカッコいくて、やっぱ惚れた。
わりと水無月から声かけてくるようになってたんで、時間あればお茶したりメシ食ったりするようになった。
丹生田は忙しいし、一人でいても余計なこと考えるし、寮の連中だとなんかのついでに丹生田のこと思い出しちまうし。水無月といるときは、そういうの一瞬忘れてられる感じがあって、だから時間があれば会ってた。
でも、もうセックスはしない。キスもしない。抱きしめるのもやめた。
水無月がマジだって分かったから、なんかもう、しちゃイカンだろって思って――つうか正直ビビってた。
だってときどき聞いてくるんだ。
「好きな人ってどんな人」
とか
「どんなところが好きなの」
とか、そういう、思い出しちゃマズいことを。
はじめは笑って誤魔化したりしてたけど、一回「やめろよ」とか思わず言っちまったとき、ちょいきつい口調になってて、それからそういうの言ってこなくなったし。
そこら辺から水無月は、目を見て話すようになったし、良く笑うようになった。慣れてきたんかな、とか思いつつ、最初みたいに頑張って話し続ける感じも無くなって、水無月といるのが楽になってた。
そうしてるうちに丹生田は国体に出場するため、愛媛へ行った。
ジリジリしながらネットとかで状況見てたんだけど、丹生田は安藤昌也と対戦できなかった。
県単位の団体戦だし決勝まで行かないと当たらないつう組み合わせだったんだ。お互いそこまで残れなかった。
けど丹生田たちは頑張った。ベスト8まで残ったのだ。
寮に戻ってきた丹生田を大騒ぎで出迎え、保守と執行部総出でお祝いしよう! つって食堂をパーティー会場にしたんだけど、丹生田は乾杯の後しっかり応援のお礼をして、ちょいメシ食っただけで、すぐ部屋に戻っちまった。
まあ、みんな飲みたいだけだったつか、まだゼンゼン緊張解いてない丹生田見てたら、みんなも先輩たちも引き留められなかったつうか。
一緒に部屋に戻って「もう次見てんだな」と聞いたら、目をギラッとさせて頷いた。
「今年は、やれる気がしてる」
「全日本学生だよな」
「俺が教えてやった身体の使い方、効いたか」
「そう思います」
そっから木原さんも交えて、久しぶりに話し込んだ。
ここんとこやってたトレーニングの意味とか成果とか、今まで謎に思ってた色々についてツッコんで聞いたら、二人がかりで教えてくれた。
足捌きや体重移動、あと『見る』ってコトとか、今までと違う視点で考えてやってたトレーニングなんだってのが分かって、丹生田ってものすごく考えて剣道してるんだな、とかマジ感心した。
そんでやっぱり、惚れた。
*
「ふ・じ・え・だ・く~ん」
イヤな予感と共に振り向くと、寮内屈指のイケメンふたりという、あまり見たくない顔が並んでいた。うんざりしつつ「なんスか」低い声を出す。
「お~い、もうちょっと愛想良くしろよ」
ニヤニヤしてるのは声の主、大熊先輩だ。
「機嫌悪そうだな」
苦笑気味の仙波に肩を叩かれ、「たった今、めっちゃ悪くなった」つって答えたんだけど。
「お~いおいおい、ずいぶんカワイイ事言うじゃねーの」
大熊先輩が絡んで来る雰囲気かもすと、姉崎がクスクス笑った。
「先輩、藤枝はコレが普通でしょ?」
「そんなのおまえ限定だろ。俺には素直になるぜ~」
イケメン二人が舐めた会話はじめたのをまったく気にせず、小松がコッチ見た。
「つうかなんで寮食、来ねえの?」
「最近、うちらのこと避けてんじゃね?」
武田も声をかけてくる。
「……べつに、いいだろ」
「いいけどさあ、藤枝いないと、少しつまんないっていうか」
背後から馴れ馴れしく肩組んできたのは姉崎だ。
「さわんなよ」
肩に乗った手を払うと、横から肩を叩いた大熊先輩が顔を覗き込んできた。にんまり笑ってる。
「調度いいや、おまえも来いよ。基本つきあい悪いんだ、今日は逃がさねえ」
アッシュブラウンの髪を弄りながら、グレイのカラコン入れた今時イケメンがニッコリと笑った。
「もうさ! うるっさいよね、あのおっさん!」
「はいはい、もう三百回聞きました」
仙波が辛抱強く言いながら大熊先輩のおかわりを頼んでいる。
「ていうか絶対トシさば読んでると思わねーか? あきらか三十過ぎだろ、あのルックス」
「あ~、でも間違いなく二十一歳らしいですよ」
「えっマジ?」
大熊先輩と仙波の会話に、小松が割って入る。
「庄山さんって軽く二十五は行ってると……うっ!」
武田が小松の鼻っ面を邪険に押しのけつつ「黙っとけ」言い、愉快そうに「あはは」と笑うニヤケメガネは強そうな酒をグイグイ飲んでる。
そんでカシオレなめつつ、なんでこうなったかなあ、とぼんやり考えてた。
つまり執行部の会議で、大熊先輩は監察の庄山先輩にさんざんやり込められたのだ。
『だいたい新歓の時期に行方をくらまし後輩に丸投げするなど、部長の自覚が無いと言わざるを得ん! いい加減、女のことから頭を離せ!』
まったく正しい指摘である。その被害を真っ向から被ったの俺だし、諸手を挙げて賛成を表明したい。
しかも先輩は、その時期行ってた人妻との不倫旅行について、仲間内で自慢げに語っていたわけで、それが庄山先輩の耳に入ったわけで、そりゃ怒られるでしょう。てか俺だってイラッとするよ?
庄山先輩はそれだけで終わらせず、相手の人妻を突き止めて証拠写真まで突きつけたとかで、旦那にバラすことも出来るなんつって脅されたらしく、さすがの大熊先輩もヘラヘラしてらんなかったらしい。
『申し訳ありません』
土下座させられ、今後はちゃんと仕事すると誓う羽目に陥った、とか言ってるけど当たり前のことじゃんね?
なんだけど今日は先輩の慰労会つう名目で飲もうってコトになったらしく、そこに引っ張り込まれちまったわけ。
個人的には庄山先輩に大賛成なんだけど、今ココで先輩やりこめるのは、さすがにレッドランプ明滅するから黙ってる。てかちょい、気分転換になるかな、たまにはいっかな、なんて思ったし。
「つうかさ、彼女できたんだよな? 聞かせろよ。もうヤッたか?」
「は?」
武田に聞かれて、思わず「なんの話だよ」言いながらカシオレ一気飲みする。誤魔化すのに酒って便利だ。
それに水無月のことはシラフで考えたくない。
ここんとこ呼び出されたら水無月と会ってたし、別に隠してないから、そう思われてんのは知ってる。そんな風に聞かれたのも初めてじゃないし。
けど付き合ってるつもり無いわけで、それはマズイと思ってもいて。
『好きな人がいるのに、ありがとう』
あのとき微笑んで言った水無月の顔を思い浮かべると、ぶっとい針ブスブス突き刺されるみてーに胸が痛む。
だって分かるから。
自分の好きな奴に、他の好きな奴がいるっての、どういうことか。
その状態がかなりキツイってのも、俺には痛いほど分かる。つうか今その痛さ、俺以上に知ってる奴いるだろうかってくらい分かる。イヤもちろんいるんだろうけど、とにかく、自分がやってることサイテーだって思うわけで。なのにあの時微笑んだ水無月すげーって思うし、勝てねえなって思うし、ぶっちゃけ尊敬するレベルで。
水無月を好きになれば、きっとみんな丸く収まる、なんて事も考えた。けど尊敬はしてても、どうしても好きとかそういう感じにはならなくて、そんで言い訳じみたことばっか考えちまう。
最初のアレは勢いだけど水無月もOKしたし、とか。
その後も誘ってくるのは水無月の方だし、とか。
あれからエッチなこととかキスもしてねーし、とか。
考え始めると自己弁護がアタマん中うじゃうじゃ湧いて、そんな自分がイヤで、だから水無月のこと考えたくない。
「な~に彼女のこと考え込んでんだよ~」
バシッと小松に背中叩かれ、「えっ、女できたのかよ」大熊先輩が食いつく。
「どんな女だよ。カワイイか?」
すんげえ嬉しそうに言ってくる。あ~あ、こういう流れになるかやっぱ。頼むから話題に乗せてくれるなよ~。
「ヤったか? ヤったんだろ? どうだった? てか処女か? 俺処女とヤったことねえんだよ教えろよ!」
うわマジでサイテーだなこのヒト、という意志を隠さず横目を送ったが、大熊先輩はまったくめげずに「言えって!」と酔ってトロンとした目で言い続ける。
「ぼっくはあるよ~」
姉崎がヘラヘラくちを挟むと、「マジか!」とそっちへ食いついた大熊先輩にホッとする。
「でも幻想持たない方良いよ~、先輩」
「なんだよ」
「だって処女ってあんまり良くないって。面倒だしさ、やめといた方がイイよ」
うわこいつもサイテーだよ。知ってたけど。
「いやあ、でもよ~、初めての男になるっての、征服欲的な満足があるんじゃね?」
「それほどじゃないって。ていうか向こうの執着、ほんとに面倒だよ? むしろ年上で~、社会的地位があって~、プライド高い~とか、そういうのの方が満足感は高いんじゃない?」
「お~、おまえ! よし、ちょっとこっち来い、そこら辺詳しく聞かせろよ」
腕引っ張られて「あはは」とか言いながら大熊先輩の隣に行った姉崎は、クスクス笑いしながら先輩に耳打ちし、聞いてる先輩は、なにが面白いんだかゲラゲラ笑って、耳打ちし返したりして、笑いながらカパカパ酒飲んでる。
姉崎に席を奪われ、ようやく先輩のお守りから解放された仙波が隣に来て、ため息混じりにレモンチューハイにくちつけた。
「ああいう大人には、なりたくねえな~」
「…………うん」
思わず他人事みたいに苦笑して頷いたけど、胸には苦い後悔が渦巻いていた。
自分だって、たいして変わらないコトしてる。
そう思っちまったのだ。
木原さんに稽古の様子撮影してもらったの見ながら真剣に相談してて、トレーニングの助言してもらってその場で始めたり、一緒に外出て走ったり、今までとちょい違う感じの練習になってんだな、とか思いつつ、俺は相変わらずだけど、できる限りの応援した。まあしょーもねーことしか出来ねーんだけども。
今年こそ国体に出て、安藤昌也に勝つ。
丹生田はくちに出して言わねーけど、その一心で必死になってるのはビンビン伝わった。姉崎の部屋に行くことも無くなったし、余裕も無いように見えたし、邪魔しちゃイカンだろって感じで。
結果、予選を勝ち抜いて、国体出場が決定した。
もちろん応援に行きたかったけど、行けば間違いなく原島がいるし、色々無理っぽいんでやめといた。
けど結果はめちゃ気になってて、保守の後輩から速報で国体決めたって聞いて狂喜して、帰って来た丹生田に「お祝いしようぜ!」つったけど
「まだ終わってない」
ギンとした目でまっすぐ前見ながら断った丹生田の、少しそげた頬とか研ぎ澄まされた眼差しとか、ゼンゼン緊張解いてない感じがものすんごくカッコいくて、やっぱ惚れた。
わりと水無月から声かけてくるようになってたんで、時間あればお茶したりメシ食ったりするようになった。
丹生田は忙しいし、一人でいても余計なこと考えるし、寮の連中だとなんかのついでに丹生田のこと思い出しちまうし。水無月といるときは、そういうの一瞬忘れてられる感じがあって、だから時間があれば会ってた。
でも、もうセックスはしない。キスもしない。抱きしめるのもやめた。
水無月がマジだって分かったから、なんかもう、しちゃイカンだろって思って――つうか正直ビビってた。
だってときどき聞いてくるんだ。
「好きな人ってどんな人」
とか
「どんなところが好きなの」
とか、そういう、思い出しちゃマズいことを。
はじめは笑って誤魔化したりしてたけど、一回「やめろよ」とか思わず言っちまったとき、ちょいきつい口調になってて、それからそういうの言ってこなくなったし。
そこら辺から水無月は、目を見て話すようになったし、良く笑うようになった。慣れてきたんかな、とか思いつつ、最初みたいに頑張って話し続ける感じも無くなって、水無月といるのが楽になってた。
そうしてるうちに丹生田は国体に出場するため、愛媛へ行った。
ジリジリしながらネットとかで状況見てたんだけど、丹生田は安藤昌也と対戦できなかった。
県単位の団体戦だし決勝まで行かないと当たらないつう組み合わせだったんだ。お互いそこまで残れなかった。
けど丹生田たちは頑張った。ベスト8まで残ったのだ。
寮に戻ってきた丹生田を大騒ぎで出迎え、保守と執行部総出でお祝いしよう! つって食堂をパーティー会場にしたんだけど、丹生田は乾杯の後しっかり応援のお礼をして、ちょいメシ食っただけで、すぐ部屋に戻っちまった。
まあ、みんな飲みたいだけだったつか、まだゼンゼン緊張解いてない丹生田見てたら、みんなも先輩たちも引き留められなかったつうか。
一緒に部屋に戻って「もう次見てんだな」と聞いたら、目をギラッとさせて頷いた。
「今年は、やれる気がしてる」
「全日本学生だよな」
「俺が教えてやった身体の使い方、効いたか」
「そう思います」
そっから木原さんも交えて、久しぶりに話し込んだ。
ここんとこやってたトレーニングの意味とか成果とか、今まで謎に思ってた色々についてツッコんで聞いたら、二人がかりで教えてくれた。
足捌きや体重移動、あと『見る』ってコトとか、今までと違う視点で考えてやってたトレーニングなんだってのが分かって、丹生田ってものすごく考えて剣道してるんだな、とかマジ感心した。
そんでやっぱり、惚れた。
*
「ふ・じ・え・だ・く~ん」
イヤな予感と共に振り向くと、寮内屈指のイケメンふたりという、あまり見たくない顔が並んでいた。うんざりしつつ「なんスか」低い声を出す。
「お~い、もうちょっと愛想良くしろよ」
ニヤニヤしてるのは声の主、大熊先輩だ。
「機嫌悪そうだな」
苦笑気味の仙波に肩を叩かれ、「たった今、めっちゃ悪くなった」つって答えたんだけど。
「お~いおいおい、ずいぶんカワイイ事言うじゃねーの」
大熊先輩が絡んで来る雰囲気かもすと、姉崎がクスクス笑った。
「先輩、藤枝はコレが普通でしょ?」
「そんなのおまえ限定だろ。俺には素直になるぜ~」
イケメン二人が舐めた会話はじめたのをまったく気にせず、小松がコッチ見た。
「つうかなんで寮食、来ねえの?」
「最近、うちらのこと避けてんじゃね?」
武田も声をかけてくる。
「……べつに、いいだろ」
「いいけどさあ、藤枝いないと、少しつまんないっていうか」
背後から馴れ馴れしく肩組んできたのは姉崎だ。
「さわんなよ」
肩に乗った手を払うと、横から肩を叩いた大熊先輩が顔を覗き込んできた。にんまり笑ってる。
「調度いいや、おまえも来いよ。基本つきあい悪いんだ、今日は逃がさねえ」
アッシュブラウンの髪を弄りながら、グレイのカラコン入れた今時イケメンがニッコリと笑った。
「もうさ! うるっさいよね、あのおっさん!」
「はいはい、もう三百回聞きました」
仙波が辛抱強く言いながら大熊先輩のおかわりを頼んでいる。
「ていうか絶対トシさば読んでると思わねーか? あきらか三十過ぎだろ、あのルックス」
「あ~、でも間違いなく二十一歳らしいですよ」
「えっマジ?」
大熊先輩と仙波の会話に、小松が割って入る。
「庄山さんって軽く二十五は行ってると……うっ!」
武田が小松の鼻っ面を邪険に押しのけつつ「黙っとけ」言い、愉快そうに「あはは」と笑うニヤケメガネは強そうな酒をグイグイ飲んでる。
そんでカシオレなめつつ、なんでこうなったかなあ、とぼんやり考えてた。
つまり執行部の会議で、大熊先輩は監察の庄山先輩にさんざんやり込められたのだ。
『だいたい新歓の時期に行方をくらまし後輩に丸投げするなど、部長の自覚が無いと言わざるを得ん! いい加減、女のことから頭を離せ!』
まったく正しい指摘である。その被害を真っ向から被ったの俺だし、諸手を挙げて賛成を表明したい。
しかも先輩は、その時期行ってた人妻との不倫旅行について、仲間内で自慢げに語っていたわけで、それが庄山先輩の耳に入ったわけで、そりゃ怒られるでしょう。てか俺だってイラッとするよ?
庄山先輩はそれだけで終わらせず、相手の人妻を突き止めて証拠写真まで突きつけたとかで、旦那にバラすことも出来るなんつって脅されたらしく、さすがの大熊先輩もヘラヘラしてらんなかったらしい。
『申し訳ありません』
土下座させられ、今後はちゃんと仕事すると誓う羽目に陥った、とか言ってるけど当たり前のことじゃんね?
なんだけど今日は先輩の慰労会つう名目で飲もうってコトになったらしく、そこに引っ張り込まれちまったわけ。
個人的には庄山先輩に大賛成なんだけど、今ココで先輩やりこめるのは、さすがにレッドランプ明滅するから黙ってる。てかちょい、気分転換になるかな、たまにはいっかな、なんて思ったし。
「つうかさ、彼女できたんだよな? 聞かせろよ。もうヤッたか?」
「は?」
武田に聞かれて、思わず「なんの話だよ」言いながらカシオレ一気飲みする。誤魔化すのに酒って便利だ。
それに水無月のことはシラフで考えたくない。
ここんとこ呼び出されたら水無月と会ってたし、別に隠してないから、そう思われてんのは知ってる。そんな風に聞かれたのも初めてじゃないし。
けど付き合ってるつもり無いわけで、それはマズイと思ってもいて。
『好きな人がいるのに、ありがとう』
あのとき微笑んで言った水無月の顔を思い浮かべると、ぶっとい針ブスブス突き刺されるみてーに胸が痛む。
だって分かるから。
自分の好きな奴に、他の好きな奴がいるっての、どういうことか。
その状態がかなりキツイってのも、俺には痛いほど分かる。つうか今その痛さ、俺以上に知ってる奴いるだろうかってくらい分かる。イヤもちろんいるんだろうけど、とにかく、自分がやってることサイテーだって思うわけで。なのにあの時微笑んだ水無月すげーって思うし、勝てねえなって思うし、ぶっちゃけ尊敬するレベルで。
水無月を好きになれば、きっとみんな丸く収まる、なんて事も考えた。けど尊敬はしてても、どうしても好きとかそういう感じにはならなくて、そんで言い訳じみたことばっか考えちまう。
最初のアレは勢いだけど水無月もOKしたし、とか。
その後も誘ってくるのは水無月の方だし、とか。
あれからエッチなこととかキスもしてねーし、とか。
考え始めると自己弁護がアタマん中うじゃうじゃ湧いて、そんな自分がイヤで、だから水無月のこと考えたくない。
「な~に彼女のこと考え込んでんだよ~」
バシッと小松に背中叩かれ、「えっ、女できたのかよ」大熊先輩が食いつく。
「どんな女だよ。カワイイか?」
すんげえ嬉しそうに言ってくる。あ~あ、こういう流れになるかやっぱ。頼むから話題に乗せてくれるなよ~。
「ヤったか? ヤったんだろ? どうだった? てか処女か? 俺処女とヤったことねえんだよ教えろよ!」
うわマジでサイテーだなこのヒト、という意志を隠さず横目を送ったが、大熊先輩はまったくめげずに「言えって!」と酔ってトロンとした目で言い続ける。
「ぼっくはあるよ~」
姉崎がヘラヘラくちを挟むと、「マジか!」とそっちへ食いついた大熊先輩にホッとする。
「でも幻想持たない方良いよ~、先輩」
「なんだよ」
「だって処女ってあんまり良くないって。面倒だしさ、やめといた方がイイよ」
うわこいつもサイテーだよ。知ってたけど。
「いやあ、でもよ~、初めての男になるっての、征服欲的な満足があるんじゃね?」
「それほどじゃないって。ていうか向こうの執着、ほんとに面倒だよ? むしろ年上で~、社会的地位があって~、プライド高い~とか、そういうのの方が満足感は高いんじゃない?」
「お~、おまえ! よし、ちょっとこっち来い、そこら辺詳しく聞かせろよ」
腕引っ張られて「あはは」とか言いながら大熊先輩の隣に行った姉崎は、クスクス笑いしながら先輩に耳打ちし、聞いてる先輩は、なにが面白いんだかゲラゲラ笑って、耳打ちし返したりして、笑いながらカパカパ酒飲んでる。
姉崎に席を奪われ、ようやく先輩のお守りから解放された仙波が隣に来て、ため息混じりにレモンチューハイにくちつけた。
「ああいう大人には、なりたくねえな~」
「…………うん」
思わず他人事みたいに苦笑して頷いたけど、胸には苦い後悔が渦巻いていた。
自分だって、たいして変わらないコトしてる。
そう思っちまったのだ。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
【R18】保健室のケルベロス~Hで淫らなボクのセンセイ 【完結】
瀬能なつ
BL
名門男子校のクールでハンサムな保健医、末廣司には秘密があって……
可愛い男子生徒を罠にかけて保健室のベッドの上でHに乱れさせる、危ないセンセイの物語 (笑)
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
鍵っ子少年のはじめて
Ruon
BL
5時45分頃、塾帰りのナツキは見知らぬ男の人に後をつけられていると知らずに帰宅した瞬間、家に押し入られてしまう。
両親の帰ってくるまで二時間、欲塗れの男にナツキは身体をいやらしく開発されてしまう。
何も知らない少年は、玩具で肉棒で、いやらしく堕ちていく─────。
※本作品は同人誌『鍵っ子少年のはじめて』のサンプル部分となります。
俺たちの××
怜悧(サトシ)
BL
美形ドS×最強不良 幼馴染み ヤンキー受 男前受 ※R18
地元じゃ敵なしの幼馴染みコンビ。
ある日、最強と呼ばれている俺が普通に部屋でAV鑑賞をしていたら、殴られ、信頼していた相棒に監禁されるハメになったが……。
18R 高校生、不良受、拘束、監禁、鬼畜、SM、モブレあり
※は18R (注)はスカトロジーあり♡
表紙は藤岡さんより♡
■長谷川 東流(17歳)
182cm 78kg
脱色しすぎで灰色の髪の毛、硬めのツンツンヘア、切れ長のキツイツリ目。
喧嘩は強すぎて敵う相手はなし。進学校の北高に通ってはいるが、万年赤点。思考回路は単純、天然。
子供の頃から美少年だった康史を守るうちにいつの間にか地元の喧嘩王と呼ばれ、北高の鬼のハセガワと周囲では恐れられている。(アダ名はあまり呼ばれてないが鬼平)
■日高康史(18歳)
175cm 69kg
東流の相棒。赤茶色の天然パーマ、タレ目に泣きボクロ。かなりの美形で、東流が一緒にいないときはよくモデル事務所などにスカウトなどされるほど。
小さいころから一途に東流を思ってきたが、ついに爆発。
SM拘束物フェチ。
周りからはイケメン王子と呼ばれているが、脳内変態のため、いろいろかなり残念王子。
■野口誠士(18歳)
185cm 74kg
2人の親友。
角刈りで黒髪。無骨そうだが、基本軽い。
空手の国体選手。スポーツマンだがいろいろ寛容。
【R18】黒曜帝の甘い檻
古森きり
BL
巨大な帝国があった。
そしてヒオリは、その帝国の一部となった小国辺境伯の子息。
本来ならば『人質』としての価値が著しく低いヒオリのもとに、皇帝は毎夜通う。
それはどんな意味なのか。
そして、どうして最後までヒオリを抱いていかないのか。
その檻はどんどん甘く、蕩けるようにヒオリを捕らえて離さなくなっていく。
小説家になろう様【ムーンライトノベルズ(BL)】に先行掲載(ただし読み直しはしてない。アルファポリス版は一応確認と改稿してあります)
同僚の裏の顔
みつきみつか
BL
【R18】探偵事務所で働く二十五歳サラリーマン調査員のフジは、後輩シマと二人きりになるのを避けていた。尾行調査の待機時間に、暇つぶしと称してシマとしごき合うようになり、最近、行為がエスカレートしつつあったからだ。
ある夜、一週間の張りつき仕事に疲れて車で寝ていたフジのもとに、呼んでいないシマがやってくる。そしてモブ男女の野外セックス現場に出くわして覗き見をするうちに、シマが興奮してきて――。
◆要素◆
イケメン後輩執着S攻×ノンケ先輩流され受。
同じ職場。入社時期が違う同い年。
やや無理矢理です。
性描写等は※をつけます。全体的にR18。
現代BL / 執着攻 / イケメン攻 / 同い年 / 平凡受 / ノンケ受 / 無理矢理 / 言葉責め / 淫語 / フェラ(攻→受、受→攻)/ 快楽堕ち / カーセックス / 一人称 / etc
◆注意事項◆
J庭で頒布予定の同人誌用に書く予定の短編の試し読み版です。
モブ男女の絡みあり(主人公たちには絡みません)
受は童貞ですが攻は経験ありです
◆登場人物◆
フジ(藤) …受、25歳、160cm、平凡
シマ(水嶋) …攻、25歳、180cm、イケメン
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる