意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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5.新体制と迷走

68.モヤモヤ

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 最近、単独行動が多くなってる。
(丹生田にくっついてらんない。なぜって……)
 原島と一緒の丹生田は、やっぱ心臓に悪くて、だからそういうのを見ないで済むように、視界に丹生田が入らないように、そんな理由で行動してる、てのもあるし。
(寮で見る丹生田は大丈夫なんだけど。つうかむしろベッタリくっついてたいけど。原島が傍にいなけりゃ平気てか)
 そんでもうひとつ。
 ココんとこ、あまり親しくないひとから声をかけられるようになってるけど、それはイイんだ。てか知り合い増えるのはイイことだし。じゃなくて、何人かの女の子に告られたりしたんだ。
 顔も知らない子も、知ってる奴もいて、んで、そんときに思ったのが
(なんだかなあ、面倒くせえなあ)
 だったりした自分にモヤッとしていたのだ。
 寮の奴に見られて色々言われたけどでも、ゼンゼン浮かれた気分になんてならなくて。
 てか高校ンときとかも告られたりってのはあって、やっぱ好かれりゃ嬉しいわけで、付き合うとかそういう感じじゃなくても、それなりに浮かれちゃったりはしたんだ、その頃は。
 でもなんでだか、今はまったく無くて。――――いや。
 なんでか、なんて考えるまでもないくらい良く分かってる。
(丹生田じゃないからだ)
 そんで、なぜこんなにモヤモヤするのか。
(姉崎と仲良いからだ)
 原島と付き合ってんのはもう、気にしたら負けな感じで考えないようにしてるのに、さらにつうかココんとこ、丹生田は姉崎の部屋によく行くようになってる。
 あそこ、執行部室はひとり部屋だし、テレビとか冷蔵庫とかあるわけだし鍵もかかるし、なんかやろうと思えば出来るわけで。
 姉崎はキスとかうまくて、性格はともかく顔とかイケてるわけで、そうだよ、顔だけなら女みたいにキレイなわけで。
 いや、原島がいるのに丹生田が姉崎とどうかなるとか、あり得ないとは思うけど、けどでも俺を排除してふたりでなんかやってるってのは事実で。
 だって焦れて姉崎の部屋に行ったとき、明らか慌てて離れたんだ。ふたりで寄り添ってた。てかほっぺたくっついてんじゃね? てくらい超近づいて、PCモニター覗き込んでて。
「なに見てたんだよ。俺にも見せろよ」
 気にしてない振りしてズカズカ入ってったのに速攻モニターの電源落として。
 隠してる感がすんげえイヤで、見せろって頑張ったんだけど、ふたりがかりで羽交い締めされて部屋からほっぽり出された。つか姉崎も丹生田もオレ程度ねじ伏せるくらい力あるし、抵抗しても空しいくらい勝てなくて、そのまんまカチャッとか鍵閉まる音が、めちゃショックで。
 扉をガンガン叩いて暴れたけど、いつの間にか出てきたみんなに押さえられて部屋まで連行されて、戻って騒いだけど、それでもドアは開かなくて。
 丹生田は、朝まで姉崎の部屋にいた。
 その日は朝メシも一緒に食わなかった。


 そんな理由もあって、前以上に大学内をウロウロすることが増えていた。
 マーケティング研、寮の総括、学部の講義も増えて、それ以外でも、声かければ気軽に話し、どこでも顔を出すのが藤枝拓海である。行動範囲は広がって、誰にでも話しかけるから、顔見知りもどんどん増えていく。
 どこへ行っても拓海は拓海らしい言動しかしないのだが、多くの男子の評価である『復活した無敵のうざキャラ』とは別の感想を持つものもいた。
 つまり良く笑うイケメンが素直で良い奴だ、という見方も確かにあるのだ。
 今まで常に丹生田や橋田が傍にいただけではなく、マーケティング研にも学部の講義にも賢風寮メンバーがいたため、接点を作りにくかったそんな見方をする者たちが、二年進級に合わせたように近寄ってきてるのも、彼の苛立ちを強めていた。
 さらに『ビジュアルアート研』。去年も来てたあのサークルが、再びつきまとってきてる。
 去年は一人だったのに、今年はなぜか増幅してて、何人かでリレーみたいに『モデルとして活動に参加しろ』とうるさいのだ。いでたち言動が特殊であるため、つきまとわれるコッチまで悪目立ちして、結果、本人は気づいてないが、拓海の容姿と名前を知る者が増えているのだった。


 そんなある日。
 ずいぶん上から目線な表情と声で
「ねえ、試しに付き合ってみない?」
 なんて、ロングヘア風になびかせ言ったのは、英文の香坂だった。シャツとジーンズつう、なんてことない服装だが、美人でスタイル良いからカッコ良い。てか昼時の学食前ってそこそこ人いるよ? なのにわざわざこんなトコで言い出す? とかって、ちょいビビる。
 一ヶ月ほど前かな、親しげに話しかけられたから、それまでまったく接点なかったし顔も知らなかったけど、今は知り合いだ。基本フレンドリーなので、声かけられれば普通に話すし、通常営業で話は盛り上がる。それが藤枝拓海クオリティーである。
「私とあなただったら身長もちょうど良いし、ルックス的にも合うと思わない?」
「え?」
 ニッコリ笑った香坂は、確かにカッコイイっちゃイイけども、付き合うのに身長とか関係あるの?
 ハテナな気分で思わず声返したけど、メシ食いに来たのに無駄な注目浴びてるこの状況はゼンゼン嬉しくないわけで、けどココで逃げるとか違う気もするし。
 通りがかっただけでココでメシ食う予定じゃ無かったんだけど、どうしよ、なんて思ってたら、いつでもどこでも厚顔無恥が通常営業の男が、朗らかな声をかけてきた。
「やっほ~、なにしてんの? ものすご~く目立ってるよ」
 知ってるつの、とか思いつつ睨んでやったが、「姉崎くん、邪魔しないでくれる?」と声を返したのは香坂が先だった。
 ニッコリの美人に、姉崎もニッと笑い返して少し首を傾げてる。
「せっかく告白してたのに」
 え、今のって告られてたの? そんな感じなかったんだけど?
「へえ? あなたって藤枝が好きだったの?」
 問われた香坂は、少し困ったように眉尻を下げ「どうかな」と笑った。
 うん、だよね、好かれてる感じ全くねえもん。てかふたりとも笑顔なんだけど、いうたら美男美女なんだけど、なんか怖え雰囲気なんですけどっ!
「お前ら知り合い……て、そうか、同じ英文だもんな」
 なんとか空気を緩和したくて出した声なんて聞こえてないみたいに、妙に怖い会話は続く。
「確かあなた、僕にも同じようなこと言ってきてたよね。あ~そっか、もしかして自分が付き合ってイイって選んであげたよ~、喜びなさ~いとか思ってるんじゃない?」
「ふうん? 姉崎くんって、私と釣り合うと思ってるの?」
 挑戦的に笑った香坂に、ハハッと声を上げ、姉崎がにこやかに返す。
「釣り合いってなに? 考えたこともないな。ああそうか、自分ってもんが無いから相手の価値で自分を確認したいとか、そういうこと思ってるのかな? 大変だよね~、自信持てない人って」
 え。てか香坂って自信満々じゃね? つうかお前ら、なんか雰囲気似てるよ?
 あきらかムッとした香坂がギッと姉崎を睨んだ。
「君ホント、むかつくよね」
 そこは激しく同意見、だけど!
「ははっ! よく言われるなあ。それでなんだけど、あなた誰だっけ」
 え、ココまで話してたのナニ!? とか混乱しながら「香坂じゃん、どしたよ」思わず言った。
「おまえの方がよく知ってるんだろ? 同じ学部だし」
 したらコッチ見て、姉崎はすごく嬉しそうに笑みを深めた。
「あ~そっか。藤枝って人の名前覚えるの得意だったよね」
「つかおまえだって無駄な情報きっちり覚えてんだろっ!」
「そこ誤解あるみたいだけどさ、僕って無駄なことは覚えないよ? たとえば興味持てない人の名前とかね」
 偉そうでいけ好かないのがデフォルトな奴だけど。
「……ホントむかつく」
 香坂が低くておっかない声出したんで、ギョッとして見ると英文科の美人はニッコリ笑ってた。
 なんか怖えええっ!!
 いやコレは香坂じゃなくてもむかつく! とか超納得しちまってはいるけどっ!
「いいね。ちょっと興味沸いたかな」
「あたしは興味失ったわよ」
 ニッと笑ってる姉崎を、低く呟いて睨みつけ
「ふん!」
 鼻を鳴らして、香坂は颯爽と去っていった。あ~、後ろ姿もカッコいいわ。なんて思いつつ見送り、ふと周囲を見回して、めちゃ人だかりが出来てる。やべやべ。
「ばっか、おまえTPO考えろよ」
「なんの? ていうかメシ食いに来たのにさ、面白そうだったんでつい」
 なんて言いながら学食にスタスタ入っていく。この場から逃げたい一心で、俺も後を追った。
 つうか姉崎には聞きたいことがあったし、ちょうど良いやって感じで。
(夜遅くまで、丹生田とナニしてんだよ)
 なぜか姉崎の部屋に遅くまでいた日の翌朝、丹生田は朝飯食わずに出ていっちまう。『メシ行こうぜ』とか声かけてもコッチ見ない。つうか明らか目を逸らす。
 なんかヘンなこと吹き込まれてんじゃねえの? とか気になって気になってしょうがねえけど丹生田に聞いてまた目を逸らされたりしたら軽く死ねるし、だからコイツに聞こうと思ってたけど、それはそれで教えてくれ的なことは言いたくなく、そんなんでめっちゃモヤモヤしてた。だからコレはチャンスだ。
 つっても姉崎が聞いてすぐ教えてくれるワケなんてねーし、なんつったら言うのかなとか考えつつ、日替わり定食にうどんつうトレイ持って姉崎の向かいに座る。
 いつも通りの恐るべき早さでカツカレーとラーメンをかっ込んでる姉崎に、箸持ちながら睨む目を向けると、ふふふ、なんて笑いやがって、やっぱいけ好かない。
「おまえさ」
「ん?」
「いや……」
 けどやっぱ、なんて言えばイイか困って口ごもる。アタマん中で駆け巡る言葉、どれとっても言いにくい内容ばっかだし、もうちょい考えタイム必要とばかり定食かっ込む。
 向かいから、ふふっ、とかものすごく楽しそうな笑い声がして、目を上げたら既にラーメン食い終えた姉崎が、箸をスプーンに持ち替えながらサラッと言った。
「健朗のこと聞きたいの?」
 ドキッとしちまいつつ思わず頷いた。
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