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4.藤枝
58.丹生田の剣道
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夏休み中は帰省するし保守部屋詰めしなくても良かったわけで、九月には金が入るから収入の心配は無くなるんだけど、だからって勝手にやめちゃイカンとか、丹生田なら当然そう思うわけで。宇和島先輩に相談した結果、九月中までは月金じゃなく週三日程度にして、十月からは保守部屋詰めの仕事から解放されることになった。
つまり二十四時から朝まで毎日ってわけじゃなくなったんで、無理に早寝しなくても良い日が増えたわけで、なんで丹生田は前ほど忙しくない。
つうか、丹生田が宇和島先輩に相談に行った時点で、既に剣道部から話が行ってたんだって。奨学金受けれることになったとか、稽古に集中させたいとか。
室谷先輩は元保守部長だしね。話が早かった。
夏休み中に聞いたんだけど、実は夏に全日本の大会があったんだって。んで、丹生田は出られなかった。
悔しそうに言ってたけど、しょうがねーと思う。入学してからバイトだの保守部屋の仕事だのあって、思う存分剣道できてなかったんだからさあ。
ともかく、剣道部じゃ夏の大会以降、丹生田の練習時間を確保するために動いたみたいなんだよね。
「ありがたいことだ」
丹生田はそう言ってた。
以前、なんで剣道始めたの、と聞いたことがある。
丹生田がこだわってる『西日本の奴』のこと、どうしても知りたかったから。
いつも通り訥々とした口調で、でもちょい目を細めて、丹生田は話してくれた。
小学校に上がる前、九州にいた丹生田は、親父さんの影響で剣道始めて、剣道クラブには仲良しもライバルもいた。けど小学三年のとき、親父さんの転勤で引っ越しちゃった。そんときライバルの奴と『絶対、また会おう』って約束したんだって。
「そいつとは全日本で会えた。それからも、中学、高校と、全日本で竹刀を合わせた」
つうか小学校からずっと全日本出てるってすごくね? とか感心したわけなんだけど。
「中学までは俺が勝つこともあった。だが、高校の試合では一度も勝てていない。あいつは強い」
「勝ちたいってコト?」
と聞いたら少し笑って頷いた。
高校の最後の大会で、試合が終わってからそいつが寄ってきて言ったんだって。
『負けっ放しのくせに、ねちっこいなあ、おまえ』
丹生田は『大学では勝つ』って返した。そいつは『待っててやるよ』つって笑った。
「あいつは、本当に強い」
そう言った丹生田の目は、ちょいギラッとしてカッコ良くて、悶えそうなの抑えるのに苦労した。
ちなみに夏の全日本にはその九州の奴が出てきてて、かなり良い線行ったらしい。
先輩とかの応援で試合見に行ったのに、丹生田はそいつに会わなかったんだって。
「あいつに会うのは、開始線に立つときだけだ」
つまり、試合以外では会わないってコトだ。
原島は、丹生田が全日本に出るのって簡単じゃねーって言ってた。けど丹生田は、西日本の奴と大学で会うって、その為に七星に来たって言ってたんだ。それってつまり、大会で会うってコトだ。そこで闘うってコトだ。
だから団体戦と新人戦で結果出して、秋とか冬は絶対出たいってトコだろう。丹生田はなんも言わねーけど、めっちゃやる気燃やしてる感じ。
いま頑張りどこなんだろな、つうのはビンビン感じる。じゅうぶん練習出来る環境になって、メシと寝る時間以外、全部剣道してる。余った時間をダラダラ過ごすなんてこと、丹生田はしないのだ。稽古はもちろん、ロードワークとか筋トレとかストレッチとか、びっしりやってる。
そもそも今回、剣道部が動いたのは、丹生田を全国に行かせるためってコトだろ? 入学当初から『全国に行かねば』って言い続けてたけど、きっとそれだけじゃないよな。期待されてんだ。
秋にある全国の団体戦と関東の新人戦に出て、結果を残せるかどうか、つうのが、冬の全日本オープン大会には出るために必要なステップなんだって。
だからあんま色々言っちゃマズイ感じで、部屋に戻ってきたらストレッチ一緒にやったりとか、メシとか風呂とか誘うくらいにして。
でもまあ、ジムに行ってみたりはした。ホテル生活でやったジムトレーニングが、ちょい面白かったしさ。
つか……えーっとつまり、球技とかは別のトコに集まってて、体育棟は剣道、柔道、合気道、空手とかの道場なんかが集まってるんだよね。他にも卓球とかフェンシングとか、レスリング場とか。ボクシングなんてリングもあってすげえって聞いた。見てないけど。
そんでウェイトトレーニングや、マシンジムなんかも整備されてて、シャワー室完備。地下二階、地上四階、かなりビシッとした施設なわけ。
マシンジムはいつも、運動部の連中がスケジュール組んで使うから、一般学生が予約もせずに使うなんて無理なんだけど、今は夏休み中だからか、フラッと行っても走るやつとか重いやつとかのマシンが空いてるってわけで。
まあ……ついつい体育棟にフラフラ行っちまって、けど剣道場まで上がるってのはちげーし、そもそも見学許されるか分かんねーのに丹生田煩わせるとかぜってーダメだし、けど二階に上がる階段見てため息ついて、なんてのもバカみてーだし。
んで地下のジムに行っといた、つう。
つうかさ! あの寮ってエアコンねーし風通しわりーし、じっとしててもじっとり汗だくになるし、つまりずっと部屋にいるとかありえねーわけで、図書館でレポート作るとかファミレス行くとか、そんなんよりジムの方が生産的っつか夏休みぽい、つか――
――――まあ、逢えるんじゃねーかな、とか、ちょい思ってはいた。
どういうタイミングでトレーニングに来て、どんなマシン使うとか、ゼンゼン分かんねえけど、もし来たら偶然だな~的な感じで声かけりゃ良いじゃん? んでもって汗流すとこ見てられるかも~、なんてコト
(思ったよ! つか狙ったよ! 悪いかっ!)
なんてキレ気味に開き直って、ガンガン走ってたわけで。
(くっそー! 実家じゃチャリ乗りまくってたのに~、こっち来てそういうのやってねーしな~)
あんま運動してねーから、すぐへばった。走るマシンから足外して、「ぶへぇ~」なんつってゼイゼイやってたら
「だから筋力も持久力も問題無いよ」
誰か入ってきた。けどそっち見る余裕も無い感じで、息整えるのに必死になってた。
「いっそクタクタになって、なにも考えられないくらいになった方が良いんじゃない?」
「……しかし」
耳がぴくん、と、したかも。
だって丹生田の声だ。
マシンの数もかなりあるし、夏休み中ったってけっこう人いるし、ざわざわしてる感じもある。けど丹生田の声を聞き違えるわけ無い。
「考えすぎなんだよ。それより思わず動いちゃう感じ、そういうの作っていく方が」
顔上げると、原島が丹生田の腕をつかんでて、丹生田は少し困った顔になってた。なのに原島はやめない。
「頭で考えてから動くから一瞬遅いんだって。アンドウマサヤは天才肌だもん、あれに対抗するなら」
「それくらいにしとけよ、うるせえ」
他の男子が言って、原島はムッとした顔で言い返す。
「うるさいってなによ。丹生田君に必要なのは筋トレより反復練習、実戦だよ」
「アホか。そんなん分かってんだよ」
「だからって、ずっと先輩にかかり稽古付き合ってもらうわけに行かねえだろ」
「コイツなりに、ずっとやってんの見てただろうが」
「見てたけど! でも!」
男子たちがよってたかって原島を責めてる。すると丹生田は「いいんだ」と低く声を出した。
「原島は実力あるから、俺なんぞ穴だらけに見えるんだろう」
「つっても先輩ならまだしも、女子に言いたい放題言わせといていいのかよ」
「……まだ頑張り足りないと気づかせてくれている。むしろありがたい」
「おまえなあ……」
呆れたみたいに言われても丹生田は気にしてない。原島をじっと見てきっちりアタマ下げた。
「ありがとう」
原島はくちを閉じ、少し俯く。
「つうかおまえ、自分のことやれよ」
丹生田の横の男子が言った。
「筋力と持久力つけろって言われてんだろーが」
「ねえ、あやな、行こうよ」
女子に腕を引かれて、原島は俯いたまま丹生田から離れ、コッチに向かってきた。床にへたったまま、なんとなく身を隠したりして。だって丹生田見てたいし。
丹生田は男子と一緒に隅にある器具へ向かう。器具にうつぶせになって足を引っかけ、ぐぐっと背を反らせ、顎を上げた。うわめっちゃカッコイイ! 背筋だよな?
そのまましばらくキープして、ゆっくりと身体を落としていく。原島はチラチラ丹生田見ながらちょい離れたマシンに乗り、黙々と走り始めた。
勝ち気そうな顔で、前を睨んでる。
丹生田も他の連中も、真剣な顔で身体動かしてて。
なんか、自分なんか入ってっちゃマズイ感じ満々だった。
*
「やっほ~、久しぶり」
大学の講義が始まる九月アタマ、朝の食堂で、当たり前みたいに同じテーブルに来た姉崎に、イラッときて睨む目を向ける。
「なんで来んだよ」
「自由席だし~。ていうかやっぱり暑いよね~、真剣にエアコンの導入考えるべきだよ~。……で、どうしたの」
「なにが」
姉崎をキツく睨む。けどいつものイラつく笑顔キープしてるし。
「だってひとりなんて珍しいじゃない」
「ほっとけよバカ」
だって橋田はまだ寝てるし、丹生田は朝練からまだ戻ってないのだ。しょうがねーじゃん。
今までも時間が空けば稽古とか筋トレとかしてたけど、このところ道場での稽古を増やしてる。夏休み中、丹生田が見学申請してくれて何度か見たけど、ひたすら誰かと打ち合って、前後に飛びながら素振りしたりしてて、ちょい鬼気迫る感じで、ゼンッゼン話しかけるとか無理で。
部屋に帰って来た丹生田と風呂行ったりメシ食ったりの時間が、唯一の会話って感じだったんだけど、最近は朝練からどっかで食って、寮に戻らず稽古続けてるっぽい。風呂も入らねーから、体育棟のシャワーで済ませてんだろうと推測はした。
丹生田は必死になってる。応援したいけどなんも出来ねーし邪魔なんてしたくない。それに暇があると余計なこと考えて落ちるし、そんな自分にイラッとするし。
だから決めた。
自分は自分で頑張る。丹生田に負けないくらい頑張って、勉強する。
目標は違っても、なんか置いてかれたくない感じで、でもなにやるなんて考えつかなくて。
だから勉強することにした。そんで総括の仕事もちゃんとやる。
なにが出来るか分かんねえ。だから今出来ることを目一杯。それしかできねえんだもん。
だってさ、今のままじゃゼンゼンだめだめだもん。応援たって緩すぎつうか。でもなんかあったとき、少しでも丹生田の役に立てるようになっとかねーと。
(じゃねーと俺、丹生田のそばにいられねえ)
つまり二十四時から朝まで毎日ってわけじゃなくなったんで、無理に早寝しなくても良い日が増えたわけで、なんで丹生田は前ほど忙しくない。
つうか、丹生田が宇和島先輩に相談に行った時点で、既に剣道部から話が行ってたんだって。奨学金受けれることになったとか、稽古に集中させたいとか。
室谷先輩は元保守部長だしね。話が早かった。
夏休み中に聞いたんだけど、実は夏に全日本の大会があったんだって。んで、丹生田は出られなかった。
悔しそうに言ってたけど、しょうがねーと思う。入学してからバイトだの保守部屋の仕事だのあって、思う存分剣道できてなかったんだからさあ。
ともかく、剣道部じゃ夏の大会以降、丹生田の練習時間を確保するために動いたみたいなんだよね。
「ありがたいことだ」
丹生田はそう言ってた。
以前、なんで剣道始めたの、と聞いたことがある。
丹生田がこだわってる『西日本の奴』のこと、どうしても知りたかったから。
いつも通り訥々とした口調で、でもちょい目を細めて、丹生田は話してくれた。
小学校に上がる前、九州にいた丹生田は、親父さんの影響で剣道始めて、剣道クラブには仲良しもライバルもいた。けど小学三年のとき、親父さんの転勤で引っ越しちゃった。そんときライバルの奴と『絶対、また会おう』って約束したんだって。
「そいつとは全日本で会えた。それからも、中学、高校と、全日本で竹刀を合わせた」
つうか小学校からずっと全日本出てるってすごくね? とか感心したわけなんだけど。
「中学までは俺が勝つこともあった。だが、高校の試合では一度も勝てていない。あいつは強い」
「勝ちたいってコト?」
と聞いたら少し笑って頷いた。
高校の最後の大会で、試合が終わってからそいつが寄ってきて言ったんだって。
『負けっ放しのくせに、ねちっこいなあ、おまえ』
丹生田は『大学では勝つ』って返した。そいつは『待っててやるよ』つって笑った。
「あいつは、本当に強い」
そう言った丹生田の目は、ちょいギラッとしてカッコ良くて、悶えそうなの抑えるのに苦労した。
ちなみに夏の全日本にはその九州の奴が出てきてて、かなり良い線行ったらしい。
先輩とかの応援で試合見に行ったのに、丹生田はそいつに会わなかったんだって。
「あいつに会うのは、開始線に立つときだけだ」
つまり、試合以外では会わないってコトだ。
原島は、丹生田が全日本に出るのって簡単じゃねーって言ってた。けど丹生田は、西日本の奴と大学で会うって、その為に七星に来たって言ってたんだ。それってつまり、大会で会うってコトだ。そこで闘うってコトだ。
だから団体戦と新人戦で結果出して、秋とか冬は絶対出たいってトコだろう。丹生田はなんも言わねーけど、めっちゃやる気燃やしてる感じ。
いま頑張りどこなんだろな、つうのはビンビン感じる。じゅうぶん練習出来る環境になって、メシと寝る時間以外、全部剣道してる。余った時間をダラダラ過ごすなんてこと、丹生田はしないのだ。稽古はもちろん、ロードワークとか筋トレとかストレッチとか、びっしりやってる。
そもそも今回、剣道部が動いたのは、丹生田を全国に行かせるためってコトだろ? 入学当初から『全国に行かねば』って言い続けてたけど、きっとそれだけじゃないよな。期待されてんだ。
秋にある全国の団体戦と関東の新人戦に出て、結果を残せるかどうか、つうのが、冬の全日本オープン大会には出るために必要なステップなんだって。
だからあんま色々言っちゃマズイ感じで、部屋に戻ってきたらストレッチ一緒にやったりとか、メシとか風呂とか誘うくらいにして。
でもまあ、ジムに行ってみたりはした。ホテル生活でやったジムトレーニングが、ちょい面白かったしさ。
つか……えーっとつまり、球技とかは別のトコに集まってて、体育棟は剣道、柔道、合気道、空手とかの道場なんかが集まってるんだよね。他にも卓球とかフェンシングとか、レスリング場とか。ボクシングなんてリングもあってすげえって聞いた。見てないけど。
そんでウェイトトレーニングや、マシンジムなんかも整備されてて、シャワー室完備。地下二階、地上四階、かなりビシッとした施設なわけ。
マシンジムはいつも、運動部の連中がスケジュール組んで使うから、一般学生が予約もせずに使うなんて無理なんだけど、今は夏休み中だからか、フラッと行っても走るやつとか重いやつとかのマシンが空いてるってわけで。
まあ……ついつい体育棟にフラフラ行っちまって、けど剣道場まで上がるってのはちげーし、そもそも見学許されるか分かんねーのに丹生田煩わせるとかぜってーダメだし、けど二階に上がる階段見てため息ついて、なんてのもバカみてーだし。
んで地下のジムに行っといた、つう。
つうかさ! あの寮ってエアコンねーし風通しわりーし、じっとしててもじっとり汗だくになるし、つまりずっと部屋にいるとかありえねーわけで、図書館でレポート作るとかファミレス行くとか、そんなんよりジムの方が生産的っつか夏休みぽい、つか――
――――まあ、逢えるんじゃねーかな、とか、ちょい思ってはいた。
どういうタイミングでトレーニングに来て、どんなマシン使うとか、ゼンゼン分かんねえけど、もし来たら偶然だな~的な感じで声かけりゃ良いじゃん? んでもって汗流すとこ見てられるかも~、なんてコト
(思ったよ! つか狙ったよ! 悪いかっ!)
なんてキレ気味に開き直って、ガンガン走ってたわけで。
(くっそー! 実家じゃチャリ乗りまくってたのに~、こっち来てそういうのやってねーしな~)
あんま運動してねーから、すぐへばった。走るマシンから足外して、「ぶへぇ~」なんつってゼイゼイやってたら
「だから筋力も持久力も問題無いよ」
誰か入ってきた。けどそっち見る余裕も無い感じで、息整えるのに必死になってた。
「いっそクタクタになって、なにも考えられないくらいになった方が良いんじゃない?」
「……しかし」
耳がぴくん、と、したかも。
だって丹生田の声だ。
マシンの数もかなりあるし、夏休み中ったってけっこう人いるし、ざわざわしてる感じもある。けど丹生田の声を聞き違えるわけ無い。
「考えすぎなんだよ。それより思わず動いちゃう感じ、そういうの作っていく方が」
顔上げると、原島が丹生田の腕をつかんでて、丹生田は少し困った顔になってた。なのに原島はやめない。
「頭で考えてから動くから一瞬遅いんだって。アンドウマサヤは天才肌だもん、あれに対抗するなら」
「それくらいにしとけよ、うるせえ」
他の男子が言って、原島はムッとした顔で言い返す。
「うるさいってなによ。丹生田君に必要なのは筋トレより反復練習、実戦だよ」
「アホか。そんなん分かってんだよ」
「だからって、ずっと先輩にかかり稽古付き合ってもらうわけに行かねえだろ」
「コイツなりに、ずっとやってんの見てただろうが」
「見てたけど! でも!」
男子たちがよってたかって原島を責めてる。すると丹生田は「いいんだ」と低く声を出した。
「原島は実力あるから、俺なんぞ穴だらけに見えるんだろう」
「つっても先輩ならまだしも、女子に言いたい放題言わせといていいのかよ」
「……まだ頑張り足りないと気づかせてくれている。むしろありがたい」
「おまえなあ……」
呆れたみたいに言われても丹生田は気にしてない。原島をじっと見てきっちりアタマ下げた。
「ありがとう」
原島はくちを閉じ、少し俯く。
「つうかおまえ、自分のことやれよ」
丹生田の横の男子が言った。
「筋力と持久力つけろって言われてんだろーが」
「ねえ、あやな、行こうよ」
女子に腕を引かれて、原島は俯いたまま丹生田から離れ、コッチに向かってきた。床にへたったまま、なんとなく身を隠したりして。だって丹生田見てたいし。
丹生田は男子と一緒に隅にある器具へ向かう。器具にうつぶせになって足を引っかけ、ぐぐっと背を反らせ、顎を上げた。うわめっちゃカッコイイ! 背筋だよな?
そのまましばらくキープして、ゆっくりと身体を落としていく。原島はチラチラ丹生田見ながらちょい離れたマシンに乗り、黙々と走り始めた。
勝ち気そうな顔で、前を睨んでる。
丹生田も他の連中も、真剣な顔で身体動かしてて。
なんか、自分なんか入ってっちゃマズイ感じ満々だった。
*
「やっほ~、久しぶり」
大学の講義が始まる九月アタマ、朝の食堂で、当たり前みたいに同じテーブルに来た姉崎に、イラッときて睨む目を向ける。
「なんで来んだよ」
「自由席だし~。ていうかやっぱり暑いよね~、真剣にエアコンの導入考えるべきだよ~。……で、どうしたの」
「なにが」
姉崎をキツく睨む。けどいつものイラつく笑顔キープしてるし。
「だってひとりなんて珍しいじゃない」
「ほっとけよバカ」
だって橋田はまだ寝てるし、丹生田は朝練からまだ戻ってないのだ。しょうがねーじゃん。
今までも時間が空けば稽古とか筋トレとかしてたけど、このところ道場での稽古を増やしてる。夏休み中、丹生田が見学申請してくれて何度か見たけど、ひたすら誰かと打ち合って、前後に飛びながら素振りしたりしてて、ちょい鬼気迫る感じで、ゼンッゼン話しかけるとか無理で。
部屋に帰って来た丹生田と風呂行ったりメシ食ったりの時間が、唯一の会話って感じだったんだけど、最近は朝練からどっかで食って、寮に戻らず稽古続けてるっぽい。風呂も入らねーから、体育棟のシャワーで済ませてんだろうと推測はした。
丹生田は必死になってる。応援したいけどなんも出来ねーし邪魔なんてしたくない。それに暇があると余計なこと考えて落ちるし、そんな自分にイラッとするし。
だから決めた。
自分は自分で頑張る。丹生田に負けないくらい頑張って、勉強する。
目標は違っても、なんか置いてかれたくない感じで、でもなにやるなんて考えつかなくて。
だから勉強することにした。そんで総括の仕事もちゃんとやる。
なにが出来るか分かんねえ。だから今出来ることを目一杯。それしかできねえんだもん。
だってさ、今のままじゃゼンゼンだめだめだもん。応援たって緩すぎつうか。でもなんかあったとき、少しでも丹生田の役に立てるようになっとかねーと。
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