上 下
7 / 18

なにしに来たんだろ

しおりを挟む
 それぞれ風呂入って散歩出たりして、七時過ぎた頃メシの用意出来たって鈴木が来て、みんなで食堂に行った。
 朝飯食ったら、おもむろにみなさまキリキリ働きはじめる。
 段取りイイし昨日と違って、それぞれ得意分野らしいトコで忙しそうにしてる。
 みなさま偉い。この場に限っては姉崎も偉い。ほぼ大田原先輩の助手だけど、動きに無駄ないし、だてに元施設部じゃないって感じ。やればできるんだよな、コイツ。なんであんなに部屋汚ねーんだ?
 渡り廊下の採寸してた丹生田が、姉崎に近寄ってなんか言ってる。姉崎はニッと笑ってなんか言う。丹生田がなんか言い返したら姉崎はサムズアップで機嫌良さそうに笑った。丹生田もちょいニヤッとか。
(なに話してんのかな)
 あの二人って仲良いんだよな。
(……なんかやだ)
 けどそんなの気にしてらんねえ。俺ってココでは役立たずだから、少しでも動いて雑用こなす。
(……なにしてんだろ俺)
 だってコレって、掃除のお返しな感じで旅行だったんじゃねえの?
 モルジブは無理でも北海道行こうぜって話だったよな?
 丹生田と二人で旅行なんだ! とかって盛り上がった、アレはなんだったんだ?
 つか、むしろいつもより丹生田と話せてねえつか、せっかく帰省しないで寮に残ったのにさ。せっかく二人部屋な感じ満喫だと思ったのにさ。いや部屋は暑くてずっと二人でいるとか無理なんだけど、でもでも、なんかもっと、二人の思い出的なもんが欲しかったつうか。
 なにしにこんなトコまで来たんだろ俺。いや先輩たちと一緒も楽しいんだけど。
 そんでも、こんなはずじゃ無かったー! 的な思いが溢れそうになり、ハッとしてせめてキリキリ働いて役に立たねーと、と自分に言い聞かせてた。

 十時過ぎて、鈴木のお兄さんがやってきた。
 メガネかけててちょい太ってて三十くらいに見えるけど、ああ鈴木と同じ血筋だって分かる。マジそっくり。
「お待たせしました。軽トラ出します」
 渡り廊下の改造のために必要な資材の買い出しらしい。
「お願いします」
 大田原先輩と姉崎の他、ガタイ良いのが選ばれて出かけた。ありゃ荷物運び要員だな。とかいって、当然そん中に丹生田も入ってるわけで。
 ああ、行っちまう~、とか思いながら切なく見送る俺。
 けどやることはごまんとあるわけで。俺はせっせと働くわけで。
 乃村先輩の指示の元、残ったみんなで渡り廊下を掃除したり、作業箇所にヤスリかけたり補修しておいたり、地道で手間かかる仕事だけど、コレやっときゃすぐ作業にかかれるってんで、きっちりやる。
 会長なんてどうかなソレ、細かすぎじゃね? と思うくらい拘ってやってるし。
 そんで一時間ちょいくらい経った頃、大田原先輩の声が聞こえてきた。
「おーい、手伝ってくれー」
 なんと窓のサッシ持ってる。うわー窓だけってなんかシュール。
「おお、そろったのか」
 新山先輩が声かけると、大田原先輩がニッコリ答える。
「お兄さんが廃材屋に連れてってくれて、そこにごっそりあったんだよ。程度の良い奴選べて、しかもタダ同然だ」
「でかした」
 次々と運び込まれるサッシ窓を、俺らが渡り廊下へ運ぶ。
 そのまま取り付け作業が始まり、雑用要員もそれなりに忙しくなる。
 すると姉崎が「ねえ、パテとか用意した方が良くない?」と大田原先輩に聞いている。
「ちょっと歪んでるのもあるし」
「そうだな、あれば何かと使えるだろ。ああ、そんなら網戸のネットと枠も買ってこい」
「いくつ?」
「予備含めて五組もありゃ良いだろ」
「了解」
 先輩相手とは思えない馴れ馴れしい口調はいつも通り。なのだが
「じゃあ二年生の二人、しもべとして連れてってイイ?」
 続いた台詞にカチンときた。
「はあ? シモベってなんだよっ!」
「好きにしろ」
 けど俺の抗議は大田原先輩の了承と新山先輩に渡された金により、スッキリ黙殺される。
「俺は行かねーぞっ! 誰が……」
「行くぞ藤枝」
 文句言ってやろうとしたけど、丹生田に腕つかまれて黙る俺ってめっちゃ安い。
 駐車場まで腕つかんだままぐいぐい引っ張ってく横顔見ながら、考えたら一緒に出かけるってレアじゃん! とか機嫌直るって、まるっきりバカだなあ、とか我ながら思う。
 でもいいや。ちょい楽しいぜ。

「はい二人とも、僕の素晴らしい愛車に乗せてあげよう~。おとなしく後部座席につきたまえ」
「うっせ!」
 とか言いながら、丹生田と並んで座れるんだ~、とかウキウキ乗り込んだ。
 だって来る時は助手席と後部座席に分かれてたし、その後一緒に出かけるとか無かったし。バカンスって感じじゃねえけど、もういいや。
 ちっさな幸せを俺は享受するのだ。
「どこまで行くんだ?」
 車がスムーズに発進すると、丹生田が声をかける。
「登別の駅前とか行けばホームセンターくらいあるでしょ。無かったら室蘭あたりまで行ってもいいし」
「そうだな。苫小牧まで行けば確実だろう」
「おお~、苫小牧まで行けと言うわけね? 策士~」
「黙って運転しろ」
「は~い」
 丹生田と姉崎の会話は全く意味が分からなかったので、俺は黙って聞いてた。
 姉崎の車は外車だ。乗り心地良いし、馬力もある。
 服とか持ち物とか、なにげにコイツ金持ちっぽい。んで「所詮、平民だよね」的なイヤミになりそうなことを普通に言う。そしてそれがサマになる。むかつく奴だぜ。
 顔も良いし、鍛えててパワーあるし、客観的に見てかっこいい。なんだかんだ先輩にも後輩にも人気あるし、偉そうでいつもヘラヘラしててむかつくけど、ホントはそこまでヤな奴じゃないのも知ってる。
 あああ、やだな、なんでコイツ相手だと俺こんな卑屈っぽいんだ?
「健朗、約束の報酬って~」
 姉崎が運転しながら言うと、丹生田はうっそりと返した。
「なんで報酬だ? 俺は相殺してやると言ったんだ」
「ははっ! そうね、うん、了解~」
 なんの話だ? と隣に目をやると、丹生田もちょいニヤッとしてる。俺には分かるって程度の笑みだけど、機嫌良さそう。
 ―――そうか、丹生田と仲良いからだ。
(うあー、俺ってちっちぇー)
 ずずーん落ち込む。
 つうか丹生田が絡むと俺って冷静じゃないよな。イカンイカン、海より深く反省する。姉崎がいけすかないなんて今に始まったことじゃねえのにさあ。
「……どうした、藤枝」
「えっ、いや」
 丹生田の声に、慌てて顔上げた。ちょっと心配そうな顔してる。
「なんでも……」
「本当か」
 真剣に顔をのぞき込まれた。近い近い顔近いっ! つうか、いやいやいや、こんな顔させちゃダメっしょ!
 なんで俺はニカッと笑い返した。
「うん、マジマジ! なんでもねえよっ!」
「なーになにイチャイチャしてんの君ら」
 運転席から飛んできたニヤケ声にどっと汗が出る。
「ばっ……!」
 この野郎! なに言い出すんだっ! 丹生田がせっかく優しいのに!!
「ばっか!! ヘンなこと言うな!」
 気まずくなったらどうしてくれんだよっ!!
「ホント藤枝って小学生みたいだよね~」
 ヘラヘラしやがって! マジでむかつくっ!!
「姉崎、いい加減にしろ」
「了解~」
 くっそー! 姉崎って基本あまのじゃくなくせに、丹生田の言うことなら素直に聞くってなんなんだよっ、むかつくっ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...