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Ep4.最後の晩餐、キンキの晩餐、シメの雑炊
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しおりを挟むぎょろりと大きな目玉に鮮やかな赤い姿。がくんと顎が外れている様は、煮込まれた苦悶の表情のようで、なんとも食欲がでない。捌いてあればまだいいのだが、姿そのままとなると、玖琉もアオイも気が引けてしまうようだ。
咲空方面から届く無言の圧力に耐えかね、おそるおそる身をひとつ、掬う。鮮やかな赤色はどこへ来たとばかりに真白い身は分厚く、光を反射してとろりと輝くことから脂がのっていそうだ。
「うん……あれ……?」
口に運べば、これが意外と、甘い。キンキの目玉を真似たのかというほど玖琉の目も丸くなる。
「脂っこいだけじゃない、キンキってこんなに甘かったのか」
玖琉の反応を見てアオイも一口。予想外に美味しかったらしく口元が緩んだ。
「本当だ、甘いですねぇ。ふわっとした魚の身も美味しい。口の中でほろほろ溶けてくみたいです」
「湯煮は新鮮な魚でないとできない調理方法で、でもその魚が持つ味そのものを楽しめる食べ方だと思います。まだ少し時期は早いですが、お店にいいのがあったので湯煮にしました」
「僕としては醤油かけたら美味しいだろうなって。もう少ししょっぱい方が好きかもしれません」
「昆布と少しの塩で煮ているだけなので、醤油をかけた方が美味しいですね。何を使うかは人それぞれで、ウスターソースを使うところもあるらしいです。父は醤油派ですが、私はポン酢派ですね」
アオイと玖琉はそれぞれ醤油やポン酢をかけてもう一度食べる。醤油は淡泊で甘みのあった味が引き締まり、ポン酢は脂ののった身をさっぱり爽やかにさせる。
「キンキだけでなく、どの魚もですが――捨てる部位はほとんどありません。頭は骨が多いけれど、目玉の裏や頬の肉など絶品です。頭だけを煮て食べる人もいますからね」
「そういえばごっこの時も、捨てる部分はほとんどなかったですね」
「はい。美味しい恵みを無駄にしない。母から受け継いだものです」
それを聞いて、玖琉はキンキの頭に箸を伸ばす。コリコリとした目玉と、その裏にある皮。頬の肉はわずかしかないものの、ぷるぷると柔らかく、口中で溶けるような食感だ。
「……悔しいけど想像以上です。見かけに騙されたけれど、とても美味しい」
「キンキは食べたことあったけど湯煮は初めてだ。なんかこれ、日本酒とかビール飲みたくなる。やっぱ咲空のご飯は最高だな」
そんなアオイと玖琉を見て、咲空の父がくすりと笑った。初めて食べるものに感激する二人に堪えきれなくなってしまったらしい。
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