郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり

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Ep4.最後の晩餐、キンキの晩餐、シメの雑炊

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 葉は赤や黄色を纏い、葉がゆらゆらと流れる秋の昼。咲空を乗せた車は高速道路 道央道どうおうどうを走っていた。
 運転席にはアオイ。助手席には咲空――のはずが、そこにいるのは玖琉である。寂しく後部座席に座っているのが咲空だ。月寒あんぱんを詰め込んだいつものボストンバックが隣に置いてある。

(……玖琉まで巻き込んでしまった)

 咲空の頭に浮かぶのは後悔だ。人間嫌いを治すはずが、まさか紋別に帰るとは。

「咲空。まさかと思うが、紋別やせたなに行った時は助手席に座っていたのか?」

 車が走り出してしばらく無言が続き、やっと喋ったと思えば玖琉の声音は不機嫌がにじみ出ていた。そして質問の理由も謎である。咲空は首を傾げながらも答える。

「そうだけど……何か問題あった?」
「……いや、いい」

 答えたのにその反応では何のために訊いたのか。咲空にはわからなかったが、アオイには伝わっていたらしい。

「はは、なるほど。玖琉も大変ですねぇ。何なら次のパーキングエリアで運転を代わりましょうか? 僕、後部座席で寝てますよ」
「お前は黙って運転してろ」

 それはひどい、とアオイが呟いて会話が終わる。アオイも玖琉も口数が少ない。

 車はまだ旭川あさひかわにもついていないというのに車中の空気は最悪だ。これなら一人で紋別へ向かった方が気楽である。この重たい空気を払拭できないかと悩みながら、咲空は二人に訊いた。

「二人は蝦夷神様……なんですよね」
「そうですね。玖琉は英雄神アイヌラックル」

 アオイが答えている間、玖琉はそっぽを向いていた。氷のように冷たい、こんな態度をとる玖琉は初めて見る。今までは穏やかに話せる春のような関係だったのに、今は冬のように厳しく冷たく、心も閉ざされてしまったようだ。

「玖琉のお父さんが雷神様……ですよね」
「うん。正解だよ」
「で。アオイさんは?」
「ははーん。それは秘密。内緒事たくさんある男の方がミステリアスでモテるので」
「……それはちょっとわかりませんけど。じゃあ玖琉から聞き出します。ねえ、玖琉?」
「…………」

 咲空がどう声をかけても玖琉は答えない。気まずくて仕方ない。
 高速道路を使っているので今回は三時間半ほどで紋別に着くだろうが、体感時間はもっと長い。早く到着して重苦しい車内から逃げ出したいと、咲空はため息を吐いた。いっそのこと眠ってしまいたい。そういう時に限って、眠気はあまりないのだが。

 道央道を比布まで走ると、旭川紋別道への分岐がやってくる。そのまま道央道を走れば士別しべつ剣淵けんぶちへ、旭川紋別道に入ると遠軽えんがる経由で紋別に向かうことになる。咲空の実家に行くのなら、浮島うきしまICで降りて紋別入りするのが早いだろう。

 春に一度来ているからか、アオイは咲空ナビなしでも迷わず進んでいく。どんより重たい空気が流れる車中で言葉を交わすのが面倒だったのかもしれない、いつもならば旅のお供に食べている大好物の月寒あんぱんでさえ手をつけていなかった。

***
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