郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり

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Ep3.親子熊の涙もぬかぼっけも塩辛い

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***

 翌朝。すっかり酒も抜けたアオイがハンドルを握る。早々に酔いつぶれて寝てしまったためか、睡眠時間たっぷりで元気いっぱいだ。後部座席の井上も笑顔である。

「……みんな元気そうでよかったです」

 疲れているのは咲空だけだ。というのもあれから大変だったのだ。アオイが残したビールを飲み、空き缶を片付け、荷物を持って男子部屋に移動した。それから男子部屋にあったアオイの荷物を女子部屋に運び――子供だけで寝かせるわけにはいかないと決断しての大移動である。起きても体は疲れていた。

「サクラちゃんは二日酔い? 僕は気が付いたらサクラちゃんの部屋で寝ていましたが元気ですよ」
「……ツッコミする気力ないので二日酔いってことにしてください」

 車は走り出す。目指すはせたな町大成区だ。
 瀬棚区は北側に。北檜山区は中央、大成区は南側に位置している。この大成区に咲空の親戚たちも住んでいる。本日の宿も大成区の宿泊施設に予約を入れていた。

「私は今日のお昼から友達と会ってきますが、その間アオイさんと井上ちゃんはどうしますか?」
「そりゃもちろん、ちょっと尾行を」
「おねえちゃんのでーと! ついていく!」
「……やっぱりそう来ますよね」

 アオイたちに妨害されたくないので不在時のプランを考えるしかない。思いついたのは大成区の土産物だった。

「大成区の土産物に羊羹があります」
「羊羹……甘いんだ?」
「甘いです」

 わずかにアオイの瞳が光ったのを咲空は見逃さない。何でも食べるアオイだが、餡子のお菓子は特に好きだろうと判断しての選択だ。

「気になりますよね? 売っているお店の場所、知りたいですよね?」
「ふむ、サクラちゃんの狙いは尾行阻止と見た」
「美味しい羊羹なんですが売っているお店にアオイさん気づかないかもしれませんね。私が場所を教えないと見つけられないかも」

 こう見えて咲空もソラヤに勤めて半年が経っている。アオイの扱い方だって慣れてきたものだ。ちらちらと様子を窺いながらもったいぶって言う。どうしても尾行したかったらしいアオイは考え込んでいたが、そこは甘味の力。
 考え込む咲空を見かねて、アオイが言った。

「今日は海って気分じゃなくなったな――ということでお店を教えてください」
「尾行はやめてくださいね?」
「はい。サクラちゃんを道の駅で降ろしたら羊羹探しの旅に出ます」

 咲空は頷いた。道の駅で降ろしてもらえれば、道路挟んで向かいに平浜ひらはま海水浴場がある。玖琉もその頃には着くと言っていた。合流して海水浴だ。念のためと用意した水着がここで役に立つとは。

(玖琉も楽しみにしてるかな)

 待ち遠しくてスマートフォンを見れば、玖琉から『もうすぐ着くよ』と連絡が入っていた。札幌以外で玖琉と顔を合わせることはめったにない。久しぶりのせたな町の海に、咲空の心が躍る。
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