郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり

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Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず

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 揚げたてのかまぼこが入った袋を手にして、二人がやってきたのは紋別海洋公園だった。もう少し行けば流氷公園もあるのだが、かまぼこが温かいうちに海を見ながら食べようと考え、近い方の海洋公園を選んだ。
 海洋公園から流氷公園に向かう途中には流氷科学センターや、紋別のシンボルであるカニの爪像もあるので、観光をするならこの方面に向かうのもよいだろう。カニ爪像は写真で見るとただのカニ爪だが、実物は大きく、インパクトとディティールの細かさは必見である。

 海洋公園に着いて、車を降りると海の香りがする。オホーツク海の冷えた風だ。

「海を見ながらかまぼこ……紋別を満喫してますって気分ですよ。咲空ちゃんは何味を買ったんですか?」
「私はカニマヨですね。これがお気に入りなんです」

 好きな味を選び、その場で揚げてもらう。揚げたてのかまぼこは香ばしくてやみつきになる。車で移動したといえまだ温かく、一つかじって息を吐けば四月の冷えた風がほんのりと白く色づいた。

「それ美味しそうですねぇ。一口ください」
「どうぞ」

 カニマヨかまぼこは、名産であるズワイ蟹と名産であるスケソウダラを合わせた、美味しいものだらけの品だ。食べかけだったそれを差し出すと、アオイがかじりつく。

「んー、美味しい」
「ですよね。私のイチオシなんです。あ、飲みかけでよければお茶もありますよ」

 舌鼓を打った後、アオイはぽつりと呟いた。

「……自分から言っておいてアレなんですが。奥ゆかしい女子はこういうのに恥じらうものでは?」
「え? 恥じらい? かまぼこに?」
「食べかけ飲みかけのものを異性が食べて、間接なんちゃら……みたいな……」

 さらっと流れるようにかまぼこやお茶を差しだしていたことにアオイは疑問を感じたようだが、その話をしても咲空は首を傾げたままである。

「別に同じものを食べようが飲もうが気にしませんけど……アオイさんは苦手でした?」
「うぅん……山田さんみたいな外見だけイケメンに喜びかけていたくせに、こういうのは鈍くてだめだよなぁ」
「突然貶すのやめてもらえます!?」
「サクラちゃん、モテないでしょう? 彼氏いなさそう」
「美味しいもの食べてる時に失礼な話するのやめてください!」

 その予想は当たっているのだが、咲空は眉間に皺を寄せてそっぽを向いた。美味しいと言っていたのでカニマヨかまぼこをもう少しわけようかと思っていたが、その案も却下だ。腹が立つので全部食べることにする。

「面白いなぁ。いい従業員を雇った」

 そんな反応を見てアオイはけらけらと笑っていた。

「せっかくの地元ですし、行きたいところありませんか?」

 最後のかまぼこを食べえ終えたところでアオイが言った。かまぼこを買うまでに様々なお店を見たりしたが、ピンとくるものは得られていない。

「流氷科学センターとかオホーツクタワーに行きます? カニの爪像前で写真撮りますか?」
「それは僕のための観光案内ですね。そうじゃなくて、サクラちゃんが行きたいところですよ」

 頭に浮かんだのは実家だったが――咲空はかぶりを振って、それを頭から消す。あんなところに誰が帰るものか。
 紋別に帰ってくるのは久しぶりのことだった。たまに知り合いから連絡はあるものの、足を踏み入れたのは二年、いや三年ぶりか。その年月を思い返し、ある場所を思いついた。
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