郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり

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Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず

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「鈴木さんは本当はタコ……ですよね?」

 言い伝えによると、巨大蜘蛛妖怪ヤウシケプは海神によって海中に封じられ、結果巨大タコのアッコロカムイへと姿を変えてしまう。
 しかしここにいるのはタコになる前の巨大蜘蛛らしい。人間に擬態しているのでダンディおじさまだが、その足は八本あるのだろう。

「もちろん。だがどういうわけか蜘蛛の姿に戻ってしまったからねえ、せっかくだから地上を楽しまなければ」
「……元の場所にお戻りください」
「ははっ。海よりもしょっぱい塩対応だ。せっかくなんだから、人間の多くいる街を楽しみたいじゃないか」

 封印は解けてしまって地上へ。そして人間が多くいる街――つまり人口の一番多い札幌へとやってきてしまったのである。

「僕だってびっくりしましたよ。封印されてるはずの蜘蛛さんがいるんですから。すぐ擬態カタログ見せましたよ」
「いやいや。人間に擬態させる前に封印しなおしてください」
「ははーん。僕が何でもできると思ってるでしょう? 残念でしたね、鈴木さんを封印できるのは海神様ですよ」

 速やかに封印してしまいたい大妖怪様だが、封印できるのは海神様だけどきたものだ。その間、人口密集地札幌で野放しにしておくことはできず、こうしてソラヤでご案内となってしまった。
 しかしソラヤに来ようが大妖怪のスタンスは変わらない。

「ああサクラちゃん……このゴミ男ではなく、私とお話してほしいですね」
「ひえっ、きもちわるい」
「つんけんした態度もまたいいんですよ……あー早く食べてしまいたい。骨をかみ砕いて頭からばりばりと」

 人間を食べたいと話す鈴木のターゲットは咲空だ。

 アオイがタワーを積み終えるなり、速やかに鈴木から逃げる。やっと解放されたと詰めていた息を吐くと、くつくつと鈴木が笑った。

「やだなあ。いますぐサクラくんを食べることはありませんよ。約束したでしょう、期限までは待つと」

 咲空は壁にかかったカレンダーを見る。四月のページ、下旬のとある日には赤い丸印がついていた。それは鈴木と咲空の間で定めた期日だ。

「期日までに鈴木さんを感動させる料理が出せなければ、私が食べられちゃう――でしたね」
「ええ。楽しみにしています」

 期日まであと三日。失敗すれば、咲空は食べられてしまうのだろう。
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