郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり

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Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず

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「なるほどな。それで相手に合わせた案内、今回は料理で悩んでるってわけか」
「そうなの。でもコレ! っていうのがなくて」
「咲空なら、地元の料理とかあるんじゃないか? オホーツクの方で獲れるものとか。地元が紋別もんべつだろ?」
「紋別なら蟹だけど、それはすでに……」

 最初は蟹を思い浮かべた。さらさらっと食べられるかは謎だが、素朴で奥深い味のするものといえばズワイガニと思ったのだ。しかし鈴木の反応は薄く、違うと言っていた。これに近いものと言っていたので海産物に変わりはないだろうが。

「厳しいなら店長に変わってもらうとか」

 変われるものならそうしている。しかし咲空がやらなければならない状況になっているのだ。

「そうしたいんだけど、失敗したら私が食べられちゃうからね……」
「は? 咲空が? え?」

 物騒な単語に玖琉が眉をひそめた。うっかり呟いてしまったが、事情を知らない者が聞けば何事かと驚く単語だろう。己の失言を取り消すべく、咲空は慌てて首を横に振った。

「ごめん。何でもないの。ぼんやりしてた」
「ならいいけど……何かあったら相談しろよ。たまには一緒にご飯食べよう」

 玖琉とは仲はいいが、恋だの付き合いだのという関係は一切なく、男女の垣根を越えて親しくできる友人だ。一緒にいれば落ち着くし、咲空の出身地についても話している。部屋探しに困っていた時に今住んでいるアパートを紹介したのも、咲空だった。隣室が知らない人になって緊張するぐらいなら、信頼している友人がいい。その結果、今では札幌で最も親しい友人となった。
 今まではどちらかの部屋に集まって食事をすることが多かったが、咲空がソラヤに勤めてからはアオイにご飯を作って一緒に食べてしまうことが多く、たまに食べずに帰ってきても玖琉のバイト時間と合わなかったりと、夕食を共にする機会が減っていたのだ。

「うん。久しぶりにご飯食べたいね」
「俺のシフト出たら送るよ。焼肉しながら酒飲もう」

 偶然会えただけだが、玖琉と話したことで心が軽くなる。悩み思いつめていたものが解消できずとも、今だけはバイトのことを忘れることができそうだ。

(やっぱり、人間はいいなあ。ソラヤのお客様みたいにぶっとんでいない)

 コーヒーに口をつければ、冷めてもおいしい。馴染みの味はやはりいいものだ。

***
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