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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ
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ごっこ汁が、蝦夷神様 黒狐の心に響いたのだ。咲空は背中に回していた手を強く握りしめ、小さなガッツポーズを取った。
ぽたぽたと涙を流しながら食す山田に、アオイが声をかける。
「北海道には様々な郷土料理があります。他にも人間たちならではの、自然の恵みの生かし方があるかもしれません。蝦夷神様を想う気持ちは薄れても、自然をおいしく頂く人間の心は変わっていないんですよ」
「そう……だな」
山田の口調が柔らいだ。彼の中に、人間たちを赦す心が生じたのだろう。
これで、人間を滅ぼすなど言わないはずだ。その確信をもって咲空が訊いた。
「人間を滅ぼすの、もう少し待ってみます?」
「ああ。人間を滅ぼすのは惜しい――認めよう」
その言葉に咲空の表情が緩む。
関心を引いた、つまり人間を守ったのだ。アオイの方を見れば、満面の笑みを浮かべて頷いていた。
緊張感が薄れたところで再び山田はごっこ汁を食べる。一匙掬ってはじっくりと時間をかけて味わい、完食するには時間がかかりそうだ。
(それにしても……ごっこ汁食べながら泣くイケメンってシュールな絵だな)
冬になれば当たり前のように食べ、翌日は余ったごっこ汁にご飯を投入して食べるようなメニューである。咲空から見れば、泣くほどの飯ではないのだ。山田なりの思い出があるのだろうが、その姿が英国風イケメンなのもあって、奇妙な光景である。笑ってしまわぬうちにと視線を逸らした時、アオイが手をあげた。
「何か忘れてますよ?」
「え?」
「僕です。まだごっこ汁もらっていません」
すっかり忘れていた。食材を集めながらも調理ができずに眺めるだけだった男なのだ、食べたいに決まっている。お椀をアオイに渡せば、嬉しそうに微笑んでいた。
「いただきまーす……あ、月寒あんぱんよりさっぱりした味ですね。海のプリンって感じでおいしい」
「比較対象それですか……」
「ほら、僕は料理できませんから。お米だって炊けないし。ラベル剥がして食べられるもの専門です」
「それぐらいはできた方がいいと思います」
はは、と軽く笑ってアオイは次々と食べていく。
「お米があったら最高ですね。ってことで明日ははまなすご飯でよろしくお願いします」
「わかりまし……って、明日はってそれ――」
アオイはにっこりと微笑んで頷いた。
「最終試験合格。ソラヤの従業員になってください」
合格は嬉しいのだが不安が残る。常識の異な蝦夷神様がお客様なのだ。今日だけでもどっと疲れたというのにこれから大丈夫だろうか。採用と言われてもいまいち喜べない。
そんな咲空を見抜いたのだろうアオイが、にこにこ笑顔を貼り付けたまま追い打ちをかけた。
「他のお店だったら、上京資金なかなか貯まりませんよ?」
「確かになかなか貯金できないですね……」
「ちなみにお客様がいない時は、僕のご飯を作ってお店の掃除をするだけでお金がもらえます。サクラちゃんも食べていいですよ。食費が浮いて貯金も捗るのでは」
「業務内容までホワイト……」
今までのバイト先を思い返してもソラヤは条件がいい。蝦夷神様が相手になるというデメリットとホワイトすぎるバイト好条件を天秤にかけて咲空は考え、その結果。
「はまなすご飯、作ります」
「契約成立ですね。これからよろしくお願いします」
相手が何だろうが、やるしかない。
これが鈴野原 咲空と蝦夷神様が出会った、運命の日。
蝦夷神様と出会い、蝦夷神様を案内し、蝦夷神様に食べさせる。不思議なお店でのアルバイトがはじまった。
ぽたぽたと涙を流しながら食す山田に、アオイが声をかける。
「北海道には様々な郷土料理があります。他にも人間たちならではの、自然の恵みの生かし方があるかもしれません。蝦夷神様を想う気持ちは薄れても、自然をおいしく頂く人間の心は変わっていないんですよ」
「そう……だな」
山田の口調が柔らいだ。彼の中に、人間たちを赦す心が生じたのだろう。
これで、人間を滅ぼすなど言わないはずだ。その確信をもって咲空が訊いた。
「人間を滅ぼすの、もう少し待ってみます?」
「ああ。人間を滅ぼすのは惜しい――認めよう」
その言葉に咲空の表情が緩む。
関心を引いた、つまり人間を守ったのだ。アオイの方を見れば、満面の笑みを浮かべて頷いていた。
緊張感が薄れたところで再び山田はごっこ汁を食べる。一匙掬ってはじっくりと時間をかけて味わい、完食するには時間がかかりそうだ。
(それにしても……ごっこ汁食べながら泣くイケメンってシュールな絵だな)
冬になれば当たり前のように食べ、翌日は余ったごっこ汁にご飯を投入して食べるようなメニューである。咲空から見れば、泣くほどの飯ではないのだ。山田なりの思い出があるのだろうが、その姿が英国風イケメンなのもあって、奇妙な光景である。笑ってしまわぬうちにと視線を逸らした時、アオイが手をあげた。
「何か忘れてますよ?」
「え?」
「僕です。まだごっこ汁もらっていません」
すっかり忘れていた。食材を集めながらも調理ができずに眺めるだけだった男なのだ、食べたいに決まっている。お椀をアオイに渡せば、嬉しそうに微笑んでいた。
「いただきまーす……あ、月寒あんぱんよりさっぱりした味ですね。海のプリンって感じでおいしい」
「比較対象それですか……」
「ほら、僕は料理できませんから。お米だって炊けないし。ラベル剥がして食べられるもの専門です」
「それぐらいはできた方がいいと思います」
はは、と軽く笑ってアオイは次々と食べていく。
「お米があったら最高ですね。ってことで明日ははまなすご飯でよろしくお願いします」
「わかりまし……って、明日はってそれ――」
アオイはにっこりと微笑んで頷いた。
「最終試験合格。ソラヤの従業員になってください」
合格は嬉しいのだが不安が残る。常識の異な蝦夷神様がお客様なのだ。今日だけでもどっと疲れたというのにこれから大丈夫だろうか。採用と言われてもいまいち喜べない。
そんな咲空を見抜いたのだろうアオイが、にこにこ笑顔を貼り付けたまま追い打ちをかけた。
「他のお店だったら、上京資金なかなか貯まりませんよ?」
「確かになかなか貯金できないですね……」
「ちなみにお客様がいない時は、僕のご飯を作ってお店の掃除をするだけでお金がもらえます。サクラちゃんも食べていいですよ。食費が浮いて貯金も捗るのでは」
「業務内容までホワイト……」
今までのバイト先を思い返してもソラヤは条件がいい。蝦夷神様が相手になるというデメリットとホワイトすぎるバイト好条件を天秤にかけて咲空は考え、その結果。
「はまなすご飯、作ります」
「契約成立ですね。これからよろしくお願いします」
相手が何だろうが、やるしかない。
これが鈴野原 咲空と蝦夷神様が出会った、運命の日。
蝦夷神様と出会い、蝦夷神様を案内し、蝦夷神様に食べさせる。不思議なお店でのアルバイトがはじまった。
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