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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ

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「……どうしたらいいんでしょう。私には難しい問題すぎて」
「すべての問題を一人で解決しようとすれば行き詰まるでしょう。ゆるく考えればいいんですよ。この北海道に住む人たちは昔と今で変わってしまったけれど、今の人間にもいいところがありますから。もう一度、人間を好きになってもらえばいいんです」

 どうやって人間を好きになってもらえばいいだろう。観光地を巡る、それとも美味しいものを食べる。そこで咲空は思い出した。山田が気にしていたものが一つだけ、あった。
 海。そういえば山田は海の食べ物を気にかけていたのだ。
 ぷるぷるとした見目麗しくない魚を食す人間。その魚の存在は海神から聞いたと話していたけれど。

(あの魚じゃないか、って心当たりはあるんだよね)

 しかし咲空が動けないでいるのは自信がないことだった。万が一、その魚を出して山田が首を横に振れば、そこで最終試験は終わってしまう。
 こういう時は検索だ、とポケットからスマートフォンを取り出した。しかし表示には圏外と書いてある。そりゃそうだ、不思議な世界に繋がっているらしいこの部屋に電波が届くと思えない。

「……圏外だ」
「ああ、これはすみません。ここ時間止まっているからそういうの使えないんですよ」

 しかし圏外といえ、スマートフォンの画面には通知が入っていた。それは大通で会った玖琉からのメッセージだ。あのまま別れた咲空のことを心配していたらしい。

『玖琉:大丈夫? お店に着いた?』
『玖琉:何かあったら連絡しろよ』
『玖琉:不採用でも何とかなるよ。力になるから』

 優しい玖琉らしいと思った。非現実的なことばかりが続く状態で、玖琉という慣れた存在の言葉が胸に沁みる。

『玖琉: いつもの咲空らしく、頑張れよ。応援してる』

 最後のメッセージにはそう書かれていた。
 いつもの咲空らしく。その言葉を噛みしめながら、咲空は深呼吸をひとつ。心を落ち着けて、冷静に考える。

 頭に浮かんだのは故郷 紋別のことだった。
 外を歩いて、季節の移り変わりを肌で感じる。春は雪解けと花の開きを、緑色濃くなる夏に、数週間で終わってしまう短い秋。紋別市はオホーツク海に面しているため、冬になれば海は流氷に閉ざされてしまう。だがその真っ白な景色を眺めることも楽しみだった。

 幼い頃から、季節のものを見て食べろと学んできた。自然の恵みに感謝して、無駄のないように食べる。たとえ小さな野草だろうと感謝の気持ちを抱くこと。鮭が一匹あれば、身から骨から頭まで、余すことなく食べる。野草の見分け方や食べ方、魚の捌き方や長期保管の方法もしっかりと頭に残っていた。

(『その知識、もったいないよ』ってアオイさんが言ってたな……)

 札幌事情にそこまで明るくない咲空にできることは、数少ないだろう。ここまで山田と接した中から考える。咲空にできる限りで、山田に喜んでもらえることとは。

 賭けだとしても。やってみるしかない。
 咲空の表情に光が灯る。

「思いついたことがあります。ここの食材ってお借りできますか?」

***
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