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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ

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「あの、私が来るまではアオイさんが案内していたんですよね?」
「はい」
「参考に、今までの例を教えてもらえませんか?」

 過去例を知れば咲空でもできることがあるかもしれない、と思ったのだが。アオイは首を横に振った。

「……アドバイスできればよかったんですがねぇ。実を言うと、僕は一度も成功したことがないので」
「へ?」
「ここに来た神様たちを救えたことがないんです。それぞれ強い思いを抱いてやって来るけれど、僕は一人だって助けられず、みんなウェンカムイへと堕ちていきました」

 咲空の目が点になる。というのも、最終試験を出した張本人が一度も案内を成功させていないときたのだ。これではどうやってソラヤを経営していたのか不思議である。ここにきて胡散臭さが倍増だ。
 けれど。呆れている反面、咲空はアオイの沈痛な面持ちから目が離せなかった。飄々としていて空気の読めないこの男が、そういった表情をすることが意外だった。

「……ウェンカムイ、って何ですか」
「人間に災いを与える神。悪い神様です。今の人間たちはカムイモシリのことを知らず、自然への感謝も減った。それによって力を失うことを恐れた一部の神様は人間世界を作り直すべきだと言っているんだ。作り直した新しい世界は、昔のように自然への感謝を忘れない人間たちになるから、ってね」
「山田さんも、人間を滅ぼせと言っていますもんね……」
「一度、人間に災いを与えてしまえば、ウェンカムイとなる。そうなれば自我を忘れ、人間や自然あらゆる命を喰い続けるだけの災厄となってしまう。悲しい出来事や自然災害を起こしてしまうんだ」
「え……そ、それは止めないと!」
「僕はウェンカムイに堕ちた神は封印することしかできません。ウェンカムイに堕ちるのを止めることはできなかった。今までここに来たお客様の、ウェンカムイに堕ちた者はみんな僕が封印してきたんです」

 アオイは俯いていた。深くため息をつくその姿は過去を思い出して悔いているのかもしれない。
 咲空よりも蝦夷神様に詳しい者が救えなかったというのだ。それが咲空にできるのだろうか。急に不安になってしまう。その不安を恐る恐る口にすれば、声は震えていた。

「……アオイさんにもできなかったことが、私にできるんでしょうか」
「できます。僕は信じていますから」
「でもどうしたらいいのかわからなくて。いい方法も思いつかないし……」

 できることならば。あの悲しそうな山田のまなざしが忘れられず、それを助けてあげたい。どうしたらよいのかと考え込む咲空に、少し明るさを取り戻したアオイが言う。

「山田さんは岬の守護者。本来は、人間世界に災いが起こる前にそれを報せる役でした。人間を救う側だったけど彼が堕ちかけているのは力を失っているため――簡単に言えば、彼の岬は観光スポットとなって、そこに人間たちがごみを投棄したことがきっかけだ」
「ごみの投棄……」
「でもそれだけでここまで人間に怒ると思えませんからね。別の問題があるのかもしれません。彼の守護範囲は海とも関わりがあるので、もしかすると北海道の海に何かが起きているのかもしれませんね」

 山田が人間に怒る理由を知ったところで、それを解決する方法は難しい。人間に蝦夷神様に感謝しようと呼びかけたところで今すぐどうなるとも思えないし、ごみ拾いに出かけたところで咲空一人で解決する問題ではない。海に問題が起きていたところで、咲空にはどうすることもできないのだ。

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