16 / 85
Ep1.救世主はぷるぷるごっこ
1-16
しおりを挟む「あの、私が来るまではアオイさんが案内していたんですよね?」
「はい」
「参考に、今までの例を教えてもらえませんか?」
過去例を知れば咲空でもできることがあるかもしれない、と思ったのだが。アオイは首を横に振った。
「……アドバイスできればよかったんですがねぇ。実を言うと、僕は一度も成功したことがないので」
「へ?」
「ここに来た神様たちを救えたことがないんです。それぞれ強い思いを抱いてやって来るけれど、僕は一人だって助けられず、みんなウェンカムイへと堕ちていきました」
咲空の目が点になる。というのも、最終試験を出した張本人が一度も案内を成功させていないときたのだ。これではどうやってソラヤを経営していたのか不思議である。ここにきて胡散臭さが倍増だ。
けれど。呆れている反面、咲空はアオイの沈痛な面持ちから目が離せなかった。飄々としていて空気の読めないこの男が、そういった表情をすることが意外だった。
「……ウェンカムイ、って何ですか」
「人間に災いを与える神。悪い神様です。今の人間たちはカムイモシリのことを知らず、自然への感謝も減った。それによって力を失うことを恐れた一部の神様は人間世界を作り直すべきだと言っているんだ。作り直した新しい世界は、昔のように自然への感謝を忘れない人間たちになるから、ってね」
「山田さんも、人間を滅ぼせと言っていますもんね……」
「一度、人間に災いを与えてしまえば、ウェンカムイとなる。そうなれば自我を忘れ、人間や自然あらゆる命を喰い続けるだけの災厄となってしまう。悲しい出来事や自然災害を起こしてしまうんだ」
「え……そ、それは止めないと!」
「僕はウェンカムイに堕ちた神は封印することしかできません。ウェンカムイに堕ちるのを止めることはできなかった。今までここに来たお客様の、ウェンカムイに堕ちた者はみんな僕が封印してきたんです」
アオイは俯いていた。深くため息をつくその姿は過去を思い出して悔いているのかもしれない。
咲空よりも蝦夷神様に詳しい者が救えなかったというのだ。それが咲空にできるのだろうか。急に不安になってしまう。その不安を恐る恐る口にすれば、声は震えていた。
「……アオイさんにもできなかったことが、私にできるんでしょうか」
「できます。僕は信じていますから」
「でもどうしたらいいのかわからなくて。いい方法も思いつかないし……」
できることならば。あの悲しそうな山田のまなざしが忘れられず、それを助けてあげたい。どうしたらよいのかと考え込む咲空に、少し明るさを取り戻したアオイが言う。
「山田さんは岬の守護者。本来は、人間世界に災いが起こる前にそれを報せる役でした。人間を救う側だったけど彼が堕ちかけているのは力を失っているため――簡単に言えば、彼の岬は観光スポットとなって、そこに人間たちがごみを投棄したことがきっかけだ」
「ごみの投棄……」
「でもそれだけでここまで人間に怒ると思えませんからね。別の問題があるのかもしれません。彼の守護範囲は海とも関わりがあるので、もしかすると北海道の海に何かが起きているのかもしれませんね」
山田が人間に怒る理由を知ったところで、それを解決する方法は難しい。人間に蝦夷神様に感謝しようと呼びかけたところで今すぐどうなるとも思えないし、ごみ拾いに出かけたところで咲空一人で解決する問題ではない。海に問題が起きていたところで、咲空にはどうすることもできないのだ。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
おしごとおおごとゴロのこと そのさん
皐月 翠珠
キャラ文芸
目指すは歌って踊れるハウスキーパー!
個性的な面々に囲まれながら、ゴロはステージに立つ日を夢見てレッスンに励んでいた。
一方で、ぽってぃーはグループに足りない“何か”を模索していて…?
ぬいぐるみ達の物語が、今再び動き出す!
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは無関係ですが、ぬいぐるみの社会がないとは言っていません。
原案:皐月翠珠 てぃる
作:皐月翠珠
イラスト:てぃる
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
6年3組わたしのゆうしゃさま
はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏
夏休みが終わり登校すると
クオラスメイトの少女が1人
この世から消えていた
ある事故をきっかけに彼女が亡くなる
一年前に時を遡った主人公
なぜ彼女は死んだのか
そして彼女を救うことは出来るのか?
これは小さな勇者と彼女の物語
あるじさま、おしごとです。
川乃千鶴
キャラ文芸
ショウスケは街に唯一の「代書屋」、コトノハ堂の一人息子。彼の妻の座を狙う世話係のキョウコは、なかなか手を出してくれない主人にヤキモキしているが……二人の間には十の歳の差と、越えられない壁があって──?
これはどこか古い時代の日の本に似た街に住む、ちょっと変わったカップル(?)が、穏やかな日々をひっくり返す悲しい事件を乗り越え、心を通じ合わせるまでのお話。
※中盤ちょっとサスペンスです
※後日譚含む番外編まで執筆済。近日中に公開できたらと考えています
※各話最後の閑話は若干お下品なネタです。飛ばしても問題ありません
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
キャラ文芸
「お前はやつがれの嫁だ」
涼音は名家の生まれだが、異能を持たぬ無能故に家族から迫害されていた。
お遣いに出たある日、涼音は鬼神である白珱と出会う。
翌日、白珱は涼音を嫁にすると迎えにくる。
家族は厄介払いができると大喜びで涼音を白珱に差し出した。
家を出る際、涼音は妹から姉様が白珱に殺される未来が見えると嬉しそうに告げられ……。
蒿里涼音(20)
名門蒿里家の長女
母親は歴代でも一、二位を争う能力を持っていたが、無能
口癖「すみません」
×
白珱
鬼神様
昔、綱木家先祖に負けて以来、従っている
豪胆な俺様
気に入らない人間にはとことん従わない
夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~
スズシロ
キャラ文芸
「造形魔法」と「複製魔法」によって高品質の宝飾品がより身近に、そして安価で大量に流通するようになった時代。古くからの手法により手作業で作られている宝飾品は高いだけの「嗜好品」と揶揄される事もあった。
リッカは「オカチマチ」と呼ばれる宝飾品専門街に「夜の装飾品店」と言う一軒の工房を構え、魔法を使わない「手仕事」で装飾品を作る職人である。オパールを愛するが故の酷い収集癖のせいで常に貧乏生活を送るリッカだが、自作の宝飾品を売る事でなんとか食いつないでいるのであった。
「宝石は一期一会の出会い」
その一言をモットーに今日も「夜の装飾品店」の一日が始まる。作品作りと販売を通して様々な職人や客と出会う、小さな彫金工房の何気ない日常を描くゆるゆる続く物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる