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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ
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「ところで、山田さんは?」
振り返ると扉はきっちりとしまっていた。怒り狂った山田が扉を叩くことも、扉そのものを消してしまうこともなく、外はしんと静かである。
「大丈夫。ここは僕がいないと入れず、中にいれば時間が止まっているので」
「なーんだそれなら安心ですね。時間が止まっているなら……止まって……」
口にしてはっとする。その単語を反芻して、飲みこんで、深呼吸した後改めて聞いた。
「時間が止まっているってどういうことです?」
「ここはカムイモシリと人間世界の狭間ですからねぇ。時の流れというものがないんです」
「ということは。いまこの部屋を出たら……」
「今にも人間滅ぼしちゃいそうな山田さんがいます」
何も解決していない。生き延びるためにはこのまま時間停止部屋にいなければならないのか。咲空はアオイを見る。
「山田さん、どうしますか?」
「困りましたねぇ。サクラちゃんの最終試験も途中ですし」
「私じゃ、うまく観光案内できませんし、辞退します」
「おや、もったいない。サクラちゃんはこの仕事に向いていると思うけど」
今日のどこを見てこの発言に至ったのかと不思議になる。咲空がしたことといえば、雪まつり準備中の大通公園に案内した程度だ。山田の興味を引いた手ごたえなんてこれっぽっちもない。しかしアオイは別のものを見ているようだった。
「ところで、君はどうしてバイトをしているんですか?」
「生活のためです」
「うんうん。生活のためにはお金が必要だ。でもそれなら、住み慣れた故郷にいた方がいいんじゃないかな。どうして札幌にいるの?」
アオイの言う通りだ。地元にいれば家を借りる必要もないし、ここまで生活に困ることはない。だが咲空には目的があった。田舎に帰りたくない理由と、札幌でバイトをする理由。
「……お金を、貯めてます」
「へえ。どうして」
「上京したいんです。もう北海道にいたくない」
それを聞いてアオイの瞳がすっと細くなる。じっと咲空に注がれた視線は、言葉の真意を見抜こうとしているようだった。
「上京のためにお金を貯めているのなら、なおさら実家にいた方が貯金できると思うけど」
「それは……事情があって」
木製チェアにアオイが座る。その椅子は部屋全体を眺めることのできるよう部屋の中央に置かれて、その隣に椅子と同じ高さのエンドテーブルがあった。エンドテーブルには月寒あんぱんの包み紙だけが置いてあり、アオイはここに座って食べることも腐ることもしない観賞用の食材たちを眺めていたのかもしれない。
今は、その二つの瞳が咲空に向けられている。表情は柔らかな笑みを浮かべているものの、その目つきは鋭く。咲空の反応を待ち、観察しているかのようだった。
振り返ると扉はきっちりとしまっていた。怒り狂った山田が扉を叩くことも、扉そのものを消してしまうこともなく、外はしんと静かである。
「大丈夫。ここは僕がいないと入れず、中にいれば時間が止まっているので」
「なーんだそれなら安心ですね。時間が止まっているなら……止まって……」
口にしてはっとする。その単語を反芻して、飲みこんで、深呼吸した後改めて聞いた。
「時間が止まっているってどういうことです?」
「ここはカムイモシリと人間世界の狭間ですからねぇ。時の流れというものがないんです」
「ということは。いまこの部屋を出たら……」
「今にも人間滅ぼしちゃいそうな山田さんがいます」
何も解決していない。生き延びるためにはこのまま時間停止部屋にいなければならないのか。咲空はアオイを見る。
「山田さん、どうしますか?」
「困りましたねぇ。サクラちゃんの最終試験も途中ですし」
「私じゃ、うまく観光案内できませんし、辞退します」
「おや、もったいない。サクラちゃんはこの仕事に向いていると思うけど」
今日のどこを見てこの発言に至ったのかと不思議になる。咲空がしたことといえば、雪まつり準備中の大通公園に案内した程度だ。山田の興味を引いた手ごたえなんてこれっぽっちもない。しかしアオイは別のものを見ているようだった。
「ところで、君はどうしてバイトをしているんですか?」
「生活のためです」
「うんうん。生活のためにはお金が必要だ。でもそれなら、住み慣れた故郷にいた方がいいんじゃないかな。どうして札幌にいるの?」
アオイの言う通りだ。地元にいれば家を借りる必要もないし、ここまで生活に困ることはない。だが咲空には目的があった。田舎に帰りたくない理由と、札幌でバイトをする理由。
「……お金を、貯めてます」
「へえ。どうして」
「上京したいんです。もう北海道にいたくない」
それを聞いてアオイの瞳がすっと細くなる。じっと咲空に注がれた視線は、言葉の真意を見抜こうとしているようだった。
「上京のためにお金を貯めているのなら、なおさら実家にいた方が貯金できると思うけど」
「それは……事情があって」
木製チェアにアオイが座る。その椅子は部屋全体を眺めることのできるよう部屋の中央に置かれて、その隣に椅子と同じ高さのエンドテーブルがあった。エンドテーブルには月寒あんぱんの包み紙だけが置いてあり、アオイはここに座って食べることも腐ることもしない観賞用の食材たちを眺めていたのかもしれない。
今は、その二つの瞳が咲空に向けられている。表情は柔らかな笑みを浮かべているものの、その目つきは鋭く。咲空の反応を待ち、観察しているかのようだった。
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