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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ
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しおりを挟む「話を進めましょう。僕はソラヤの店主、アオイです」
「アオイさん、ですか」
「はい。君はサクラちゃんですね。初めてここに辿り着いた従業員候補ですし、最終試験をしましょう。ちょっと厄介なお客様が来るので手伝ってもらいたいんですよ」
「何を手伝えばいいんでしょうか?」
経緯はどうあれ最終試験までこぎつけたのは、今日がダメなら故郷に帰ると決めていた咲空にとってありがたい話だ。色々と変わったところはあるが、慣れたらいい職場になるのかもしれない。そう思っていたのだが――タイミングよく扉が開く。そして現れたのは。
(えええ!? イケメンがきた!?)
すらりと背が高く、足は長く。外国から来たのだろう、透き通った白い肌に緑色の瞳。とどめはさらさらのブロンドヘアー。俳優やモデルがここに現れたのかと思ってしまうほどの英国風イケメンがやってきたのだ。
彼はソラヤに入るなり、咲空をちらりと見た。目が合うことさえ罪悪感を抱いてしまうほどに容姿が整っている。イケメンは視線まで攻撃力が高い。
「いやあ、お待ちしていましたよ。はるばるようこそ下界へ」
それに対してアオイが挨拶する――のだが。
(ようこそげかい? 外科医?)
イケメンで浮つきかけた心にもばっちりと響く、不思議な単語。違和感を抱いたのは咲空だけらしく、イケメンは表情一つ変えずにカウンター席に座った。
「まだ到着したばかりだ。この酸素濃度に適応できていない」
(酸素濃度? なんのことだろ)
「それは大変。じきに慣れるますよ、ンノノスモ茶用意してますのでどうぞ」
(ゲロマズ飲み物再登場するの!?)
「ありがたい」
(え、飲むの……?)
会話についていくことのできない咲空は、置物のように固まって、二人の会話に無声のツッコミを入れていくだけ。特にイケメンは、表情があまり変わらないのでクールな印象があり、『そのお茶不味いですよ』なんて話しかけることはできないオーラを纏っていた。
渡されたンノノスモ茶をイケメンはぐいっと飲み干す。
「これは良い。抽出法にこだわりがあるのか?」
「ありがとうございます。新鮮なンノノスモを使うようにしています」
「ふむ。もう一杯もらおう」
あまりの不味さに飲めなかったお茶を、吹きだすどころかおかわり要求している。ここにいると咲空の味覚がおかしい気さえしてしまう。
イケメンが二杯目のンノノスモ茶を堪能している間に、アオイが咲空に話しかけた。
「ということで、サクラちゃんの試験はこちらのお客様の観光案内をしていただくこと。お客様に満足してもらえたらクリアです」
満足と言われても。咲空はもう一度イケメンを見る。ンノノスモ茶二杯目は飲み終わったらしいがその顔つきは険しく、咲空と目が合うなり、整った緑色の瞳を鋭く光らせていた。
「……無理だろうな」
そしてこの一言である。
「どうでしょう。試してみないとわかりませんよ」
「いや、無理だ。もはや北海道の人間たちは我々のことを忘れようとしている。このまま力を失う前にすべてを消すべきだ。改めて地上を作り直し――」
「ちょ、ちょっと待ってください。作りなおすって、何の話ですか!?」
咲空が訊くと、イケメンは「そんなことも知らんのか」とため息を吐いた。
「信仰のなくなった土地など作り直した方がよいに決まっているだろう。我々の力が完全に失われる前に、人間を滅ぼせばよい」
「追い出す? 信仰?」
「はい。みんなに信じてもらうのって大切ですから」
会話にまったくついていけない。最終試験が始まる前から転んでいる状態だ。困惑している咲空のためにアオイが説明する。
「このお客様にご満足いただくか、だめなら人間が滅ぼされる。そういう話ですねぇ」
「人間が滅ぼされるって冗談ですよね? そんなことできるわけが……」
「まさかー。簡単に滅ぼせちゃいますよ。だって、彼は――」
にっこりと、アオイの唇が弧を描く。その隙間からぽつり、と落ちた言葉。
「蝦夷神様ですから」
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