上 下
4 / 85
Ep1.救世主はぷるぷるごっこ

1-4

しおりを挟む

「話を進めましょう。僕はソラヤの店主、アオイです」
「アオイさん、ですか」
「はい。君はサクラちゃんですね。初めてここに辿り着いた従業員候補ですし、最終試験をしましょう。ちょっと厄介なお客様が来るので手伝ってもらいたいんですよ」
「何を手伝えばいいんでしょうか?」

 経緯はどうあれ最終試験までこぎつけたのは、今日がダメなら故郷に帰ると決めていた咲空にとってありがたい話だ。色々と変わったところはあるが、慣れたらいい職場になるのかもしれない。そう思っていたのだが――タイミングよく扉が開く。そして現れたのは。

(えええ!? イケメンがきた!?)

 すらりと背が高く、足は長く。外国から来たのだろう、透き通った白い肌に緑色の瞳。とどめはさらさらのブロンドヘアー。俳優やモデルがここに現れたのかと思ってしまうほどの英国風イケメンがやってきたのだ。
 彼はソラヤに入るなり、咲空をちらりと見た。目が合うことさえ罪悪感を抱いてしまうほどに容姿が整っている。イケメンは視線まで攻撃力が高い。

「いやあ、お待ちしていましたよ。はるばるようこそ下界へ」

 それに対してアオイが挨拶する――のだが。

(ようこそげかい? 外科医?)

 イケメンで浮つきかけた心にもばっちりと響く、不思議な単語。違和感を抱いたのは咲空だけらしく、イケメンは表情一つ変えずにカウンター席に座った。

「まだ到着したばかりだ。この酸素濃度に適応できていない」
(酸素濃度? なんのことだろ)
「それは大変。じきに慣れるますよ、ンノノスモ茶用意してますのでどうぞ」
(ゲロマズ飲み物再登場するの!?)
「ありがたい」
(え、飲むの……?)

 会話についていくことのできない咲空は、置物のように固まって、二人の会話に無声のツッコミを入れていくだけ。特にイケメンは、表情があまり変わらないのでクールな印象があり、『そのお茶不味いですよ』なんて話しかけることはできないオーラを纏っていた。
 渡されたンノノスモ茶をイケメンはぐいっと飲み干す。

「これは良い。抽出法にこだわりがあるのか?」
「ありがとうございます。新鮮なンノノスモを使うようにしています」
「ふむ。もう一杯もらおう」

 あまりの不味さに飲めなかったお茶を、吹きだすどころかおかわり要求している。ここにいると咲空の味覚がおかしい気さえしてしまう。
 イケメンが二杯目のンノノスモ茶を堪能している間に、アオイが咲空に話しかけた。

「ということで、サクラちゃんの試験はこちらのお客様の観光案内をしていただくこと。お客様に満足してもらえたらクリアです」

 満足と言われても。咲空はもう一度イケメンを見る。ンノノスモ茶二杯目は飲み終わったらしいがその顔つきは険しく、咲空と目が合うなり、整った緑色の瞳を鋭く光らせていた。

「……無理だろうな」

 そしてこの一言である。

「どうでしょう。試してみないとわかりませんよ」
「いや、無理だ。もはや北海道の人間たちは我々のことを忘れようとしている。このまま力を失う前にすべてを消すべきだ。改めて地上を作り直し――」
「ちょ、ちょっと待ってください。作りなおすって、何の話ですか!?」

 咲空が訊くと、イケメンは「そんなことも知らんのか」とため息を吐いた。

「信仰のなくなった土地など作り直した方がよいに決まっているだろう。我々の力が完全に失われる前に、人間を滅ぼせばよい」
「追い出す? 信仰?」
「はい。みんなに信じてもらうのって大切ですから」

 会話にまったくついていけない。最終試験が始まる前から転んでいる状態だ。困惑している咲空のためにアオイが説明する。

「このお客様にご満足いただくか、だめなら人間が滅ぼされる。そういう話ですねぇ」
「人間が滅ぼされるって冗談ですよね? そんなことできるわけが……」
「まさかー。簡単に滅ぼせちゃいますよ。だって、彼は――」

 にっこりと、アオイの唇が弧を描く。その隙間からぽつり、と落ちた言葉。

「蝦夷神様ですから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...