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3章 宝剣の重み
2.永貴妃の依頼(1)
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冬花宮に春桃色を基とした輿があった。春桃色は春燕宮に住まう永貴妃が賜った色である。彼女はいま、冬花宮にて茶に口をつけていた。
華紅妍を前にしても永貴妃の表情は動かない。齢は甄妃より少し上だが、甄妃が温かさを持つ人であれば永貴妃は氷である。紅妍をじいと見やる瞳の奥は身震いしそうな冷気を孕んでいた。
「華妃は不気味な術を使うと噂が広まっている」
永貴妃が切り出す。
「おぬしを鬼霊の妃と呼ぶ者もいるほどだ」
「鬼霊の妃……残念ながらわたしは鬼霊ではありません」
否定すると永貴妃がわずかばかり頬を緩め、冷笑した。
「知らぬ者にとって理解しがたい術を使う華妃は鬼霊と同等に見えるのだろう。今日も冬花宮に向かうと話せば、我の宮女長が悲鳴をあげて制止にくるほどだ。おぬしはよほど怖がられているのだな」
不気味だと思われてしまうのは致し方ないことだと紅妍は思っている。大都や宮勤めをした仙術師たちは迫害されたのは随分と昔のことだと聞いている。特に人を呪う呪術の類いは身を隠す。光と影があるのならば、術師らは影に属するだろう。仙術に明るくない者たちがそれを気味悪いと感じることは当然だ。
「なに。ただの噂はいずれ薄れる。どこぞの若娘が言いふらしているのだろう。嫉妬に駆られてよく口が回るようだから」
「若娘……ああ、なるほど」
思い当たる顔が浮かぶ。辛琳琳だ。秀礼を慕う琳琳は、秀礼に近づいているからという理由で紅妍を嫌っている。紅妍を貶めるような噂を流しているのもおそらく琳琳の嫌がらせだ。
対峙する永貴妃はそれを見抜いているようだった。そのため紅妍を前にしても怯える素振りはない。
「おぬしが華妃となった理由は聞いている。帝を苦しめる災禍を解くためだろう」
鬼霊を祓うなと命じられたことは隠し、紅妍は頷く。
「帝の災禍に関し、我が知っていることがひとつある。おそらくはおぬしの役に立つはずだ」
「ありがとうございます。では――」
早速それを教えてほしい。目を輝かせた紅妍だったが、永貴妃の鋭い眼光がそれを制した。
「条件がある」
どうやら手放しで情報を与える気はないらしい。後宮を取り仕切る貴妃の立場にいる人だ、一筋縄ではいかない。
「おぬし、鬼霊を祓えるのだろう? 我の頼みを聞いてくれるのなら、知っていることを教えてやってもよい」
「……内容によります」
「ほう。慎重だな。よいことだ」
くく、と喉奥でこもったような笑い声をあげる。永貴妃が扇を勢いよく閉じる音が部屋に響いた。
空気が張り詰める。それだけ永貴妃はこの件の解決を願っているのだろう。紅妍は身を強ばらせて、言葉の続きを待った。
「我の息子――第二皇子、融勒のことだ。融勒は最禮宮を与えられているが、どうもこの宮に鬼霊が出るらしい」
現在、内廷に住まう皇子は二人いる。秀礼と融勒の二人だ。次期皇帝は内廷の皇子から選出されるため二人のどちらかが帝になるのだろう。そのうち第二皇子の融勒を産んだのが永貴妃である。
その融勒の宮に鬼霊が出ているというのは穏やかではない話だ。紅妍に依頼するのだから鬼霊や呪いに関することかと推測していたが、やはり血のにおいから離れられそうにない。
「宝剣の力を借りて祓うことも考えたが融勒はそれを好まない。宝剣なしで鬼霊を祓うとすればおぬしの力が必要であろう。どうだ、ひとつ融勒を助けてはくれぬか」
この依頼に、しばし紅妍は口を閉ざした。
というのも紅妍は、華妃になるために秀礼の口添えを得ている。よく冬花宮に来ていることも広まっているだろう。つまり紅妍は、融勒と敵対の位置にある第四皇子の秀礼と親しい側にいるのだ。秀礼に断りなしで第二皇子の件を引き受けていいものか悩ましい。
(だけど、鬼霊が絡んでいる)
鬼霊が絡むとなれば、宮城内でそれを解決できる人は少ない。普通の者が鬼霊を祓うことはできないのだ。第二皇子だからと見捨ててしまえば、その鬼霊は延々と宮城を彷徨うことになる。鬼霊は永く、苦しみを味わうことになる。
逡巡の末、紅妍は顔をあげた。
永貴妃が去った後、入れ直した茶を持ってきたのは藍玉だった。藍玉は部屋の隅にいたのでこの話を聞いている。落ち着かない様子で聞いた。
「あの話、引き受けてよろしかったんでしょうか」
藍玉が言いたいことはよくわかる。第四皇子と親しくしておきながら第二皇子の依頼を受けるのはいかがなものかと考えているのだろう。紅妍は几を睨みつけたまま言った。逡巡の末に出した結論だと示すように硬い面持ちである。
「鬼霊が絡んでいるならわたしが出るしかないと思う」
「確かに、鬼霊を祓えるのは華妃様と秀礼様だけですが」
「秀礼様に頼みたくないというのなら、わたししかいない」
それは自らに言い聞かせるようなひと言だった。紅妍自身もいまだ悩んでいる。
藍玉は物憂げに息をつく。
「華妃様はご存じないかもしれませんが、永貴妃様と秀礼様はよい仲と言い難いのです。特に永貴妃様は秀礼様を快く思っていないと聞きます」
永貴妃は融勒の生母である。融勒が次期皇帝になれば永貴妃は太后になるのだ。彼女にとって秀礼は目の敵だろう。
「まして秀礼様は宝剣に選ばれていますから」
藍玉が言った。宝剣は永貴妃も語っていた。紅妍はそれを鬼霊を斬り捨てる剣だと思っていたが、永貴妃や藍玉の語りを聞くとどうもそれだけとは思えない。
(宝剣には、わたしの知らないものがたくさんあるのかもしれない)
第二皇子の融勒が鬼霊を祓えないことから彼は宝剣を所持していないのだろう。それによる鬼霊祓いも好まないと永貴妃が話していた。
「それにしても、鬼霊の妃というのは随分失礼な物言いですね」
呆れたように藍玉が言う。これには紅妍も苦笑した。
「痩せぎすで血色も悪い華妃様といえ鬼霊は失礼でしょう」
「藍玉も随分な語りようをしているけれど」
「あら。これは本当ですよ。華妃様はもっと食べて、体に力を蓄えるべきです」
そうは言われても。こう見えて冬花宮にきてからの紅妍は良く食べている。里にいた頃と比べて食事は美味しく、量も多い。たびたび甘味や果物が出てくるので甘い物を好むようになったほどだ。
目の前で華仙術を使っても藍玉の態度はいままでと変わらない。むしろ日に日に親しさが増していく気がしている。紅妍は藍玉の様子を伺った。永貴妃に告げられた悪評はいまも頭に残っていた。
「……藍玉も、わたしが不気味だと思う?」
紅妍が訊いた。
これに藍玉は驚いた様子で紅妍を見る。しばし目を瞬かせた後、からからと笑いだした。
「まさか! どこが不気味でしょう。花を用いる術なんて美しいじゃあないですか。それに鬼霊を祓ってくださるなんてありがたいことです」
それに、と藍玉が続ける。視線は窓の先にある庭の方へ向けられていた。
「冬花宮の者はみな華妃様を慕っていますよ。特に霹児なんて、華妃様のためにと毎日楽しそうに仕事をしています」
庭には霹児の姿があった。霹児は秋芳宮の宮女だったが、楊妃を殺めた宮女長に脅されて郷里に戻っていた。彼女としては宮勤めをして家族らを食べさせていきたかったのである。秋芳宮の一件の後、紅妍は霹児を呼んだ。放っておけないと考えた末の提案だったが、これに藍玉は随分と喜んでいた。霹児の境遇を哀れに思っていたのだろう。
いまや霹児は冬花宮に勤めている。庭手入れや厨を手伝っているようだ。あれから何度も姿を見ているが元気そうにしている。秋芳宮に呼んだ時の窶れて、泣き崩れた姿を思えばよい変化だった。
「霹児は、楊妃様を救ってくださった華妃様に感謝していますよ。毎日楽しそうに華妃様の話をするのでこちらが参るほどです」
視線に気づいたらしい霹児がこちらを見た。礼をした後、微笑んでいる。
藍玉の話を聞く限り、冬花宮の者たちは紅妍を疎んじていないようだ。それは藍玉がうまく立ち回っていることもあるのだろう。ここは華妃を気味悪がっていないのだと知れば、胸のうちに救っていたもやが晴れたような気がした。疎んじられるのは仕方の無いことだと諦めていたくせに、安堵してしまう。荒んだ心が凪いだ。
「この後はどうされます?」
「さっそく最禮宮に行ってみようと思う。瓊花のことも調べたいと思っていたからちょうどいい」
最禮宮は第二皇子の融勒が住まう宮である。近くまで寄って鬼霊の気配を確かめておきたい。
それとは別に瓊花のことも気にかけていた。秋芳宮の宮女長は協力者は鬼霊だと話し、瓊花を吐いて死んだ。本来は考えられない死に方である。こういった不自然な死に方をするのは呪術や鬼霊と考えて間違いはないだろう。
(どこかに瓊花の鬼霊がいるはずだ)
瓊花が咲き誇る季は終わろうとしている。だが花はなくとも木は残る。周辺に花があればそれの記憶を詠めばいい。
「わかりました。では支度をしますね」
「それから震礼宮に文を出す――この件は秀礼様の耳に入れておいた方がいいと思う」
「ええ。そのように」
藍玉は文の用意をするため部屋を出て行く。文を出した後は後宮の散策だ。支度しなければと考えながら紅妍は深く息を吐いた。
華紅妍を前にしても永貴妃の表情は動かない。齢は甄妃より少し上だが、甄妃が温かさを持つ人であれば永貴妃は氷である。紅妍をじいと見やる瞳の奥は身震いしそうな冷気を孕んでいた。
「華妃は不気味な術を使うと噂が広まっている」
永貴妃が切り出す。
「おぬしを鬼霊の妃と呼ぶ者もいるほどだ」
「鬼霊の妃……残念ながらわたしは鬼霊ではありません」
否定すると永貴妃がわずかばかり頬を緩め、冷笑した。
「知らぬ者にとって理解しがたい術を使う華妃は鬼霊と同等に見えるのだろう。今日も冬花宮に向かうと話せば、我の宮女長が悲鳴をあげて制止にくるほどだ。おぬしはよほど怖がられているのだな」
不気味だと思われてしまうのは致し方ないことだと紅妍は思っている。大都や宮勤めをした仙術師たちは迫害されたのは随分と昔のことだと聞いている。特に人を呪う呪術の類いは身を隠す。光と影があるのならば、術師らは影に属するだろう。仙術に明るくない者たちがそれを気味悪いと感じることは当然だ。
「なに。ただの噂はいずれ薄れる。どこぞの若娘が言いふらしているのだろう。嫉妬に駆られてよく口が回るようだから」
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思い当たる顔が浮かぶ。辛琳琳だ。秀礼を慕う琳琳は、秀礼に近づいているからという理由で紅妍を嫌っている。紅妍を貶めるような噂を流しているのもおそらく琳琳の嫌がらせだ。
対峙する永貴妃はそれを見抜いているようだった。そのため紅妍を前にしても怯える素振りはない。
「おぬしが華妃となった理由は聞いている。帝を苦しめる災禍を解くためだろう」
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「帝の災禍に関し、我が知っていることがひとつある。おそらくはおぬしの役に立つはずだ」
「ありがとうございます。では――」
早速それを教えてほしい。目を輝かせた紅妍だったが、永貴妃の鋭い眼光がそれを制した。
「条件がある」
どうやら手放しで情報を与える気はないらしい。後宮を取り仕切る貴妃の立場にいる人だ、一筋縄ではいかない。
「おぬし、鬼霊を祓えるのだろう? 我の頼みを聞いてくれるのなら、知っていることを教えてやってもよい」
「……内容によります」
「ほう。慎重だな。よいことだ」
くく、と喉奥でこもったような笑い声をあげる。永貴妃が扇を勢いよく閉じる音が部屋に響いた。
空気が張り詰める。それだけ永貴妃はこの件の解決を願っているのだろう。紅妍は身を強ばらせて、言葉の続きを待った。
「我の息子――第二皇子、融勒のことだ。融勒は最禮宮を与えられているが、どうもこの宮に鬼霊が出るらしい」
現在、内廷に住まう皇子は二人いる。秀礼と融勒の二人だ。次期皇帝は内廷の皇子から選出されるため二人のどちらかが帝になるのだろう。そのうち第二皇子の融勒を産んだのが永貴妃である。
その融勒の宮に鬼霊が出ているというのは穏やかではない話だ。紅妍に依頼するのだから鬼霊や呪いに関することかと推測していたが、やはり血のにおいから離れられそうにない。
「宝剣の力を借りて祓うことも考えたが融勒はそれを好まない。宝剣なしで鬼霊を祓うとすればおぬしの力が必要であろう。どうだ、ひとつ融勒を助けてはくれぬか」
この依頼に、しばし紅妍は口を閉ざした。
というのも紅妍は、華妃になるために秀礼の口添えを得ている。よく冬花宮に来ていることも広まっているだろう。つまり紅妍は、融勒と敵対の位置にある第四皇子の秀礼と親しい側にいるのだ。秀礼に断りなしで第二皇子の件を引き受けていいものか悩ましい。
(だけど、鬼霊が絡んでいる)
鬼霊が絡むとなれば、宮城内でそれを解決できる人は少ない。普通の者が鬼霊を祓うことはできないのだ。第二皇子だからと見捨ててしまえば、その鬼霊は延々と宮城を彷徨うことになる。鬼霊は永く、苦しみを味わうことになる。
逡巡の末、紅妍は顔をあげた。
永貴妃が去った後、入れ直した茶を持ってきたのは藍玉だった。藍玉は部屋の隅にいたのでこの話を聞いている。落ち着かない様子で聞いた。
「あの話、引き受けてよろしかったんでしょうか」
藍玉が言いたいことはよくわかる。第四皇子と親しくしておきながら第二皇子の依頼を受けるのはいかがなものかと考えているのだろう。紅妍は几を睨みつけたまま言った。逡巡の末に出した結論だと示すように硬い面持ちである。
「鬼霊が絡んでいるならわたしが出るしかないと思う」
「確かに、鬼霊を祓えるのは華妃様と秀礼様だけですが」
「秀礼様に頼みたくないというのなら、わたししかいない」
それは自らに言い聞かせるようなひと言だった。紅妍自身もいまだ悩んでいる。
藍玉は物憂げに息をつく。
「華妃様はご存じないかもしれませんが、永貴妃様と秀礼様はよい仲と言い難いのです。特に永貴妃様は秀礼様を快く思っていないと聞きます」
永貴妃は融勒の生母である。融勒が次期皇帝になれば永貴妃は太后になるのだ。彼女にとって秀礼は目の敵だろう。
「まして秀礼様は宝剣に選ばれていますから」
藍玉が言った。宝剣は永貴妃も語っていた。紅妍はそれを鬼霊を斬り捨てる剣だと思っていたが、永貴妃や藍玉の語りを聞くとどうもそれだけとは思えない。
(宝剣には、わたしの知らないものがたくさんあるのかもしれない)
第二皇子の融勒が鬼霊を祓えないことから彼は宝剣を所持していないのだろう。それによる鬼霊祓いも好まないと永貴妃が話していた。
「それにしても、鬼霊の妃というのは随分失礼な物言いですね」
呆れたように藍玉が言う。これには紅妍も苦笑した。
「痩せぎすで血色も悪い華妃様といえ鬼霊は失礼でしょう」
「藍玉も随分な語りようをしているけれど」
「あら。これは本当ですよ。華妃様はもっと食べて、体に力を蓄えるべきです」
そうは言われても。こう見えて冬花宮にきてからの紅妍は良く食べている。里にいた頃と比べて食事は美味しく、量も多い。たびたび甘味や果物が出てくるので甘い物を好むようになったほどだ。
目の前で華仙術を使っても藍玉の態度はいままでと変わらない。むしろ日に日に親しさが増していく気がしている。紅妍は藍玉の様子を伺った。永貴妃に告げられた悪評はいまも頭に残っていた。
「……藍玉も、わたしが不気味だと思う?」
紅妍が訊いた。
これに藍玉は驚いた様子で紅妍を見る。しばし目を瞬かせた後、からからと笑いだした。
「まさか! どこが不気味でしょう。花を用いる術なんて美しいじゃあないですか。それに鬼霊を祓ってくださるなんてありがたいことです」
それに、と藍玉が続ける。視線は窓の先にある庭の方へ向けられていた。
「冬花宮の者はみな華妃様を慕っていますよ。特に霹児なんて、華妃様のためにと毎日楽しそうに仕事をしています」
庭には霹児の姿があった。霹児は秋芳宮の宮女だったが、楊妃を殺めた宮女長に脅されて郷里に戻っていた。彼女としては宮勤めをして家族らを食べさせていきたかったのである。秋芳宮の一件の後、紅妍は霹児を呼んだ。放っておけないと考えた末の提案だったが、これに藍玉は随分と喜んでいた。霹児の境遇を哀れに思っていたのだろう。
いまや霹児は冬花宮に勤めている。庭手入れや厨を手伝っているようだ。あれから何度も姿を見ているが元気そうにしている。秋芳宮に呼んだ時の窶れて、泣き崩れた姿を思えばよい変化だった。
「霹児は、楊妃様を救ってくださった華妃様に感謝していますよ。毎日楽しそうに華妃様の話をするのでこちらが参るほどです」
視線に気づいたらしい霹児がこちらを見た。礼をした後、微笑んでいる。
藍玉の話を聞く限り、冬花宮の者たちは紅妍を疎んじていないようだ。それは藍玉がうまく立ち回っていることもあるのだろう。ここは華妃を気味悪がっていないのだと知れば、胸のうちに救っていたもやが晴れたような気がした。疎んじられるのは仕方の無いことだと諦めていたくせに、安堵してしまう。荒んだ心が凪いだ。
「この後はどうされます?」
「さっそく最禮宮に行ってみようと思う。瓊花のことも調べたいと思っていたからちょうどいい」
最禮宮は第二皇子の融勒が住まう宮である。近くまで寄って鬼霊の気配を確かめておきたい。
それとは別に瓊花のことも気にかけていた。秋芳宮の宮女長は協力者は鬼霊だと話し、瓊花を吐いて死んだ。本来は考えられない死に方である。こういった不自然な死に方をするのは呪術や鬼霊と考えて間違いはないだろう。
(どこかに瓊花の鬼霊がいるはずだ)
瓊花が咲き誇る季は終わろうとしている。だが花はなくとも木は残る。周辺に花があればそれの記憶を詠めばいい。
「わかりました。では支度をしますね」
「それから震礼宮に文を出す――この件は秀礼様の耳に入れておいた方がいいと思う」
「ええ。そのように」
藍玉は文の用意をするため部屋を出て行く。文を出した後は後宮の散策だ。支度しなければと考えながら紅妍は深く息を吐いた。
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