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第四章 悪女と誘拐
3-04
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馬車を見送ると、ダリアは「これぞ災い転じて福となす、よね」と満足そうに腕を組んだ。
そのまま隣に立つクライドに目をやり
「あなたもそろそろ帰る? 遅くまで悪かったわね」
「ひとりで大丈夫か? なんなら泊まっていくけど」
「え? 大丈夫って何が?」
「今日攫われただろうが」
「ああ、うん、大丈……」
「いえ、ぜひ泊まっていただきましょう」ダリアの言葉にランダルが被せた。
「ダリア様も心細いでしょうから、ね」ダメとは言わせない圧にダリアはうなずくしかなかった。
その日は二人で夕食をとった。
その後、二人で部屋を移動し、ワインを飲みながら雑談をする。
「今日は悪かったな」
真面目な顔でクライドが言う。
「何が?」
「君が攫われたのは俺のせいだ」
クライドは辛そうに眉根を寄せた。
「あなたのせいじゃないわよ。謝る必要なんてないわ」
「君の名前は出さないようにしていたんだけど、まさか探偵まがいのことまでしているとは思わなかったよ。俺に隙がありすぎた。しかも、仮にも騎士なのに。怒りに任せて女性の胸ぐらを掴むなんて最低最悪だ。君がずっと冷静だったのに、俺は本当にダメだった」
吐き捨てるように言うと、グラスのワインを一気に飲み干した。
「そんなことないわよ。あなたが私のぶんまで怒ってくれたから私は冷静でいられたのよ」
「助けるつもりが助けられたよ。俺もまだまだ未熟だ」
「私ね、捕まっている間、きっとクライドたちが助けてくれると信じていたから。だから捕まっている間もそれほど怖くなかったし、今もこうしてダメージをあまり受けずにいられるんだと思う」
「そう言ってもらえると少しは浮かばれるよ」
下を向いて苦笑する。
二人でそのまましばらく他愛もない話をした後、ダリアが思い出したように訊いた。
「ところで明日の仕事は大丈夫なの?」
「明日は遅番だから問題ない。というか、そんなことダリアは気にしなくていいよ」
「そうなんだ。ありがとう」
笑顔でお礼を言うダリアから、クライドは慌てて顔を背けた。
「さてそろそろ寝るかな。君も疲れたろ、早く寝たほうがいいぞ」
赤い頬をごまかすように、クライドは椅子から立ち上がり、伸びをした。
「そうね、そうするわ」
クライドはかがんで、座っているダリアと目線を合わせた。
「いいか、もし何かあったら俺を呼べよ。真夜中でもかまわない」
「え、あ、うん。たぶん大丈夫だと思うけど。ありがとう」
ダリアはクライドの真面目な顔に少し驚きつつ、お礼を言った。
「そのときは一緒に寝てあげるから。ガキの頃みたいに」ニヤリと笑いながら言う。
「ば、ばか。何いってんの」
ダリアの顔が赤くなる。
クライドはそれを見ると満足そうに笑いながら、部屋を出ていった。
そのまま隣に立つクライドに目をやり
「あなたもそろそろ帰る? 遅くまで悪かったわね」
「ひとりで大丈夫か? なんなら泊まっていくけど」
「え? 大丈夫って何が?」
「今日攫われただろうが」
「ああ、うん、大丈……」
「いえ、ぜひ泊まっていただきましょう」ダリアの言葉にランダルが被せた。
「ダリア様も心細いでしょうから、ね」ダメとは言わせない圧にダリアはうなずくしかなかった。
その日は二人で夕食をとった。
その後、二人で部屋を移動し、ワインを飲みながら雑談をする。
「今日は悪かったな」
真面目な顔でクライドが言う。
「何が?」
「君が攫われたのは俺のせいだ」
クライドは辛そうに眉根を寄せた。
「あなたのせいじゃないわよ。謝る必要なんてないわ」
「君の名前は出さないようにしていたんだけど、まさか探偵まがいのことまでしているとは思わなかったよ。俺に隙がありすぎた。しかも、仮にも騎士なのに。怒りに任せて女性の胸ぐらを掴むなんて最低最悪だ。君がずっと冷静だったのに、俺は本当にダメだった」
吐き捨てるように言うと、グラスのワインを一気に飲み干した。
「そんなことないわよ。あなたが私のぶんまで怒ってくれたから私は冷静でいられたのよ」
「助けるつもりが助けられたよ。俺もまだまだ未熟だ」
「私ね、捕まっている間、きっとクライドたちが助けてくれると信じていたから。だから捕まっている間もそれほど怖くなかったし、今もこうしてダメージをあまり受けずにいられるんだと思う」
「そう言ってもらえると少しは浮かばれるよ」
下を向いて苦笑する。
二人でそのまましばらく他愛もない話をした後、ダリアが思い出したように訊いた。
「ところで明日の仕事は大丈夫なの?」
「明日は遅番だから問題ない。というか、そんなことダリアは気にしなくていいよ」
「そうなんだ。ありがとう」
笑顔でお礼を言うダリアから、クライドは慌てて顔を背けた。
「さてそろそろ寝るかな。君も疲れたろ、早く寝たほうがいいぞ」
赤い頬をごまかすように、クライドは椅子から立ち上がり、伸びをした。
「そうね、そうするわ」
クライドはかがんで、座っているダリアと目線を合わせた。
「いいか、もし何かあったら俺を呼べよ。真夜中でもかまわない」
「え、あ、うん。たぶん大丈夫だと思うけど。ありがとう」
ダリアはクライドの真面目な顔に少し驚きつつ、お礼を言った。
「そのときは一緒に寝てあげるから。ガキの頃みたいに」ニヤリと笑いながら言う。
「ば、ばか。何いってんの」
ダリアの顔が赤くなる。
クライドはそれを見ると満足そうに笑いながら、部屋を出ていった。
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