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第四章 悪女と誘拐
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「敵の目的は私だけれど、ジェーンさんはなぜ攫われたのかしら。なにか心当たりある?」
ジェーンは青白い顔でうつむいたままだ。落ち着くまでしばらくそっとしておいたほうがいいかもしれない。
「ジェーンさん、わたしはこの建物の中を調べてみるわ。少しここから離れるけど何かあったら声をかけて」
ダリアは建物の端に向かい、壁に沿って丁寧に調べ始めた。古いとはいえ、石の壁だ。小さな隙間はいくつもあるが、人が通れるくらいの大きさのものはない。倉庫の出入り口は木製の大きな引き戸が一つあるだけだ。当然だが鍵がかかっていて開かない。木は古びていて強い力をかければ壊せそうだが、大きな音を立てれば犯人たちが気づいて戻ってくるかもしれない。
せめて建物内に何かないかと探してみたが、結局見つけたのは荷物の保管に使われていたであろう、古びた大きなシートだけだった。
ダリアはそのシートを持ってジェーンのところに戻った。
「ジェーンさん、辛いのはわかるけど、犯人がいつ戻るかわからないから話を聞いて」
あいかわらず無言で下を向いたままのジェーンに構わず話しかける。
「外では警備隊が私達のことを探しているはず。でもこの場所を見つけるには時間がかかるかもしれない。建物の中を調べてみたけど、逃げられる方法は見つけられなかったの」だから、と持ってきた古びたシートをジェーンに見せた。
「犯人はきっとここに戻ってくるはず。私はあの辺りにいるわ」
ダリアは建物中心の明るくなっている場所を指差す。屋根の壊れた部分から陽の光が入ってきてそこだけ切り取ったように明るい。
「犯人がこの建物に入ったら、まず最初に中心で明るい場所にいる私に目がいくはず。ジェーンさんは入り口のすぐ横の暗いあの辺りで、このシートを被って隠れていて。
私が両手自由な状態でいるのを見たら、犯人は慌てて私の方に駆け寄ってくるわ。その隙にジェーンさんはシートから出て入り口から逃げてちょうだい」
ジェーンが顔をあげる。ダリアはジェーンの目を見てはっきりと言った。
「後ろを振り向かず、まっすぐ走って助けを呼んできて」
ジェーンは困惑している。
「でも、そしたらあなたが……」
「わたしは大丈夫。マクレディ領の領主として、あなたを傷つけるわけにはいかないわ」
「でも……、でも……」ジェーンは目線を下に向けたままつぶやく。
「申し訳ないけど、今はこれしか方法が思いつかないの。犯人がいつ戻るかわからないわ。準備しましょう」
ダリアはジェーンを連れて、入り口のすぐ横、ちょうど建物の角にあたる部分に行く。陽の光が入らない場所なので暗く、死角になるはずだ。そこにジェーンを座らせるとシートを広げた。
「犯人がいつ来るかわからないから、これを掛けたらもうお話はやめましょう。あなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。もし無事に逃げることができたら一緒にお茶でもしましょう」
ジェーンを安心させるように笑顔で、ダリアはシートを被せた。
ダリアはジェーンに話した通り、入り口真正面の明るい部分に座った。見上げると朽ちた屋根の隙間から青空が見えた。ここなら建物に入った瞬間に陽の光に照らされたダリアが目に入るだろう。
とにかく優先すべきことはジェーンを怪我なく帰すことだ。もし失敗しても、ジェーンだけは助かるよう犯人に交渉しなければならない。
それにしても、なぜジェーンさんを攫ったのだろう。最初はジェーンさんだけを人質にするつもりだった?だとしてもなぜジェーンさんだったのだろう。もしかしてまだ何か裏があるのかもしれないが、今は考える材料が足りない。ダリアは天井を見上げ、屋根の隙間を横切っていく雲を見つめていた。
天井から降る光の位置が変わったことに気付いて、ダリアは光の中心に移動した。
ここに座り始めてからどれくらい経っだだろうか。光の位置が変わるたび、すこしづつ移動していたので、数時間は経っていたかもしれない。
捜査はどうなっているだろうか。犯人の要求を聞いたラリーは警備隊に駆け込んだはず。警備隊長に任せておけば問題ないと思うが、ジェーンが一緒に捉えられていることは把握しているのだろうか。今日はクライドが来る予定だったから彼にも心配をかけてしまったなあ。などいろいろなことがダリアの頭をよぎっていく。
お姉様が当主だったなら、こんな失態を起こさなかったんだろうか。ダリアは唇を噛んだ。
ジェーンは青白い顔でうつむいたままだ。落ち着くまでしばらくそっとしておいたほうがいいかもしれない。
「ジェーンさん、わたしはこの建物の中を調べてみるわ。少しここから離れるけど何かあったら声をかけて」
ダリアは建物の端に向かい、壁に沿って丁寧に調べ始めた。古いとはいえ、石の壁だ。小さな隙間はいくつもあるが、人が通れるくらいの大きさのものはない。倉庫の出入り口は木製の大きな引き戸が一つあるだけだ。当然だが鍵がかかっていて開かない。木は古びていて強い力をかければ壊せそうだが、大きな音を立てれば犯人たちが気づいて戻ってくるかもしれない。
せめて建物内に何かないかと探してみたが、結局見つけたのは荷物の保管に使われていたであろう、古びた大きなシートだけだった。
ダリアはそのシートを持ってジェーンのところに戻った。
「ジェーンさん、辛いのはわかるけど、犯人がいつ戻るかわからないから話を聞いて」
あいかわらず無言で下を向いたままのジェーンに構わず話しかける。
「外では警備隊が私達のことを探しているはず。でもこの場所を見つけるには時間がかかるかもしれない。建物の中を調べてみたけど、逃げられる方法は見つけられなかったの」だから、と持ってきた古びたシートをジェーンに見せた。
「犯人はきっとここに戻ってくるはず。私はあの辺りにいるわ」
ダリアは建物中心の明るくなっている場所を指差す。屋根の壊れた部分から陽の光が入ってきてそこだけ切り取ったように明るい。
「犯人がこの建物に入ったら、まず最初に中心で明るい場所にいる私に目がいくはず。ジェーンさんは入り口のすぐ横の暗いあの辺りで、このシートを被って隠れていて。
私が両手自由な状態でいるのを見たら、犯人は慌てて私の方に駆け寄ってくるわ。その隙にジェーンさんはシートから出て入り口から逃げてちょうだい」
ジェーンが顔をあげる。ダリアはジェーンの目を見てはっきりと言った。
「後ろを振り向かず、まっすぐ走って助けを呼んできて」
ジェーンは困惑している。
「でも、そしたらあなたが……」
「わたしは大丈夫。マクレディ領の領主として、あなたを傷つけるわけにはいかないわ」
「でも……、でも……」ジェーンは目線を下に向けたままつぶやく。
「申し訳ないけど、今はこれしか方法が思いつかないの。犯人がいつ戻るかわからないわ。準備しましょう」
ダリアはジェーンを連れて、入り口のすぐ横、ちょうど建物の角にあたる部分に行く。陽の光が入らない場所なので暗く、死角になるはずだ。そこにジェーンを座らせるとシートを広げた。
「犯人がいつ来るかわからないから、これを掛けたらもうお話はやめましょう。あなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。もし無事に逃げることができたら一緒にお茶でもしましょう」
ジェーンを安心させるように笑顔で、ダリアはシートを被せた。
ダリアはジェーンに話した通り、入り口真正面の明るい部分に座った。見上げると朽ちた屋根の隙間から青空が見えた。ここなら建物に入った瞬間に陽の光に照らされたダリアが目に入るだろう。
とにかく優先すべきことはジェーンを怪我なく帰すことだ。もし失敗しても、ジェーンだけは助かるよう犯人に交渉しなければならない。
それにしても、なぜジェーンさんを攫ったのだろう。最初はジェーンさんだけを人質にするつもりだった?だとしてもなぜジェーンさんだったのだろう。もしかしてまだ何か裏があるのかもしれないが、今は考える材料が足りない。ダリアは天井を見上げ、屋根の隙間を横切っていく雲を見つめていた。
天井から降る光の位置が変わったことに気付いて、ダリアは光の中心に移動した。
ここに座り始めてからどれくらい経っだだろうか。光の位置が変わるたび、すこしづつ移動していたので、数時間は経っていたかもしれない。
捜査はどうなっているだろうか。犯人の要求を聞いたラリーは警備隊に駆け込んだはず。警備隊長に任せておけば問題ないと思うが、ジェーンが一緒に捉えられていることは把握しているのだろうか。今日はクライドが来る予定だったから彼にも心配をかけてしまったなあ。などいろいろなことがダリアの頭をよぎっていく。
お姉様が当主だったなら、こんな失態を起こさなかったんだろうか。ダリアは唇を噛んだ。
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