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第一章 悪女と婿にしたい男性ナンバーワン
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ダリアは気分を変えるように首を振ると、椅子から立ち上がり部屋から出た。
仕事に戻りたかったが、休憩の終了時間まではまだ余裕がある。休憩を繰り上げて戻っても追い返されるだけだろう。
しかたがないので屋敷の玄関から外に出た。眼の前に広がる庭園は陽の光を浴びて輝き、睡眠不足の目には眩しすぎる。ダリアはそのまま屋敷の裏手にまわった。
屋敷の裏手は、華やかな表側の庭園とは違い、ただひたすら広く、殺風景だ。屋敷の近くは芝生が植えられテーブルや椅子が置かれているが、建物から少し離れると管理はほとんどされていない。たくさんの樹木が無造作に植えられていて、大きな池には魚が泳ぎ、使用人が休憩時間に釣りをすることもある。この屋敷は領民にとっての避難所も兼ねているので、万が一に備えているのだ。
もはやちょっとした森のようなそれは、屋敷の者には通称〝裏の森〟と呼ばれている。
ダリアは芝生をゆっくり踏んで、裏の森へ近づく。
ダリアが行くのがわかっていたかのように、裏の森のすこし手前の芝生にはピクニックシートが敷かれ、お茶とお菓子が用意されていた。
ダリアはまっすぐにそこに向かうとシートの上に寝転んだ。
見上げると樹木に鳥の巣箱がいくつかかかっているのが見える。それはダリアが趣味で作ってかけているものだ。
鳥の鳴き声が聞こえる。巣箱を使ってくれているんだろうか。それならうれしい。
小さい頃からここはダリアのお気に入りの場所だ。
以前は毎日のようにここに来ては巣箱の様子を確認していた。古くなったり壊れたりしたものは取り外し、新しい巣箱をかけ直したりしていた。
お陰でちょっとした大工仕事はお手の物だ。小さい頃は両親に危ないからやめなさいと叱られたが、懲りずに何度もやっていので、最終的には絶対一人ではやらず庭師と一緒にやることという条件で許してもらった。
だが、当主になると決めてからは、巣箱を作るどころか、ここに来る時間すら無くなった。
空を眺めたのはいつ以来だろう、ダリアが樹木越しに晴れ渡った青空を見上げると、視界の端に古ぼけた巣箱が映った。
比較的新しい巣箱が並ぶなか、ひとつだけ古びたボロボロの巣箱。それをしばらく眺めるとダリアは静かに目を閉じた。
仕事に戻りたかったが、休憩の終了時間まではまだ余裕がある。休憩を繰り上げて戻っても追い返されるだけだろう。
しかたがないので屋敷の玄関から外に出た。眼の前に広がる庭園は陽の光を浴びて輝き、睡眠不足の目には眩しすぎる。ダリアはそのまま屋敷の裏手にまわった。
屋敷の裏手は、華やかな表側の庭園とは違い、ただひたすら広く、殺風景だ。屋敷の近くは芝生が植えられテーブルや椅子が置かれているが、建物から少し離れると管理はほとんどされていない。たくさんの樹木が無造作に植えられていて、大きな池には魚が泳ぎ、使用人が休憩時間に釣りをすることもある。この屋敷は領民にとっての避難所も兼ねているので、万が一に備えているのだ。
もはやちょっとした森のようなそれは、屋敷の者には通称〝裏の森〟と呼ばれている。
ダリアは芝生をゆっくり踏んで、裏の森へ近づく。
ダリアが行くのがわかっていたかのように、裏の森のすこし手前の芝生にはピクニックシートが敷かれ、お茶とお菓子が用意されていた。
ダリアはまっすぐにそこに向かうとシートの上に寝転んだ。
見上げると樹木に鳥の巣箱がいくつかかかっているのが見える。それはダリアが趣味で作ってかけているものだ。
鳥の鳴き声が聞こえる。巣箱を使ってくれているんだろうか。それならうれしい。
小さい頃からここはダリアのお気に入りの場所だ。
以前は毎日のようにここに来ては巣箱の様子を確認していた。古くなったり壊れたりしたものは取り外し、新しい巣箱をかけ直したりしていた。
お陰でちょっとした大工仕事はお手の物だ。小さい頃は両親に危ないからやめなさいと叱られたが、懲りずに何度もやっていので、最終的には絶対一人ではやらず庭師と一緒にやることという条件で許してもらった。
だが、当主になると決めてからは、巣箱を作るどころか、ここに来る時間すら無くなった。
空を眺めたのはいつ以来だろう、ダリアが樹木越しに晴れ渡った青空を見上げると、視界の端に古ぼけた巣箱が映った。
比較的新しい巣箱が並ぶなか、ひとつだけ古びたボロボロの巣箱。それをしばらく眺めるとダリアは静かに目を閉じた。
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