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第一章 悪女と婿にしたい男性ナンバーワン
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ダリアが小さい頃、家に遊びに来ていた幼馴染の男の子に裏庭でボールを投げる方法を教わったことがある。
上手にできるようになると嬉しくてメアリに見せたくなり、幼馴染が土で汚れたボールを拭くための布を用意している隙に、メアリの部屋まで猛ダッシュをした。
室内でボールを投げればどうなるかなど誰でも想像がつくが、幼いダリアにはメアリに見せて褒めてもらうことしか頭になかった。
外からボールを抱え走ってきて、投げるから見て! と室内でボールを構えるダリアに、メアリは慌てた。
メアリから本を借りるためにそこに居たもう一人の幼馴染の少年が止めようとしたが、手に持っていた本をどうするか一瞬迷ったため遅れてしまった。
ダリアは思い切りボールを放り投げた。
投げたボールは壁に勢いよく当たり、それが跳ね返ったところで、慌ててダリアを追いかけてきた幼馴染がボールをキャッチしてなんとか事なきを得た。
さんざん外遊びで使用したボールだったため、結果、ピンクの壁に黒くボールの跡がついてしまった。
ようやく現状を理解したダリアは、泣きながらメアリに謝った。
メアリが怒ってないからと慰めると、ダリアはようやく泣き止み、涙を袖口で何度も拭いた。
その間に、メアリの部屋にいた幼馴染の少年は、弟であるボール投げを教えた男の子と壁の汚れを拭いていたが、壁にこびりついたボールの跡は拭いた程度では落ちなかった。
少しして落ち着いたダリアは三人を見渡し「ごめんなさい。わたしお父様に謝ってくる」としょぼんとして言った。
幼馴染の弟が「ダリアにボール投げを教えたのは僕だから、僕も一緒に謝りに行く。メアリと兄さんはここで待ってて」とダリアの手を取り部屋から出ていこうとした。
すると幼馴染の兄が「僕も行くよ。この部屋に来たダリアを止められなかったし、兄として弟のやったことに責任がある」と、二人を追いかけるよう前に出た。
ダリアは驚いて、男の子の手を振り払うと「だめよ。二人は悪くないわ。私一人で謝りに行く」
三人で言い合いをしていると、その様子を黙って見ていたメアリは
「ねえ、ちょっと手伝って」と壁際に歩いていき、ドレッサーを動かし始めた。幼馴染の二人が慌てて手伝いに行く。
「これをもっと右側に移動させたいの」
ドレッサーを移動させると、壁のシミは隠れて見えなくなった。
メアリは満足げに頷くと
「ほら、これで証拠隠滅。これは四人の秘密よ」
と口元に人差し指を添えて、内緒というように笑顔でポーズを取った。
あのドレッサーはメアリのお気に入りなので、ノーバック家に持っていかせた。
ドレッサーが無くなった場所には、ボールの跡がまだはっきりと残っていた。ボール跡を隠したかった両親はもういない。秘密を守ってくれた姉ももういない。
家から追い出した日の姉の顔がダリアの脳裏に浮かぶ。ノーバック子爵家からは元気にやっていると連絡は来ているが、本当にこんな方法を取ってよかったのか今でも自問自答してしまう。
とはいえ行動を起こしてしまったのだからもうやるしかない。現状維持ではだめだ。今よりもっとマクレディ領を発展させなければいけない。
そうしないと、そうしなければ
「お姉様が幸せになれない」
上手にできるようになると嬉しくてメアリに見せたくなり、幼馴染が土で汚れたボールを拭くための布を用意している隙に、メアリの部屋まで猛ダッシュをした。
室内でボールを投げればどうなるかなど誰でも想像がつくが、幼いダリアにはメアリに見せて褒めてもらうことしか頭になかった。
外からボールを抱え走ってきて、投げるから見て! と室内でボールを構えるダリアに、メアリは慌てた。
メアリから本を借りるためにそこに居たもう一人の幼馴染の少年が止めようとしたが、手に持っていた本をどうするか一瞬迷ったため遅れてしまった。
ダリアは思い切りボールを放り投げた。
投げたボールは壁に勢いよく当たり、それが跳ね返ったところで、慌ててダリアを追いかけてきた幼馴染がボールをキャッチしてなんとか事なきを得た。
さんざん外遊びで使用したボールだったため、結果、ピンクの壁に黒くボールの跡がついてしまった。
ようやく現状を理解したダリアは、泣きながらメアリに謝った。
メアリが怒ってないからと慰めると、ダリアはようやく泣き止み、涙を袖口で何度も拭いた。
その間に、メアリの部屋にいた幼馴染の少年は、弟であるボール投げを教えた男の子と壁の汚れを拭いていたが、壁にこびりついたボールの跡は拭いた程度では落ちなかった。
少しして落ち着いたダリアは三人を見渡し「ごめんなさい。わたしお父様に謝ってくる」としょぼんとして言った。
幼馴染の弟が「ダリアにボール投げを教えたのは僕だから、僕も一緒に謝りに行く。メアリと兄さんはここで待ってて」とダリアの手を取り部屋から出ていこうとした。
すると幼馴染の兄が「僕も行くよ。この部屋に来たダリアを止められなかったし、兄として弟のやったことに責任がある」と、二人を追いかけるよう前に出た。
ダリアは驚いて、男の子の手を振り払うと「だめよ。二人は悪くないわ。私一人で謝りに行く」
三人で言い合いをしていると、その様子を黙って見ていたメアリは
「ねえ、ちょっと手伝って」と壁際に歩いていき、ドレッサーを動かし始めた。幼馴染の二人が慌てて手伝いに行く。
「これをもっと右側に移動させたいの」
ドレッサーを移動させると、壁のシミは隠れて見えなくなった。
メアリは満足げに頷くと
「ほら、これで証拠隠滅。これは四人の秘密よ」
と口元に人差し指を添えて、内緒というように笑顔でポーズを取った。
あのドレッサーはメアリのお気に入りなので、ノーバック家に持っていかせた。
ドレッサーが無くなった場所には、ボールの跡がまだはっきりと残っていた。ボール跡を隠したかった両親はもういない。秘密を守ってくれた姉ももういない。
家から追い出した日の姉の顔がダリアの脳裏に浮かぶ。ノーバック子爵家からは元気にやっていると連絡は来ているが、本当にこんな方法を取ってよかったのか今でも自問自答してしまう。
とはいえ行動を起こしてしまったのだからもうやるしかない。現状維持ではだめだ。今よりもっとマクレディ領を発展させなければいけない。
そうしないと、そうしなければ
「お姉様が幸せになれない」
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