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プロローグ
02
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ドアの向こうから足音が完全に消えるのを待って、ダリアは大きく息を吐いた。
つい先程までメアリが座っていたマクレディ家当主が使う大机に目をやったあと、その手前にあるソファに乱暴に座った。
「ようやく終わった。……違うわね、これが始まりか」
ドアをノックする音がして、ランダルが入ってきた。
「お疲れ様でした。ご立派でしたよ」
「ありがとう。お姉様の様子はどう?」
「放心状態でした。多分まだ状況が理解できていないのでしょう。それも仕方ありませんが」
「そうね。ほんの数分前までは自分がマクレディ伯爵家の当主として一生を終えると思っていたでしょうから」
ダリアはランダルに目をやり
「あなたにも迷惑をかけたわね」と声をかける。
「とんでもない」
ランダルは少し寂しそうに目を伏せる。この有能な補佐がこういった感情を表に出すのはめずらしい。
「お姉さまにお茶をお出しして。この家での最後のお茶をどうぞってね」
「かしこまりました。メアリ様の好きなローズティでよろしいですか」
「結構よ。……そして私にもローズティをちょうだい」
「執務室に、ですか」
「ええ、ここに。お姉様とお茶を飲むことは、もうないわ」
ダリアの顔に笑顔はなかった。
少しするとメイドがローズティを運んできた。
「メアリ様にもお出ししましたよ」
「そう」
「メアリ様は泣いておられました」
「……そう」
返事をするダリアの声が震えた。目が潤みティーカップがぼやけて見える。
「お姉様が家を出るまで一人にしてもらえるかしら」
誰も座っていない当主の椅子に目をやり
「お姉様がいなくなったら、あの椅子に座るわ」
姉を追い出して当主となった悪女な妹の誕生である。
つい先程までメアリが座っていたマクレディ家当主が使う大机に目をやったあと、その手前にあるソファに乱暴に座った。
「ようやく終わった。……違うわね、これが始まりか」
ドアをノックする音がして、ランダルが入ってきた。
「お疲れ様でした。ご立派でしたよ」
「ありがとう。お姉様の様子はどう?」
「放心状態でした。多分まだ状況が理解できていないのでしょう。それも仕方ありませんが」
「そうね。ほんの数分前までは自分がマクレディ伯爵家の当主として一生を終えると思っていたでしょうから」
ダリアはランダルに目をやり
「あなたにも迷惑をかけたわね」と声をかける。
「とんでもない」
ランダルは少し寂しそうに目を伏せる。この有能な補佐がこういった感情を表に出すのはめずらしい。
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「かしこまりました。メアリ様の好きなローズティでよろしいですか」
「結構よ。……そして私にもローズティをちょうだい」
「執務室に、ですか」
「ええ、ここに。お姉様とお茶を飲むことは、もうないわ」
ダリアの顔に笑顔はなかった。
少しするとメイドがローズティを運んできた。
「メアリ様にもお出ししましたよ」
「そう」
「メアリ様は泣いておられました」
「……そう」
返事をするダリアの声が震えた。目が潤みティーカップがぼやけて見える。
「お姉様が家を出るまで一人にしてもらえるかしら」
誰も座っていない当主の椅子に目をやり
「お姉様がいなくなったら、あの椅子に座るわ」
姉を追い出して当主となった悪女な妹の誕生である。
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