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牙を剥く狂気

襲い来る前世

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「な…んで…」
「は?」

レムリアの小さな呟きに反応して、頭の上にあるヴォーグの足の力が弱まる。

「何で…そんなにリュシル…を、リュシュオンを憎むの?」
「何でだって?そんなの、当然だろ?あいつのせいで俺は惨めな最後を迎える羽目になったんだぜ?憎むのは当然だろ?」

何を言ってるんだと言わんばかりのその反応に、レムリアは悔しくて思う。

(この人は、一体何を言ってるの…?)

ヴォーグの言っている事は、自分勝手な言い分だ。あの時、強盗なんかしなければあんな事にはならなかったのだ。

(でも、それはもう前世の話…)

今は、レムリアもリュシルもヴォーグも生まれ変わって新しい人生を歩み始めたのに…。
今の彼は、誰からも好かれる優しい人間なのに。
今の人生では、大切な人達がいるのに…。

(なのに…)

「今の人生の全てを捨ててまでしないといけない事なの!?」

あらん限りの声を振り絞り、レムリアは叫んだ。
すると彼は私から足を退かし、フラつきながら後ずさる。

「俺…は」

頭を抱えブツブツと何かを呟く。

「俺…は、復讐ないといけないんだ。そうだ、そうしないといけないんだ。やらないと…ちゃんとそうしないといけないんだ。いや、何で俺はこんな事…。違う…こんな事やっちゃダメだ…。いや、やらないと…」

その姿は、まるで二人のヴォーグが言い合っている様だった。

「ヴォーグ…さん?」

レムリアの声に反応して、ヴォーグはふらふらと此方に近付いてくる。

「復讐しないと、復讐しないと、復讐しないと」

無表情で同じ言葉を繰り返すその姿は、とても人間とは思えなかった。

「ひっ!来ない…で」
「もうアイツが来るまで待たなくていいよね?」

そう言ってヴォーグが取り出したのは、あの時と似たようなナイフ。

「あっ…」

ナイフを見て震えるレムリアを、ヴォーグはとても楽しそうに見つめる。

「迎えに来たレムリアの死体を見たアイツは、一体どんな反応するかな?嗚呼、早くアイツの歪んだ顔が見たいっ!」

そう言って、ヴォーグはそのナイフをレムリアめがけて振り下ろした。
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