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牙を剥く狂気

気付いてる?

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あれから私は、リュシルにお願いされた通りに暫くヴォーグさんとの接触を控えた。何もしていない彼には、本当に申し訳ないと思う。だが、あんなに必死にリュシルがレムリアに頼み事をしたのは初めてだったのだ。

(別に、今の所は特に変なとこないんだけど…)

仕事が休みの今日。
私は、久し振りにローズと街へ出掛けていた。

「ーーって事があったの。ローズは、ヴォーグさんの事どう思う?」

自分一人では答えが出なくて、ローズに相談する。

「そうね…私は、別にそんなに悪い人だと思わないわ。優しくて人当たりもいいし」
「だよね?」
「でも、あの子がそんなに必死にレムリアに懇願するなんてね…」

やはり、その事でローズでさえも頭を悩ました。そんな彼女を見ながら、リュシルの事を考える。

「……ねぇ」
「ん?何?」
「こんなこと聞くのもなんだけど…。レムリアは、リュシルの事どう思ってるの?」

突然の質問に足を止める。

「どう…って。リュシルの事は、可愛い弟みたいだと思ってるよ」

そう答えたが、ローズはジッとこちらを見つめてくる。

「本当に?」
「本当だって。急にどうしたの?」
「私、レムリアと昔から一緒に居るから、アンタが何を考えてるのか誰よりも理解してるつもりよ。この際、ハッキリ言うけど…リュシルの事好きでしょう」

一体、彼女は何を言っているのだろうか。

「何言って…」
「私の知ってるレムリア・ミルドは、誰に何を言われても気にしない。誰と居るのかは自分で決める。…でも今、レムリアは人の言葉に左右されてる」

ローズは私の手を優しく包み込む。

「もしこれが私の言った事だったら、きっとレムリアは此処まで悩まなかった。『ヴォーグさんは悪い人じゃ無いよ』…きっとそう言って、今まで通りに過ごしてたわ」
「そんな事…」

無いとは言えなかった。

彼女の言う通り、もし彼女が言っていたら。
いや、誰がそう言っても大丈夫だと言っていつも通り過ごしただろう。

動揺しているレムリアに、ローズは静かに問いかけた。

「…ねぇ、気付いてる?昔からレムリアが何か言われて悩んだりするのは、リュシルに言われた時だって」
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