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過去の記憶

縁を結ぶ糸

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「レムっ!しっかりしろ!」

必死に呼びかけるリュシュオンに、レムは何とか言葉を放つ。

「だ…」
「何だ!」

リュシュオンが私の口元に顔を寄せる。

「だい…じょ…ぶ?」
「っ……!あぁ、俺は大丈夫だ」

(強盗は…)

男は、駆けつけた他の騎士に取り押さえられていた。その姿を見てもう安心だと思った途端、残っていた身体の全ての力が抜けた。そんなレムに、リュシュオンは身体が恐怖で震える。

「駄目だ!目を開けろ!」
「怪我人は何処ですか!」
「こっちだ!胸にナイフが刺さってる!」
「っ!地面にゆっくり寝かせてください!」

身体を地面に寝かされ治癒の魔法をかけられる。
それでも、段々と自身の身体が冷たくなるのが分かる。

(冷たい…。身体が動かない)

もう、機能してるのは聴力だけだった。

「お前、本当に馬鹿だよ…。こんな俺を庇うなんて」

今にも泣き出しそうな彼の声が聞こえる。

(私、死ぬんだ…)

そう思った時、私の中に芽生えた感情は安堵だった。

(これで彼に迷惑をかけないで済む)

確かに、私はリュシュオンが好きだった。
私自身の意思だと思っていた。でも、無意識の内に番いの本能による執着もあったのだろう。

いつか見た人間の著者が書いた本に、『獣人の番いへの本能はまるで一種の呪いのようだ』と書かれていた。

(本当に…)

その通りだと思う。
一度出逢ってしまったら、二度と逃れられない呪い。

だが、それももう終わりだ。

「…!……っ!」

リュシュオンの声がどんどん遠くなり、やがて何も聞こえなくなった。

(最後に、リュシュオンを守れて良かった…)

そうしてレム・ファートは人生の幕を閉じた。


***


腕の中で動かなくなった少女を強く抱き締める男。

(何でこんな事にっ!レム、何でこんな酷い俺なんかを守ったんだ…!)

辺りに少女の血の匂いが充満する。きつく噛み締めた唇から血が地面に落ちる。二度と動かなくなった少女を感情のままに強く抱き締めた拍子に、少女のポケットから何かが転がり落ちる。

「糸?」

それは白と赤の混じった不思議な糸。
その糸が、足元の血溜まりに落ちた瞬間。

『条件は満たされた』

男とも女とも言えない不思議な声が頭の中に聞こえた。

「な…んだ?」

『これより血を対価に想いを…縁を結ばん』

血に濡れた糸が不思議な色に輝きながら男と少女の周りを囲む。

『紡ぐは未来』

糸は、やがて男を中心に複雑な魔法陣を描く。
余りにも美しい魔法陣。

だが、それは男にしか見えていない様だった。
魔法陣の外側では、同僚の騎士達が騒動の収拾に忙しなく動いている。

『強き想いを未来へ運ぶ』

魔法陣が淡く輝き、魔法が発動する。
それを、男は茫然と見つめる。

『さぁ紡げ。途切れた糸を再び結べ』

その言葉と共に魔法陣が細かい光の粒になり辺りに降り注ぐ。その瞬間、胸に鋭い痛みを感じる。

「ッ!」

そうして男は意識を失った。
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