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過去の記憶

咄嗟の行動

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ソフィーに連れられ辿り着いた店の前で、レムは目を輝かせた。

「最近人気のお店って事で、今日は其処に予約を入れといたの」
「知ってます!此処って、先日オープンしたばかりのスイーツが人気のところですよね?」
「えぇ。勿論、スイーツだけじゃなくて料理も女性向けの店なの」

此処は、一度は行ってみたいと思っていた店だ。
予約を入れないと入れない、ちょっと高級感溢れる店。

「よく予約入れられましたね」
「知り合いが其処で働いてるのよ」

そんな事を話しながら、店に入ろうとしていた時だった。

「キャーーッ!!」
「「!?」」

遠くから、誰かの悲鳴が聞こえて来た。

「おいっ!こいつナイフを持ってるぞっ!」
「逃げろっ!」
「助けて!」

目の前の人達が、一斉に此方に向かって必死に走ってくる。

「ちょっ!何があったの!」
「強盗がナイフを持ってこっちに逃げて来てるんだっ!あんた達も早く逃げな!」

男性が走り去りながら教えてくれる。

「レム!私達も、騎士団が来るまで安全な所に逃げるわよ!」
「うん!」

そうして二人で走り出した時。

「うわぁ~ん!お母さんどこ~!」
「!?」

耳に聴こえる子供の泣き声。

(まさかっ!)

振り返ると、小さな子供が逃げ惑う人の隙間に見える。その更に後ろには、ナイフを持った男。

「レムっ!?」

ソフィーさんの驚いた声を聞きながら、レムはその子の元に走る。人の流れに逆らいながら必死に走るが、中々進まない。

(このままじゃ間に合わないっ!こうなったら…!)

レムは、その場で足に力を込め思いっきり飛ぶ。人々の頭上を2~3メートル飛び越え、子供のいる手前付近に着地する。そうして子供の方を見た瞬間、レムは血の気が引いた。子供のすぐ近くに男が近付いていて、手にしたナイフを振りかぶっていたのだ。

「ダメッ!」

全てがスローモーションに見えた。
ゆっくりと降りて来るナイフ。
嗤う男の顔。
顔を真っ赤にして泣く子供。

間に合わない…そう思った。




カキィーーーンッ!!




周囲に、金属同士の打つかりあう高い音が聞こえる。

「ぐぁっ!!」

続けて、男の悲鳴混じりの呻き声と血の匂い。

「あっ…」

目の前には風に揺れる赤い髪。
右手で剣を持ち左手には子供を抱えた1人の騎士。

「リュ…シュオン」

私の声に振り返った彼の目には、燃え盛る様な怒りが見えた。

「何…やってる」
「えっ?」
「一体何をしてるんだっ!」

彼のこの様な怒鳴り声を、レムは初めて聞いた。

「何故っ!何故避難していない!何故騎士を待たなかった!」
「だって子供が…」
「それでもっ!お前が危険な目にあったかも知れないんだぞ!!自身を守る事すら出来ないのに、何をしてるんだっ!」

彼の言いたい事はわかる。
自分の身すら守れないのに、レムは自身を危険に晒した。本当なら騎士を待つのが正しいのだろう。

(だけど…)

「その子が…。お母さんに助けを求めて泣いてたから」

この子が居なかったら、他の人と同様にレムも安全な場所で騎士を待っていた。


でも、この耳に聞こえてしまったから。
この目で認識してしまったから。


恐怖で泣く小さな子供を。

「私は自分の行動を間違ったとは思わない」
「っ!」

彼は何か言おうとして口を開いたが、何も言わず結局口を噤む。

「ルーっ!」
「お母さんっ!」

遠くの人集りから女性が飛び出して来る。
名前を呼ばれた子供は、母親を求め手を伸ばす。リュシュオンは、その女性に近付き子供を渡す。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

泣きながら子供を抱きしめ感謝の言葉を口にする女性を見て、酷く安堵する。

(良かった…)

その時だった。
視界にゆっくりと立ち上がる男が視界に入る。

「くそッくそッ!殺してやる。絶対殺してやる!」

血に濡れた手をリュシュオンに向けた男。すると飛ばされたナイフが浮き上がり、勢い良くリュシュオン目掛けて飛んで行く。

「リュシュオンっ!」

驚いて振り返るリュシュオンの前に、レムは咄嗟に に身体を滑り込ます。

「っ!」
「レムっ…!」

心臓の辺りに鋭い痛みが走る。
身体から力が抜け倒れるが、地面すれすれでリュシュオンが抱き止める。

「レムっ!しっかりしろ!誰か治癒師を!」

そんな彼の焦った声を、レムは何処か他人事の様に聞いていた。



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