異世界救済管理局！〜失敗ばかりですが、今日も精一杯頑張ってます！〜

やってしまいました②

その少女は、日本に住む十七歳の高校生であった。

艶のある黒髪に、ぱっちりウルウルの瞳。
性格は自身の容姿の良さを理解していて少々狡賢しこいが、見知らぬ異世界では自身の武器となるだろう。何よりシングルマザーの家庭で育ち、母親との関係はあまり良く無い。

エミリーは、少女の召喚者として諸々の手続をするべく、ニ週間に渡って各部署での手続きを終えた。
天界と異世界の時間の流れは違う為、手続を終える頃には、丁度良いタイミングで異世界で召喚の儀式が始まろうとしていた。

「よしっ！各署への通達や手続きの不備も無し！後は、彼女に召喚陣を設定するだけ！」

今のところ何一つミスの無い完璧な仕事ぶりに、エミリーはとても浮かれていた。

「彼女を召喚する前に、人気のない所に誘導してっと…」

学校に向かう少女の通学路を工事やら何やらで塞ぎ、上手く今の時間帯は人気の無い場所に誘導した。そうして遂に、異世界で召喚が行われた。それに合わせてエミリーも少女の足元に召喚陣を固定した。

「きゃっ！えっ、何これ…！？」

少女が足元に突然現れた魔法陣に驚愕の声を上げる。魔法陣の上にいる者は、動く事はでき無い。あとは、少女は抵抗出来ずに召喚されるだけだ。

「よし、これで仕事は終わり！」



この時、エミリーは二つのミスを犯した。



「危ないわっ！」
「ふごっ…！」

一つ目は、排他結界を敷かなかった事。

召喚などを行う際、他の人間が居合わせる事を防ぐ為の措置をエミリーは施さなかった。まさか、通勤時間帯だとしても普段は一週間に二人通ればいい方なくらいのこの道に、よりにもよって今この瞬間に此処を通る人が居るとは思わなかったのだ。

「えっ！？ちょっ、まっ…！？」

二つ目は、その人物に驚いてしまった事だ。

その飛び込んできた人物は、一言で言うならゴリゴリのマッチョのオネエだった。百九十センチ近い身長に、バーの帰りなのか全身にピッチリと沿った派手な黒いマーメイド型のドレス。そのドレスを盛り上げる鍛え上げられた屈強な胸筋雄っぱい。腹部には、くっきりとした美しいシックスパック。
地毛なのか、とても綺麗な金髪の髪を豪勢に結い上げしっかりと化粧をした予想以上に整った顔のオネエ様は、足元が光っている少女を見て非常事態だと判断し、咄嗟に少女を魔法陣の上から突き飛ばしたのだ。

見た目に違わず力がかなり強かったらしいオネエ様に突き飛ばされた少女は、変な声を出しながら近くの塀に顔面から激突した。代わりにオネエ様が魔法陣の上に。

その瞬間、エミリーは目の前で起こった出来事に驚き過ぎて思わず魔法陣を起動させてしまった。

「し、しまった…！！」

慌てたが、既に後の祭り。
オネエ様は魔法陣の光に包まれ、次の瞬間にはその場から姿を消していた。

そう、オネエ様は聖女として異世界に召喚されてしまったのだ。

「ど、ど、どうしようっ…！」

慌てたエミリーは、先程のオネエ様の適性をすかさず調べる。それは、不幸中の幸いと言うべきだろう。オネエ様は、少女よりも召喚先の異世界への適性が高かった。

「と、とりあえず、途中で消滅って事にはならなくてよかった…」

エミリーは心底ホッとして壁に激突して鼻血を流しながら気絶している少女の怪我を治し、記憶を曖昧にしてから誰もいない少女の部屋に転送する。

「うぅ～。これ絶対にメシディアル様に怒られるよ～」

普段は温厚な自身の上司の怒りに震える姿が、エミリーには簡単に想像出来た。何故なら、つい数ヶ月前にも怒られたばかりだったからだ。

エミリーは、震えながらも事態の報告をするべく涙目で天界に戻ったのだった。