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第2章

No.181

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「………んっ?」
「どうしました?」

深夜の執務室。
そこで今まで執務を行なっていたバンラートが、突然その手を止める。それを見て、隣の執務机で仕事をしていたドランが不思議そうに尋ねる。

「今、な~んか変な感じがした様な気が……」
「変な感じ?」

バンラートの言葉にドランは神経を尖らせて当たりを見回してみるが、特に何も感じない。

「特に何も感じませんが。………まさか、サボりの言い訳ですか?」

疑わしげなドランの眼差しに、バンラートはギョッとして慌てて否定する。

「違う違う!本当に、変な感じがしたんだよっ!」
「………」
「本当だって!だから、その疑いの目を止めろ!」

必死になって否定するバンラートを見て、ドランは嘘ではなさそうだと判断する。

「まぁ、一応信用してあげましょう」 
「信用してあげましょう…って。俺、これでもお前の上司なんだけど」
「それよりもーー」
「無視かよ!」

ぎゃあぎゃあ叫くバンラートを、ギロリとひと睨みで黙らせてからドランは言葉を続ける。

「その変な感じとは、具体的にどの様な感じですか?」
「ん~、何というか、こう、家の中に虫が入った様な入らなかった様な……」
「………何ですかそれは?」

言いたい事が全く分からない。
呆れた様な眼差しを送ってくるドランに、バンラートは慌てて言葉を続ける。

「ほら、アレだ!扉を開けた時に、虫が入り込んだ気がしたけど入って無かった!……みたいな?」

まぁ、言っている事は何となく分かる。だが、それと変な感じがどう結び付くのだ。

「………それと、変な感じがした事がどう関係するんですか?」
「だから、何か入り込んだ様な変な気がしたって事だよ!」
「それならそうと、その様に簡潔に答えて下さい」

そう言いながら、ドランは顎に手を当て考える。

「………しかし、陛下がその様に一瞬でも感じたとなると、放置は出来ませんね」

仮にも、この国最強の力を持つ王だ。
その王が、「家に虫が入り込んだ」感じがすると言ったのだ。

家…。
それは、王族にとって国と言う意味だ。

つまり、この国に何かが入り込んだとバンラートは感じたのだ。ドラゴニールの王の仕事の一つに、この国に魔力を巡らせるというものがある。それは、膨大な王の魔力を国中に巡らせる事によって見えない結界を張っているのだ。その結界は、有事の際に国を守る防壁の役目を持つもので、悪意ある者や犯罪者を阻む物ではない。けれど、本当に偶に結界内に入り込んだ異物を感知する事がある。

「明日、国境付近に派遣した騎士団に何か問題が無かったか連絡をして調べてもらいましょう。それと、街の中の警備も暫く厳重にする様に指示します」
「何か入り込んだと思うか?」
「それは調べて見ないと分かりません。ですが、それを調べるのは別の者達がします。陛下が今すべき事は、目の前にある書類を朝までに終わらせる事です」
「………絶対?」
「絶対です」



その後、朝になって執務室にやって来た執事が見たのはペンを握りしめながら干からびたミイラの様に変わり果て椅子に縛られた国王の姿と、目の下に大きな隈を作った宰相の姿だったと言う。
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