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第1章

No.114

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「………で?」
「で?…とは?」

バンラートが、キラキラと何かを期待した眼差しでアルフォンスを見つめてくる。

「だから、アルとマコの事だよ!」
「俺と真琴?」
「何か進展あっただろ?」

この男は、一体何を期待しているのだ。

「何も無い」
「えーー!!嘘だろ!アル、お前…」
「……何だ、その目は」

バンラートの、残念な者を見る目。

(こいつに、そんな目で見られるとイラッとする)

「いや、アルって意気地無しだったんだなぁ~って思って」
「うっ…!!」
「確かに。あの女性関係がこの国1番に派手だった色男の将軍が、まさか本命にはこれ程までに奥手だとは……」

バンラートの言葉にダメージを受けているアルフォンスに、ドランが追撃を仕掛けてくる。

「そ、それは昔の話だ!!今は、真琴一筋だ!!」

そこまで言って、ハッと口を閉ざす。

「……アル、お前さ。咄嗟に口に出るくらいマコが好きなのに、何で告白しないんだ?」
「…………前にも言っただろう。 彼女は帰りたがっているんだ。 そんな彼女の邪魔なんて出来ない。……それに、彼女から本当の家族を俺が奪ったんだ。そんな俺が、彼女にこの想いを伝えることなんて…」

そう言って、後悔の滲んだ顔をするアルフォンス。それを見て、バンラートは苛立った様に話し出す。

「あーー、もうっ!!お前は、しつこ過ぎ!一体、いつまでその事で自分を責め続けるつもりだ!」

そう言って、執務机の前に立つアルフォンスの目の前までドスドスと足音を立て近付き、その胸倉を掴み上げる。

「いいか?よく聞けよ?お前が納得するまで何度でも言ってやる!お前は悪く無い。あんな事になるなんてあの場に居た誰も想像してなかった。…いや、出来なかった。あれは、お前のせいじゃ無い」

バンラートは、力強い眼差しでアルフォンスを見つめ、落ち着いた声で話す。

「だが……」
「お前は、マコの祖父母達に雨の日でもどんなに忙しくても、毎日家まで行って謝罪した。もう、彼等はお前を許してたよ。だから、お前に死んだ後に娘夫婦と一緒の墓を作って欲しいと頼んだんだ」

お前は許されたんだよ…。そう言ってバンラートは、両手をアルフォンスの肩に置く。

「それに、マコにも許されてるんだろ?マコ達に許されても、自分が許せないのは分かる。だけどな?もう少し、自分に優しくしてもいいんじゃ無いか?もし…もしもこのまま、マコが急に元の世界に帰る事になったとして。お前は、後悔しないか?気持ちを伝えず二度と会えなくなっても後悔しないか?」

ーー想いを伝えず、二度と会えなくなっても。

(嫌だっ!!)

強くそう思った。
勿論、真琴を帰したく無い。だが、誰よりも彼女の帰りたいという気持ちを知っていた。だから、叫ぶ自身の心を押さえ付けても彼女を返すつもりでいた。だがーー。

(このまま、何もしないで真琴を見送る?そんな事は嫌だ!!)

何もせずに真琴を帰したら、真琴は直ぐにアルフォンスを忘れてしまうだろう。それだけは嫌だった。
そう思ったアルフォンスは、バンラートの手を振りほどいて執務室を飛び出して行った。

「やれやれ、本当に手のかかる幼馴染だな。まっ、そこも良いんだけど」
「貴方にしては、珍しく良い事を言いましたね」

ドランがそう感心した様にバンラートを見つめる。

「当たり前だろ?このまま後悔し続けて仕事に支障をきたしたらどうするんだ?責任感の強いアルは、きっと仕事を辞めて放浪の旅に出る。そうしたら、俺がアルフォンスと一緒に居られないじゃ無いか!」

アルフォンス大好きのバンラートが、そう力強く叫ぶ。

(この馬鹿は…!!)

一瞬でも感心した己が馬鹿だったと、ドランは思った。



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