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第1章

No.66

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「あれ?」

執務室に入ったハロルドは、そこに居るべき人がいない事に気付く。中には、青いローブを着た書記官の男性1人しか居なかった。

「すまない、団長は?」
「アルフォンス団長なら先程、手紙を出しに行かれました」

かけていた眼鏡を直しながら書記官は答える。

「参ったなぁ、入れ違いか」
「何か用事があるんですか?」
「まぁな。財務部に出す書類を貰おうと思ってたんだが…」

困った様に、ハロルドは自身の短い緑の髪を撫でる。

「あぁ!それでしたら、既にお渡しできますよ」

そう言って、机の上から数枚の書類をハロルドに渡す。

「助かった。これで、財務部の連中にドヤされなくてすむ」

毎回、書類の提出が遅れ財務部の者達に嫌味を言われて来た。騎士団の者は、アルフォンスやハロルドも含めて書類仕事が苦手だ。

騎士団の者を脳筋と言う物も居るが…。

(全く、その通りだと思う)

身体を動かす事に人生を捧げた様な騎士に頭を動かす細々とした書類仕事なんて酷だ。

(本当に、書記官を派遣して貰えて良かった…)

アルフォンスと2人で必死に頼み込んで、やっと彼を派遣して貰ったのだ。

「さて、俺はこの書類を出しに行くか。もし、団長が戻ったらこの書類に目を通す様に言ってくれ」

そう言って、部屋に来た時から持っていた1枚の書類を渡す。

「これは?」
「今度ある隣国との合同訓練の詳細だ。先程、詳しい内容が届いたんだ」

そう言って、ハロルドは「後はよろしく」と言って部屋を出た。


***


「アーール!!」

手紙を屋敷に届けて執務室に戻る途中。
背後から、やけに明るい声が聞こえて来た。

(見つかったか…)

出そうになる溜息をギリギリで耐え、声の方を振り返る。そこには、栗色の髪を片方だけ伸ばし三つ編みにしている背の高い男性がいた。

「………カイル」
「会いたかったぜ!」

そう言って、髪と同じ栗色の瞳をニヤッと細めるカイル。

本名、カイルディン。
隣国バルフィア帝国の騎士団長だ。

「何でここに居るんだ?」
「ちょ~とばかし、バンラート陛下に用があってね。…それより聞いたぜ?アル…お前、女を囲ってるんだって?」

(誰だ、コイツに教えたのは…)

面倒な奴に知られてしまった。
いつまでも隠せる事では無いと分かってはいたが、予想より早かった。

「………あぁ」
「おいおいっ!何で1番に俺に知らせなかったんだよ~!どっかの宿貸し切ってお祝いしたのによ!」

そうなる事が分かっていたから、教えなかったの
だ。

「………すまない。色々と忙しくってな。それより、用事は済んだのか?」
「いや?これからだ。それより先に、アルを見つけたからな!」
「っ!!さっさと行け!」

(隣国の使者がこんな所で油を売ってるなっ!)

昔から変わらないカイルを、怒ったアルフォンスは蹴り上げた。










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