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第1章
No.38
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丁度、正午に差し掛かった頃。
アルフォンスは、王宮にある自身の職場に向かうべく王宮の無駄に長い廊下を歩いていた。
(………この匂いは)
前方から漂う、きつい香水の香り。
その匂いの持ち主に心当たりがあった。
アルフォンス、鉢合わせるす前に逃げ様と踵を返す。………しかし。
「まぁ!アルフォンス様っ!こんな所で会えるなんて!」
どうやら遅かった様だ。
頭に響く様な甲高い声と共に、強烈な匂いが近付いてくる。
「これは、ダンブレア男爵令嬢。お久し振りです。今日は、どの様な用件で城に?」
振り返ると、愛しい彼女と同い年くらいの淡いピンクの髪に同じ色の瞳の女性。見た目は、清楚で可愛らしいのに無駄に露出度の高いドレスを着ていて台無しだ。
吐きたくなる溜息を飲み込み、アルフォンスはニコリとも笑いもせずに尋ねる。
「んもう!マリーって呼んでください。私と、アルフォンス様の仲じゃ無いですか!」
(一体、どんな仲だ)
この令嬢とアルフォンスは、親しくお喋りする様な仲では無い。この令嬢は、1年前に人間であるダンブレア男爵家に養女として引き取られた人間の女性だ。初めて会って以来、アルフォンスは何かとこの女性に付き纏われている。
「………ダンブレア男爵令嬢。用がないなら、私はこれで」
未だ、何か喋っている令嬢を無視して歩き始める。
「あっ!待って下さい、アルフォンス様!」
だが、ダンブレア男爵令嬢は慌ててアルフォンスの前に立ち塞がる。
「………何か?」
流石にイライラしてきて、つい低い声が出る。
しかし、目の前の女性はそれにも気が付かずに口を開く。
「私、アルフォンス様にずっとお会いしたかったです。今日は、新作の香水を付けて来たんですよ?」
だから?と思ったが、その言葉を寸前で飲み込む。
「……そうですね。(ここまで付けていなければ)いい匂いだと思います。いつも貴女からする(強烈な)香りとさして違いは無いと思います。不思議な事に、貴女が付けるとどんな香水もいつも変わらず(強烈な)同じ香りがします」
アルフォンスの遠回しの嫌味を効かせた台詞に、近くにいた侍従や侍女達は必死に笑いを堪えていた。
「そんなっ!いい匂いだなんてっ!」
ただ1人、遠回しの嫌味が理解出来ていないダンブレア男爵令嬢以外は。
アルフォンスに褒められたと勘違いした彼女は、得意げな顔をしてアルフォンスに擦り寄る。
だが、アルフォンスは触れる直前に彼女から離れる。
「仕事が溜まっていますので、失礼します」
そう言って、サッサとその場を後にする。
「んもうっ!あんなに照れちゃって!ふふっ。でも仕方ないわよね?こんなに魅力的な私が相手なんだから」
それを聞いた周りの人々は、頭の痛い子を見る様な目で彼女を見る。ダンブレア男爵令嬢が、アルフォンス騎士団長に相手にされていない事は周知の事実だ。
「まぁ、いいわ。これからたっぷり時間はあるんだから」
そう言って、リズムの外れた鼻歌を歌いながら彼女は去って行った。そんな彼女を見て、全てを見ていた人々はアルフォンスに深く同情した。
***
「あ、団ちょ………くさっ!」
自身の仕事部屋に入った途端、中で既に仕事をしていたハロルドがその強面の顔を更に険しくして叫ぶ。
「一体、何ですか?その一昔前のトイレの匂いより酷い香りは」
ハロルドが鼻をつまみながら話す。
確かに、五感が鋭い竜人にはこの匂いはキツイ。
「…ダンブレア男爵令嬢だ」
それだけで、何があったか悟るハロルド。
ーートントン
「失礼しまーーくさっ!」
書類を持って来た部下も、入った途端に叫ぶ。
(勘弁してくれ)
その日は、アルフォンス騎士団長の執務室から鼻の曲がる様な匂いが消えなかった。
アルフォンスは、王宮にある自身の職場に向かうべく王宮の無駄に長い廊下を歩いていた。
(………この匂いは)
前方から漂う、きつい香水の香り。
その匂いの持ち主に心当たりがあった。
アルフォンス、鉢合わせるす前に逃げ様と踵を返す。………しかし。
「まぁ!アルフォンス様っ!こんな所で会えるなんて!」
どうやら遅かった様だ。
頭に響く様な甲高い声と共に、強烈な匂いが近付いてくる。
「これは、ダンブレア男爵令嬢。お久し振りです。今日は、どの様な用件で城に?」
振り返ると、愛しい彼女と同い年くらいの淡いピンクの髪に同じ色の瞳の女性。見た目は、清楚で可愛らしいのに無駄に露出度の高いドレスを着ていて台無しだ。
吐きたくなる溜息を飲み込み、アルフォンスはニコリとも笑いもせずに尋ねる。
「んもう!マリーって呼んでください。私と、アルフォンス様の仲じゃ無いですか!」
(一体、どんな仲だ)
この令嬢とアルフォンスは、親しくお喋りする様な仲では無い。この令嬢は、1年前に人間であるダンブレア男爵家に養女として引き取られた人間の女性だ。初めて会って以来、アルフォンスは何かとこの女性に付き纏われている。
「………ダンブレア男爵令嬢。用がないなら、私はこれで」
未だ、何か喋っている令嬢を無視して歩き始める。
「あっ!待って下さい、アルフォンス様!」
だが、ダンブレア男爵令嬢は慌ててアルフォンスの前に立ち塞がる。
「………何か?」
流石にイライラしてきて、つい低い声が出る。
しかし、目の前の女性はそれにも気が付かずに口を開く。
「私、アルフォンス様にずっとお会いしたかったです。今日は、新作の香水を付けて来たんですよ?」
だから?と思ったが、その言葉を寸前で飲み込む。
「……そうですね。(ここまで付けていなければ)いい匂いだと思います。いつも貴女からする(強烈な)香りとさして違いは無いと思います。不思議な事に、貴女が付けるとどんな香水もいつも変わらず(強烈な)同じ香りがします」
アルフォンスの遠回しの嫌味を効かせた台詞に、近くにいた侍従や侍女達は必死に笑いを堪えていた。
「そんなっ!いい匂いだなんてっ!」
ただ1人、遠回しの嫌味が理解出来ていないダンブレア男爵令嬢以外は。
アルフォンスに褒められたと勘違いした彼女は、得意げな顔をしてアルフォンスに擦り寄る。
だが、アルフォンスは触れる直前に彼女から離れる。
「仕事が溜まっていますので、失礼します」
そう言って、サッサとその場を後にする。
「んもうっ!あんなに照れちゃって!ふふっ。でも仕方ないわよね?こんなに魅力的な私が相手なんだから」
それを聞いた周りの人々は、頭の痛い子を見る様な目で彼女を見る。ダンブレア男爵令嬢が、アルフォンス騎士団長に相手にされていない事は周知の事実だ。
「まぁ、いいわ。これからたっぷり時間はあるんだから」
そう言って、リズムの外れた鼻歌を歌いながら彼女は去って行った。そんな彼女を見て、全てを見ていた人々はアルフォンスに深く同情した。
***
「あ、団ちょ………くさっ!」
自身の仕事部屋に入った途端、中で既に仕事をしていたハロルドがその強面の顔を更に険しくして叫ぶ。
「一体、何ですか?その一昔前のトイレの匂いより酷い香りは」
ハロルドが鼻をつまみながら話す。
確かに、五感が鋭い竜人にはこの匂いはキツイ。
「…ダンブレア男爵令嬢だ」
それだけで、何があったか悟るハロルド。
ーートントン
「失礼しまーーくさっ!」
書類を持って来た部下も、入った途端に叫ぶ。
(勘弁してくれ)
その日は、アルフォンス騎士団長の執務室から鼻の曲がる様な匂いが消えなかった。
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