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第1章

No.26

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「はぁ」
「どうしたんですか、団長?溜息なんて吐いて」

王宮にある騎士団執務室。
朝からしている書類整理の途中、思わず溜息を吐くと副団長のハロルドが声をかけてきた。

俺よりがっしりとした体格に子供が泣き出しそうな強面の顔。だが、この男は騎士団の誰よりも優しい男なのだ。

「いや、ちょっとな」

そう言って思い浮かべるのは、彼女の事。

(今頃、リディアと文字勉強をしてるだろうな)

言葉は通じるが文字が読めなかった彼女は、帰る方法を探す為にリディアから文字を習っている。

(リディアの話では、順調に覚えている様だが…)

彼女が文字を覚える度に、嬉しい気持ちと怖い気持ちが現れる。

彼女の願いを叶える手段が増える喜び。
彼女が居なくなってしまう恐怖。

そんな事を考えてしまう自分にまた溜息が出る。

「本当に大丈夫ですか?体調が悪いなら今日はもう帰ったらどうですか?最近、王宮図書館で遅くまで調べ物してますよね?寝不足なんじゃ無いですか?」
「大丈夫だ」

そう言ったが、短い緑の髪を揺らしながらハロルドが近付いてくる。

「ほら、後の事は俺がやりますから。今日はもう帰って休んで下さい。団長は、働き過ぎなんですよ」

手元や机にあった書類を全てハロルドが取り上げる。強面の顔だが、眉が心配そうに下がっている。

「わかった。言う通りにする」

その顔を見て、降参とばかりに両手を上げて肩をすくめる。

「そうして下さい。他の奴らには、俺から言っときますから」
「すまない」

そう言って、帰る準備をする。

(少し図書館に寄ってくか…)

「このまま真っ直ぐ帰宅して下さいよ?寄り道…ましてや図書館に行くなんて絶対に駄目ですからね」
「………………わかってる」

行動を読まれて驚くが、何とか返事をする。
本当か?と言う疑いの目をハロルドから感じたが、視線を向けずに挨拶だけして部屋を出る。

***

「本当にわかってるのか?」

アルフォンスが部屋を出た後、ハロルドは疑いの声を出す。

ーートントン

「失礼します。…あれ、ハロルドさん。団長は?」

ノックと共に、部下が部屋に入ってくる。

「団長は、今日はもう帰った。何か用か?」
「あっ、実はこの間の魔獣討伐の報告書を持って来たんですが…」
「あぁ、それか。俺が預かる」

ハロルドはそう言って報告書を受け取る。

「団長、最近疲れてますよね?大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。あの人は今、ずっと願っていた償いをしてるんだ」
「償い?」

ハロルドの言葉に部下は、不思議そうな声を出す。

「そうだ。…それよりこの後、打ち合いするから準備しとく様に伝えてくれ」
「またですか!?………わかりました」

どんよりと暗い雰囲気を背負って部下は部屋を出る。

「さて、この嫌な書類を早く片付けますか」

そう言って、がっしりとした背中を丸めて苦手な書類を片付け始めた。

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