貴方の事を愛していました

ハルン

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ガタゴトと揺れながら王城へ向かう伯爵家の馬車の中、ミレーナはムスッとして窓の流れる景色を見ていた。そんなミレーナに、正面に座るルークが話しかける。

「ミレーナ、僕が悪かったよ。君の反応が可愛くて、つい調子に乗ってしまったんだ」
「………」
「ミレーナ、お願いだよ。こっちを見てくれ」

それでも頑なとしてルークを見ないミレーナ。

(ルークは、私を揶揄い過ぎだわっ!私を子供扱いして!)

確かにルークから見れば、ミレーナは子供だろう。しかし、今日から大人の仲間入りをするのだ。ミレーナは、最近乙女に人気の流行りの小説に出て来る様なヒロインの様に、落ち着いた大人の女性として接して欲しかった。

そう心の中で不満に思っていると、ふにっと柔らかい何かが右頬にあたる。驚いて振り返ると、いつの間にか隣に座っているルークの顔が至近距離に。

「あ、やっとこっちを見たね」
「~~~~っ!?」

(なっ、えっ、はっ!?い、いい、今のって…!)

至近距離にいるルークを見て、先程の柔らかい何かの正体に気が付く。

「ル、ルル、ルーク様!?」
「ミレーナ、驚き過ぎたよ。それに、ルークと呼んでと言っただろう?様呼びに戻ってるよ」
「だだだ、だって…!」

手の甲に挨拶としてキスされた事はある。
だが、頬に口付けされたのは初めてだった。

「嫌だったかい?」
「い、嫌だなんてそんなっ!」

いきなりの事だったので驚いたが、嫌では無い。寧ろ、初めての頬への口付けに恥ずかしさと共に喜びが湧き上がる。

「君は今日で正式に大人になるからね。今まで伯爵に忠告されて出来なかった事も、ようやく今日で解禁だ」

(お父様がそんな事を…。そ、それよりも、今まで出来なかった事って…)

ミレーナの頭の中に、あんな事やそんな事、更には小説で読んだこんな事が脳裏を過ぎる。

「ふふっ、ミレーナ顔が真っ赤だよ?」
「はえっ!?」
「一体、何を考えてたんだい?」
「そそ、それは…!」

(い、言えないわ!)

どうしようとアタフタしているミレーナの耳に、押し殺した笑い声が聞こえて来た。見ると、そこには口元に手をあてて笑いを堪えようとして肩を震わせるルークの姿。

「………っ、ルーク!また私をからかったわねっ!」
「ハハっ!ご、ごめん…」
「もう許さないわ!絶対に許さないんだからね!」

そう言って本気で怒ったミレーナ。
その瞬間、グイッとルークに腕を引かれ唇にキスをされた。優しい口付けが離れたかと思うと、また口付けされる。そうして暫くした後に、今までよりも少し強めに唇が合わさり離れて行く。放心しているミレーナの頬を撫でて、ルークは言った。

「ミレーナ。僕は確かに君を揶揄うのが楽しいよ。でも、君とこういう事をしたいとずっと思っていたのも本当だ。………だから、これからは覚悟しろよ?」

そう言ってニヤリと笑う色気溢れるルーク。

大人として扱ってもらうのは自分には少し早過ぎたかも知れないと、そんな風に笑うルークを見てミレーナは思うのだった。



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