貴方の事を愛していました

ハルン

文字の大きさ
上 下
1 / 18

プロローグ

しおりを挟む

煌びやかな夜会に出るのは、これで何度目だろう?

16歳でデビュタントしてから、既に2年。
大人の仲間入りをしてから数えきれない程の夜会に参加して来た。今日の夜会も、我が伯爵家と懇意にしている侯爵家主催の夜会。断る事はできずに、他の夜会に出ている両親の代わりに今夜の夜会にやって来た。

「ミレーナ、どうしたんだい?」

少しぼんやりしていると、エスコートしてくれている彼から声がかかる。

「ごめんなさい、ルーク。少しぼんやりしてたわ」
「疲れたのかな?最近、夜会に参加してばかりだったからね。君は、こういうのは余り好きではないだろ?一通り挨拶は済んだんだ。少し壁の方で休んでから帰ろう」
「ありがとう」
「君に何かあったら大変だからね」

ミレーナより5歳年上の婚約者であるルークは、そう言ってミレーナを優しく壁際にエスコートする。そうしてミレーナの側を少し離れると、両手に飲み物を持って戻って来る。

「はい、果実水。これを飲んだら帰ろう」
「馬車は?」
「飲み物を取りに行ったついでに正面に呼んでおいたよ。飲み終わる頃には着いてるはずさ」

素晴らしい気遣いの婚約者にお礼を言って果実水を飲む。サッパリとした味に、身体が幾分か軽くなった気がする。

「ルーク、ありがーー」

お礼の言葉は、途中で途切れる。

(嗚呼、まただわ…)

ルークは、ミレーナを見ていなかった。
彼の視線は華やかな会場の真ん中、1人の綺麗な女性に向かっていた。エスコート相手である夫の側に寄り添いながら可愛らしく笑う、ルークと同年代位の女性。


それは、一体いつからだっただろう。


夜会に出る度に、彼の視線が1人の女性へ向く様になったのは。何処かぼんやりと女性を見つめるルークが、急に遠い存在に感じた。

そのルークの姿に耐えられなくて、咄嗟に顔を手元の空のグラスに向ける。

(大丈夫、大丈夫。)

心の中で自分にそう言い聞かせながら目を閉じる。
そして3回ほどゆっくりと深呼吸してから顔を上げる。

「飲み終わったかい?」

そこには、いつもの様にミレーナを気遣う優しい婚約者ルークの姿。

「えぇ、とても美味しかったわ」
「それは良かった。じゃあ、帰ろうか」

ルークにエスコートされながら、会場を後にし迎えの馬車に乗り込む。ガタゴトと揺れながら進む馬車の窓から流れゆく光景を見つめる。

「これで暫くは夜会に参加しなくて済むね」
「えぇ、それは嬉しいわ」
「来週、伯爵家に行くよ。3ヶ月後の結婚式の予定の事で、君の父上と話があるんだ。その後に、2人で出かけないか?」
「いいけれど、ルークは忙しいでしょ?」
「婚約者と過ごす時間が作れない程ではないよ」

そう言って微笑むルークに、ミレーナは了承の言葉と共に微笑む。


(そろそろ、決断しなければ…)


心の中で強い覚悟を決めながら。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?

ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢 その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、 王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。 そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。 ※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼ ※ 8/ 9 HOTランキング  1位 ありがとう御座います‼ ※過去最高 154,000ポイント  ありがとう御座います‼

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

処理中です...