貴方の事を愛していました

ハルン

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プロローグ

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煌びやかな夜会に出るのは、これで何度目だろう?

16歳でデビュタントしてから、既に2年。
大人の仲間入りをしてから数えきれない程の夜会に参加して来た。今日の夜会も、我が伯爵家と懇意にしている侯爵家主催の夜会。断る事はできずに、他の夜会に出ている両親の代わりに今夜の夜会にやって来た。

「ミレーナ、どうしたんだい?」

少しぼんやりしていると、エスコートしてくれている彼から声がかかる。

「ごめんなさい、ルーク。少しぼんやりしてたわ」
「疲れたのかな?最近、夜会に参加してばかりだったからね。君は、こういうのは余り好きではないだろ?一通り挨拶は済んだんだ。少し壁の方で休んでから帰ろう」
「ありがとう」
「君に何かあったら大変だからね」

ミレーナより5歳年上の婚約者であるルークは、そう言ってミレーナを優しく壁際にエスコートする。そうしてミレーナの側を少し離れると、両手に飲み物を持って戻って来る。

「はい、果実水。これを飲んだら帰ろう」
「馬車は?」
「飲み物を取りに行ったついでに正面に呼んでおいたよ。飲み終わる頃には着いてるはずさ」

素晴らしい気遣いの婚約者にお礼を言って果実水を飲む。サッパリとした味に、身体が幾分か軽くなった気がする。

「ルーク、ありがーー」

お礼の言葉は、途中で途切れる。

(嗚呼、まただわ…)

ルークは、ミレーナを見ていなかった。
彼の視線は華やかな会場の真ん中、1人の綺麗な女性に向かっていた。エスコート相手である夫の側に寄り添いながら可愛らしく笑う、ルークと同年代位の女性。


それは、一体いつからだっただろう。


夜会に出る度に、彼の視線が1人の女性へ向く様になったのは。何処かぼんやりと女性を見つめるルークが、急に遠い存在に感じた。

そのルークの姿に耐えられなくて、咄嗟に顔を手元の空のグラスに向ける。

(大丈夫、大丈夫。)

心の中で自分にそう言い聞かせながら目を閉じる。
そして3回ほどゆっくりと深呼吸してから顔を上げる。

「飲み終わったかい?」

そこには、いつもの様にミレーナを気遣う優しい婚約者ルークの姿。

「えぇ、とても美味しかったわ」
「それは良かった。じゃあ、帰ろうか」

ルークにエスコートされながら、会場を後にし迎えの馬車に乗り込む。ガタゴトと揺れながら進む馬車の窓から流れゆく光景を見つめる。

「これで暫くは夜会に参加しなくて済むね」
「えぇ、それは嬉しいわ」
「来週、伯爵家に行くよ。3ヶ月後の結婚式の予定の事で、君の父上と話があるんだ。その後に、2人で出かけないか?」
「いいけれど、ルークは忙しいでしょ?」
「婚約者と過ごす時間が作れない程ではないよ」

そう言って微笑むルークに、ミレーナは了承の言葉と共に微笑む。


(そろそろ、決断しなければ…)


心の中で強い覚悟を決めながら。
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