裏切りの剣士

100年後の世界

誕生

目が覚めたとき最初に目に入ったのはこちらを見下ろす若い女性と男性の笑顔だった。

「初めまして。私はキャシー。こっちが夫のボブ。貴女のママとパパよ。」

そう言われて初めて自分が赤ん坊だと気付いた。
私は生まれた時から夜泣きもせず手のかからない大人しい子供だった。それはそうだろう。私には生まれた時から前世の記憶がある。
私は前世で仲間達に殺された。恨んではいない。そうされて当然の事をしたのだ。自分は地獄に落ちるだろうと思っていたのに何故生まれ変わってしまったのか。自分でもよく分からなかった。

それから6年が過ぎ私は6歳になった。私達はロベルト王国王都からかなり離れたロビン村に住んでいた。村の大人達は朝になると畑を耕しに出掛ける。大きい子供達は大人の手伝いをしに行き、小さい子供達は集まって大人達の目の届く場所で遊び始める。

「マリアちゃんもこっちで遊ぼうよ！」

少し離れた所からみんなを見ていたら1人の女の子がこちらに手を振ってきた。同い年のリリーちゃんだ。

「私はここでのんびりしてるから大丈夫。」

そう言うとリリーちゃんは他の子供の輪に戻っていった。
私は確かに前世の記憶がある。死んだ時私は25歳だった。それに6年足すと今の精神年齢は31歳になる。そんな私が子供と一緒に楽しく遊ぶにはかなり無理がある。だが、周りの子供に完全に馴染めないという事はまずい。人間とは自分達と少しでも違うものを敬い恐れる。それは仕方のない事だと思う。人とは自分達の理解が及ばない事を恐れる。誰だって知らないという事は怖いものだ。

「人とはいつの時代もそう変わらん物だな。」

まだ親に守ってもらわねば行きていけない子供だ。独り立ち出来るまで出来るだけ周りに合わせている。

(それに両親にも迷惑がかかるしな。)

何だかんだ言いながら本当は両親に迷惑をかけたくないのだ。
前世では物心ついた時から孤児院におり両親など記憶になかった。だからだろうか。今生の両親という存在が暖かくてとても好きなのだ。